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23.わたくし、失言でした。
しおりを挟む「女心……って、アタシ、それは自信があるのに」
香散見さんは、ぶつぶつと文句を言う。
お文の一つも下さらない方なんて、女心がわかっているとは言いがたいですわよ!
「ねぇ、高紀子。……アンタの女心教えなさいよ」
拗ねたように、香散見さんは、口唇を尖らせて言う。ちょっと、可愛い―――なんて思っちゃ駄目よね。一まわりも年嵩の方だわ。
「わたくしの女心……解りませんの?」
「解らないから聞いてるのよ。アンタも、大概意地悪よねぇ……それとも、アタシを弄んでるんでしょ? アンタ、将来悪女になりそうねぇ。どう? 傾国の美女でもやってみる?
アタシが即位して、アンタに溺れて、政治を省みないヤツ」
本当に、冗談なんだか、なんなんだか。
「ご寵愛は、ほどほどで構いませんわよ。深すぎる寵愛は、きっと、不幸を呼びましてよ」
「アンタとだったら、不幸に落ちても良いわよ」
んふっ、と香散見さんは笑う。見た目は、本当に、ただの妖艶な美女。わたくし、その口唇に手を遣って。
「ご冗談はおやめ下さいませ」
と笑った。
そうそう。東宮殿下が、女房装束を着ているだけだって、十分、冗談みたいな事態なんだから。これ以上は、冗談を重ねちゃ行けないわ。
「高紀子は……アタシが、男装だったら、アタシに恋してたかしらね?」
わたくしは、思い出す。一応、この方の、男装姿(これが正しいのだけれど)だって見たことはある。けれど……やっぱり、実敦親王ほどは、ときめかなかったとおもう。
「……恋して欲しかったんですの? 一回りも年の離れた香散見さんが?」
「そうよ。アンタの初恋、アタシに寄越しなさいよ」
初恋は、もう、実敦親王に捧げてしまったから差し上げられない。だから、わたくしは、正直に言った。
「初恋は、実敦親王に捧げてしまいましたもの」
「えっ?」
香散見さんの顔か、一瞬、引きつった。引きつると、お肌の曲がり角であることがよく解る。
「アンタ、実敦のこと―――好きだったの? なんで? アイツのどこが良いのよ?」
カチン! と来た。
最後、余計な一言を付けて、わたくしたちを馬鹿にしたのよ。この方は!
あなたが知らなくたって、わたくしは、あの方の良い所を沢山知って居るのだから!
「すくなくとも、香散見さんと違って、実敦親王は、女心を良ーく解って下さいましたわ」
「へぇ? アタシと違って」
「そうですわよ! 実敦親王は、女心を解って下さいましたもの。香散見さんは、女心なんて、考えた事も無いんだわ! そんな格好をなさっているくせに!」
わたくしは、止めておくべきでした。
香散見さんが、わたくしを、これ以上はないと言うほどの憤怒の形相で、見ていたのですから。
わたくしのほうこそ、香散見さんの『男心』を全く理解していなかったわ。
たしかに、面白くないわ。元婚約者の、弟と比べられたりしたら(あまつさえ、あちらの方が良いなんて言ったら)面白くないはずよ。
わたくし、完全に失言でしたわ。
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