オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

文字の大きさ
23 / 106

23.わたくし、失言でした。

しおりを挟む



「女心……って、アタシ、それは自信があるのに」

 香散見かざみさんは、ぶつぶつと文句を言う。

 お文の一つも下さらない方なんて、女心がわかっているとは言いがたいですわよ!

「ねぇ、高紀子。……アンタの女心教えなさいよ」

 拗ねたように、香散見さんは、口唇を尖らせて言う。ちょっと、可愛い―――なんて思っちゃ駄目よね。一まわりも年嵩の方だわ。

「わたくしの女心……解りませんの?」

「解らないから聞いてるのよ。アンタも、大概意地悪よねぇ……それとも、アタシを弄んでるんでしょ? アンタ、将来悪女になりそうねぇ。どう? 傾国の美女でもやってみる?
 アタシが即位して、アンタに溺れて、政治を省みないヤツ」

 本当に、冗談なんだか、なんなんだか。

「ご寵愛は、ほどほどで構いませんわよ。深すぎる寵愛は、きっと、不幸を呼びましてよ」

「アンタとだったら、不幸に落ちても良いわよ」

 んふっ、と香散見さんは笑う。見た目は、本当に、ただの妖艶な美女。わたくし、その口唇に手を遣って。

「ご冗談はおやめ下さいませ」

 と笑った。

 そうそう。東宮殿下が、女房装束を着ているだけだって、十分、冗談みたいな事態なんだから。これ以上は、冗談を重ねちゃ行けないわ。

「高紀子は……アタシが、男装だったら、アタシに恋してたかしらね?」

 わたくしは、思い出す。一応、この方の、男装姿(これが正しいのだけれど)だって見たことはある。けれど……やっぱり、実敦親王さねあつしんのうほどは、ときめかなかったとおもう。

「……恋して欲しかったんですの? 一回りも年の離れた香散見さんが?」

「そうよ。アンタの初恋、アタシに寄越しなさいよ」

 初恋は、もう、実敦親王に捧げてしまったから差し上げられない。だから、わたくしは、正直に言った。

「初恋は、実敦親王に捧げてしまいましたもの」

「えっ?」

 香散見さんの顔か、一瞬、引きつった。引きつると、お肌の曲がり角であることがよく解る。

「アンタ、実敦のこと―――好きだったの? なんで? アイツのどこが良いのよ?」

 カチン! と来た。

 最後、余計な一言を付けて、わたくしたちを馬鹿にしたのよ。この方は!

 あなたが知らなくたって、わたくしは、あの方の良い所を沢山知って居るのだから!
 
「すくなくとも、香散見さんと違って、実敦親王は、女心を良ーく解って下さいましたわ」

「へぇ? アタシと違って」

「そうですわよ! 実敦親王は、女心を解って下さいましたもの。香散見さんは、女心なんて、考えた事も無いんだわ! そんな格好をなさっているくせに!」

 わたくしは、止めておくべきでした。

 香散見さんが、わたくしを、これ以上はないと言うほどの憤怒の形相で、見ていたのですから。

 わたくしのほうこそ、香散見さんの『男心』を全く理解していなかったわ。

 たしかに、面白くないわ。元婚約者の、弟と比べられたりしたら(あまつさえ、あちらの方が良いなんて言ったら)面白くないはずよ。

 わたくし、完全に失言でしたわ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...