オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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39.わたくし、一体どうしたのかしら?

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 痛い、辛い、ひどい、くるしい。

 わたくしは、恨みを込めて、香散見かざみさんを見遣る。睨んでいる。

「……解ったわよ、じゃあ、御帳台ベッドに行きましょ。それなら、アンタも、外からは見られないし、文句はないわよね?」

 御帳台は、高貴な方々の使うもので、部屋の中に、帳を張り巡らせてそこから羅の布を幾重にもかさねたものだ。

 そういう問題じゃない。

 わたくしが、嫌だと思ったのは、こんなふうに、無理やりなさることであって……。勿論、日が高いところで、しかも、調度もなんにも整っていないのに、それこそ、婚礼衣装の一つも身に纏わないままでこんな風に侮られたことだ。

「香散見さんは、わたくしを、侮っておいでだわ」

「馬鹿なことを言わないで、高紀子。……アタシは、アンタを侮ってなんか居ないわよ。だから、こうして、焦るんだもの……」

「嘘つき……他の女の方だったら、間違いなく、香散見さんに声を掛けられたら、すぐに、お召しに応じますわよ」

 だって―――みんな、女人としての至上の位には、興味があるはずだもの。

「アタシが、東宮だから?」

 にやっと、香散見さんが笑う。私も、香散見さんに、「ええ、あなたが東宮殿下だから」と笑って答えた。

「あーもう、萎えちゃったわよ。どうしてくれるの? ……もう、今日は怒ったわよ。アンタ、アタシを振り回しすぎなのよ。もう、どうして欲しいか、なにが欲しいか、ちゃんと言いなさい」

 香散見さんが、私を抱き寄せる。わたくしばっかり、裸のままで恥ずかしい。

 けれど、香散見さんは、一向に気にする素振りはなかった。

「なにが嫌だったの? 無理やりされるのが嫌?」

「それは、嫌に決まってます。どんな女の方だって、無理やりされて、嬉しい人なんて居るはずがありませんもの」

 わたくしは、当然のことですので、張り切って答えました。

「うーん、一概に、全部とは言い切れないのよねー」

 なんだか、よく解らないけれど……。

「……もー、このアタシが、途中でやめるなんて、本当に有り得ないくらい凄いんだから。……少しは、アンタも折れなさいよ。アンタ、強情なのよ」

「香散見さんだって、強引です」

「じゃあ、強引にするわよ?」

「じゃあ、優しい……?」

「うん、優しくしてあげる」

 どちらにせよ、するんじゃない! わたくしは、香散見さんを睨み付ける。

「睨まないでよ……今日はやめて上げるわよ。……ったく、なんで、アタシが、こんなに我慢しなきゃならないのよ。アンタ、アタシのこと、弄んでるでしょう?」

 まったく、酷い女ねー、と言いながら、香散見さんは、私を抱き寄せる。なんだか、この腕の中も、居心地は悪くなくて、わたくしは、これも良いかもしれないなんて、思ってしまう。

 居心地は、悪くない、なんて。






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