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41.わたくし、知りたいですわ
しおりを挟む「主上……は、香散見さんが命を狙われていることを、ご存じなのですか?」
ふと、気になったので、わたくしは聞いてみた。
「えーっ? そりゃあ、ご存じでしょうよ。この国で、あの人が知らない人なんて、何にもないわよ」
からからと手を振りながら、香散見さんは言う。
「アタシのことも、なにもかも放って置いているのは、アタシに、自分でなんとかしろって言ってんのよ。どのみち、帝になったって、命を狙われる可能性はあるんだしね」
「そう、いうものなのですか?」
「ええ、そういうものよ。……今は、帝の力が強いけど、……帝の力が弱まるようなことがあれば、間違いなく、命を狙われたり、色々あるわよ」
「帝の力……が弱まるだなんて……」
そんなことは、信じがたい。けれど、香散見さんがこう言うのだから、おそらく、在るのでしょう。
「在るわよ。まずは、アンタの実家。二条関白家。……そもそも、藤原家ってのは、勢力が強いけど、ダントツでしょ? アタシの妃だって、一人二人くらい、藤原だからね。アンタの実家とは、違うけど」
たしかに、たしか、姫さまを先日お上げになったばかりのお妃さまは、藤原五条家の出身だったはず。
わたくしの二条関白家からみれば、格下の家だ。
「アンタの実家は、今の中宮さま、そしてアンタ、とまあ……二代にわたって天皇の外祖父になるわ。これが、力を持たなくてなんなの? そうなったときに、臣の力が強すぎることになる。……いろんな均衡が崩れることになるわ」
均衡が、崩れる。わたくしは、ぶるっと身震いするのを感じた。
「均衡が崩れると、どうなるのですか?」
「さあ。大昔みたいに、戦になったり、いろいろするんじゃない? ……こうなると、アタシには解らないわよ。だいたい、大陸のほうだと、いろいろ国も変わったりしてるのよ?」
大陸……遠い話に、くらくらする。
「ええ、大陸よ。楊貴妃と玄宗皇帝の唐とか、上宮皇子のころは、隋という国だったし、ほかにも沢山の国があったらしいわ。……我が国は、まだ、王朝の切り替わりを経験して居ないから。想像が付かないわ。もしかしたら、大陸とは、全く異なった形で、世の中が変わっていくのかも知れないし……。アタシの感覚だと、我が国は、広くなったわよ」
香散見さんの感覚と、わたくしの感覚は、きっと、とても違う。
わたくしは、香散見さんの言う、広さも、狭さも解らない。きっと、わたくしとは、見えて居る世界が、違うかたなのだろうと思う。
けれど、ほんのすこしだけ。
わたくしは、羨ましくなった。わたくしの世界というのは、二条関白家と、その周辺。わたくしの指先が実際に触れることの出来る範囲のことだけ。
わたくしは、京の外にも出たことはない。
この方は、もっと広い世界を見ているのだろう。そう思ったら、わたくしは、ドキドキした。
この方の見ている、広い世の中……を感じてみたい。と。
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