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48.わたくし、動き始めましたわ
しおりを挟む五の宮さま。
その方が、香散見さんの命を狙っているという。
お住まいは、洛外近くに僅かな所領をもらって、橘大納言からの援助も得て、ほそぼそと過ごしているらしいとか。
官職らしい官職もないから、出仕もなさらない。
(こんな方が、どうやって香散見さんを殺すのかしら……?)
まさか、宮中で殺人事件を起こすとは思えないけれど……それにしたって、香散見さんは、ほぼ、宮中からお出にならないわけだし、香散見さんの命を狙う機会というのは、実は、そう多くないはずだ。
香散見さんは、わたくしが守るわ……という意気込みは、おかげで、しゅう、としぼんでしまう。
「高陽~っ? なんだか、あんた、落ち込んでるみたいだけど、どうしたの?」
「えっ?」
香散見さんが、針仕事の途中でぼんやりしていたわたくしの顔を覗き込んできた。
「あ、……あの、その、考え事を……」
「考え事?」
「そ、そうですのよ……ずっと針仕事ばかりして居ましたから」
「たしかに、アタシも調子に乗ってアンタに押しつけすぎたわね……でも、嬉しく思ってるのよ? お気に入りの女の子が作ってくれた衣って、トクベツよ?」
お気に入りの女の子―――という言葉に、わたくしは、つきん、と胸の奥が痛くなるのを感じていた。
わたくしは、嫌われては居ないと言うことなの。それは良かったけれど……わたくしは、このかたにとって、『愛する』とか『大好きな』という存在ではなくて、ただの『お気に入り』なんだと思うと、少し、悲しい。どうしてかしらね。
「それはようございました。折角作ったのに、喜んで頂けなかったら、わたくしもかなしいですもの」
「……それはそうと、アンタ、浮かない顔をしてるわよ。……ずっと、宮中に閉じ込めてたから、疲れちゃったのかしらね」
ずっと宮中に居たせいじゃなくて、あなたの衣装を作っていたのが悪いのですけれども。
そう言おうとして、はた、と気がついた。
もしかして、これって、外に出る好機なのではないかしら?
「あの……香散見さん」
わたくしは、おずおずと申し出ましたわよ。
「なあに?」
「じつは……わたくし、急に、入内することになってしまいましたから……、わたくしの入内を、乳母の墓前にも報告しておりませんの。もし、出来るなら、嵯峨野の菩提寺へ行って、わたくしに優しくしてくれた乳母に、わたくしを見守っていて下さいませ……と、お願いしたいところなのですけれど」
「あら、そうなの? 嵯峨野だったら、近いじゃない。日が良ければ、明日にでも、行ってきたら良いんじゃない?」
香散見さんは、手放しで賛成してくれるので少し心苦しいですけれど。
嵯峨野ならば、五の宮さまのお邸に近いはず。
もちろん、お邸潜入なんてことはしないけど………どういうひとなのか、探るくらいなら、出来ると思うのよ。
「まあ、それでは、暦を見てから、行ってきますわ」
わたくしは、動き始めた。
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