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一章 神様転生に御注意下さい

2話 たらい回しにされました

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〈 王都内、冒険者ギルド前 〉

「ここまで来れば大丈夫やろ。カインドさん、彼らの世話、おおきにな」

「おう、旦那もお疲れさん」

冒険者ギルド前で幌馬車を止めた御者の人。
実は彼が奴隷商人だったらしい。
村長の所にいたのはカインドさんだけだったから、取引の現場は見てなかったけど、最初の夜営の時にカインドさんから説明があった。
何でも顔バレすると、逆恨みした人に襲われる事があるらしく、実際に同業者が1人、それで命を落としたらしい。

「いやぁ、道中ずっと喋らんのはやっぱキツいわ」

「普通に話しても良かったんじゃ?」

「あかんあかん、この商売は油断しとったらあっという間にお陀仏やで」

被っていたフードをずらすと、出てきたのは糸目の青年。
耳が長いからおそらくエルフ…と推測する前に、オレの鑑定さんが仕事した。



名前:ナンデン=アリ=マンネン

性別:男

年齢:438才

種族:ハイエルフ

LV:74

ジョブ:奴隷商人、王族特務官(諜報系・隠蔽中)

スキル:短剣術(R)、契約魔法(R)、隠蔽(HR)、暗殺(N)、聞き耳(N)、登攀(N)

能力値
HP:304
MP:244
ST:285
DF:262
MST:409
MDF:324
AGI:274
LUK:166

備考
国王直属の諜報員。奴隷商人に扮して各地の情報を集め、時には秘密裏な暗殺を行う事もある。基本的に王家の役に立つものを重用する傾向にあり、現在はカインドを王に紹介するか考慮している。



(あっ、これ知ったらダメなやつ…ってか、詳しいな!)

ちなみにスキルには2つのタイプがある。
戦闘系スキルと、生産系スキルだ。
能力の加算も違い、生産系スキルの加算は戦闘系スキルの半分になる。
ナンデンさんの『短剣術』は戦闘系で+50だけど、『契約魔法』は生産系で+25という事だ。
ただ戦闘系スキルを持っている人が無条件に強い訳じゃない。
ナンデンさんの『隠蔽』は生産系だけど、ランクはHR…ハイレアだ。
その加算値は+50にもなる。

「さて、これからやけど、アルマちゃんとユミルちゃんはここに引き渡しや。御両親から聞いとるやろけど、だいたい5~6年は基礎教育と訓練になる。そっから受付嬢や買取カウンターの仕事やって、5~6年で晴れて自由の身や」

「はいっ!」

「頑張りますっ!」

道中聞いた話によると、奴隷商人にもランクがあり、ランクで扱える奴隷が決められているらしい。
その奴隷商人達の中でもナンデンさんはトップであるらしく、主にギルドの要請で人手を探す、所謂スカウトを行っているそうだ。
収入自体がギルドの他に国からも出るため、違法行為を行わないようにするだけで商会が回せる、らしい。

(いや、絶対もう一つの仕事のお陰じゃね?)

実際、他の商会の半数はちょっとした違反を行っており、それくらいはお目こぼししてくれるそうだ。
もっとも匙加減を間違えると即座に摘発され、犯罪奴隷にされてしまうらしいが。

「うん、いい返事やな。そんでー…クオリアくんは依頼で買い取った訳やなくてな、取り敢えずステータスを調べて、適当な所に話を持っていく事になる」

「村長のせいですね」

「そうや、けちった村長のせいや」

互いに軽く笑うが、オレの内心は少々焦りぎみだ。
女神曰く、この王都の本神殿でないと鑑定できないらしいからだ。

「取り敢えず冒険者ギルドの鑑定ボードで調べるから、ついてきてや。そっちの2人もな」

「はーい」

「ほら、行こう、クオリアくん」

「あ、うん」

トラブルの予感を感じつつ、ユミルに手を引かれてギルドに入る。



〈 冒険者ギルド内 〉

ギルドは予想に反して清潔だった。
流石に営業中の為、床には色々落ちているが、壁やランプ等にも目立った汚れはない。
それになにより…優しい人が多い様子。

「お、ナンデンさんがいるって事はギルドの新入りか。頑張れよ!」

「お、かわいいな。ありゃあ美人になるぞ」

「て、手取り足取り指導してprpr…」

「あの男の子、いいわね…暗い倉庫に連れ出して、怯えるあの子を…」

(前言撤回、事案注意、お巡りさんこっちです!)

(つか、最後の女! どう見ても20才過ぎなのに6才に欲情すんな! この世界にはショタ好きしかいないのかよ!)

(スキルは…『凌辱(R)』!?  え、何で捕まってねぇの? あ、サキュバスの方でしたか……ってか『凌辱』って戦闘系なのか)

「あ、ナンデンさんお帰りなさい。カインドさんは護衛依頼完了の手続きですから、あちらのカウンターへどうぞー」

「ただいま。じゃあ、カインドさん、手続き終わったらちょっと待っとってな」

「わかった。じゃあな、2人とも」

「はい、また」

「楽しかったです」

少しして別の職員がやって来て、2人を連れていった。
2人とも『絶対また会いましょうね』と強い口調で約束していったけど、何だったのやら。

「はい、確かに受領致しました。…それで、そっちの男の子はどうしたんですか?」

「巡業でちょっとビビっときてな、寄る予定のなかった村に寄ったんよ。そしたらそこの村長が二束三文で売っぱらうっつーんで買ったんや。断っとったら多分今頃は…」

「魔獣の餌、ですかね。わかりました、少し調べましょう」

「おおきにな。そんで、この子に鑑定ボード使わせてくれんかな?」

「いいですよ。おそらく不良品というか、劣化品で鑑定したんでしょうし。じゃあ、ボク、着いてきてね?」

受付嬢さんとナンデンさんに連れられて辿り着いたのは、荘厳な空気に満ちた部屋だった。
中央に透き通った緑の立方体が浮いている。

「あれが鑑定ボードよ。形的にはキューブって呼ぶべきなんでしょうけど…ま、使ってみれば分かるわ。手を触れて、鑑定って言えばいいから、やってみて?」

「はぁ………鑑定」

覚悟を決めて文言を唱えるが、何も起きない。

「…あれ? 何で?」

「壊れる…訳はないな。あれはSR級の宝具やし」

そんな会話が交わされるなか、やがて空中にディスプレイが投影される。

「お、やっと…はぁ!?」

「な、なにこれ…」

「…はぁ」

ディスプレイに映っていたのは清楚な表情をした女神が、申し訳なさそうにプラカードを向けている姿。
それに書かれているのは『管理者権限が足りません。お手数ですが本神殿のボードをお使い下さい』というものだった。

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