短編集

カム

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色鉛筆と恋の話

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ビビは大きな目をした赤い髪の女の子です。目は大きいけれど、顔にはそばかすがあって、髪は少し縮れていて、彼女はそれが少し残念でした。

彼女はお小遣いの入った鞄を持って村の道具屋さんへ向かいます。
お道具箱の色鉛筆の一本がかなり短くなったので、新しい物を買うことにしたのです。
本当はたくさんの色を買いそろえたいけれど、お小遣いが少ないので贅沢はできません。
お店の片隅に並べられた色とりどりの鉛筆を、ビビはうっとりと眺めました。
街で売られているような立派な色鉛筆はたくさんの種類があって、ビビの知らない名前の色もあります。
ビビが欲しいのは、少し青みがかった緑色の色鉛筆です。
ビビの憧れの人の瞳の色によく似ているからです。
ビビは、短くなった一本の他に、珍しい緑色の色鉛筆を購入しました。

ビビの憧れの彼は、街からやって来た年上の男の人です。
時々村の通りですれ違う彼は、いつも忙しそうに荷物を運んでいます。
ズボンは汚れていて、シャツはシワが寄っていて、悲しそうな困り果てたような顔をしています。
ビビは学校が終わるとスケッチブックを持って散歩に出かけます。遠くを眺めたり絵を描いている時に、彼が仕事をする様子を見かける事がありました。
一度だけ誰かに怒られているのも見たことがあります。
その時ビビは落ち込む彼を慰めてあげたいと思ったのでした。
でも彼女は子供で、まだ彼の視界には入っていません。
私がもう少し大きくなったら、お話してみたいな、とビビは思っていました。
彼女の目には、世界はとてもきらきらしていて美しく映ります。
彼の緑色の瞳には、世界がどんな風に見えているのか聞いてみたかったのです。

ビビは買ったばかりの色鉛筆を持って、村の広場に出かけました。
村の絵をスケッチしようと木の椅子に腰掛けた時、彼の姿を見かけました。
いつもと様子が違います。荷物も運んでいません。手には小さな花を持っていました。
ビビはスケッチブックを片手に彼を追いかけました。
幸い、彼は角を曲がったすぐ傍の小さな家の前で立ち止まりました。
お花の咲いた小さな庭がある可愛い家です。
彼が呼び鈴を鳴らすと、中から女の人が出てきました。まっすぐな髪をリボンで結わえた優しそうな大人の女性です。
彼はいつもの困り顔で、たどたどしく彼女にお花を渡しました。彼女はそれを受け取ります。
お花の香りをうっとりとかいだ彼女は彼を見つめ、二人はそっとキスをしました。
そして二人で小さな家の中に入ってしまいました。

彼を慰めてあげられるのは、私じゃなかったんだ、とビビは思いました。
不思議な胸の痛みがありました。彼のことは好きだったけれど、キスをしている二人はとても美しくて、まるで一枚の絵のように見えたのです。

村の広場に戻ってきたビビは、木の椅子に腰掛けてスケッチブックを開きました。
描かれているのは村の広場と家と山々、行き交う村人達。
その中に描きかけの彼の姿もありました。
ビビは、それ以上彼を描くのは止めておきました。この先も彼の目を彼女の持つ緑色で彩ることはないでしょう。

ビビがもう少し大きくなった時、赤い縮れた髪とそばかすのある顔は彼女の魅力になって、彼女に焦がれる人が現れるのですが、彼女はまだそれを知りません。
涙でにじんだスケッチブックを閉じ、彼女は帰路につきました。
それでも彼女の目にはまだ、世界はきらきらと色鮮やかに美しく輝いているのでした。

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