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それからしばらくの間、穏やかな日々が続いた。
大学に行き、バイトをして、休みは以前のように康哉と遊びに出かける。前と違う所はそれにエロがくっついてくるようになったことだ。
もともと友人だからか、ためておくのが苦手だからなのか、俺は言いたいことは全部康哉に言うことに決めた。
例えば、翌日が学校だから腰が痛いのは困るから今日はエロ無しとか。そういう時も、康哉は怒らずにちょっとエロいマッサージ程度にとどめてくれたし、お前に遠慮せず他の男友達と会うと言った時は、その後相当激しく抱かれたけど、無理強いとか痛みを伴う行為は無かったし、友達に会っても何も言われなかった。
それに休みで一緒に遊ぶときは本当に楽しかった。動物園に行ってラクダやタヌキを見たり、異世界の地図を眺めて行ったことのない場所の話を聞いたり、真夜中にドライブに行ったり。
不思議なのは、康哉と一緒にいると心霊現象に遭遇しないということだ。俺が怖い目に会うのは決まって一人でいるときで、康哉と一緒にいればなんの現象も起きなかった。
***
康哉が海外移住の話を切り出したのは大学も一年が過ぎようとした時だった。
「移住!?」
「そうなんだ」
「ええ? どこに?」
話を聞けば康哉は、大学を卒業したら海外に移住しようと思っていたらしい。それもアジアだ。
「希望はタイかシンガポール、その辺りならどこでもいいな」
「何で?」
潔癖性の康哉が? それとも俺が思っているだけで、タイってかなり綺麗な国なのか?
「似てるんだ。俺が異世界で過ごした風景と。だから移住しようと思ってる。希少動物を保護する仕事に就きたい」
俺の知らない間に、康哉はいろいろと考えていたらしい。
「だからさ、修平」
「え?」
「一緒についてきてくれ。俺の人生の……パートナーになって欲しい」
康哉に言われて呆然とした。
「お前の、結婚して幸せなサラリーマンになるっていう夢は叶えてやれそうもないけど。考えておいてくれよな」
康哉は返事は急がないと言った。
それで二人でその年の正月休みに、タイとシンガポールに旅行に行くことにした。
初めてのタイは暑くて、異世界の気温とは違っていたけど、それでも桃花村近くの森で巨大植物を眺めていた時の気持ちを思い出した。夜のシンガポールはかなり楽しかったし、タイの遺跡や大きな河を見ていると不思議と癒された。
康哉もずっと何かを考えているみたいだった。それは王宮で別れた半獣達の事だろうか。
「康哉……」
夜中に誰も知り合いのいない国の通りを歩きながら、康哉の名前を呼ぶと、いつもと変わらない笑顔で振り向いてくれる。
「どうした? 修平」
返事の代わりにキスをする。
性格はいろいろあれだけど、それは俺も同じだ。そんな俺でも一緒にいたいと康哉が言ってくれるんだから、それに応えたい。
大学を卒業したら、一緒に海外についていこう。まだ話すのはもう少し後にしようと思うけど、多分この先もどこまでも一緒だ。
さようなら、異世界のみんな。もう会えないと思うとどうしようもなくさみしいけれど、どうか元気で。
俺は康哉の手を握り、二人で賑やかな雑踏に紛れこんだ。
おわり
大学に行き、バイトをして、休みは以前のように康哉と遊びに出かける。前と違う所はそれにエロがくっついてくるようになったことだ。
もともと友人だからか、ためておくのが苦手だからなのか、俺は言いたいことは全部康哉に言うことに決めた。
例えば、翌日が学校だから腰が痛いのは困るから今日はエロ無しとか。そういう時も、康哉は怒らずにちょっとエロいマッサージ程度にとどめてくれたし、お前に遠慮せず他の男友達と会うと言った時は、その後相当激しく抱かれたけど、無理強いとか痛みを伴う行為は無かったし、友達に会っても何も言われなかった。
それに休みで一緒に遊ぶときは本当に楽しかった。動物園に行ってラクダやタヌキを見たり、異世界の地図を眺めて行ったことのない場所の話を聞いたり、真夜中にドライブに行ったり。
不思議なのは、康哉と一緒にいると心霊現象に遭遇しないということだ。俺が怖い目に会うのは決まって一人でいるときで、康哉と一緒にいればなんの現象も起きなかった。
***
康哉が海外移住の話を切り出したのは大学も一年が過ぎようとした時だった。
「移住!?」
「そうなんだ」
「ええ? どこに?」
話を聞けば康哉は、大学を卒業したら海外に移住しようと思っていたらしい。それもアジアだ。
「希望はタイかシンガポール、その辺りならどこでもいいな」
「何で?」
潔癖性の康哉が? それとも俺が思っているだけで、タイってかなり綺麗な国なのか?
「似てるんだ。俺が異世界で過ごした風景と。だから移住しようと思ってる。希少動物を保護する仕事に就きたい」
俺の知らない間に、康哉はいろいろと考えていたらしい。
「だからさ、修平」
「え?」
「一緒についてきてくれ。俺の人生の……パートナーになって欲しい」
康哉に言われて呆然とした。
「お前の、結婚して幸せなサラリーマンになるっていう夢は叶えてやれそうもないけど。考えておいてくれよな」
康哉は返事は急がないと言った。
それで二人でその年の正月休みに、タイとシンガポールに旅行に行くことにした。
初めてのタイは暑くて、異世界の気温とは違っていたけど、それでも桃花村近くの森で巨大植物を眺めていた時の気持ちを思い出した。夜のシンガポールはかなり楽しかったし、タイの遺跡や大きな河を見ていると不思議と癒された。
康哉もずっと何かを考えているみたいだった。それは王宮で別れた半獣達の事だろうか。
「康哉……」
夜中に誰も知り合いのいない国の通りを歩きながら、康哉の名前を呼ぶと、いつもと変わらない笑顔で振り向いてくれる。
「どうした? 修平」
返事の代わりにキスをする。
性格はいろいろあれだけど、それは俺も同じだ。そんな俺でも一緒にいたいと康哉が言ってくれるんだから、それに応えたい。
大学を卒業したら、一緒に海外についていこう。まだ話すのはもう少し後にしようと思うけど、多分この先もどこまでも一緒だ。
さようなら、異世界のみんな。もう会えないと思うとどうしようもなくさみしいけれど、どうか元気で。
俺は康哉の手を握り、二人で賑やかな雑踏に紛れこんだ。
おわり
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marukoさんお久しぶりです!元気ですか?
この短編は私にしては早い速度で(三日くらい?)で書いたので、わりと最近まで書いたことを忘れてました!
でも読み返してみたら、康哉の気持ちも修平の気持ちもよく分かって楽しくて、自分がご褒美をもらった気分になりました。
康哉はいつも不憫なキャラだったので、幸せにしてあげられて良かった(でも半獣バージョンのハッピーエンドは完結してないですが…)
こんなエンドももしかしたらあったかも、と感慨深いお話です。いつも読んでくださってありがとうございました。
最後までお読みいただきありがとうございます😊
異世界転生前にくっついていたら切なさのないエンディングになると思い、転生前のエンディングも少し考えてんですが、結局こっちになりました。不憫な康哉を幸せにできて良かったです。ありがとうございました。
本編も、アニキ編も好きで何度も読み返して楽しませていただいてます( *´꒳`* )
帰ってきてからの喪失感と切なさが…それでも日常を送らなくちゃいけない複雑な気持ちですね( ´ㅁ` ; )
幸せになって!!
ありがとうございます😊
本編を書く時は康哉が苦手だったんですが、この番外編を書いて好きなキャラになりました。アニキ編も(ちょっと止まってますが)頑張ります!