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新婚旅行
3 挨拶まわり
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飛行船が飛び立って半日が過ぎようとしていた。
最初に訪れる赤砂の街には明日の朝に到着する予定らしい。
飛行船はのんびりと、雄大な景色の中を進んで行く。賑やかだった王都も遠ざかり、しばらくの間光を反射させていた緑水湖もそのうち見えなくなった。なだらかな丘陵や山や森が眼下に広がり、俺がケビンに乗って旅してきたような石畳の道や土で踏み固められた道が続く。
小さく見える街道には、たくさんの通行人や騎獣がいて、おそらくこちらを見上げて手を振ってくれている。
それが珍しくて嬉しくて、午前中の殆どの時間を外を眺めて手を振ることに使ってしまった。最初は付き合ってくれていたルーシェンも、いつのまにか部下たちと別の場所に移動している。
「ミサキ様、お疲れではございませんか? あちらにお飲み物をご用意しております」
ポリムに促されてようやく浮島の建物内に入る。そういえば飛行船の動力部も見たいと思っていたんだった。
『ルーシェンはどこに行ったんですか?』
「責任者の方々と集まられて、これからの事を話し合われてますわ」
ルーシェンは相変わらずの仕事人間だった。確か飛行船の責任者はロベルトさんだったよな。丸投げして婚約旅行を楽しむのかと思っていたけど、あのルーシェンがそんな事できるはずがなかった。ちらっと会議室を覗くと、飛行部隊や魔法使いやフィオネさんも混ざって地図と巻物を片手に難しい顔で話し合ってる。
「王子にお伝えして、ミサキ様の席をご用意いたしますね」
『いえ、大丈夫です』
あの様子から見て、おそらく万能薬の素材集めの話だろう。俺を呼ばない所をみるとあまり聞かれたくない話なんだろうな。
『譲二さん、飛行船の内部を案内してくれますか? 働いてる人に挨拶して回りたいです』
「畏まりました」
ルーシェンは忙しそうなので、譲二さんとポリムを連れて飛行船の内部を歩き回る事にした。
***
『ジョシュー!』
「あっ、ミサキ様……!」
ジョシュは飛行船の地下三階で働いていた。地下と言っても飛行船という名の浮島では、地上に出ている部分がわずかで、建物は全部島の内側に作られてる。地下にも窓があって、崖の途中に作られた窓みたいだ。扉と通路もある。浮島内部を探検していた途中でその外に続く扉を見つけた俺は、外に出たいと要望してポリムや譲二さんやジョシュ達の猛反対にあった。
「ミサキ様、あとで美味しいお菓子を持っていきますね」
『楽しみにしてます』
制服を着たジョシュはとても似合っていた。
料理人はエプロンのような汚れてもいい作業服を着ていて、頭には帽子、長い手袋。日本のシェフと似たような格好だ。そういう部分は異世界でも共通なんだろうな。
恐縮している料理人に名前と話を聞いて、しばらく料理を作っている所を見学させてもらう。食料倉庫には山のように食糧品が詰め込まれていて、何日籠城しても生き延びられそうだ。物珍しくてずっと眺めていたかったけど、料理人達がやり辛そうなのでしばらくしたら退散する事にした。
次に飛行部隊達の部屋に向かった。
全員ついてきているわけじゃなさそうだけど、ルーシェン直属の配下だから殆ど揃ってる。一度みんなに挨拶したいと思ってたんだよな。譲二さんの話だと、交代で飛行船の警備をするらしいから、今は休憩中のメンバーが部屋でくつろいでいるはずだ。
『こんにちはー!』
扉を開けると、中で長椅子に寝ていた飛行部隊の兵士が飛び起きた。
「み、ミサキ様?」
慌てて部屋にいた全員がその場に跪いて視線を伏せる。ちらりと後ろを気にしたのは、ルーシェンがいないかと思ったのだろう。もしかして悪いことしたかな。
『休憩中にすみません。跪かなくていいですよ。挨拶に来ただけなので』
「ミサキ様、私どもに挨拶など無用でございます」
『あれ? もしかして……』
この人、見覚えがある。
確か妖花の討伐の時に、目が覚めた飛行部隊の事を心配していた人だ。同じ休憩室にいる他の飛行部隊を見れば、あの時落下して包帯まみれになってた人が近くで跪いてた。
『良かった。怪我が治ったんですね』
それに二人の仲も良さそうだ。うまくいってるんだな。
だけど俺の言葉に飛行部隊の兵士はきょとんとしている。そうだよな。あの時は幽体離脱してたから面識がなくて当然だ。
「怪我……というのは?」
『なんでもないです。旅行中よろしくお願いします』
飛行部隊の兵士もやっぱり恐縮しているので、そそくさと部屋から退散した。
「ミサキ様、他の場所も回られるのですか?」
『はい。一応みんなに挨拶しておきたいんです』
無言の譲二さんを横目にポリムは
「ミサキ様は本当に部下の事を考えてくださる方ですわ!」
と言っていたけど、正直なところ部下の事を考えて、というより自分のためと言った方が近い。
オーラが見えるようになってから俺は、危険な思想や魔法を持った人間が見ただけでなんとなくわかるようになっていた。だから全員の持つ雰囲気を確かめて、敵か味方か判断したかった。婚約式の時みたいに酷い目にあいたくない。せめて旅行中くらいは安心して過ごしていたいからな。
問題は、腕にくっついている真顔の妖精さんがすでに一人いるって事だけど。
最初に訪れる赤砂の街には明日の朝に到着する予定らしい。
飛行船はのんびりと、雄大な景色の中を進んで行く。賑やかだった王都も遠ざかり、しばらくの間光を反射させていた緑水湖もそのうち見えなくなった。なだらかな丘陵や山や森が眼下に広がり、俺がケビンに乗って旅してきたような石畳の道や土で踏み固められた道が続く。
小さく見える街道には、たくさんの通行人や騎獣がいて、おそらくこちらを見上げて手を振ってくれている。
それが珍しくて嬉しくて、午前中の殆どの時間を外を眺めて手を振ることに使ってしまった。最初は付き合ってくれていたルーシェンも、いつのまにか部下たちと別の場所に移動している。
「ミサキ様、お疲れではございませんか? あちらにお飲み物をご用意しております」
ポリムに促されてようやく浮島の建物内に入る。そういえば飛行船の動力部も見たいと思っていたんだった。
『ルーシェンはどこに行ったんですか?』
「責任者の方々と集まられて、これからの事を話し合われてますわ」
ルーシェンは相変わらずの仕事人間だった。確か飛行船の責任者はロベルトさんだったよな。丸投げして婚約旅行を楽しむのかと思っていたけど、あのルーシェンがそんな事できるはずがなかった。ちらっと会議室を覗くと、飛行部隊や魔法使いやフィオネさんも混ざって地図と巻物を片手に難しい顔で話し合ってる。
「王子にお伝えして、ミサキ様の席をご用意いたしますね」
『いえ、大丈夫です』
あの様子から見て、おそらく万能薬の素材集めの話だろう。俺を呼ばない所をみるとあまり聞かれたくない話なんだろうな。
『譲二さん、飛行船の内部を案内してくれますか? 働いてる人に挨拶して回りたいです』
「畏まりました」
ルーシェンは忙しそうなので、譲二さんとポリムを連れて飛行船の内部を歩き回る事にした。
***
『ジョシュー!』
「あっ、ミサキ様……!」
ジョシュは飛行船の地下三階で働いていた。地下と言っても飛行船という名の浮島では、地上に出ている部分がわずかで、建物は全部島の内側に作られてる。地下にも窓があって、崖の途中に作られた窓みたいだ。扉と通路もある。浮島内部を探検していた途中でその外に続く扉を見つけた俺は、外に出たいと要望してポリムや譲二さんやジョシュ達の猛反対にあった。
「ミサキ様、あとで美味しいお菓子を持っていきますね」
『楽しみにしてます』
制服を着たジョシュはとても似合っていた。
料理人はエプロンのような汚れてもいい作業服を着ていて、頭には帽子、長い手袋。日本のシェフと似たような格好だ。そういう部分は異世界でも共通なんだろうな。
恐縮している料理人に名前と話を聞いて、しばらく料理を作っている所を見学させてもらう。食料倉庫には山のように食糧品が詰め込まれていて、何日籠城しても生き延びられそうだ。物珍しくてずっと眺めていたかったけど、料理人達がやり辛そうなのでしばらくしたら退散する事にした。
次に飛行部隊達の部屋に向かった。
全員ついてきているわけじゃなさそうだけど、ルーシェン直属の配下だから殆ど揃ってる。一度みんなに挨拶したいと思ってたんだよな。譲二さんの話だと、交代で飛行船の警備をするらしいから、今は休憩中のメンバーが部屋でくつろいでいるはずだ。
『こんにちはー!』
扉を開けると、中で長椅子に寝ていた飛行部隊の兵士が飛び起きた。
「み、ミサキ様?」
慌てて部屋にいた全員がその場に跪いて視線を伏せる。ちらりと後ろを気にしたのは、ルーシェンがいないかと思ったのだろう。もしかして悪いことしたかな。
『休憩中にすみません。跪かなくていいですよ。挨拶に来ただけなので』
「ミサキ様、私どもに挨拶など無用でございます」
『あれ? もしかして……』
この人、見覚えがある。
確か妖花の討伐の時に、目が覚めた飛行部隊の事を心配していた人だ。同じ休憩室にいる他の飛行部隊を見れば、あの時落下して包帯まみれになってた人が近くで跪いてた。
『良かった。怪我が治ったんですね』
それに二人の仲も良さそうだ。うまくいってるんだな。
だけど俺の言葉に飛行部隊の兵士はきょとんとしている。そうだよな。あの時は幽体離脱してたから面識がなくて当然だ。
「怪我……というのは?」
『なんでもないです。旅行中よろしくお願いします』
飛行部隊の兵士もやっぱり恐縮しているので、そそくさと部屋から退散した。
「ミサキ様、他の場所も回られるのですか?」
『はい。一応みんなに挨拶しておきたいんです』
無言の譲二さんを横目にポリムは
「ミサキ様は本当に部下の事を考えてくださる方ですわ!」
と言っていたけど、正直なところ部下の事を考えて、というより自分のためと言った方が近い。
オーラが見えるようになってから俺は、危険な思想や魔法を持った人間が見ただけでなんとなくわかるようになっていた。だから全員の持つ雰囲気を確かめて、敵か味方か判断したかった。婚約式の時みたいに酷い目にあいたくない。せめて旅行中くらいは安心して過ごしていたいからな。
問題は、腕にくっついている真顔の妖精さんがすでに一人いるって事だけど。
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