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赤砂の街
6 カイカ? ってなんだ?
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隣の部屋では、如月とそれから雲の谷の使者、それに飛行部隊や侍女や護衛兵達が待っていた。
さっきまでみんなを待たせてイチャイチャしてたからちょっと照れている俺とは対照的に、ルーシェンは全く動じていない。照れるとか恥ずかしいという感情が全くないルーシェンがある意味羨ましい。
「王子、お元気そうでなによりです」
にこやかに笑って頭を下げたのは、長い黒髪を編み上げた紫の衣装の男の人。
この人が雲の谷の使者らしくて、ルーシェンや王妃様に少し似ている。血のつながりでもあるのかな。
「それからミサキ様、はじめまして。婚約おめでとうございます」
『あっ、はじめまして。ありがとうございます』
「ふふ。なるほど王妃様のおっしゃる通り、可愛らしい方ですね。王子様が溺愛していらっしゃるのも頷ける」
『え⁉ いえあの、そんな事ありません』
王妃様、何を話してるんだ。冷や汗が出たんだけど。
それから如月が一歩前へ出て挨拶をし、丸めた書状を二つ取り出した。
「王子、こちらは隣国の王から。そしてこちらは国王様からです」
隣国の王からの書状を読み始めたルーシェンの表情が険しくなる。表情だけじゃなく、まとうオーラも少し変わった。
なんだか嫌な予感がした。それは俺だけじゃないらしい。
「王子、まさか……」
「隣国のティエール平原地帯で、大規模な開花が始まったそうだ」
カイカ? カイカってなんだ? 開花かな。桜前線みたいな。
でもそう思ったのは俺だけで、飛行部隊や侍女達からは悲嘆のこもったどよめきが起こる。
「隣国セキム王の書状は、ラキ王国に援軍を派遣して欲しいという依頼だな」
援軍⁉ 兵士を派遣するのか?
「出張で確認いたしましたが、開花はティエール平原だけでなく全域で始まっていました。花粉による被害があちこちの街に出ています。ラキ王国に到達するのも時間の問題かと」
如月の言葉に全員が息を飲む。
「その報告で一度王都に戻り、国王からこちらの書状を預かっております」
ルーシェンが開いた王様からの書状には
「援軍は国王軍から出す。お前は旅行を堪能しろ」
と書かれていた。
「父上らしいな……」
「王様とグレイブ部長が指揮を取り、隣国へ向かう事にしたようです。万が一の事があれば息子に王位を譲ると」
グレイブ部長って、魔法関連部の部長でロベルトさんのお父さんだよな。援軍って大丈夫なのか?
「王子、こちらは王妃様からの書状でございます」
雲の谷の使者も書状をルーシェンに手渡した。フィオネさんが読み終わった書状を受け取る。
「母上と雲の谷の者が北方から東側の国境の防御にあたってくれるそうだ」
「西側は……」
アークさんの問いに、ルーシェンが頭を押さえながら口を開く。
「西側と南はこちらで見なければならないだろうな」
ルーシェンがそう言うと重苦しい沈黙が訪れた。
***
『すみません。忙しいのに私が引き止めてしまって』
ルーシェンと他のみんなはこれからの話し合いをするという事だったけど、その前に俺は無理をいって如月を引き止めて別の場所で話を聞いていた。
とにかく全く意味が分からなくて、そんな俺に一番分かりやすく説明をしてくれるのは如月だろうと思ったのだ。
「面倒なので日本語でいきますね」
「助かる! 訳が分からなくて」
「でしょうね。敬語がなくてすみません。ミサキさんにはこっちの方が慣れているので、日本語では見逃してください」
「いいって。ところで開花ってなんの事なんだ?」
「ではざっと説明します。日本では考えられないかもしれませんが、こちらの世界では植物の中に魔物より凶暴な種類がいます」
俺は幽体離脱した時、ルーシェンが妖花と戦っていた事を思い出した。あれは確かに怖い。
「今回開花したのは、かなりやっかいな種類の妖花で、十数年に一度開花し大量の花粉のような物を飛ばすのですが、その花粉に触れた魔物は理性をなくして凶暴化し、長距離を移動しながら破壊活動を繰り返します。そして死ぬまで暴れた後、倒れた魔物の体から新しい花の芽が育ち始めるのです。ラキ王国はこの妖花をすべて討伐していますが、隣国は予算も軍事力も低く、国土のあちこちで妖花が育っていると言われていました。前回の開花は二十年以上前ですが、街が五つ滅び、何十キロも魔物の死骸が続いていたと言われています」
「うわ……」
「私も子供だったので、大人達に話を聞いただけですが。
隣国で妖花が育ち、開花が近いことは数年前から囁かれていました。何度かラキ王国から討伐に援軍を出すと話していたのですが、隣国のセキム王はラキ王国を恐れてそれを受け入れなかったのです。ラキ王国は強い国ですからね。乗っ取られるとでも思ったのでしょう」
「如月はそれを調査してたのか」
「まあ、あらゆる雑用はやらされてますけどね。ところでミサキさん、言いづらいので誰も言わないかもしれませんが、教えますね」
「え?」
「ミサキさんの心臓は弱っています。すぐに万能薬で治療した方がいいのですが、万能薬は素材が珍しいのでなかなか手に入りません。本来なら婚約旅行で万能薬の素材集めをする予定でした。たとえば赤砂の街では近くに住みついている火竜の牙、黄葉樹の街では黄金の花と根などですが、花粉の飛散で魔物が凶暴化すればこの素材集めが難しくなります。さらに魔法戦が各地で始まりますから魔力量が増えてミサキさんの心臓に悪い状況が続くことになります」
如月は一度ここで言葉を切った。
「最悪の場合を想定して、ミサキさんは一度日本に帰った方がいいかもしれません」
さっきまでみんなを待たせてイチャイチャしてたからちょっと照れている俺とは対照的に、ルーシェンは全く動じていない。照れるとか恥ずかしいという感情が全くないルーシェンがある意味羨ましい。
「王子、お元気そうでなによりです」
にこやかに笑って頭を下げたのは、長い黒髪を編み上げた紫の衣装の男の人。
この人が雲の谷の使者らしくて、ルーシェンや王妃様に少し似ている。血のつながりでもあるのかな。
「それからミサキ様、はじめまして。婚約おめでとうございます」
『あっ、はじめまして。ありがとうございます』
「ふふ。なるほど王妃様のおっしゃる通り、可愛らしい方ですね。王子様が溺愛していらっしゃるのも頷ける」
『え⁉ いえあの、そんな事ありません』
王妃様、何を話してるんだ。冷や汗が出たんだけど。
それから如月が一歩前へ出て挨拶をし、丸めた書状を二つ取り出した。
「王子、こちらは隣国の王から。そしてこちらは国王様からです」
隣国の王からの書状を読み始めたルーシェンの表情が険しくなる。表情だけじゃなく、まとうオーラも少し変わった。
なんだか嫌な予感がした。それは俺だけじゃないらしい。
「王子、まさか……」
「隣国のティエール平原地帯で、大規模な開花が始まったそうだ」
カイカ? カイカってなんだ? 開花かな。桜前線みたいな。
でもそう思ったのは俺だけで、飛行部隊や侍女達からは悲嘆のこもったどよめきが起こる。
「隣国セキム王の書状は、ラキ王国に援軍を派遣して欲しいという依頼だな」
援軍⁉ 兵士を派遣するのか?
「出張で確認いたしましたが、開花はティエール平原だけでなく全域で始まっていました。花粉による被害があちこちの街に出ています。ラキ王国に到達するのも時間の問題かと」
如月の言葉に全員が息を飲む。
「その報告で一度王都に戻り、国王からこちらの書状を預かっております」
ルーシェンが開いた王様からの書状には
「援軍は国王軍から出す。お前は旅行を堪能しろ」
と書かれていた。
「父上らしいな……」
「王様とグレイブ部長が指揮を取り、隣国へ向かう事にしたようです。万が一の事があれば息子に王位を譲ると」
グレイブ部長って、魔法関連部の部長でロベルトさんのお父さんだよな。援軍って大丈夫なのか?
「王子、こちらは王妃様からの書状でございます」
雲の谷の使者も書状をルーシェンに手渡した。フィオネさんが読み終わった書状を受け取る。
「母上と雲の谷の者が北方から東側の国境の防御にあたってくれるそうだ」
「西側は……」
アークさんの問いに、ルーシェンが頭を押さえながら口を開く。
「西側と南はこちらで見なければならないだろうな」
ルーシェンがそう言うと重苦しい沈黙が訪れた。
***
『すみません。忙しいのに私が引き止めてしまって』
ルーシェンと他のみんなはこれからの話し合いをするという事だったけど、その前に俺は無理をいって如月を引き止めて別の場所で話を聞いていた。
とにかく全く意味が分からなくて、そんな俺に一番分かりやすく説明をしてくれるのは如月だろうと思ったのだ。
「面倒なので日本語でいきますね」
「助かる! 訳が分からなくて」
「でしょうね。敬語がなくてすみません。ミサキさんにはこっちの方が慣れているので、日本語では見逃してください」
「いいって。ところで開花ってなんの事なんだ?」
「ではざっと説明します。日本では考えられないかもしれませんが、こちらの世界では植物の中に魔物より凶暴な種類がいます」
俺は幽体離脱した時、ルーシェンが妖花と戦っていた事を思い出した。あれは確かに怖い。
「今回開花したのは、かなりやっかいな種類の妖花で、十数年に一度開花し大量の花粉のような物を飛ばすのですが、その花粉に触れた魔物は理性をなくして凶暴化し、長距離を移動しながら破壊活動を繰り返します。そして死ぬまで暴れた後、倒れた魔物の体から新しい花の芽が育ち始めるのです。ラキ王国はこの妖花をすべて討伐していますが、隣国は予算も軍事力も低く、国土のあちこちで妖花が育っていると言われていました。前回の開花は二十年以上前ですが、街が五つ滅び、何十キロも魔物の死骸が続いていたと言われています」
「うわ……」
「私も子供だったので、大人達に話を聞いただけですが。
隣国で妖花が育ち、開花が近いことは数年前から囁かれていました。何度かラキ王国から討伐に援軍を出すと話していたのですが、隣国のセキム王はラキ王国を恐れてそれを受け入れなかったのです。ラキ王国は強い国ですからね。乗っ取られるとでも思ったのでしょう」
「如月はそれを調査してたのか」
「まあ、あらゆる雑用はやらされてますけどね。ところでミサキさん、言いづらいので誰も言わないかもしれませんが、教えますね」
「え?」
「ミサキさんの心臓は弱っています。すぐに万能薬で治療した方がいいのですが、万能薬は素材が珍しいのでなかなか手に入りません。本来なら婚約旅行で万能薬の素材集めをする予定でした。たとえば赤砂の街では近くに住みついている火竜の牙、黄葉樹の街では黄金の花と根などですが、花粉の飛散で魔物が凶暴化すればこの素材集めが難しくなります。さらに魔法戦が各地で始まりますから魔力量が増えてミサキさんの心臓に悪い状況が続くことになります」
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