ちびドラゴンは王子様に恋をする

カム

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山小屋の主

9 暗黙の掟

「思ったより金になったな」

 お店を出た後、ジークと近くの食堂に入った。ここは坂道の途中にある小さな木造のお店で、座席数は三つだけ。メニューもかなり少なく、エプロンをしたおばさんが勝手に料理を置きに来る。そこのテーブルでジークは、今もらったばかりのお金を数えていた。

「おじさん、もしかして牙売ったの?」

 交換所でジークが、地層から掘り当てた竜の物らしい品だと店主に売っていたのは、多分おじさんの牙だと思う。

「竜の牙は高値で売れるんだ。人間は薬にしているらしい。心配しなくてもまた生える。その牙も鉱石を噛み砕いていたら折れただけだしな」

 あやしい。まさか俺のために折ったんじゃないよな。数ヶ月の付き合いだけど、ジークおじさんが怖そうな見た目に反してすごく優しいことは知ってるからな。やりかねない。そのうち鱗とか爪とか内臓とか売り出したら困る。

「あまり竜の品物を売ってたら怪しまれない?」
「いい採掘場を知っているとは思われているな」

 人の姿になる時の、ジークとの約束事はひとつ。正体を竜だとバラさないこと。これは人型になれる竜たちの暗黙の掟みたいなもので、やむを得ない場合を除き、竜だと知らせてはならない。やむを得ない場合というのは生命の危険がせまっている時のことで、そのあと正体を知られた人たちへの口止め作業が行われる。
 口止め作業といっても、魔法をかけて眠らせたり(夢だと思わせる)可能なら記憶を消したり、その場から姿を消したりと、特に知られた相手の命を取るわけじゃないみたいだけど。

 ジークに教えてもらったところによると、今この国に人の姿になって人間社会に紛れ込んでいる竜はジークさん以外に一頭。大陸の西側には旅をしている竜を含めて数十頭ほどいるらしい。でもそれは人間たちには秘密だ。バレると狩られる可能性がある。だから仲間のためにも絶対に秘密にしないといけない。
 でも、ヒースに会えたら喋りたいな。俺が火竜のカルだって事。ダメなんだろうか。とりあえず狩られずに会いたいから、今は人の姿で会えるだけでよしとしよう。

 おばちゃんがテーブルに運んできたいろんな具材のスープとパンを両手を使って食べる。パンを食べるのはうまく出来るけど、スプーンを持ってスープを飲むのは難しい。口までの距離感が掴めないし、ドラゴンの時と違って口が小さくて奥行きがない。人間の歯は鋭くないから、よく噛んで食べないといけないし一度にたくさん入らない。
 でも良いこともある。人間の舌の方がいろいろな味を感じられて料理が美味しい。ジークが料理を食べるときはいつも人型になっている理由が分かった。

「スープ難しいな……」
「夕食はナイフとフォークを使って食べる肉料理にするか」
「うわ、両手に道具とか無理だよ」
「練習しろ。道具が使えないと手紙も書けないぞ」
「うん」

 結局スープ一杯を飲み終わるまでに、口の周りをたくさん汚してしまった。
 軽く腹ごしらえをしたら、次は服を買いに行く。ここまで全くドラゴン姿に戻ってない。スープはこぼしたけど、けっこう変身が続いていていい感じだ。




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