ちびドラゴンは王子様に恋をする

カム

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誓約

10 心配なんだ

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「ほらね、じゃない。寝ろ!」

 ヒースが怒って布団に押さえつけられた。ふわっとヒースの匂いがしたから思いっきり吸い込む。

「でも本当に」
「毒を甘く見るな」

「しばらく様子をみましょう。遅れて症状が出るかもしれません。カル、王子はあなたが心配なのですよ」

 ジェイソンにも渋い声で止められた。ヒースが心配してくれるのが嬉しくてにやにやしていたらもっとヒースが怒った。

「カル、もっと自分を大事にしてくれ。そもそも来るなといったのにお前が王城に来たからこんな事になったんだからな」
「ごめんなさい」
「お兄様、それは言いすぎです。カルはお兄様に会いたかっただけなの。それというのもお兄様を愛しているからですわ」
「……」
「シエラ、ありがとう。ジェイソンもごめん。俺しばらく寝るよ。このベッドはヒースの匂いがするからよく寝れそうだし」

 なんだかその場が微妙な空気になったけど、みんなが心配してくれてるからとりあえず寝ようと目を閉じる。

「では私は薬を手配しますのでこれで。何か変わったことがあればお呼びください」

「助かった。明日もよろしく頼む。ジェイソン、治療師を別室にお連れしてさしあげろ」

「お兄様、それなら私が」
「そうか。悪いな」
「お兄様もはやくお休みになってね。ケネスお兄様とエリオットお兄様のことは考えすぎないで。私からも話してみるわ」
「シエラ、お前は関わらないほうがいい。余計なことはしないと約束してくれ」
「……分かったわ」

 シエラとお医者さんが部屋を出て行く。眠れないからなんとなくジェイソンとヒースの話を聞いていると、この部屋はヒースの部屋だということが分かった。

「別室に王子のベッドをご用意します」
「ここでいい」
「しかし」
「カルが心配だから側にいたいんだ」
「それなら従者に交代で世話をさせましょう。王子もおやすみになってください」
「ジェイソン、言いたいことは分かる。でも俺の好きにさせてもらえないか」

 ジェイソンは短くため息を吐いた。

「……そうですね。竜のカルが命を落とした時、ヒース様がどれだけ後悔したか思い出しました」
「あの時、短時間だけ仮眠をとっただろ。解毒魔法を唱えるのに疲れていたのは確かだけど、そのせいで目覚めた時カルは冷たくなっていた。あんな思いはもう二度としたくない」

 布団の中に潜り込んでいた俺は、その話を聞いて涙が出た。お墓の中で目覚めたとき、毒が抜けていたのはヒースが解毒魔法を一生懸命かけてくれてたからなんだ。

「では王子のお食事とカルの薬をお持ちします」
「ああ。それが終わったらケネスとエリオットの動向を調べてくれ」
「分かりました」

 ジェイソンが出て行こうとした時、部屋の扉に光が近づいてくるのが分かった。この光は見覚えがある。クラウスだ。

 扉がノックされてクラウディアさんの声がした。

「魔法道具屋のクラウディアです。こちらにカルが運ばれたと聞きましたの」

 部屋に入ってきたクラウディアさんは泣いていたみたいで、ジェイソンが動揺してる。

「クラウディア殿……」
「カル……大丈夫なの?」
「申し訳ない。カルがこんなことになったのは俺の責任です」
「いいえ、私が王城に連れてきたからですわ。ごめんなさい、カル」

 布団から顔を出すと、ベッドの近くまで来ていたクラウディアさんのかなり美しい泣き顔が見えた。

「まあっ、こんなに弱って……」
「ごめんなさい。クラウディアさん」

 クラウディアさんはそっと俺の手を握る。俺の位置からしか見えないけど、今までの泣き顔が少し真顔に変化した。頭の中に声が響く。

(けっこう痛めつけられたな。だがよく竜にならなかった。偉いぞ)
(もう少しで竜に戻るところだったよ)
(目を離して悪かったな。まさかこれほどはやく襲われるとは思わなかった。確認だが、お前を襲ったのはケネスだな)
(うん。魔道士の前で思いっきり息を吐いちゃった。でもヒースが言うには、俺がヒースの付き人だったから狙ったんだろうって)
(そうか。だが理由はどうでもいい。竜の一族を敵に回したことを相手にわからせてやらなければならないな)

 クラウディアさんの目に強い光が宿る。思わず背筋がゾクッと震えた。





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