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王族と竜
2 控室にて
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朝食のあと、ジェイソンが迎えにきた。ジェイソンも緊張した表情をしてる。
「いいですか、王子。くれぐれも慎重に行動してください。何かあれば私が命をかけてお守りしますが、私一人の力では最後まで守り通せるかわかりません」
「わかってる。皆を危険にはさらさない。挑発にも耐えるよ」
「申し訳ありません。私にもっと力があれば」
「ジェイソンは充分よくやってくれてる。ありがとう」
ジェイソンはそれ以上何も言わずにじっとヒースが準備するのを見守っていた。
目を閉じると扉の向こうに複数の兵士たちが集まってきているのがわかった。六人いて四人は兵士、残り二人は魔法使いかな。直後、扉を叩く音がする。
「誰か来たよ」
「お迎えみたいだな」
扉を開けると、チェックした通り兵士と魔法使いが待っていた。みんな顔色が悪いのに目がギラギラしてる。何か魔法にかけられてるのか、それとも薬でも飲まされてるのかな。
「ヒース王子、準備は整いましたか? 戴冠式への出席をお願いします」
「分かってる」
「部下の方はここに残られるか、控室に」
「私はヒース王子の護衛だ。式典の時にも付き添わせてもらう」
「俺も付き人だからくっついていく」
「なりません。ケネス王太子の命令です」
「俺は護衛兵としてヒース様をお守りする義務がある。そこをどけ」
先頭にいた兵士が剣の柄に手をかけて、その場が殺気立つ。
「ジェイソン、カル、一人で大丈夫だから控室にいてくれ」
「ジェイソン殿、そのような態度ではヒース王子に迷惑がかかりますよ」
「……」
「式典の間だけだから。行ってくるよ」
ヒースが兵士に挟まれるようにして大聖堂まで歩いていく。その背中をジェイソンと見送った。
「カル、お前はここにいろ。私が控室に行く」
「俺もついて行くよ」
「子供は足手まといだ」
「俺は若く見えるけど、俺の種族ではもう一人前なの。ジェイソンが思うより足手まといにはならないはずだよ」
「数日前に腹を刺されたばかりだろう。せっかく拾った命をここで落とす必要はない」
「お腹を刺されたくらいじゃ死なないよ。毒は厄介だけど、今回は飴玉を持ってきてるから」
「お前が何を言っているかさっぱりわからん」
ジェイソンは怒っていたけど、俺がついてくるのは止めなかった。控室は大聖堂の横にある小部屋で、聖堂に続く扉の前には兵士がいるからヒースがよく見えない。部屋も狭いし、ジェイソンと俺の他に誰もいない。
代わりに戴冠式のおこなわれる大聖堂には大勢の兵士や魔法使い、貴族たちがいた。これが全部ケネスの配下なのかな。ヒースは祭壇近くの前の方の席にいる。目を閉じて気配を探っても、エリオットの気配はよくわからない。いないのかも。ケネスと宮廷魔道士もまだ来てない。
「何かあればすぐに飛び出していってヒース様を助けるぞ」
「宮廷魔道士が攻撃してきたらどうするの?」
「それが厄介だ。あの男の魔法には誰もかなわない。うまく避けるしかない」
「ジェイソン、防御や回復魔法は?」
「その二つを使えるのはシエラ姫くらいだな。あとはみんなおまじない程度だ」
「分かった。何かあったら俺が助けるよ」
「カル、お前まさか魔法が使えるのか」
「内緒だけど竜なんだ」
「それが本当だったらどんなにいいか。五年前のように竜が盾になってくれたら、ヒース様も助けられる」
「あの時みたいなヘマはしないよ。もう角も生えたし」
ジェイソンさんが絶句して俺を見る。
ちょうどその時、大聖堂から音楽がもれ聞こえてきた。ケネスと宮廷魔道士の登場だ。いよいよ戴冠式が始まる。
「いいですか、王子。くれぐれも慎重に行動してください。何かあれば私が命をかけてお守りしますが、私一人の力では最後まで守り通せるかわかりません」
「わかってる。皆を危険にはさらさない。挑発にも耐えるよ」
「申し訳ありません。私にもっと力があれば」
「ジェイソンは充分よくやってくれてる。ありがとう」
ジェイソンはそれ以上何も言わずにじっとヒースが準備するのを見守っていた。
目を閉じると扉の向こうに複数の兵士たちが集まってきているのがわかった。六人いて四人は兵士、残り二人は魔法使いかな。直後、扉を叩く音がする。
「誰か来たよ」
「お迎えみたいだな」
扉を開けると、チェックした通り兵士と魔法使いが待っていた。みんな顔色が悪いのに目がギラギラしてる。何か魔法にかけられてるのか、それとも薬でも飲まされてるのかな。
「ヒース王子、準備は整いましたか? 戴冠式への出席をお願いします」
「分かってる」
「部下の方はここに残られるか、控室に」
「私はヒース王子の護衛だ。式典の時にも付き添わせてもらう」
「俺も付き人だからくっついていく」
「なりません。ケネス王太子の命令です」
「俺は護衛兵としてヒース様をお守りする義務がある。そこをどけ」
先頭にいた兵士が剣の柄に手をかけて、その場が殺気立つ。
「ジェイソン、カル、一人で大丈夫だから控室にいてくれ」
「ジェイソン殿、そのような態度ではヒース王子に迷惑がかかりますよ」
「……」
「式典の間だけだから。行ってくるよ」
ヒースが兵士に挟まれるようにして大聖堂まで歩いていく。その背中をジェイソンと見送った。
「カル、お前はここにいろ。私が控室に行く」
「俺もついて行くよ」
「子供は足手まといだ」
「俺は若く見えるけど、俺の種族ではもう一人前なの。ジェイソンが思うより足手まといにはならないはずだよ」
「数日前に腹を刺されたばかりだろう。せっかく拾った命をここで落とす必要はない」
「お腹を刺されたくらいじゃ死なないよ。毒は厄介だけど、今回は飴玉を持ってきてるから」
「お前が何を言っているかさっぱりわからん」
ジェイソンは怒っていたけど、俺がついてくるのは止めなかった。控室は大聖堂の横にある小部屋で、聖堂に続く扉の前には兵士がいるからヒースがよく見えない。部屋も狭いし、ジェイソンと俺の他に誰もいない。
代わりに戴冠式のおこなわれる大聖堂には大勢の兵士や魔法使い、貴族たちがいた。これが全部ケネスの配下なのかな。ヒースは祭壇近くの前の方の席にいる。目を閉じて気配を探っても、エリオットの気配はよくわからない。いないのかも。ケネスと宮廷魔道士もまだ来てない。
「何かあればすぐに飛び出していってヒース様を助けるぞ」
「宮廷魔道士が攻撃してきたらどうするの?」
「それが厄介だ。あの男の魔法には誰もかなわない。うまく避けるしかない」
「ジェイソン、防御や回復魔法は?」
「その二つを使えるのはシエラ姫くらいだな。あとはみんなおまじない程度だ」
「分かった。何かあったら俺が助けるよ」
「カル、お前まさか魔法が使えるのか」
「内緒だけど竜なんだ」
「それが本当だったらどんなにいいか。五年前のように竜が盾になってくれたら、ヒース様も助けられる」
「あの時みたいなヘマはしないよ。もう角も生えたし」
ジェイソンさんが絶句して俺を見る。
ちょうどその時、大聖堂から音楽がもれ聞こえてきた。ケネスと宮廷魔道士の登場だ。いよいよ戴冠式が始まる。
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