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エピローグ
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しおりを挟む鏡を見ながら表情を取り繕っていると、扉がノックされて本物の可愛い姫君が部屋に入ってきた。桃色のドレスを着ていて部屋が華やかになる。
「シエラ!」
「カル、久しぶりね。会いたかった!」
「俺も。来てくれたんだね」
シエラと抱き合って再会を喜ぶと、シエラは少し離れて俺をまじまじと見た。
「カル、本当に女の子に見えるわ。とっても可愛いわよ」
「変じゃないかな」
「お兄様はカルが男でも女でも竜の姿でも大好きだと思うわ」
「そうかな」
「種族も性別も超えた恋なんて、素敵ね……」
「あ、ありがとう……」
今でもヒースと結婚式をあげるなんて信じられない。ヒースは俺を大事にしてくれたけど、いつか顔も知らない相手と結婚しなきゃならないってずっと言ってたから。
「盛り上がっているところ悪いが、そろそろ移動するか?」
「うん」
「カル、また式の時に会いましょうね。ヒースお兄様と会場で待ってるわ」
シエラと別れたあと、頭からベールを被り、マントを羽織って部屋を出る。クラウスと部屋の外に控えていたウィルと一緒にお城の地下へ。ヒースのお城に昔から作られていた避難通路を使って近くの森へと移動した。
森の中にはテントがはられ、華やかな馬車と、着飾った従者たちが待っていた。この人たちは全員クラウスの商売仲間って話だけど、何人か竜も混ざってると思う。感じる魔力が人間と違う。
「今日一日よろしく!」
「こちらこそ」
「姫君らしく見えますな」
「おい喋るな、声は低いんだからな」
「分かってるよ」
みんなに挨拶をしていると、テントのそばに立っているジークおじさんが見えた。
「おじさん! 来てくれてありがとう」
おじさんが黙ったまま顔をそむけるので、人間と結婚する俺を怒っているのかと思ったら、クラウスが笑いながらジークさんをつついた。二人が人間姿で並ぶのを見たのは初めてだ。クラウスの方が若く見えるけど、実年齢はぜんぜん違うんだよな。
「ジークもすっかりオヤジの顔になったな」
「ジークさんどうしたの?」
「お前が結婚するのが寂しくて仕方ないんだよ。分かるぜ。人間の姿だと涙もろくなる」
「おじさん……ごめんね。でもおじさんとはずっと家族だから」
ぎゅっと抱きしめてそう言うと、ジークさんも大きな手で俺の背中を撫でてくれた。
「カル、幸せになれ。辛かったらいつでも帰ってこい」
「うん」
ヒースの領地では結婚式に先行してお祭りが始まっているみたいで、町から音楽や歓声が聞こえて来る。お祭りは式が終わった後も夜通し続くみたいだ。
時間になったので馬車でヒースの領地に向かう。小さな町は花で飾り付けられ、少数部族の姫君を迎え入れる万全の体制がとられていた。領地のみんなが本当に部族の姫君が来ると思っているのかは分からないけど、『ようこそ』という看板もあちこちに見える。
複数の馬車で町の通りを進み、小さなお城の門をくぐって馬車から降りた。中庭にはテーブルと料理が並べられ、式に参列してくれた人たちがたくさん待っている。参列者の歓声と拍手の中、楽師たちが太鼓や笛を鳴らす。
正装したヒースが馬車までゆっくり歩いてきた。白銀の髪がキラキラ輝いて、生まれて初めて見た時と同じくらいの衝撃的なかっこよさで目眩がしそうだ。
「姫君、私の城へようこそ」
差し出された手を取ると、俺にしか聞こえない小さな声で
「カル、似合ってるよ」
と言ってくれた。
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