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揺れる、止まる、心
しおりを挟む青空の下、僕はいつもの公園でブランコを軽くこぎながら待っていた。ぬるい風を頬に感じながら、雑草とか木の葉っぱが少しずつ夏に向かって緑色を強くしているのを眺めている。
昨日の夜、風呂上りのアイスをかじりながらテレビを見ていると電話が鳴った。家族は僕の次に風呂に入っていたり、それぞれの時間を過ごしていたりで誰も周りにいなかったので渋々僕が受話器を取った。
「・・・ゴクッ。はい、松山です」
「もしもし、夜分に失礼します。俊平君のクラスメイトの都築眞衣ですが、俊」
「マイっ!?」
受話器の向こうから聞こえた声の主がマイだと認識した瞬間、素っ頓狂な声を出してしまった。今日の夕方、さっきまで一緒に遊んでいたのに何だろう。いや、さっきの変な声を聴かれてしまった。さらには話をさえぎってしまう形になり、色々と恥ずかしい気持ちが込み上げた。
「その声はシュンちゃんかな?ンフフフ…そんなにびっくりしなくてもいいじゃない」
応答したのが僕と分かるとマイは意地悪な声で僕を追い詰めてくる。でもその感覚は嫌なものではない。普段から仲良く過ごしている時間の積み重ねによって、こんなマイとのやり取りが心地よく思えるようになったのだろう。
何より、電話で話すというのは何だかとても特別なことをしているような気にさせる。なんせ会話と違って電話はかける相手をちゃんと選んで、その上でやっと話せるようになるのだ。つまり今この瞬間だけは、僕はマイに選ばれたたった一人の会話相手なのだ。
「いや、問題ないべや…なんか用事さ、あるべか」
必死に心を落ち着けて、返事をする。食べ終えたアイスの棒をゴミ箱に放り投げた。
「シュンちゃんが予定なければ、明日またみんなで一緒に遊ぼうよ」
アイスの棒がゴミ箱のふちにカンッと当たって床に落ちた。ああ、なるほど。明日は土曜日だしね。みんなで、ね。変なところに引っかかってしまうものの、マイからのお誘いというのはどんな形でも嬉しい。
「ええよ。じゃあ今日と同じで公園さ集まんべ」
「よかったー。じゃあ明日10時に集合ね。シロとユキには私から電話しておくから。」
ガチャ――――
というようなやり取りが昨夜あり、今に至るのだ。公園の大時計を見るともうすぐ10時になろうとしている。僕はなぜか気がはやって三十分も前に着いてしまったが、まだ誰も来ない。そもそも前日の夕方までずっと遊んでたんだから、その時誘えばよかったのに。しっかり者のマイでも、突発的に遊びたくなって誘うこともあるんだな。
それにしてもよく晴れている。ひこうき雲が青い空に真っ直ぐ伸びているのがよく見えた。そんな空に近づくかのように前に振れるブランコ。足を真っ直ぐ上に伸ばしてみる。ゆっくりと後ろに戻る体。
「おまた、せっ!」
突如背後から声がしたかと思えば、背中にそっと暖かさを感じた。そしてすぐ前にまた押し出された。
「ええっ!?マイ!?」
とっさに首だけ後ろを向いて確認すると、そこにいたのは間違いなくマイだった。普段大きな目が、細く見えなくなるぐらいニコニコ笑いながら両手をこちらに伸ばしている。
「アハハハ!前向いてないとっ危ない、よっと!」
マイの手のひらが僕の背中に触れ、暖かさを残す間もなくまた僕を押し出す。この繰り返しを他の人が見たら一体どう思うだろうか。強い理性の抵抗を感じながらも、背後で近くなったり遠くなったりするマイの声や存在にドキドキとする鼓動。いや、急にこんな状況になったから驚いているだけだ!
「誰か見てるかもしんねからっ、やめべっ!」
背中を押されるたびに上ずる声が情けない。しかし瞬間に触れるマイの手の暖かさを待っている自分がいる。
「そうれっ!・・・ほりゃっ!・・・まだまだっ!アハハハ!」
触れられるたびに耳元で聞こえるマイの涼んだ声に耐え切れなくなって、体が戻った時を見計らって足を地面にズザザっと踏ん張りブランコを止めた。でもマイはまだ僕の背中に手を置いた。もう一度押し出すべく力を込めているのが背中越しに分かった。
「もうええべ、あんがとあんがと」
前を向いたまま少し早口でそう伝える。もういい加減手を放してくれ。
「フフフ。シュンちゃん意外と重いんだね。ビックリ」
「そんなことねぇべや!これでも、」
デブだと思われてはたまらないと、何かしら弁解するべく僕はまんまと振り向いた。そこには白いワンピースに青いスニーカー、頭にはベースボールキャプを被り髪をポニーテールに束ねたマイが立っていた。手のひらが届くほど密着した距離で。
息が止まるほど、その姿は不思議な魅力をもっていた。いつも一緒にいるはずなのに今日のマイは特別な気がした。刹那、目が合う。僕は何も言葉を持たないかのように黙って視線を外せずにいる。フッと笑ってマイが背中から手を離した。そのまま僕の正面に来てその両手を合わせる。
「ちょっと遅くなってごめんね。とりあえずベンチに座ろっか」
やっと息を吸えた気がした。ベンチに向かって歩きだすマイの背中を今度は僕が見る。ちらりと公園の大時計を見ると10時3分を指していた。
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