1 / 1
天魔戦争:弱小悪魔武勇伝
しおりを挟む
「おいチビ!お前ちゃんと武器持ったのか?ただの肉壁で終わりたいんならそれはそれで構わねぇが、少しは生き延びるとか出世するとか考えてんなら武器を取った方がいいぞ!」
「あ、はい!今貰ってきます!」
そう先輩に答えながら僕は軍の後方、武器生産隊の方へと走り出す。
こんなんじゃあ絶対に現世に戻って当たり前な人間との契約と人生、いや、悪魔生が謳歌出来ない。
この調子で戦っても所詮平天使に瞬殺されて終わりだろう。
いや、もしかしたら天使ですらない最下級の犬型天獣に噛み殺されて終わるかもしれない。
もう少し勇気を出さないとなぁ、と溜め息をつかずにはいられなかった。
しかも仮にも悪魔神の中でも獰猛で好戦的と言われている暴食の眷属だもんなぁ。
周りの新人悪魔仲間にもう人間みたいだなんて言われないように考え方を変えなくちゃな!
いつもと同じように内心自分の生き方に改革を造ろうと覚悟を決め、そして次の瞬間の自分にヘコみながらも、僕は軍隊の隊列の間を走り抜けて行った。
*****
今世界は戦火に包まれている。
創世神が森羅万象を生み出し、初めに天使が創られた。
天使が出現し、当然それらの大半は偉大なる絶対神に忠誠を誓っていた。
しかし、その中から、神に敵対し、堕落する者が現れた。
その最初の七柱の大天使が、堕落し、悪魔神と成った。
それぞれが大罪を司り、眷属を創造し、いずれ創世神に反逆すべく勢力を拡大していった。
そして、そんな邪悪な悪魔達を横に、遂に神が世界に干渉していた悪魔達へと総攻撃を仕掛ける事にし、それに対抗する為、悪魔達も軍勢を整えた。
七大罪を冠する悪魔神が引き連れる大軍と創世神が召喚した天使の軍勢が次元の狭間にて対峙する。
そんな中、僕は暴食の悪魔の眷属として戦争に参戦している。
要するに暴食の悪魔神様の喰った栄養から分体みたいな感じで造られた雑兵だ。
しかも僕はこの戦争の準備の為に新しく創造された眷属だから他の古参の眷属達のように獲物を喰らって力をつける事すら無く、ただ単に肉壁として軍の兵数を水増ししたようなモノになる。
まぁ、そうやって生まれた訳だし、特に不満も無いけど、腹は減った。
仮にも暴食と名のつく悪魔だ。
例え下級悪魔だとしても、暴食としての最低限の能力は合わせ持っている。
故に、戦闘前から空腹に陥ってる訳だが、まぁ、それは置いとこう。
僕ら暴食の悪魔はその名の通り、喰らう。
ひたすら喰らう。
僕ら下級悪魔の権能は一つだけ。
ーーー摂食。
口を自分の身体と同じ大きさに開き、対象を喰らえる。
最も、この権能の対象に出来るのはあくまで自分と体積が同一であり、自分より力が弱い、もしくは弱ってる相手だけだ。
だから、そもそもの身体が人間の五歳児程しか無い僕ら下級悪魔な成長の機会は殆ど訪れない。
それ故に下級悪魔は大半が進化せずに死ぬ。
中でも一握りしか上の階級へと進化出来ない。
その途轍も無く狭い可能性を生き残る悪魔は少数であり、しかも一つ上の中級悪魔に進化するには体の大きさが凡そ元の姿の十倍程にならないといけない。
しかし身体がデカくなるとそれはそれで不都合があったりするので、体を圧縮して小さくなる奴もいる。
つまり体の大きさではなく、元の身体の十倍になれるだけの魂を喰らえば中級悪魔に進化出来るということだ。
まぁ、この大戦でそれだけの成果を上げる事が出来ればの話だが。
と、そんな事を今更ながら頭の中で復習していたら軍の後方支援部隊、武器生産隊の所に着いた。
この悪魔達は武器を摂食し、それを覚えて他の物を喰いながら同じ物を量産する。
体内で万物の素とも言える魔素子まで分解してから武器に作り直すのだから圧倒的の一言だ。
「すみません!武器は何処に置いてあるのでしょうか!」
「それならあっちの方から好きなの取ってこい!もうそろそろ出陣だから急いだ方がいいぞ!」
「ありがとうございます!」
意外と親切な悪魔で助かった。
基本的には僕みたいな下級悪魔は見下され相手にされないか、もしくはおざなりに追い払われるだけ。
しかし今は少しでも使える戦力が欲しいのだろう。
僕は多分、殆どの奴らみたいに上級天使の殲滅攻撃に瞬殺されると思うけど、そこはやはり意地でも生き残って強くならなくちゃな!
心の内で感謝しながらも、僕は武器の置いてある方角へと走って行く。
そして、思ったより近くにあった武器保管所に着くと、適当な剣を取る。
僕はあんまり武器の扱いを知らないが、万が一天使と一騎打ちになれば、彼等の正装備の剣と対等に打ち合えるかもしれない。
下手な武器を取るよりかはマシだ、と、そう自分を納得させながら、僕は元の持ち場の最前線へと駆け戻っていく。
*****
天から流れ出す美麗な歌声が奏でられたと思いきや、それに反抗するように遠い背後の悪魔達の操る楽器から出る重低音が鳴り響く。
そんな轟音に大気が震撼し、胸の奥で振動が自分の戦闘本能を刺激し、鼓舞する。
それを全軍が同様に感受すると、応えるべく悪魔軍総員が雄叫びを上げる。
僕、そして地獄の軍勢の正面に降臨するは創世神に従う天使の大軍だ。
後方の雄叫び、前方の協奏曲に挟まれ、僕を含む下級悪魔の群れはただ震えるしかない。
両軍の戦意が轟く次元の狭間に、遂に開戦の合図が鳴り響く。
「行けーーーーーっ!」
悪魔神、その中でも最強と名高い傲慢の悪魔様が叫ぶと、それに呼応するように悪魔達が吠えながら走り出す。
先頭の方にいる僕は全力疾走でもしなければ後続に踏み潰される。
文字通り。
そういう訳で軍の先端、斥候のような立場にある下級悪魔達は先ず後ろから迫って来る中級や上級悪魔達から逃げ延びねばならない!
戦争の最初の敵が自軍の味方、それも上司や先輩に当たる人達だと思うと、正直面白くない。
第一の死因が先輩に踏み潰されて死亡、等では笑えない。
だから、必死に身体を動かし、前方遠くに構える白い天使の軍勢に突撃する。
そんな全力の逃走の間に思考に耽っていると、いつの間にか目の前に白い番犬が出現した。
既にこの空間内は乱戦になりつつあるが、何せ次元の狭間だ。
ある程度出陣から移動したら、軍は散らばる。
元々悪魔は団体行動に向いてないし、好まない。
だから、今、周りには最早眼前の犬型天獣しかいない。
しかも、気付いたら悪魔達は遥か右の方角でせめぎ合っていた。
最初に望んだ通りの敵軍最弱の獣との一騎打ちな訳だが、果たして上手く倒せるか。
「グゥ~~~」
うーん、威嚇してきている感じはするけどー、そんなに強くないのか、もしくは心の内でもう負けて死ぬのを認めちゃっているからなのか、全然怖くない。
取り敢えず、近付いて剣で斬るぐらいしか攻撃方法がない。
これは困る。
出来れば襲いかかって来られる方がやりやすいんだけどなー。
等と頭の中で色々言い訳していたらなんか吠えて走って来た。
よし。
犬が知能でも低いのか、愚直に突っ込んできた。
これなら普通に倒せそうだ。
幸い、本軍は距離あるし、他の天使に狙われたり、大規模な魔法に巻き込まれる事はないだろう。
この相手に集中出来る。
そうして犬との距離が縮まっていくと、犬が飛び上がり、僕の顔の方へと飛びかかってきた。
その真っ直ぐな攻撃を少し横に身体を傾けて回避する。
そして犬の射線上に剣を置き、踏ん張る。
力を込めると同時に目を塞いだから見なかったが、急に腕に物凄い衝撃が伝わり、そして、何かを斬り通す感覚が解った。
そして構えていた腕に温かい液体がかかり、目を開く。
腕が真っ赤に染まっていたが、そんなに気にする程腕が無残な状態になった訳でもなかったので、代わりに犬が着地したであろう地点へと顔を回す。
そこには赤く濡れた犬の死体があったが、まぁ、仮にも天使なので、直ぐ天に召されて消えるだろう。
その前に肉体を取り込まなくてはならないので、自分の奥に眠る鼓動を探る。
魂の根源から呼び起こすような波動を送り、その権能が胸の奥から、身体を登り、湧出する。
ーーー『摂食』
口が大きく裂け、歯が剥き出しになり、膨張する。
それは正面の犬目掛けて蠢く。
気付くと、いつの間にか正面にはただの地面しか残っていなかった。
そして、目線が少しばかり高くなっていた。
喰った。
味は分からなかった。
初めてだったから味を堪能する事は敵わなかったのだろう。
所詮、そんな物だ。
次の獲物はもう少し味わってみたいけど。
そう思い残しながら僕は他にはぐれの最下級天使を、獲物を探しに走り出した。
*****
混沌と化した戦場は未だ決着が見えて来ない。
闇魔法と光魔法がぶつかり合い、一瞬にして大量の命が燃やされていく。
消滅していくのはやはり下級の悪魔や天使だったが、ある伝令が悪魔特有の波長の念話越しに届き、悪魔の軍勢の士気が目に見えて落ちた。
ーーー悪魔神の一柱、色欲が倒された。
しかし、相手方はまだ余裕を持って動いているようにしか見えない。
最大戦力の一角を落とされ、僕らは今大の窮地に陥った。
特に色欲の眷属は司令官がいなくなって相当混乱しているだろう。
まぁ、こっちにはそんなに関係無いし、元々協力している仲間というよりかは敵の敵は仲間みたいな関係なので、戦力がこっちに回ってきてしまう、程度にしか感じないのは悪魔の習性だ。
だがしかし、動揺しないという訳でもない。
僕は割とこういうの堪える方である。
でも戦場で同胞が死んだ位で凹んでるようじゃ即死だ。
勿論一旦記憶の隅に追いやって敵に集中する事は忘れない。
混戦の中、次の獲物を探す。
白黒入り乱れて判別し辛いが、幸いにもこちらに・・・・・・不幸にも、かな?
下級天使が飛んで来た。
ヤバイ。
僕はまだ最下級天使の犬型天獣、そして何個か同胞の死体を喰らっただけである。
そんな僕に僕と同等、いや、中級への進化間際な天使が向かって来るとー、流石にキツイ。
取り敢えず、前向きに!
考えて、倒す!
天使が翼を広げ純白の聖光を纏ながら僕目掛けて一直線に飛来する。
僕の間合いギリギリの所まで来たら、天使が剣を振りかぶり、上段から攻撃してくる。
それを自分の剣で弾くべく、剣を振った。
ゲッ!
あ、アイツの剣が僕のを素通りしやがった!
危うく肩を切り落とされる所だった。
距離を取らないと。
後ろに飛び、天使から目を離さない。
天使が剣を持ち上げ、再度突撃してくる。
これは防御出来っこない。
出来れば回り込んで一発撃ち込みたいが、出来るか微妙だ。
そもそも自分の動体視力と反射神経には自信が・・・・・・いや、自信を持たないと!
天使が左上から斜めに剣を振り下ろす。
それを辛うじて左に避けて回避しながら、飛行の勢いのままに動き続ける天使の横腹に一撃拳を叩き込む。
なんか打撃を放つ右手が醜悪な肉塊のような蠢き方で膨張し、天使の横っ腹よりもデカ・・・・・・というか普通に天使の身体自体よりもデカくなって轟音を伴って吹っ飛ばした。
あ~なんかグロかったな。
ていうか何今の!?
腕が勝手に膨れ上がって天使を殴り飛ばしたし!
何故に!?
悪魔の能力・・・・・・?
いや、でも最初は出来なかったのに・・・・・・。
でも殴打の瞬間、腕と拳が肥大化した瞬間だけ視線が下がったから、質量を腕に寄せたのか?
元は小さ過ぎて出来なかったからわからなかったのか?
・・・・・・まぁいっか!
使える技があるってんなら利用する!
というか早く天使の残骸を喰わないと!
『摂食』
よし!
これでそろそろ力も付いてきたかな!
因みに、権能を使った際、口を開いた時に先程避け損ねたらしい天使の斬撃で受けた鼻の傷から血が噴き出したのは余談である。
*****
さっき相手した天使ほど強い下級はそう見つからず、下級天使だけを積極的に狙って行ったら格下ばかりで余裕で進化要求値まで魂を喰らう事が出来た。
「さて、じゃあ進化しますか!」
僕は今下級天使を大軍の衝突範囲からおびきだし、喰らいまくった。
そして、今また本軍から距離を取り、進化する。
中級に進化する為の進化中の隙に攻撃されたらたまったもんじゃない。
進化中は一時的に硬直するから格上に来られた瞬間に潰される。
故に離れた所で安全確認をしてから進化する。
自分の中で喰らった魂を感じ、それを身体に融合するような感覚で胸の奥の内部を活性化させる。
すると燃えるような灼熱が発生し、自分の身体が蠢く。
身体が変質していく感覚を味わい、力が増大する。
そして、気付いた時にはーー終わっていた。
身体中から暴力的な熱が溢れ、力が廻るのを感じる。
それに順応し、悪魔としての本能が狂乱を欲する。
ーーー戦いたい。
ただ、純粋に、命の奪い合いが恋しい。
今直ぐにでも戦場へ駆け戻り、敵を蹂躙し尽くしたい。
いや、駄目だ。
戦場で暴れ回ろうなんてするものなら上級天使達に瞬殺される。
先ずはさっきと同じように同格の、もしくは下級の天使を狩りまくるしかない。
魂の質を取るか、量を取るか。
愚問だ。
悪魔に選択肢等無い。
両方取る。
だから戦場に向かって走る。
幸いにも上級や最上級の天使達や悪魔は戦場の中央付近に固まっている。
両軍の激突の端に居ればそうそう格上と遭遇はしない筈だ。
そう考えながら僕は新しい身体に馴染みながら狩りを続行しに闇と光の交差する戦線へと駆けて行った。
*****
まぁ、そうして安全に上級への進化を目指そうと思ってた訳でした。
「そこの悪魔!逃がさないぞ!」
「ヒィィィィ!」
拝啓、故郷の皆(故郷も無いし家族みたいな奴は皆一緒に戦争してるけど)、
僕は今、絶賛逃走中です。
下級と中級を狩ろうかなと思って不用意に乱戦に飛び込んで行ったら突如と現れた上級に目をつけられました。
何故でしょう。
そういう訳で殺されそうなので全力疾走しています。
因みに逃げながらも弱った下級や死んだばかりの天使を喰らいながら回復もしています。
僕が先に逃げ切るか、体力尽きて狩られるか、追いつかれて狩られるか、ぐらいしか僕に未来は無さそうです。
上級に進化して対抗しようにも進化中に殺されます。
どうしましょう。
戦闘してない上級悪魔の先輩に押し付ける事も出来ないし、死ぬ。
「悪魔め!待て!」
「嫌ーーー!」
倒す?
そんな方法僕にあるとでも?
理由も分からず圧倒的な強者に追いかけられ、唯一逃げ続けられている理由が混戦の中をちょこちょこ障害物競争している奴に上級の天使と戦えと?
例え天地がひっくり返っても・・・・・・いや、天地がひっくり返ったら地獄の悪魔達の方が強くなるから勝てる?
いやいやいや!
こんな雑念で真剣に議論するんじゃない!
逃げないと!
本気で滅殺される!
「何で僕を執拗に追いかけ回すんですかーーー!?」
「悪魔の戯言に耳を貸すのは天界法で禁じられているのを知らんのか!この外道な暴食の眷属め!成長する前に叩き潰してくれる!」
あ、そういうことね。
丁寧に答えてくださりありがとうございます。
・・・・・・暴食だからか!
潜在能力だけなら確かに一番の危険分子かもしれないけどさ!?
だからって弱いものいじめはどうかと思うのですよ!
僕まだ中級なったばっかなんですが!
応戦する事すら叶わない僕にわざわざ追いかけて来なくても殲滅魔法でやっちゃってくださいません!?
せめてタイマンで追走されてから嬲り殺されるよりも気付いたら殲滅魔法で一帯毎死んじゃったの方が心を休ませるんで!
見逃すか瞬殺するかしてくれません!?
必死で逃げて生き残るよりかは瞬きの間に昇天してたって方が楽ですわ!
僕の奔走も最終的には無駄になるじゃないですか!
それならさっさとやっちゃってくださいよ!
自分、脚だけは止まらないんで!
「この手で直々に引導を渡してやる!逃げるのをやめろ!」
この後に及んで手ずから殺すのに拘りますかね!?
脚を止められないこっちも悪いけど!
こうなったら抗戦してやろうじゃないか!
どうせ逃げるのは死体漁りで永遠に続くからそれならさっさと戦って華々しく散ってやろうじゃないの!
こっから挽回行くよー!
「逃走はやめてやろう!だが、ただで殺させるとは思うなよ!?」
「・・・・・・君、その勇気は辛うじて認めてやらないでもないが、せめてその脚の震えはどうにかした方がいいと思う」
勿論、自分の視界が脚に合わせて不安定なのは重々承知してる。
でも、そこは僕の勇気を素直に認めて欲しかったかな!
「さあ、観念しろ悪魔め!直々に殺して昇天させてやろう!」
「し、昇天料高くつくからな!」
その言葉を合図に、上級天使が肉薄して来た。
というか瞬きしたら目の前に居たんですけど!
ありえないでしょ!
咄嗟に本能的な自己防衛で殴られた腹部を強化したけどさ!?
あ、抗いようがない。
「こんなものか?悪魔よ!いや、暴食の卵にしては持った方か?」
「た、卵で悪かったな!まだ半熟だから!」
「孵る事ないぞそれでは!焼くな!」
断罪の間際に何故か上級天使とコントをやってしまった。
「とにかく、お前が一撃を耐えたとは・・・・・・な、その醜悪な傷口は・・・・・・!さてはお前、特殊個体か!」
「は?なんで?」
「その変貌、身体の質量を任意に移動する権能は中級悪魔以上でなければ使えぬ筈だ!」
「あー、僕も一応中級ですが?」
「な!?嘘だろう!?その大きさは進化直後ならまだしも、感じる魔力が小さ過ぎる!しかも逃走中に死体を喰いまくってたではないか!大きさも異常だ!何故成長しない!これ程チビの中級悪魔は見たことない!」
「チビで悪かったな!どうせ僕は燃費が悪いんでしょう!僕を始末したいんならさっさとやっちゃったらどうです!?」
「なら遠慮なく本気で倒してやろう!今度は仕留める!」
そう言いながら天使が飛来する。
速すぎん!?
瞬きしないようにはしたけど一瞬で距離が無いんですが!
瞬間全力で身体の質量を壁状にして正面に練りあげる。
なるべく攻撃を飲み込むべく分厚く出してみたけど、感触的には上手く防ぎ切れたというか、ぶっちゃけこれあとコンマ一秒展開遅かったら貫通されてた!
あっぶね!
「これをも止めるか!なら、これで!」
「なめるな!」
正面に展開した文字通りの肉壁から純白の閃光が漏れ出る。
それが改めて壁を貫通する刹那、横に回避し、回り込む。
前方へ突進を続ける天使の裏に移動すると、
「『摂食』!!!」
・・・・・・不味ッ!
天使の脚だけ喰うとかどんな結果想像してたんだよ自分!
普通にクソ不味い上にグロい!
いや、天使の腰の所からは白い光が漏れ出てるだけだけど。
「ぐっ、貴様!脚を!」
「ご馳走様でした!不味かったです!」
「チィッ!」
未だ僕の脇腹から繋がっている肉壁は敵を覆っている。
「残念僕の勝ち!というかもう少し頭使えないの天使さん!」
「くっ!それは知恵の天使が行使するものだ!我は正義の天使だ!」
「そうですか!そういや大天使って代替わりでもしたの?」
「堕落した悪魔達と同列に語るなよ!今はきちんと七元徳を司る大天使達がいる!」
「あっそ。取り敢えず僕は君が回復するのも怖いので、喰わせてもらいます!では!」
「こんな事をして生きて帰れると思うなよ!」
「帰れなくなるも何も、もう天使結構喰らったから今更アンタ喰っても何も変わりません!では!『摂食』」
「なっ!あ、ぁーーー」
危ない!
これ以上喋ってたら反撃されてたわ!
ていうかヤバッ!
上級天使から得られる力が半端ない!
ていうか普通に進化出来る気がする!
進化しましょー!
*****
戦場の中心、天魔戦争と呼ばれるこの戦のグラウンドゼロにて。
「お前ぇぇらぁぁ、ホントヤな奴らだなぁ!」
「そんな事をお前らに言われる筋合いはない。お前らの戯言に耳を貸すのも本来禁じられている」
「少しぐらい自由に暮らしたっていいじゃねぇか!地獄に引き篭もってるのに攻撃仕掛けられるって聞いて戦わされて、面倒ったらこの上ない!お前らの世界に干渉すらしてないのに無条件で滅ぼされる俺達の身にもなってみろ!俺も俺の眷属も何もしてないのに、存在だけで大人しく死ねとか筋が通ってねぇのはお前らじゃねぇか!俺達だけでも見逃せよ!」
「お前とお前の眷属の怠惰には世界に干渉せずとも概念その物を創り出すだろう。それに黙して見逃す等せぬ!」
「その概念がそもそもお前らの世界の干渉しないから漏れ出てねぇだろうが!」
「悪魔は存在そのものが万死に値する!覚悟せよ!」
「あ"ぁシャラくせぇ!」
そうして既に戦闘開始はしていたが一時休戦していた怠惰の悪魔神、そして節制の大天使の戦闘が再開する。
ーーーと思われた。
漆黒が視界の端を覆い始めたと思った次の瞬間、膨大な質量が戦闘の場に雪崩込み、大天使を貪り尽くした。
「・・・・・・!こりゃあ凄ぇ進化遂げた奴がいたもんだなぁ!暴食の量産兵も侮れねぇ!」
と、大天使の悲惨な最期を見届けた怠惰が歓喜の声を呟いたのだった。
*****
進化した。
なんか身体の中を唸る力の奔流が体内異常気象を生み出している気がする。
ていうか凄い!
大出世だ!
まさかの上級悪魔だよ!同胞の中でも選りすぐりの天才達しかなれない存在になっちゃったよ!
エヘヘぇ~!
これで戦場の大半の命を容易く蹂躙出来るレベルだ!
では腹を満たして行きましょ~っ!
そして僕は戦場に向かい、下級や中級を喰らい尽くすべく、戦闘範囲の中を駆け回り、暴れ回った。
ーーー結果、なんか今度は最上級天使に目をつけられた。
・・・・・・テヘッ!
*****
「何故に毎回ちょっと調子に乗る度に格上に狙われるんでしょうか!」
「それは天使達の全体的な作戦として自分の一つ格下を集中的に相手するように指示されているからです」
「説明ありがとう!」
なるほどね!?
それで毎回化け物に狙われるんか!
というかズルいなそれ!
下から全滅させて最終的に上の奴倒すとか、食物連鎖崩壊させようとしてんのか兵糧攻めしてんのか分からんけど面倒だな!
「貴方方を殲滅する為、貴方を殺します」
「無慈悲!」
「慈悲の天使じゃありませんから」
「そこは天使共通の観念にしようよ!?」
話が通じない!
「貴方の戦略は見えています。大人しく消滅してください」
「それに素直に従う人います!?というか悪魔に人権みたいなのない訳!?」
「悪魔を信仰する人間もいるそうですが、それは信仰の天使の管理下です。私が口出しするものではありません。悪魔を認める必要等、創世神様が無いと仰せたから無いのです」
和解不可能か!
実力で最上級倒せる訳じゃないし、多分こいつ知識の天使っぽいから戦術とか意味なさげ!
どうしよう!
純粋な暴力でしか倒しようが無い!
小細工で倒す可能性無いし、最上級ともなると長生きで戦略戦術知り尽くしてる!
まともに戦える相手じゃない!
・・・・・・こうなっては最終手段だ!
出来ればやりたくなかったけど、やるしかない!
「こっちだ!」
取り敢えず逃げる事だけはなんとかイケる!
戦闘は技術で叩きのめされるだけだけど、知恵の天使だけあって戦闘能力は標準だ!
スピードだけならギリ追いつかれない!
これで作戦決行現場におびき寄せる!
「何処へ逃走するつもりですか?貴方に逃げ場は無い。私の速度で追いつく事は出来ずとも、そちらが力果てるまで追いかける事は可能です」
「それはどうかな!」
「・・・・・・?」
逃げる。
そして幾許かの時間逃げ続けると、そこには計算通り、悪魔神、傲慢がいた。
その裏を素早く回って物陰に隠れると、丁度追跡していた最上級天使が飛んで来た。
「汝、我の眼前で何を飛び回っている」
「傲慢の悪魔ですね?貴方は私の殲滅対象に入ってないので用はありません。失礼」
傲慢から僕の魔力は自分と同色なので認識しにくい。
隠密を死ぬ気で頑張れば気付かれなくもない。
でも正反対の魔力を持つ天使が来たとなると、
「汝、我を無視するか?万死に値する」
「ぁ・・・・・・!」
白い飛沫が舞い、天使が落下する。
やっば!
瞬殺て!
何したか一切分からなかった!
流石悪魔神最強と言われる傲慢様。
機嫌を損ねるだけで殺されるという噂は本当だったっぽい。
おっと。
悪魔神様が移動するっぽい。
素早く進路上から離れる。
あっぶない!
見つかったら死罪どころじゃなかったな!
ていうか悪魔神様に天使けしかけてる時点で悪魔軍総勢で殺しに来てもおかしくないわ!
よし!
さっさと天使の亡骸だけ喰って退散しよっ!
『摂食』!
アカン。
これはアカン。
というか格上狩った(喰った)だけで進化まで行けるとかバランスおかしくない!?
いや、元々格上に挑んだら即死が当たり前か。
それにこれまでに格下を沢山喰ってるし。
それで充分溜まってたかな!
ではまた進化いきましょー!
ていうか絶対早すぎるよね!?
*****
進化完了ー!
て、んんん!?
なんか暴食ファザーの存在が知覚出来なくなった!
まさか死んだん?
マジで?
進化の間にどれぐらい時間経ったのよ!?
一応死ぬ気で死体の山の下に潜ってから進化したけど!
そんなに時間経ちました!?
・・・・・・ま、いっか!
どうせ見た所悪魔達超劣勢だし?
滅亡確定感あるね!
逃げよう!
いや、ここは死体を全部喰ってなるべく安全な範囲で自己強化して悪魔が全滅してから魔界に帰るべきか?
ま、取り敢えずここの全部喰いますか!
『摂食』
身体がデカくなり最強感溢れますね~!
とりま悪魔神様達は何処行った?
・・・・・・んな!
怠惰様以外全滅しとるやないですか!
違う!
死んだのと逃げたのがいる!
悪魔神達の気配探ってみると~、あ!
ほぼ全員魔界に帰ったり魔界に置いてきた眷属の身体乗っ取って復活してる!
ズルい!
でここの次元の狭間の戦力がゼロに等しい!
これ絶望感パないっスね!
取り敢えず周りをうろついている天使達狩りまくりますか!
*****
すげー、大天使がゴロゴロ飛び回ってんですけど!
何あれ異常だわ!
正に悪魔にとっての地獄絵図!
一応奴らの目を忍んで上級天使までは喰いまくったけど!
最上級も一体遭遇したけど増援呼ばれる前に必死で倒しました。
超危ないとこでした。
次の獲物はーーーん?
あっちにおられるは怠惰様では?
でなんか大天使と戦ってます?
と言っても怠惰様は火力に欠けるから防戦一方だけど。
チラホラいる下級悪魔や天使達と違って凄い圧力放ってぶつかり合ってる。
・・・・・・助太刀に行くか?
いや、でも、ここで助けに入るっつっても力足りずに余波で潰されたり・・・・・・でも怠惰様は一人最後まで頑張ってるんだから手伝いに!
・・・・・・というか戦うのが面倒臭いから結界に籠って追い払おうとしてるだけだな。
魔界に退散してないのも魔界門を開くのも転生するのも面倒だからな気がする。
いや、一応手助けには行くけどね?
*****
そして怠惰と節制の一騎打ちの場面へと戻る。
あれ?
喰っちゃった?
まさか丸ごと喰えるとは予想もしてなかったんだけど・・・・・・
腕一本行けりゃいいなと思ってたけどラッキー!
「おい!お前!」
ギクゥッ!
「は、はい、な、なんでございましょう怠惰を司ります悪魔神様?」
し、死ぬ!
無理無理無理無理無理!
悪魔神様と会話とか無理ヤダ絶対!
獲物横取りしちゃった殺される!
口調おかしくなってしまった!
「よくやった!お前暴食の野郎の眷属だな?」
「はははははい暴食の眷属でござりまする?」
「丁度良い!暴食の野郎は大天使の総攻撃に合って死んだからな!お前に一緒に戦って貰お・・・・・・あ」
「な、なんでしょう悪魔神様?」
「すまん、やっぱ今の話ナシだ。魔界の誰かに召喚された。お前も頑張って生還しろよ!」
「は、はい!い?」
怠惰様が消えた!
詰んだ戦力ゼロじゃんか!
悪魔神と一緒なら生存出来ると思ったのに!
逃げよう!
「節制が感じられなくなったと思ったら、こんな所に暴食の眷属がいる!」
うっそん。
大天使来ちゃった。
しかもなんか六人いない?
もしかして全員勢揃いだったり?
一人しか喋らんが。
「我は知恵の大天使なり」
「我は正義」
「同じく勇気」
「信仰」
「希望」
「慈悲」
死んだ!
我、ここに死す!
世界の終わり、八方塞がり四面楚歌!
詰みだ!
「こ、ここは僕が魔界に一生引き籠って世界に干渉しないという条件で見逃して貰えたりしませんかね?」
「我等が同胞を喰らった罪、許される事は無し」
うん!
死ぬ!
逃げ切る事は絶対不可能!
死亡不可避!
抗戦無意味!
死ぬ!
こうなったらヤケクソだ!
徹底抗戦死ぬ気でやれば何でも出来る!
「ウラァァァ!」
「愚の骨頂」
天使の光線が放たれ、眼前へ迫る。
すんでのところで避け、横から天使の光線を撃ち返す。
こちとら大天使喰らってそっちの能力全部使えるんですよ!
そう簡単には終わらない!
幸いにもまだ一人しか向かって来てない。
コイツを片付けて強化したら他のも相手する!
「『摂食』ッ!!!」
大口を全開にし、知恵の悪魔を摂取する。
身体の中で力と叡智が盛り上がるのを感じるが、口を噛み、無視する。
「一人で飽き足らず二人喰うとは、断罪する!」
「二人も喰ってしまったこの邪悪な存在を許してはならない!」
「人々の安寧の為にも」
「人々の明日の為にも」
「人々の幸福の為にも」
「「「断罪する」」」
おおう!
来やがった!
死ぬぅ!
正義と勇気が正面から突撃し、他三体が白光を撃つ。
それを全て質量注ぎ込んだ肉壁で防御しながら、肉塊の反対側にいる大天使ニ柱に向けて壁を広げる。
これである程度は動きを阻害出来るはずだ。
他の三体が壁を回り込んでくるが、そこを敢えて自分も覆い、肉の中を移動する。
反対側まで突き抜け、丁度抜け出そうとしている天使達に更なる追い打ちをかけ、肉を出す。
「な、何を・・・・・・っ!」
「こんな物っ!」
「『摂食』ッ!」
ーーー暴れ狂う。
身体を蹂躙する圧倒的なエネルギーの濁流が掻き回す。
天と獄の力が混ざり合い、衝突する。
混濁する胸中で天使が抗うが、それを悪魔の力で捻伏せ、抑え込む。
ーーー完食。
「あ"どはお" ま"え" ら"だげだ・・・・・・ッ!」
血走る目をギラつかせ、残る三柱の大天使を睨み付ける。
未だ体内の力が抑えられないが、暴走してこいつらも喰らう事ぐらい容易い。
ーーーッ?
意識がーーー途切れた。
『摂食』ゥッ!!!
*****
起きた時には周囲は更地だった。
特に生命反応は無く、自分しかいない。
・・・・・・自分の中に大天使達の力を感じる。
最後の三柱も喰らったのだろう。
記憶はないけど。
・・・・・・らしくない!
もっとお気楽に行きましょう!
ていうかここどこよ!?
次元の狭間にしちゃ悪魔も天使もいなくない!?
もしかしたら知覚範囲外にいるかもしれんけど。
てかこっからどうすんの?
って思ってたら何か来た。
もう身体ボロボロだし戦いたくないんだけど・・・・・・
「お前か?大天使達を全滅させたのは」
なんか凄い神々しい光が降りてきた。
煌めきが眩しい!
ていうか力が異常だわ!
何あれ限界感じないんですけど!
・・・・・・あれ、もしかしなくても創世神だったりします?
勝ち目百パー無いんですけど。
戦ったら即死やん。
「私の可愛い子達を倒してしまったか・・・・・・お前も戦う重大な理由があったのだろう」
すみません上司の命令で仕方なくやってたらノリで結構滅茶苦茶やっちゃいました。
特に命を懸ける覚悟とかは無かったです。
すみません。
「しかし、悪魔達の存在は危険過ぎる。特に君は異質とも言える、成長し過ぎてしまった」
あ、そうですかすみませんとんだ迷惑をおかけしました。
「だからこそ君をこの世にいさせる訳にはいかない」
あ、はい、すみませんでした存在毎消滅するパターンですねこれは。
「ここで君には終わってもらうけど、次の人生ではきっと良い存在になるよう祈るよ」
あ、昇天する流れですねこれは輪廻転生って奴ですか。
「さらばだ堕落しながらも愛しき世界の子よ」
あ、これはそろそろ死ぬ流れで・・・・・・?
あ、意識消えてく死ぬなこれは来世は悪魔でも天使になれるよう頑張ろ!
*****
こうして創世神側の被害は全滅、悪魔達は辛うじて生き永らえたという結末に至り、天魔戦争が終結した。
これはその大戦で偉業を為した暴食の眷属の一個体の物語。
後に次元の狭間を覗いていた悪魔神達によって後世に語り継がれ、悪魔と契約した人間からも世界に伝説が広まっていった。
そうして、弱小悪魔武勇伝が幕を引いたのである。
「あ、はい!今貰ってきます!」
そう先輩に答えながら僕は軍の後方、武器生産隊の方へと走り出す。
こんなんじゃあ絶対に現世に戻って当たり前な人間との契約と人生、いや、悪魔生が謳歌出来ない。
この調子で戦っても所詮平天使に瞬殺されて終わりだろう。
いや、もしかしたら天使ですらない最下級の犬型天獣に噛み殺されて終わるかもしれない。
もう少し勇気を出さないとなぁ、と溜め息をつかずにはいられなかった。
しかも仮にも悪魔神の中でも獰猛で好戦的と言われている暴食の眷属だもんなぁ。
周りの新人悪魔仲間にもう人間みたいだなんて言われないように考え方を変えなくちゃな!
いつもと同じように内心自分の生き方に改革を造ろうと覚悟を決め、そして次の瞬間の自分にヘコみながらも、僕は軍隊の隊列の間を走り抜けて行った。
*****
今世界は戦火に包まれている。
創世神が森羅万象を生み出し、初めに天使が創られた。
天使が出現し、当然それらの大半は偉大なる絶対神に忠誠を誓っていた。
しかし、その中から、神に敵対し、堕落する者が現れた。
その最初の七柱の大天使が、堕落し、悪魔神と成った。
それぞれが大罪を司り、眷属を創造し、いずれ創世神に反逆すべく勢力を拡大していった。
そして、そんな邪悪な悪魔達を横に、遂に神が世界に干渉していた悪魔達へと総攻撃を仕掛ける事にし、それに対抗する為、悪魔達も軍勢を整えた。
七大罪を冠する悪魔神が引き連れる大軍と創世神が召喚した天使の軍勢が次元の狭間にて対峙する。
そんな中、僕は暴食の悪魔の眷属として戦争に参戦している。
要するに暴食の悪魔神様の喰った栄養から分体みたいな感じで造られた雑兵だ。
しかも僕はこの戦争の準備の為に新しく創造された眷属だから他の古参の眷属達のように獲物を喰らって力をつける事すら無く、ただ単に肉壁として軍の兵数を水増ししたようなモノになる。
まぁ、そうやって生まれた訳だし、特に不満も無いけど、腹は減った。
仮にも暴食と名のつく悪魔だ。
例え下級悪魔だとしても、暴食としての最低限の能力は合わせ持っている。
故に、戦闘前から空腹に陥ってる訳だが、まぁ、それは置いとこう。
僕ら暴食の悪魔はその名の通り、喰らう。
ひたすら喰らう。
僕ら下級悪魔の権能は一つだけ。
ーーー摂食。
口を自分の身体と同じ大きさに開き、対象を喰らえる。
最も、この権能の対象に出来るのはあくまで自分と体積が同一であり、自分より力が弱い、もしくは弱ってる相手だけだ。
だから、そもそもの身体が人間の五歳児程しか無い僕ら下級悪魔な成長の機会は殆ど訪れない。
それ故に下級悪魔は大半が進化せずに死ぬ。
中でも一握りしか上の階級へと進化出来ない。
その途轍も無く狭い可能性を生き残る悪魔は少数であり、しかも一つ上の中級悪魔に進化するには体の大きさが凡そ元の姿の十倍程にならないといけない。
しかし身体がデカくなるとそれはそれで不都合があったりするので、体を圧縮して小さくなる奴もいる。
つまり体の大きさではなく、元の身体の十倍になれるだけの魂を喰らえば中級悪魔に進化出来るということだ。
まぁ、この大戦でそれだけの成果を上げる事が出来ればの話だが。
と、そんな事を今更ながら頭の中で復習していたら軍の後方支援部隊、武器生産隊の所に着いた。
この悪魔達は武器を摂食し、それを覚えて他の物を喰いながら同じ物を量産する。
体内で万物の素とも言える魔素子まで分解してから武器に作り直すのだから圧倒的の一言だ。
「すみません!武器は何処に置いてあるのでしょうか!」
「それならあっちの方から好きなの取ってこい!もうそろそろ出陣だから急いだ方がいいぞ!」
「ありがとうございます!」
意外と親切な悪魔で助かった。
基本的には僕みたいな下級悪魔は見下され相手にされないか、もしくはおざなりに追い払われるだけ。
しかし今は少しでも使える戦力が欲しいのだろう。
僕は多分、殆どの奴らみたいに上級天使の殲滅攻撃に瞬殺されると思うけど、そこはやはり意地でも生き残って強くならなくちゃな!
心の内で感謝しながらも、僕は武器の置いてある方角へと走って行く。
そして、思ったより近くにあった武器保管所に着くと、適当な剣を取る。
僕はあんまり武器の扱いを知らないが、万が一天使と一騎打ちになれば、彼等の正装備の剣と対等に打ち合えるかもしれない。
下手な武器を取るよりかはマシだ、と、そう自分を納得させながら、僕は元の持ち場の最前線へと駆け戻っていく。
*****
天から流れ出す美麗な歌声が奏でられたと思いきや、それに反抗するように遠い背後の悪魔達の操る楽器から出る重低音が鳴り響く。
そんな轟音に大気が震撼し、胸の奥で振動が自分の戦闘本能を刺激し、鼓舞する。
それを全軍が同様に感受すると、応えるべく悪魔軍総員が雄叫びを上げる。
僕、そして地獄の軍勢の正面に降臨するは創世神に従う天使の大軍だ。
後方の雄叫び、前方の協奏曲に挟まれ、僕を含む下級悪魔の群れはただ震えるしかない。
両軍の戦意が轟く次元の狭間に、遂に開戦の合図が鳴り響く。
「行けーーーーーっ!」
悪魔神、その中でも最強と名高い傲慢の悪魔様が叫ぶと、それに呼応するように悪魔達が吠えながら走り出す。
先頭の方にいる僕は全力疾走でもしなければ後続に踏み潰される。
文字通り。
そういう訳で軍の先端、斥候のような立場にある下級悪魔達は先ず後ろから迫って来る中級や上級悪魔達から逃げ延びねばならない!
戦争の最初の敵が自軍の味方、それも上司や先輩に当たる人達だと思うと、正直面白くない。
第一の死因が先輩に踏み潰されて死亡、等では笑えない。
だから、必死に身体を動かし、前方遠くに構える白い天使の軍勢に突撃する。
そんな全力の逃走の間に思考に耽っていると、いつの間にか目の前に白い番犬が出現した。
既にこの空間内は乱戦になりつつあるが、何せ次元の狭間だ。
ある程度出陣から移動したら、軍は散らばる。
元々悪魔は団体行動に向いてないし、好まない。
だから、今、周りには最早眼前の犬型天獣しかいない。
しかも、気付いたら悪魔達は遥か右の方角でせめぎ合っていた。
最初に望んだ通りの敵軍最弱の獣との一騎打ちな訳だが、果たして上手く倒せるか。
「グゥ~~~」
うーん、威嚇してきている感じはするけどー、そんなに強くないのか、もしくは心の内でもう負けて死ぬのを認めちゃっているからなのか、全然怖くない。
取り敢えず、近付いて剣で斬るぐらいしか攻撃方法がない。
これは困る。
出来れば襲いかかって来られる方がやりやすいんだけどなー。
等と頭の中で色々言い訳していたらなんか吠えて走って来た。
よし。
犬が知能でも低いのか、愚直に突っ込んできた。
これなら普通に倒せそうだ。
幸い、本軍は距離あるし、他の天使に狙われたり、大規模な魔法に巻き込まれる事はないだろう。
この相手に集中出来る。
そうして犬との距離が縮まっていくと、犬が飛び上がり、僕の顔の方へと飛びかかってきた。
その真っ直ぐな攻撃を少し横に身体を傾けて回避する。
そして犬の射線上に剣を置き、踏ん張る。
力を込めると同時に目を塞いだから見なかったが、急に腕に物凄い衝撃が伝わり、そして、何かを斬り通す感覚が解った。
そして構えていた腕に温かい液体がかかり、目を開く。
腕が真っ赤に染まっていたが、そんなに気にする程腕が無残な状態になった訳でもなかったので、代わりに犬が着地したであろう地点へと顔を回す。
そこには赤く濡れた犬の死体があったが、まぁ、仮にも天使なので、直ぐ天に召されて消えるだろう。
その前に肉体を取り込まなくてはならないので、自分の奥に眠る鼓動を探る。
魂の根源から呼び起こすような波動を送り、その権能が胸の奥から、身体を登り、湧出する。
ーーー『摂食』
口が大きく裂け、歯が剥き出しになり、膨張する。
それは正面の犬目掛けて蠢く。
気付くと、いつの間にか正面にはただの地面しか残っていなかった。
そして、目線が少しばかり高くなっていた。
喰った。
味は分からなかった。
初めてだったから味を堪能する事は敵わなかったのだろう。
所詮、そんな物だ。
次の獲物はもう少し味わってみたいけど。
そう思い残しながら僕は他にはぐれの最下級天使を、獲物を探しに走り出した。
*****
混沌と化した戦場は未だ決着が見えて来ない。
闇魔法と光魔法がぶつかり合い、一瞬にして大量の命が燃やされていく。
消滅していくのはやはり下級の悪魔や天使だったが、ある伝令が悪魔特有の波長の念話越しに届き、悪魔の軍勢の士気が目に見えて落ちた。
ーーー悪魔神の一柱、色欲が倒された。
しかし、相手方はまだ余裕を持って動いているようにしか見えない。
最大戦力の一角を落とされ、僕らは今大の窮地に陥った。
特に色欲の眷属は司令官がいなくなって相当混乱しているだろう。
まぁ、こっちにはそんなに関係無いし、元々協力している仲間というよりかは敵の敵は仲間みたいな関係なので、戦力がこっちに回ってきてしまう、程度にしか感じないのは悪魔の習性だ。
だがしかし、動揺しないという訳でもない。
僕は割とこういうの堪える方である。
でも戦場で同胞が死んだ位で凹んでるようじゃ即死だ。
勿論一旦記憶の隅に追いやって敵に集中する事は忘れない。
混戦の中、次の獲物を探す。
白黒入り乱れて判別し辛いが、幸いにもこちらに・・・・・・不幸にも、かな?
下級天使が飛んで来た。
ヤバイ。
僕はまだ最下級天使の犬型天獣、そして何個か同胞の死体を喰らっただけである。
そんな僕に僕と同等、いや、中級への進化間際な天使が向かって来るとー、流石にキツイ。
取り敢えず、前向きに!
考えて、倒す!
天使が翼を広げ純白の聖光を纏ながら僕目掛けて一直線に飛来する。
僕の間合いギリギリの所まで来たら、天使が剣を振りかぶり、上段から攻撃してくる。
それを自分の剣で弾くべく、剣を振った。
ゲッ!
あ、アイツの剣が僕のを素通りしやがった!
危うく肩を切り落とされる所だった。
距離を取らないと。
後ろに飛び、天使から目を離さない。
天使が剣を持ち上げ、再度突撃してくる。
これは防御出来っこない。
出来れば回り込んで一発撃ち込みたいが、出来るか微妙だ。
そもそも自分の動体視力と反射神経には自信が・・・・・・いや、自信を持たないと!
天使が左上から斜めに剣を振り下ろす。
それを辛うじて左に避けて回避しながら、飛行の勢いのままに動き続ける天使の横腹に一撃拳を叩き込む。
なんか打撃を放つ右手が醜悪な肉塊のような蠢き方で膨張し、天使の横っ腹よりもデカ・・・・・・というか普通に天使の身体自体よりもデカくなって轟音を伴って吹っ飛ばした。
あ~なんかグロかったな。
ていうか何今の!?
腕が勝手に膨れ上がって天使を殴り飛ばしたし!
何故に!?
悪魔の能力・・・・・・?
いや、でも最初は出来なかったのに・・・・・・。
でも殴打の瞬間、腕と拳が肥大化した瞬間だけ視線が下がったから、質量を腕に寄せたのか?
元は小さ過ぎて出来なかったからわからなかったのか?
・・・・・・まぁいっか!
使える技があるってんなら利用する!
というか早く天使の残骸を喰わないと!
『摂食』
よし!
これでそろそろ力も付いてきたかな!
因みに、権能を使った際、口を開いた時に先程避け損ねたらしい天使の斬撃で受けた鼻の傷から血が噴き出したのは余談である。
*****
さっき相手した天使ほど強い下級はそう見つからず、下級天使だけを積極的に狙って行ったら格下ばかりで余裕で進化要求値まで魂を喰らう事が出来た。
「さて、じゃあ進化しますか!」
僕は今下級天使を大軍の衝突範囲からおびきだし、喰らいまくった。
そして、今また本軍から距離を取り、進化する。
中級に進化する為の進化中の隙に攻撃されたらたまったもんじゃない。
進化中は一時的に硬直するから格上に来られた瞬間に潰される。
故に離れた所で安全確認をしてから進化する。
自分の中で喰らった魂を感じ、それを身体に融合するような感覚で胸の奥の内部を活性化させる。
すると燃えるような灼熱が発生し、自分の身体が蠢く。
身体が変質していく感覚を味わい、力が増大する。
そして、気付いた時にはーー終わっていた。
身体中から暴力的な熱が溢れ、力が廻るのを感じる。
それに順応し、悪魔としての本能が狂乱を欲する。
ーーー戦いたい。
ただ、純粋に、命の奪い合いが恋しい。
今直ぐにでも戦場へ駆け戻り、敵を蹂躙し尽くしたい。
いや、駄目だ。
戦場で暴れ回ろうなんてするものなら上級天使達に瞬殺される。
先ずはさっきと同じように同格の、もしくは下級の天使を狩りまくるしかない。
魂の質を取るか、量を取るか。
愚問だ。
悪魔に選択肢等無い。
両方取る。
だから戦場に向かって走る。
幸いにも上級や最上級の天使達や悪魔は戦場の中央付近に固まっている。
両軍の激突の端に居ればそうそう格上と遭遇はしない筈だ。
そう考えながら僕は新しい身体に馴染みながら狩りを続行しに闇と光の交差する戦線へと駆けて行った。
*****
まぁ、そうして安全に上級への進化を目指そうと思ってた訳でした。
「そこの悪魔!逃がさないぞ!」
「ヒィィィィ!」
拝啓、故郷の皆(故郷も無いし家族みたいな奴は皆一緒に戦争してるけど)、
僕は今、絶賛逃走中です。
下級と中級を狩ろうかなと思って不用意に乱戦に飛び込んで行ったら突如と現れた上級に目をつけられました。
何故でしょう。
そういう訳で殺されそうなので全力疾走しています。
因みに逃げながらも弱った下級や死んだばかりの天使を喰らいながら回復もしています。
僕が先に逃げ切るか、体力尽きて狩られるか、追いつかれて狩られるか、ぐらいしか僕に未来は無さそうです。
上級に進化して対抗しようにも進化中に殺されます。
どうしましょう。
戦闘してない上級悪魔の先輩に押し付ける事も出来ないし、死ぬ。
「悪魔め!待て!」
「嫌ーーー!」
倒す?
そんな方法僕にあるとでも?
理由も分からず圧倒的な強者に追いかけられ、唯一逃げ続けられている理由が混戦の中をちょこちょこ障害物競争している奴に上級の天使と戦えと?
例え天地がひっくり返っても・・・・・・いや、天地がひっくり返ったら地獄の悪魔達の方が強くなるから勝てる?
いやいやいや!
こんな雑念で真剣に議論するんじゃない!
逃げないと!
本気で滅殺される!
「何で僕を執拗に追いかけ回すんですかーーー!?」
「悪魔の戯言に耳を貸すのは天界法で禁じられているのを知らんのか!この外道な暴食の眷属め!成長する前に叩き潰してくれる!」
あ、そういうことね。
丁寧に答えてくださりありがとうございます。
・・・・・・暴食だからか!
潜在能力だけなら確かに一番の危険分子かもしれないけどさ!?
だからって弱いものいじめはどうかと思うのですよ!
僕まだ中級なったばっかなんですが!
応戦する事すら叶わない僕にわざわざ追いかけて来なくても殲滅魔法でやっちゃってくださいません!?
せめてタイマンで追走されてから嬲り殺されるよりも気付いたら殲滅魔法で一帯毎死んじゃったの方が心を休ませるんで!
見逃すか瞬殺するかしてくれません!?
必死で逃げて生き残るよりかは瞬きの間に昇天してたって方が楽ですわ!
僕の奔走も最終的には無駄になるじゃないですか!
それならさっさとやっちゃってくださいよ!
自分、脚だけは止まらないんで!
「この手で直々に引導を渡してやる!逃げるのをやめろ!」
この後に及んで手ずから殺すのに拘りますかね!?
脚を止められないこっちも悪いけど!
こうなったら抗戦してやろうじゃないか!
どうせ逃げるのは死体漁りで永遠に続くからそれならさっさと戦って華々しく散ってやろうじゃないの!
こっから挽回行くよー!
「逃走はやめてやろう!だが、ただで殺させるとは思うなよ!?」
「・・・・・・君、その勇気は辛うじて認めてやらないでもないが、せめてその脚の震えはどうにかした方がいいと思う」
勿論、自分の視界が脚に合わせて不安定なのは重々承知してる。
でも、そこは僕の勇気を素直に認めて欲しかったかな!
「さあ、観念しろ悪魔め!直々に殺して昇天させてやろう!」
「し、昇天料高くつくからな!」
その言葉を合図に、上級天使が肉薄して来た。
というか瞬きしたら目の前に居たんですけど!
ありえないでしょ!
咄嗟に本能的な自己防衛で殴られた腹部を強化したけどさ!?
あ、抗いようがない。
「こんなものか?悪魔よ!いや、暴食の卵にしては持った方か?」
「た、卵で悪かったな!まだ半熟だから!」
「孵る事ないぞそれでは!焼くな!」
断罪の間際に何故か上級天使とコントをやってしまった。
「とにかく、お前が一撃を耐えたとは・・・・・・な、その醜悪な傷口は・・・・・・!さてはお前、特殊個体か!」
「は?なんで?」
「その変貌、身体の質量を任意に移動する権能は中級悪魔以上でなければ使えぬ筈だ!」
「あー、僕も一応中級ですが?」
「な!?嘘だろう!?その大きさは進化直後ならまだしも、感じる魔力が小さ過ぎる!しかも逃走中に死体を喰いまくってたではないか!大きさも異常だ!何故成長しない!これ程チビの中級悪魔は見たことない!」
「チビで悪かったな!どうせ僕は燃費が悪いんでしょう!僕を始末したいんならさっさとやっちゃったらどうです!?」
「なら遠慮なく本気で倒してやろう!今度は仕留める!」
そう言いながら天使が飛来する。
速すぎん!?
瞬きしないようにはしたけど一瞬で距離が無いんですが!
瞬間全力で身体の質量を壁状にして正面に練りあげる。
なるべく攻撃を飲み込むべく分厚く出してみたけど、感触的には上手く防ぎ切れたというか、ぶっちゃけこれあとコンマ一秒展開遅かったら貫通されてた!
あっぶね!
「これをも止めるか!なら、これで!」
「なめるな!」
正面に展開した文字通りの肉壁から純白の閃光が漏れ出る。
それが改めて壁を貫通する刹那、横に回避し、回り込む。
前方へ突進を続ける天使の裏に移動すると、
「『摂食』!!!」
・・・・・・不味ッ!
天使の脚だけ喰うとかどんな結果想像してたんだよ自分!
普通にクソ不味い上にグロい!
いや、天使の腰の所からは白い光が漏れ出てるだけだけど。
「ぐっ、貴様!脚を!」
「ご馳走様でした!不味かったです!」
「チィッ!」
未だ僕の脇腹から繋がっている肉壁は敵を覆っている。
「残念僕の勝ち!というかもう少し頭使えないの天使さん!」
「くっ!それは知恵の天使が行使するものだ!我は正義の天使だ!」
「そうですか!そういや大天使って代替わりでもしたの?」
「堕落した悪魔達と同列に語るなよ!今はきちんと七元徳を司る大天使達がいる!」
「あっそ。取り敢えず僕は君が回復するのも怖いので、喰わせてもらいます!では!」
「こんな事をして生きて帰れると思うなよ!」
「帰れなくなるも何も、もう天使結構喰らったから今更アンタ喰っても何も変わりません!では!『摂食』」
「なっ!あ、ぁーーー」
危ない!
これ以上喋ってたら反撃されてたわ!
ていうかヤバッ!
上級天使から得られる力が半端ない!
ていうか普通に進化出来る気がする!
進化しましょー!
*****
戦場の中心、天魔戦争と呼ばれるこの戦のグラウンドゼロにて。
「お前ぇぇらぁぁ、ホントヤな奴らだなぁ!」
「そんな事をお前らに言われる筋合いはない。お前らの戯言に耳を貸すのも本来禁じられている」
「少しぐらい自由に暮らしたっていいじゃねぇか!地獄に引き篭もってるのに攻撃仕掛けられるって聞いて戦わされて、面倒ったらこの上ない!お前らの世界に干渉すらしてないのに無条件で滅ぼされる俺達の身にもなってみろ!俺も俺の眷属も何もしてないのに、存在だけで大人しく死ねとか筋が通ってねぇのはお前らじゃねぇか!俺達だけでも見逃せよ!」
「お前とお前の眷属の怠惰には世界に干渉せずとも概念その物を創り出すだろう。それに黙して見逃す等せぬ!」
「その概念がそもそもお前らの世界の干渉しないから漏れ出てねぇだろうが!」
「悪魔は存在そのものが万死に値する!覚悟せよ!」
「あ"ぁシャラくせぇ!」
そうして既に戦闘開始はしていたが一時休戦していた怠惰の悪魔神、そして節制の大天使の戦闘が再開する。
ーーーと思われた。
漆黒が視界の端を覆い始めたと思った次の瞬間、膨大な質量が戦闘の場に雪崩込み、大天使を貪り尽くした。
「・・・・・・!こりゃあ凄ぇ進化遂げた奴がいたもんだなぁ!暴食の量産兵も侮れねぇ!」
と、大天使の悲惨な最期を見届けた怠惰が歓喜の声を呟いたのだった。
*****
進化した。
なんか身体の中を唸る力の奔流が体内異常気象を生み出している気がする。
ていうか凄い!
大出世だ!
まさかの上級悪魔だよ!同胞の中でも選りすぐりの天才達しかなれない存在になっちゃったよ!
エヘヘぇ~!
これで戦場の大半の命を容易く蹂躙出来るレベルだ!
では腹を満たして行きましょ~っ!
そして僕は戦場に向かい、下級や中級を喰らい尽くすべく、戦闘範囲の中を駆け回り、暴れ回った。
ーーー結果、なんか今度は最上級天使に目をつけられた。
・・・・・・テヘッ!
*****
「何故に毎回ちょっと調子に乗る度に格上に狙われるんでしょうか!」
「それは天使達の全体的な作戦として自分の一つ格下を集中的に相手するように指示されているからです」
「説明ありがとう!」
なるほどね!?
それで毎回化け物に狙われるんか!
というかズルいなそれ!
下から全滅させて最終的に上の奴倒すとか、食物連鎖崩壊させようとしてんのか兵糧攻めしてんのか分からんけど面倒だな!
「貴方方を殲滅する為、貴方を殺します」
「無慈悲!」
「慈悲の天使じゃありませんから」
「そこは天使共通の観念にしようよ!?」
話が通じない!
「貴方の戦略は見えています。大人しく消滅してください」
「それに素直に従う人います!?というか悪魔に人権みたいなのない訳!?」
「悪魔を信仰する人間もいるそうですが、それは信仰の天使の管理下です。私が口出しするものではありません。悪魔を認める必要等、創世神様が無いと仰せたから無いのです」
和解不可能か!
実力で最上級倒せる訳じゃないし、多分こいつ知識の天使っぽいから戦術とか意味なさげ!
どうしよう!
純粋な暴力でしか倒しようが無い!
小細工で倒す可能性無いし、最上級ともなると長生きで戦略戦術知り尽くしてる!
まともに戦える相手じゃない!
・・・・・・こうなっては最終手段だ!
出来ればやりたくなかったけど、やるしかない!
「こっちだ!」
取り敢えず逃げる事だけはなんとかイケる!
戦闘は技術で叩きのめされるだけだけど、知恵の天使だけあって戦闘能力は標準だ!
スピードだけならギリ追いつかれない!
これで作戦決行現場におびき寄せる!
「何処へ逃走するつもりですか?貴方に逃げ場は無い。私の速度で追いつく事は出来ずとも、そちらが力果てるまで追いかける事は可能です」
「それはどうかな!」
「・・・・・・?」
逃げる。
そして幾許かの時間逃げ続けると、そこには計算通り、悪魔神、傲慢がいた。
その裏を素早く回って物陰に隠れると、丁度追跡していた最上級天使が飛んで来た。
「汝、我の眼前で何を飛び回っている」
「傲慢の悪魔ですね?貴方は私の殲滅対象に入ってないので用はありません。失礼」
傲慢から僕の魔力は自分と同色なので認識しにくい。
隠密を死ぬ気で頑張れば気付かれなくもない。
でも正反対の魔力を持つ天使が来たとなると、
「汝、我を無視するか?万死に値する」
「ぁ・・・・・・!」
白い飛沫が舞い、天使が落下する。
やっば!
瞬殺て!
何したか一切分からなかった!
流石悪魔神最強と言われる傲慢様。
機嫌を損ねるだけで殺されるという噂は本当だったっぽい。
おっと。
悪魔神様が移動するっぽい。
素早く進路上から離れる。
あっぶない!
見つかったら死罪どころじゃなかったな!
ていうか悪魔神様に天使けしかけてる時点で悪魔軍総勢で殺しに来てもおかしくないわ!
よし!
さっさと天使の亡骸だけ喰って退散しよっ!
『摂食』!
アカン。
これはアカン。
というか格上狩った(喰った)だけで進化まで行けるとかバランスおかしくない!?
いや、元々格上に挑んだら即死が当たり前か。
それにこれまでに格下を沢山喰ってるし。
それで充分溜まってたかな!
ではまた進化いきましょー!
ていうか絶対早すぎるよね!?
*****
進化完了ー!
て、んんん!?
なんか暴食ファザーの存在が知覚出来なくなった!
まさか死んだん?
マジで?
進化の間にどれぐらい時間経ったのよ!?
一応死ぬ気で死体の山の下に潜ってから進化したけど!
そんなに時間経ちました!?
・・・・・・ま、いっか!
どうせ見た所悪魔達超劣勢だし?
滅亡確定感あるね!
逃げよう!
いや、ここは死体を全部喰ってなるべく安全な範囲で自己強化して悪魔が全滅してから魔界に帰るべきか?
ま、取り敢えずここの全部喰いますか!
『摂食』
身体がデカくなり最強感溢れますね~!
とりま悪魔神様達は何処行った?
・・・・・・んな!
怠惰様以外全滅しとるやないですか!
違う!
死んだのと逃げたのがいる!
悪魔神達の気配探ってみると~、あ!
ほぼ全員魔界に帰ったり魔界に置いてきた眷属の身体乗っ取って復活してる!
ズルい!
でここの次元の狭間の戦力がゼロに等しい!
これ絶望感パないっスね!
取り敢えず周りをうろついている天使達狩りまくりますか!
*****
すげー、大天使がゴロゴロ飛び回ってんですけど!
何あれ異常だわ!
正に悪魔にとっての地獄絵図!
一応奴らの目を忍んで上級天使までは喰いまくったけど!
最上級も一体遭遇したけど増援呼ばれる前に必死で倒しました。
超危ないとこでした。
次の獲物はーーーん?
あっちにおられるは怠惰様では?
でなんか大天使と戦ってます?
と言っても怠惰様は火力に欠けるから防戦一方だけど。
チラホラいる下級悪魔や天使達と違って凄い圧力放ってぶつかり合ってる。
・・・・・・助太刀に行くか?
いや、でも、ここで助けに入るっつっても力足りずに余波で潰されたり・・・・・・でも怠惰様は一人最後まで頑張ってるんだから手伝いに!
・・・・・・というか戦うのが面倒臭いから結界に籠って追い払おうとしてるだけだな。
魔界に退散してないのも魔界門を開くのも転生するのも面倒だからな気がする。
いや、一応手助けには行くけどね?
*****
そして怠惰と節制の一騎打ちの場面へと戻る。
あれ?
喰っちゃった?
まさか丸ごと喰えるとは予想もしてなかったんだけど・・・・・・
腕一本行けりゃいいなと思ってたけどラッキー!
「おい!お前!」
ギクゥッ!
「は、はい、な、なんでございましょう怠惰を司ります悪魔神様?」
し、死ぬ!
無理無理無理無理無理!
悪魔神様と会話とか無理ヤダ絶対!
獲物横取りしちゃった殺される!
口調おかしくなってしまった!
「よくやった!お前暴食の野郎の眷属だな?」
「はははははい暴食の眷属でござりまする?」
「丁度良い!暴食の野郎は大天使の総攻撃に合って死んだからな!お前に一緒に戦って貰お・・・・・・あ」
「な、なんでしょう悪魔神様?」
「すまん、やっぱ今の話ナシだ。魔界の誰かに召喚された。お前も頑張って生還しろよ!」
「は、はい!い?」
怠惰様が消えた!
詰んだ戦力ゼロじゃんか!
悪魔神と一緒なら生存出来ると思ったのに!
逃げよう!
「節制が感じられなくなったと思ったら、こんな所に暴食の眷属がいる!」
うっそん。
大天使来ちゃった。
しかもなんか六人いない?
もしかして全員勢揃いだったり?
一人しか喋らんが。
「我は知恵の大天使なり」
「我は正義」
「同じく勇気」
「信仰」
「希望」
「慈悲」
死んだ!
我、ここに死す!
世界の終わり、八方塞がり四面楚歌!
詰みだ!
「こ、ここは僕が魔界に一生引き籠って世界に干渉しないという条件で見逃して貰えたりしませんかね?」
「我等が同胞を喰らった罪、許される事は無し」
うん!
死ぬ!
逃げ切る事は絶対不可能!
死亡不可避!
抗戦無意味!
死ぬ!
こうなったらヤケクソだ!
徹底抗戦死ぬ気でやれば何でも出来る!
「ウラァァァ!」
「愚の骨頂」
天使の光線が放たれ、眼前へ迫る。
すんでのところで避け、横から天使の光線を撃ち返す。
こちとら大天使喰らってそっちの能力全部使えるんですよ!
そう簡単には終わらない!
幸いにもまだ一人しか向かって来てない。
コイツを片付けて強化したら他のも相手する!
「『摂食』ッ!!!」
大口を全開にし、知恵の悪魔を摂取する。
身体の中で力と叡智が盛り上がるのを感じるが、口を噛み、無視する。
「一人で飽き足らず二人喰うとは、断罪する!」
「二人も喰ってしまったこの邪悪な存在を許してはならない!」
「人々の安寧の為にも」
「人々の明日の為にも」
「人々の幸福の為にも」
「「「断罪する」」」
おおう!
来やがった!
死ぬぅ!
正義と勇気が正面から突撃し、他三体が白光を撃つ。
それを全て質量注ぎ込んだ肉壁で防御しながら、肉塊の反対側にいる大天使ニ柱に向けて壁を広げる。
これである程度は動きを阻害出来るはずだ。
他の三体が壁を回り込んでくるが、そこを敢えて自分も覆い、肉の中を移動する。
反対側まで突き抜け、丁度抜け出そうとしている天使達に更なる追い打ちをかけ、肉を出す。
「な、何を・・・・・・っ!」
「こんな物っ!」
「『摂食』ッ!」
ーーー暴れ狂う。
身体を蹂躙する圧倒的なエネルギーの濁流が掻き回す。
天と獄の力が混ざり合い、衝突する。
混濁する胸中で天使が抗うが、それを悪魔の力で捻伏せ、抑え込む。
ーーー完食。
「あ"どはお" ま"え" ら"だげだ・・・・・・ッ!」
血走る目をギラつかせ、残る三柱の大天使を睨み付ける。
未だ体内の力が抑えられないが、暴走してこいつらも喰らう事ぐらい容易い。
ーーーッ?
意識がーーー途切れた。
『摂食』ゥッ!!!
*****
起きた時には周囲は更地だった。
特に生命反応は無く、自分しかいない。
・・・・・・自分の中に大天使達の力を感じる。
最後の三柱も喰らったのだろう。
記憶はないけど。
・・・・・・らしくない!
もっとお気楽に行きましょう!
ていうかここどこよ!?
次元の狭間にしちゃ悪魔も天使もいなくない!?
もしかしたら知覚範囲外にいるかもしれんけど。
てかこっからどうすんの?
って思ってたら何か来た。
もう身体ボロボロだし戦いたくないんだけど・・・・・・
「お前か?大天使達を全滅させたのは」
なんか凄い神々しい光が降りてきた。
煌めきが眩しい!
ていうか力が異常だわ!
何あれ限界感じないんですけど!
・・・・・・あれ、もしかしなくても創世神だったりします?
勝ち目百パー無いんですけど。
戦ったら即死やん。
「私の可愛い子達を倒してしまったか・・・・・・お前も戦う重大な理由があったのだろう」
すみません上司の命令で仕方なくやってたらノリで結構滅茶苦茶やっちゃいました。
特に命を懸ける覚悟とかは無かったです。
すみません。
「しかし、悪魔達の存在は危険過ぎる。特に君は異質とも言える、成長し過ぎてしまった」
あ、そうですかすみませんとんだ迷惑をおかけしました。
「だからこそ君をこの世にいさせる訳にはいかない」
あ、はい、すみませんでした存在毎消滅するパターンですねこれは。
「ここで君には終わってもらうけど、次の人生ではきっと良い存在になるよう祈るよ」
あ、昇天する流れですねこれは輪廻転生って奴ですか。
「さらばだ堕落しながらも愛しき世界の子よ」
あ、これはそろそろ死ぬ流れで・・・・・・?
あ、意識消えてく死ぬなこれは来世は悪魔でも天使になれるよう頑張ろ!
*****
こうして創世神側の被害は全滅、悪魔達は辛うじて生き永らえたという結末に至り、天魔戦争が終結した。
これはその大戦で偉業を為した暴食の眷属の一個体の物語。
後に次元の狭間を覗いていた悪魔神達によって後世に語り継がれ、悪魔と契約した人間からも世界に伝説が広まっていった。
そうして、弱小悪魔武勇伝が幕を引いたのである。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる