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1話 選ばれなかった私
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白い光が神殿を満たしていた。
床に描かれた巨大な魔法陣が輝き、空気が震える。見上げるほど高い天井から、金色の粒子が雪みたいに降っていた。
アニメや漫画なんかで見るような、いかにもな「異世界召喚です」と言わんばかりの光景だった。
そして実際、それは異世界召喚の現場だった。
「成功です! 勇者召喚は成功しました!」
神官らしき服を着た人の叫び声。それに呼応するように周囲がどっと沸く。
私は状況を理解できないまま、ただ呆然と立っていた。
さっきまでは、普通に学校の帰りだったはずなのに。コンビニに寄ろうとして、横断歩道を渡って――気づいたらここにいた。
石造りの神殿。知らない服の人たち。知らない言葉なのに、なぜか意味だけ理解できる声。
そして、私の隣に立っていた少年が、一歩前へ押し出された。
「この方こそ、神託に示された勇者様です!」
歓声と割れんばかりの拍手。
輝くような金髪の少年は困った顔をしていた。背が高くて、少し戸惑っているけど、まっすぐ立っている姿が妙に様になっている。
ああ、と思った。
物語の主人公って、こういう人なんだ。
「お名前を!」
「……アルト、です。アルト・レイン」
少年が透き通るような声で名前を告げると、また歓声が沸いた。
神官たちが跪き、兵士たちが頭を垂れる。
世界が、彼を中心に回り始める。
私はその一歩後ろで、それを眺めていた。
――じゃあ、私は?
誰もこちらを見ない。
神官が名簿を確認している。
「召喚人数は……三名?」
「はい、勇者様と……聖女候補が一名」
銀髪の少女が前へ呼ばれる。
その少女も勇者に負けず劣らず、息を呑むほど綺麗だった。
彼女が歩くだけで、空気が澄むみたいだった。
「聖女の資質、確認できました!」
再びの歓声。いちいち騒ぐのが少しだけうるさいと感じてきた私は性格が悪いのだろうか。
異世界から召喚された勇者と聖女。
見目麗しい二人の完璧な並び。
まるで絵本みたいな光景だ。
……で? 私は?
神官がペラりと紙をめくる。
「……もう一人?」
初めて、視線が私に向いた。
ほんの一瞬だけ。
「あー……魔力量、平均以下。加護反応なし。戦闘適性……なし」
沈黙。
さっきまでの熱気が、少しだけ冷えた。
「巻き込まれ召喚、でしょうな」
「……では、城の使用人として?」
「いや、補給係が不足していたはずだ」
話が勝手に進んでいく。
私の意思は、どこにもなかった。
「では、あなたは勇者様一行の補給係として同行してください」
決定。
あまりにもあっさりとしたそれ。
世界が私に与えた役割は、勇者でもなく、聖女でもなく――背景だった。
「よろしくお願いしますね」
銀髪の聖女が微笑む。
金髪の勇者も少し困ったように笑って言った。
「えっと……助かるよ」
優しい声だった。
たぶん本心なんだろう。
でもそれは、仲間へ向ける言葉なんかじゃなくて、いち同行者への言葉だった。
そのとき、私は気づいた。
この世界には、役割がある。
選ばれる人と、選ばれない人。
物語を進める人と、物語を支える人。
そして私は――
後者だ。
不思議と、ショックはなかった。
むしろ安心していた。
主人公じゃないなら、失敗しても世界は壊れない。
期待されないなら、傷つかなくて済む。
だから私は、小さく笑って頷いた。
「はい。できることをやります」
その答えに、誰も特別な反応はしなかった。
式典は続き、勇者の話へ戻っていく。
光は再び彼を中心に集まり、私は自然と人の影へ押しやられた。
──でも、この世界には秘密があった。
主役よりも先に、“モブ”を消費する仕組みがあること。
そして、誰にも気づかれないまま、物語を壊せるのは私だけだということ。
まだ私は、それに気づいていなかった。
床に描かれた巨大な魔法陣が輝き、空気が震える。見上げるほど高い天井から、金色の粒子が雪みたいに降っていた。
アニメや漫画なんかで見るような、いかにもな「異世界召喚です」と言わんばかりの光景だった。
そして実際、それは異世界召喚の現場だった。
「成功です! 勇者召喚は成功しました!」
神官らしき服を着た人の叫び声。それに呼応するように周囲がどっと沸く。
私は状況を理解できないまま、ただ呆然と立っていた。
さっきまでは、普通に学校の帰りだったはずなのに。コンビニに寄ろうとして、横断歩道を渡って――気づいたらここにいた。
石造りの神殿。知らない服の人たち。知らない言葉なのに、なぜか意味だけ理解できる声。
そして、私の隣に立っていた少年が、一歩前へ押し出された。
「この方こそ、神託に示された勇者様です!」
歓声と割れんばかりの拍手。
輝くような金髪の少年は困った顔をしていた。背が高くて、少し戸惑っているけど、まっすぐ立っている姿が妙に様になっている。
ああ、と思った。
物語の主人公って、こういう人なんだ。
「お名前を!」
「……アルト、です。アルト・レイン」
少年が透き通るような声で名前を告げると、また歓声が沸いた。
神官たちが跪き、兵士たちが頭を垂れる。
世界が、彼を中心に回り始める。
私はその一歩後ろで、それを眺めていた。
――じゃあ、私は?
誰もこちらを見ない。
神官が名簿を確認している。
「召喚人数は……三名?」
「はい、勇者様と……聖女候補が一名」
銀髪の少女が前へ呼ばれる。
その少女も勇者に負けず劣らず、息を呑むほど綺麗だった。
彼女が歩くだけで、空気が澄むみたいだった。
「聖女の資質、確認できました!」
再びの歓声。いちいち騒ぐのが少しだけうるさいと感じてきた私は性格が悪いのだろうか。
異世界から召喚された勇者と聖女。
見目麗しい二人の完璧な並び。
まるで絵本みたいな光景だ。
……で? 私は?
神官がペラりと紙をめくる。
「……もう一人?」
初めて、視線が私に向いた。
ほんの一瞬だけ。
「あー……魔力量、平均以下。加護反応なし。戦闘適性……なし」
沈黙。
さっきまでの熱気が、少しだけ冷えた。
「巻き込まれ召喚、でしょうな」
「……では、城の使用人として?」
「いや、補給係が不足していたはずだ」
話が勝手に進んでいく。
私の意思は、どこにもなかった。
「では、あなたは勇者様一行の補給係として同行してください」
決定。
あまりにもあっさりとしたそれ。
世界が私に与えた役割は、勇者でもなく、聖女でもなく――背景だった。
「よろしくお願いしますね」
銀髪の聖女が微笑む。
金髪の勇者も少し困ったように笑って言った。
「えっと……助かるよ」
優しい声だった。
たぶん本心なんだろう。
でもそれは、仲間へ向ける言葉なんかじゃなくて、いち同行者への言葉だった。
そのとき、私は気づいた。
この世界には、役割がある。
選ばれる人と、選ばれない人。
物語を進める人と、物語を支える人。
そして私は――
後者だ。
不思議と、ショックはなかった。
むしろ安心していた。
主人公じゃないなら、失敗しても世界は壊れない。
期待されないなら、傷つかなくて済む。
だから私は、小さく笑って頷いた。
「はい。できることをやります」
その答えに、誰も特別な反応はしなかった。
式典は続き、勇者の話へ戻っていく。
光は再び彼を中心に集まり、私は自然と人の影へ押しやられた。
──でも、この世界には秘密があった。
主役よりも先に、“モブ”を消費する仕組みがあること。
そして、誰にも気づかれないまま、物語を壊せるのは私だけだということ。
まだ私は、それに気づいていなかった。
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