超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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序章 予選

その6 お気に召すまま

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 「何を望んでもいいわよ。私もそれに見合ったものを要求するから。例えば私のでも」

 部長が両手を頭の後ろで交差させを作る。
 胸は貧弱だが、顔とスタイルは抜群だ。
 そして効果もバツグンだ!

 「じゃ、じゃあ……」

 カタッ
 背後から音が聞こえる。
 確かめなくてもわかる。
 引き出しの開く音だ。包丁の入っている。

 「じゃ、じゃんねんかいを開きましょう!」

 スッ
 引き出しを閉じる音がした。

 「すみません、噛みました」
 「残念会?」
 「そうです。蘭子の実家の『竜の舌』でパーッと残念会を開きましょう! もちろん部長のおごりで」

 蘭子の家は小料理屋『竜の舌』をやっている。
 客の入りや評判の良い店だ。
 ちなみに俺の家の隣だ。

 「わかったわ。で、陸が負けたらどうする」
 「何でもいいですよ。残念会に吊り合うものであれば」

 俺は釘を刺すように言う。
 ここでカラダって言えば、俺はきっと明日の朝日は拝めないだろう。

 「んーと、じゃあ私が勝ったら……、陸には本気で全力で大会に挑んでもらうわ」

 部長らしからぬ、まともな要求だ。

 「いいですよ」
 俺は了承する。

 「そう、じゃあ決まりね。蘭子ちゃんが証人よ」
 「うん、確かに聞いたよ~」
 「陸、あなたは軽く考えているかもしれないけど、これはずっと重い内容だからね」

 部長が真剣な目で俺を見る。
 いや、大会に出られるなら全力を尽くすのは当然だろう。
 当たり前の事だ、それに異論などない。

 「陸、あなたの良い所は多彩な知識と、冷静な状況分析と判断力にあるわ」

 部長が俺を誉める。
 誉められると少し照れるが、俺自身もそう思う。
 常に第三者的な目線をって現状を見つめ、行動する。
 俺がいつも心がけている所だ。

 「でも、それは陸の弱点でもある。あなた、勝てないと分かったら諦めるでしょ。ううん、手を抜く事もあると私はみてるわ」
 「うっ」

 痛い所を突かれた。俺自身も薄々を感づいている所だ。

 「あなたも薄々気付いていると思うわ、だけど、それも良しと思っている所もあると私は見てるわ」

 耳が痛い。
 部長の指摘の通りだ。
 勝てない相手に諦めるのは合理的だと思う所もある。
 それで良いのだと。

 「図星のようね。私はね、賭けに負けたら、その心根を変えて大会に挑めと言っているのよ。分かる?」

 これはヤバい、俺は賭けに負けたら普通に全力を尽くそうと思っていた、自分に出来る範囲で。
 だが部長は、そんなレベルではなく、勝てない相手でも死力を尽くせと言っているのだ。
 番組的にい勝負をして、負けて料理愛好倶楽部が廃部になって残念だったね、で終わらせるような形では許さないと言っているのだ。
 きっとそうなれば、部長は表面的には俺に普通の態度を取るだろうが、心の中で豚を見るような目で俺を一生見下す事になるだろう。
 あれ? それって一種のご褒美じゃね?
 美人に見下される人生もアリかな?

 「陸、あんた、エロい事考えているでしょ」
 「え、りっくん、この会話の流れで、どうしてエロい事考えられるの!? 性欲魔人なの!? なら……」

 やべぇ、部長の洞察力半端ねぇ。
 そして蘭子のアピール怖ぇ、お前こそ性欲魔人じゃねえか。

 「今、わかりました」
 コホン、と咳払いをして俺は言う。

 「わかってくれたようね」
 「ええ、俺も男です。言った事は守りますよ」
 「そうね、私は陸が見た目よりプライドが高いと思っているわ。だから、自分で宣言した事だけは守ってくれると信じている」

 部長、あんた恐ろしい人だな。
 あんたの言う通り、俺には信念がある。
 『信頼』こそ世界で最も重要な事であり、それは『約束』を守る事で築かれる。
 口にした『約束』は守らねばならない、たとえ力が及ばなかったとしても、守ろうとしなければならない。
 それをしない人間は、自らの過去を裏切り、おとしめているのだ。
 今の自分を誇るには、過去の自分も誇らしいものでなくてはならない。
 それこそが、俺、花屋敷 陸の人生哲学である。
 これを、あえて人には語りはしないが。

 「ええ、部長の信頼を裏切ったりはしません」

 これを機に自分を変えてみるのも悪くない。
 負けたら、部長の思い通りになろう。
 全て部長のお気に召すままに。
 だが、それは俺が負けたらの話だ。

 「ですが、それは賭けに負けたらの話ですよ」
 「そうね、賭けの結果が楽しみだわ。参考までに聞くけど、根拠を教えてくれるかしら」
 「いいですよ、まずはこのプロモーションビデオの悪い所から説明しましょう」

 俺はタブレットを操作して、料理対決の試食のチャプターに切り替えた。

 「悪い所はここです。料理が華やかでない所です。おいしさが伝わって来ません」

 映像研の撮影技術は素人に毛が生えた程度のものだ、プロには数段劣る。

 「ええ、だから陸はテーマを手抜き料理にしたと思うのだけど。視聴者が自分で簡単に作れるように」
 「鋭いですね。それはそうですが、そこで得られる『うまいね』は僅かだと思います」
 「じゃあ、良い所は?」
 「それは、蘭子がエ……、え、笑顔が可愛い所です」
 あぶねぇ、思わずエロイと言いそうになった。
 「そうね、私も蘭子ちゃんがエ……、エプロン姿が可愛いと思うわ」

 同士! やっぱり部長もそう思っていたか。
 思うに、部長と俺は思考回路が似ている。
 だから気が合うのかもしれないが、困った事に部長の能力が全般的に俺の上位互換なのだ。
 少し情けない。

 「えへへ、カワイイなんて、あたしちょっと照れちゃうよ~」
 「話をまとめると、陸はこのプロモは料理の映像がイマイチだから、他の魅力があってもダメという訳ね」
 「そうです。中の上には食い込めるかもしれませんが、話題性に欠けるでしょう。特に料理映像に魅力が無いのが致命的ですね」

 すでにサイトにアップされているプロモには『素人だけど満漢全席をつくってみた』とか『野菜細工でサラダサクラダファミリア』といった映像えする物もあった。
 きっとプロやセミプロが投稿したのだろう。
 投稿されている料理映像の大半は本物ではなく、きっと撮影用に作られた料理だ。
 その方が映像的には良い。
 だが、俺達にはそんな技術はない。
 だから一歩遅れを取り、そして予選突破は出来ないのだ。

 「陸の言う通りだけど、私は、私なら陸の言った良い所をもっと引き出して見せるわ」

 そう言って部長はわらった。
 悪徳令嬢もかくやという表情だった。
 嫌な予感がひしひしとした。
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