超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その11 ワインは大人になってから

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 「謎の闖入者の正体はー! もちろん! ニンジャコックと食影のふたりだー!」

 うんうん、バレバレだったな。

 「にゃは! B級っぽいパフォーマンスにゃね!」
 「彼らは変態です。わたしにはわかります」

 筋骨隆々たる師匠と、贅肉の少ない俺が腹筋丸出しミニスカートの姿でいれば、そう思うだろう。
 会場からもゲラゲラという笑い声が聞こえてくる。

 「さて! 次はあたしたちの前菜ね!」
 「ここに煮立った油がありまーす!」

 俺たち、いや、あたしたちは油の大鍋を指し示す。

 「そして、ここに干した豚の皮をいれまーす!」

 パチパチ、ジュワー

 「ニンジャコック選手は、現場で前菜を作るつもりだー! 確かに、進行に問題ない範囲であれば、その場での調理は認められているぞー!」

 ありがとう! 司会の人! フォローを入れてくれて!

 「今よ! ブリウィータ!」
 「ええ! まかせて!」

 俺は水の入ったボウルを取り出す。

 「お、おい、ちょっと、ちょっと」
 「まて! まつんだ! 早まるな!」

 意図を察したのか、会場から制止する声が聞こえる。
 だが、もう止まんない!

 「みずとー」
 「あぶらをー」
 「「レッツラ! まぜまぜー!」」

 そして鍋に水が投入された。

 ジュバ! ジュバン! バチバチバチャー!

 油が跳ね上がり、辺りに飛び散る。
 もちろん配置は考えてある。
 この油が審査員に届く事はない。
 届くのは、俺たちだけだ!

 「うぎゃー! あついー!」
 「a・chi a・chi 大冒険アドベンチャー ですわー!」

 俺たちは地面を転げまわる。

 「だから、露出はほどほどにしとけと言ったのじゃに……」

 いや、この衣装を選んだのは部長ですから!
 
 「さて、この膨れた豚の皮を大皿に盛って、塩を振れば出来上がり、ですわ!」

 皿に盛られた俺たちの前菜が各テーブルの配膳されていく。

 「これ、ボコボコに膨らんでるわ」
 「カリッとして、サクッとして美味しい!」
 「ボリボリといくらでも食べれちゃうわ!」

 各テーブルからボリボリ、サクサクといった音が聞こえる。

 「これは、グラトンですね。フランスでは一般的な前菜です。わたしにはわかります」
 「にゃは! 中華の技法にゃね!」

 俺たちのグラトンとその調理を見た真紅さんと、茶華さんが言う。
 やはり、ふたりはわかったか。

 「その通りよ! フランスのリヨン地方のおつまみとして有名な豚皮揚げがグラトンよ!」
 「そして、使ったのは『油戻し』という中華の技法ですわ。鹿のアキレス腱などの干して硬くなった食材を戻す時に、油で揚げている途中で水を入れますと、その水蒸気が入り込む事で柔らかくなるのですわ!」

 昨晩、俺たちは相手が洋風コース料理で来る事を予想していた。
 だが、本格的なコース料理では敗北は必至だ。
 だから『B級』というテーマを入れる事にした。
 グラトンはどちらかと言えば下町料理だ。
 だが、B級という面で輝く料理だ。

 「あら、でもこれは前菜というには脂っこいのではなくって」
 「ふふふ、油と塩の組み合わせは禁断の味じゃ、もっと食べたくなるぞ、ポリポリ」
 「そうね~、とまらないよね~」

 審査員席でも、グラトンに伸びる手は止まらない。
 
 「もう終わりなの」
 「いい感じに腹も温まってきた」
 「よし、次、いってみよー」
 「さあ! 前菜という点では対極にある両者! ただ、これはコース料理だ! 全体の組み立ても考えて評価をしなくてはならないぞ!」
 「そして! 高級ワインも忘れてはいけませんわ!」

 うざ子のやつ、余計な事を。
 もう少し、後のタイミングで出したかったのだが。

 「いや、今でも悪くないわ」

 師匠! いや! ブリオイリー! 

 「にゃは! それではうちらのワインをお出しするにゃ!」
 「『トリニティ・ブラッド・アーリー フォー ギムレット』の赤になります」

 相手は赤ワインで来たか!

 「この赤ワインは力強い味わいが特徴です。ニュージーランドのホークスベイ産の良いワインです。わたしにはわかります」

 審査員たちがワインを口に含む。
 部長と蘭子はブドウジュースだ。

 「これは、良い味だ。タンニンが強めで濃い味に合いそうだね」
 「ええ、ニュージーランド産ワインは初めて飲みましたけど、ヨーロッパ産に勝るとも劣らない品質ですね」
 「しかし、高級とは言えないのでは。どちらかと言えば新興ワインよね」

 うん、俺もニュージーランド産ワインは聞いた事がない。

 「そうですね。わかるように説明しましょう。ニュージーランドはブドウの栽培に適した気候ではありますが、生産量が少なく、世界の1%にも満ちません」
 「にゃは! つまりレア度が高いってわけにゃね!」
 「ですが、その品質も味も高い。実際に欧州の品評会でも賞を取っています。やがて、ニュージーランドワインは高級ワインとしてブランドとなるでしょう。わたしは信じています」
 「つまり、これは未来の高級ワインにゃよ! 良い出来の年はプレミアが付くかもにゃね!」

 青田買いってやつだな!

 「真紅選手のワインは未来の高級ワインだー!」
 「B級グルメと言われている物であっても、やがて高級となる物があります。このワインはそのワインです。わたしにはわかります」

 B級をそう絡めて来たか。
 やはり一筋縄ではいかない、料理に対する知識が段違いだ。

 「心配しなくて良いですわ。あなたのワインも良い物ですわ」

 師匠がテラーボイスで応える。
 いや、テナーだな。

 「続いて、ニンジャコック選手のワインです!」

 薄黄色い色のワインが各テーブルに配られる。
 銘柄は『トドカナイ・エッセンス』。

 「これは、まさか……」
 
 審査員は銘柄で気づいたらしい。

 「あめぇ!」
 「これは、デザートワインね」
 「貴腐ワインじゃねぇか!」

 そう、俺が選んだのは貴腐ワイン。
 レーズン状になったブドウから作られるワインだ。
 糖分が濃縮されているので、異常に甘いと母さんが言っていた。

 「あら、勝負は決まってしまいましたかしら。このワインでは食事に合いませんわ。確かにではありますけどね、うふふ」
 「ぐぬぬ」

 部長が少し険しい顔をしている。

 「うーん、合わなくはないけど、真紅選手よりは少し劣るね」
 「料理にはミネラルウォーターの方が合うわ」

 テーブルにはワインの他にミネラルウォーターも置かれている。
 審査員たちの手も貴腐ワインよりそっちに伸びている。

 「審査も、コースも続きますよ。次はスープです」

 美しいグラスに入った真紅さんのスープが配られる。

 「続いては、トマトとコンソメとカボチャの冷製スープです」

 赤と琥珀と黄色の3層になった美しいスープだ。

 「層は下からトマトとコンソメゼリー、そしてカボチャです」
 「これ、コンソメだけがゼリーなのね!」
 「そうです。器の形を利用して、ゼリーの層は宙づりにしています」
 「3つの味とその組み合わせが楽しめるにゃよ」

 下の方が細くなっている器に入れているのだ。

 「ああ、コクと酸味が素晴らしい」
 「この暑い中では冷製スープが良いね」
 「相変わらずレベルが高いわ。いや、いつも高いわ」
 「これも、地産地消の野菜で出来ているのね」
 「そうにゃよ!」

 俺も飲みたい!
 露出が高い恰好でなければ、熱中症で倒れているわ。
 だが、俺たちのスープはその真逆を行くぜ。
 師匠は、その為に着替えているのだ。
 
 「終わったようね。それでは、こっちのスープを味って、もらう前に香りを楽しんでもらうわ!! 今よ! ブリマーめぐみん!」
 「これが、あたしたちのスープよ!」

 かつて、師匠が抱えたスープの入った大甕おおがめを持ってくる。
 実は一度開封した後に、ちょっと工夫して再度紙で封をしたのだ。
 
 「今こそ! 封印された香りを解き放つ時!」
 「澄みわたる海のエキス! ブリマーめぐみん!」

 俺たちのパフォーマンスに会場は再び笑いの渦に巻き込まれる。 
 そして、会場は食欲をそそる香りに包まれた。
 
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