超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その13 全部食べ切って!

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 「ああ! だからお残しは許さないのか!」

 審査員のひとりが口を開いた。
 どうやら気づいたらしい。

 「ええ、B級ですもの! 資源は有効活用しなくっちゃね!」
 
 俺は片目をウインクして、その言葉に応える。

 「わかった! 出汁ガラだ!」
 「さっきの仏跳牆 フォーティァチャンの乾物なのね!」
 「そうよ! あんなに美味しい出汁の恵みの源を捨てるなんてとんでもない! いや、味わいたいと思うのが普通よ! じょーしきよ!」

 そうだ、あんな高級食材を捨てるなんて俺には出来なかった。
 
 「にゃは! 美味しい食材があれば食べてみたくなるのが人情ってなものにゃね。うん、わかるにゃよ!」
 「まかないであれば、わたしも使ったかもしれません。わたしならそうします」
 
 そう言いながら、ふたりも頷く。

 「味は良い。口の中でホロホロと崩れる貝の繊維、そしてそれを包み込むバターとトマトの味わい。ひなびた海の見える田舎町を思い起こさせる情景が口の中に見える、みえるぞー!」
 「ええ、仏跳牆 フォーティァチャンは食した事はあったけど、その出汁ガラは食べた事はなかったわ! B級だけど、今まで知らない味だわ!」
 「違うわ! 『知らない味』ではなく『知ろうとしない味なのよ』。海岸には名も無き一輪の花があるかもしれない、だけど、本当に名も無い花なんてないわ! 調べれば学名もあり、食べられるかもわかる、この世はわからない事だらけじゃない! あるのは、わかり合おうとしない心なのよ!」

 ふたりはブリギョダ、シーズン3、第39話のセリフだ。
 海未がお気に入りで、ビデオを何度も再生していた。
 ビデオデッキは30年の年期物である。

 「これは残せない! B級を愛する心があれば、お残しなんて出来ない!」
 「そうよ! 世界を愛と胃袋で包み尽くすのが、ブリマリーネよ!」

 ブリマリーネは小柄な大食漢という設定である。

◇◇◇◇

 「いよいよやって来ました! 肉のメインディッシュです! コースの花形ともいえる肉対決、いまから審査員の期待は高まってます」

 審査員席の表情はウキウキしていた。
 もし、俺が同じ立場だったら、同じ顔をしているだろう。

 「いやー、どっちの料理も素晴らしいね。続きが楽しみだよ」
 「ええ、2コース分なのに、まだまだ入りそうだわ」
 「ふっ、この程度、別腹を使うまでもあるまい」
 「ええ、肉とチーズとデザート、全てを喰らい尽くしてくれようぞ!」

 うん、一般審査員もB級好きな人が多そうだぞ。
 
 「違います。食は、フランス人にとっては陽気で、少々おちゃらけながら食べる物です。オーバーリアクション気味と言った方が良いでしょうか。あの一般審査員たちは、その気質を持っています。本場のフランスにも行った事があるのでしょう。わたしにはわかります」

 エ、エスパー!? 

 「にゃは! つまり審査員では、ニンジャコックさんたちの有利にはなってないにゃよ! むしろこっち寄りにゃね!」
 「心配いらないわ! ブリマリーネ! あの人たちは、フランスもB級も分け隔てなく、公平にジャッジメントタイムするわよ! わたしには分かる! 信じてる!」
 「にゃは! さすが、命と平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺することに定評のある、ブリバーンにゃね!」
 
 師匠の新しいキャラは熱血で情熱的な言動の中に猟奇的な部分をにじませる人気キャラである。
 一時期深夜アニメで流行したヤンデレ系を反映させたらしい。

 「さて、それではメインディッシュと参りましょう。『煮込みハンバーグのパイ包み』です」

 やはりパイ包みで来たか。
 見た目は普通のパイ包みだが……

 パリッ

 パイ皮の一番上の層が破れる音だ。
 そして、その中から鮮烈な肉とソースとキノコの香りが溢れだす。
 くぎゅうぅぅぅぅ~
 俺と師匠の腹の虫の声だ。

 「これは、ムラサキシメジだね」
 「はい、フランスではピエ・ブルーPied bleuと言い、青い足を意味します。みなさんならごぞんじです」
 「ええ、それにソースはデミグラスソースベースのものか!」
 「はい、それは古典的なフランス料理を代表するソースです。ありふれてはいますが、それがありふれたのは、その美味しさが優れているからです。わたしにはわかります」
 「本体のハンバーグも素晴らしい。たっぷりの肉汁が閉じ込められていて、肉らしい味がしている!」
 「ハンバーグは肉と塩と玉ねぎのみにゃよ。肉の味だけでも勝負できる王道にゃね!」
 「そして、これは食べる人にとっても、料理人にとっても嬉しい料理なのです。やがてわかります」
 「ほう、やがてわかるとは……」
 「にゃは! 食べればわかるってなものにゃよ」
 「言われなくても、手は止まらないわ!」

 そして、審査員は食べ続ける。
 ハンバーグを食べた後は、パイにたっぷりとソースを付けて、それを味わう。
 その皿はまたたく間に空になった。

 「わかった! これ、全てを美味しく頂ける料理なんだ! ソースも含めて!」
 「はい、その通りです。美味しい料理を食べた時、そのソースまでも食べたくなる時があるでしょう。ですが、その時、パンを使う事が多いのですが、それでは料理人にとっては不満があります」
 「不満とは何かね? ソースまで食べて貰えるのは嬉しいのではないかね?」
 「嬉しい事は確かです。ですが、ソースを美味しく食べてもらうならば、それに相応しい物で食べて頂きたいのです。このソースにはパンよりも、パイ生地の方が合います。わたしにはわかります」
 「なるほど! あたしはソースも最後の一滴まで食べたい! しかも美味しく! そして、それが準備されているのね! とても嬉しいわ!」
 「はい、そして料理人にとって最も嬉しいのは、食べる方に喜びを持って完食して頂く事です。わたしは、今、うれしいです」
 「作る人も食べる人も、みんなが喜ぶのがB級にゃよ! 言われちゃったけど、おのこしを許さない事もにゃね!」

 危なかった、一品分の差で助かった。
 あっちのチームも『おのこしを許さない』事をB級の表現として考えていたのだ。
 そして、逆に俺たちが考えていた事も先にやられてしまったのだ。
 真紅さんは氷の精神なんか持っていない、その中身は豊かで、温かみのある物だ。

 「少年、あのピチピチのコックコートの胸部の中身を想像するのは試合後にした方が良いぞ、良いわよ」

 失礼、俺の桃闇ピンクダークがコックコート物に興味を持ったようです。

 「B級に最も相応しいのは嬉しさだー! それをメインに持ってきた『ヘイ! ミッション系ネーサンズ』の見事なワザマエ! いや、腕前! それに『忍者師弟コンビ』はどんな料理で対抗するのかー!?」

 ああ、彼女は俺と思考が似ている。
 コースのメインの中心たる肉料理を表現する所も。
 俺は皿に載ったクロッシュclocheの取っ手を握り締める。
 クロッシュcloche、それはドームカバーとも呼ばれる、皿の料理を隠す金属の半球。
 ドラマや創作の中でしか無いそれを、俺は初めて見た。
 一番の心配は、滑らないかだ。

 「それでは、わたしたちの料理です」
 「光の魔法を召し上がれ!」

 そして、俺は、あたしたちは、クロッシュを持ち上げる。

 「こ、これは……!? 料理が……ない!?」
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