超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

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第五章 準決勝

その14 あー、あー、みえません

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 「なんだね、君たちは!? ふざけているのは、恰好だけにしてくれないか!?」
 
 初老を思わせる姿の審査員の一人が怒りをあらわにして立ち上がる。

 「いや……ぷっ、グッドマンさん、ふふふっ、そろそろ、私にはこの3流忍者、いやB級ニンジャコックの人となりが分かって来ましたよ」

 審査員の中には、口を押えている人が何人かいる。

 「バラムツ、バッテラ、バレテーラ」

 ふたりはブリキュア、シーズン4、ブリムレクルの台詞だ。
 再び服の一部を取り外し、三角帽子を俺は被る。

 「それでは、召し上がって頂きますっ」

 俺はナイフを振り上げ、皿に振り下ろす。
 それは皿の上で姿を消した。

 「ナイフが消えた!?」
 「料理の魔法ですっ!」
 
 俺がナイフを動かすと、そこから肉の断面が現れた。

 「わかった! ソースの保護色なんだね!」
 「正解ですっ。白いソースで覆われた肉が白い皿の色に隠されているのですっ!」

 俺は話しながら肉を切り分ける。
 薄く切られたそれが審査員の前に並べられる。
 さあ、言え、言うんだ陸!

 「これがホントの失われた料理! ロストビーフっ!」

 言っちまったよ……

 「ぷっ、ぷはははっ! またか! またか! 天丼か!」
 「とことんB級だな! 君たちは!」
 「ひっ、ひどいですわ! 考えても普通やりませんわよ!」
 「ぐっ、ぐえへっ、ぐへっ、ゴホッ、ゴホッ! あーもう、気管に入ったじゃない!」

 会場は爆笑や失笑や忍び笑いに包まれた。
 
 「秘密はソースをゼリーで固めた所ですっ! これはココナッツミルクソースでローストビーフを包みましたっ! さあ! 召し上がれっ!」

 各テーブルで切り分けられたローストビーフ、いやロストビーフが並べられる。

 「さて、B級なのは間違いないが、お味は……思ったよりいける!」
 「ココナッツミルクソースとビーフって合うのね!」
 「これは……別のソースと皿を使えばバリエーションが色々考えられるぞ!」

 そう、この料理のバリエーションとしては、赤い皿にトマトソースや、黒い皿にイカ墨などが考えられる。
 その中で、昨晩の試作で一番良いと思ったココナツソースにしたのだ。

 「おいし~」
 「見た! これが陸の実力よ!」
 「ま、まあまあですわね!」

 審査員の席でも、部長の席でも好評だ。

 「ココナッツソースとローストビーフの組み合わせは初めてですが、良い味ですね」
 
 とある審査員が感心した口調で言う。

 「ココナッツカレーを思い出してっ! 刺激的な味と肉とココナッツが合うのは当然なのよっ!」

 俺は意を得たりという感じでそれに応える。

 「これは納得の味わい―! そういわれてみうると納得の味だー! ハイレベルで愉快な好勝負が続いているぞー!」

 司会者の言う通り、いい勝負にはなっている。
 だが、俺の見立てでは、やや不利だ。
 俺は下を向き、わずかに表情を曇らせる。
 
 「あきらめるのは、まだ早いわ! ブリムレクル! わたしたちには、まだ、アレがあるでしょ!」

 再び早着替えで布の面積が減った師匠が俺を励ます。
 その名はブリアブリー!
 日曜朝を超えたエロさで2クール目で修正された存在!
 さらしで巻いた胸とブーメランパンツにねじり鉢巻き姿だ。
 うん、恰好はもうあきらめたよ……

◇◇◇◇

 「さて、次は『パン & チーズ』だ。 ここは同時に出して頂きましょう!」

 進行の関係なのか真紅さんと俺たちのパンとチーズが同時にテーブルに並べられる。
 俺たちは前日に発酵させておいたパン種を焼いた。
 真紅さんも同じ事をしていた。
 やはり、お互いに考えているのは同じらしい。
 焼きたてをアピールする作戦はお互いに不発に終わった。
 彼女たちのパンは『バタール』中間Batardを意味するフランスパンでありふれたパンだ。
 俺たちは『パン・ド・カンパーニュ』田舎Campagneの名が付いたパンだ。
 最近はちょっとしたパン屋ならどこでも売っている。

 「わたしたちは、バタールとスティルトンです」

 スティルトンは名前だけは知っている。
 イギリス王室ご用達のブルーチーズだ。
 やはり高い。

 「あら、マゼンダさんもミスをするようじゃな。スティルトンはB級とは言えんぞ」

 くふふ、いやらしいわらいで部長が言う。

 「ふ、ふんっ! マゼンダさんがそんな初歩的なミスをするわけが……わけが……」
 「安心するにゃよ! チーフ!」
 「はい、食べながらで良いので聞いて下さい」

 真紅さんが、既にバタールとスティルトンに手を伸ばしている審査員たちに向けて語りかける。
 
 「スティルトンは今ではエリザベス女王も愛するロイヤルチーズですが、その始まりはスティルトン村の宿屋のチーズだったのです」
 「スティルトン村は小さな宿場町だったにゃよ!」
 「それが今は限られた数社だけがスティルトンの名前を使えるブランドになったのです。かつてB級であったものも、その良さが広がっていくうちにA級へと進化しました。これは、かつてB級だった素晴らしい物です」

 会場から『おおー』と言う声が上がる。
 B級をそう絡めてくるとは。

 「スティルトンは何度も食べたけど、歴史を考えながら食べると、また味わい深いね」
 「あたしはスティルトン初めてだけど、青カビの刺激とチーズの甘味がいいわ」
 「うん、味わって食べたいね」

 上品ながらも、その手は止まらない。
 
 「さて、一方のニンジャコックの方は……こっちもブルーチーズかな」
 「いや、白カビチーズでしょ」
 「「はい!?」」

 俺たちのチーズを見た審査員から疑問の声が上がる。

 「どっちも正解でしょ!」
 「このチーズは『カンボゾーラ』! ブルーチーズでもあり白カビチーズっ! 一粒で二度おいしいチーズよっ!」
 「B級に深い考えなど不要でしょ! 珍しくておいしい! それだけでいいでしょ!」
 
 カンボゾーラはドイツの比較的新しいチーズだ。
 いつか愛しのガキどもに食べさせてやろうと思ってチェックしていた。

 「でも、これマイルドだわ」
 「そうそう、ブルーチーズの刺激が少なくていい! 正直スティルトンより好みだわ!」
 「これだから、B級審査員は、スティルトンの味がわからんのかね」
 「好きな物を素直に言うのもB級よ! 歴史とか、伝統とか、ロイヤルとかB級には不要だわ!」
 「B級の素晴らしさを広げたくないのかね! 素晴らしい物ならば、いずれそれが評価される時の事も考えておくべきだ!」

 審査員席でいざこざが始まる。
 
 「審査員の間でも意見が分かれ始めた。それだけ両者の料理が拮抗している証拠だー! さあ、泣いても笑っても次のデザートで最後になります。コースの締めくくりを果たすデザートはどんな物が飛び出すのかー!?」
 
 「あら、これで最後ですのね。少し残念だわ」
 「ほほう、お主も陸の料理を認めたのかのう?」
 「ええ、正直予想以上ですわ。ですが、マゼンダさんの勝利は確実ですわ。ま、あなたたちには分からないでしょうけど」
 「ええ~!? どっちもおいしいよ~、りっくんは負けてないんだから!」
 「あなたがそう思うのは正しいですわ。ですが、あれをみれば考えが変わるのではなくって?」

 うざ子が指差す先には審査員席のワイングラスだ。
 真紅さんの赤ワインは、ほぼ空になっていて、お代わりを頼む人も出るほどだ。
 だが、俺の貴腐ワインは半分減っているのが精々だ。

 「これは『フランス料理フルコース高級ワイン付き』ですのよ。ワインと合わないのが致命的ですわね。ま、チーズとはちょっと合いましたけど」
 「そ、それでもあたしは信じている! りっくんは、ずっとずっとかしこくて、いつもあたしをビックリさせてくれるんだから!」
 「あら、甘々ですわね。でも、もうデザートですのよ。甘いデザートに甘い貴腐ワインは合いませんわ。もはや挽回は不可能ですわよ」
 「わしは信じておる! 陸はわしらに素晴らしいデザートを食べさせてくれると!」
 
 部長たちの会話が俺の耳に入る。
 許してくれ部長、蘭子。
 俺はお前たちの期待を裏切らなくてはならない。
 きっと怒るだろうな。
 いや、涙に濡れて悲しませる事になるだろう。
 ごめんな……
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