超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太

文字の大きさ
86 / 120
第五章 準決勝

その15 腐ってやがる……おいしすぎるんだ

しおりを挟む
 「さあ! 最後のデザートです!」
 「アイスクリームとシャーベットとかき氷の練乳がけです」
 「本当はソルベにゃね!」

 山と雲の形をしたのデザートがテーブルに運ばれていく。
 上部は水色のかき氷、下部はチョコレートアイス、そして雲はわたあめだ。

 「これが最後の仕上げです」

 そう言って、真紅さんは薄茶色の液体を山のふもとに注ぐ。
 そして……火を付けた。

 シュボッ

 メラメラと燃える火は一瞬で燃え尽き、そして砂糖の焦げる良い甘い匂いがした。
 フランベだ。
 昼の長い夏といえども、長い調理時間と審査で日は夕暮れに差し掛かっており。
 夕日に映え、その炎は美しかった。

 「どうぞお召し上がり下さい」

 気品すらあふれる真紅さんの所作に、B級というお題で浮かれ気味になっていた審査員の襟を正す。

 「では、いただきますか」
 「ええ、最後ですもの、ちゃんと評価しなくてはね」

 スプーンがかき氷を崩し、アイスクリームと果物のシャーベットと共に口に運ばれる。

 「これは、ひとつのデザートで3種を楽しませるのだね」
 「砂糖のカラメルと練乳とシャリシャリした食感とソルベのフルーツ感が広がってくるわ!」
 「なんて欲張りなデザートなんだ!」
 「こんなデザートを一度食べてみたかったのよ!」

 「そうです。これは子供の時の夢を叶えるデザートです。『アイスが食べたい、かき氷も食べたい、シャーベットもわたあめも、練乳をたっぷりかけて!』それは、わたしの夢でした」

 思い出すように、懐かしむように彼女は言う。

 「子供は欲張りです。でも、その気持ちが懐かしくも愛おしい。わたしはこのコースで、やがてA級になると信じているワインを出しました。かつてB級でしたが今はA級となったチーズも出しました。そして、最後には幼い頃の夢をデザートとして出しました」

 そう言って彼女が合図を送ると、中央のビジョンにあるデザートの画像が映し出される。
 それは、かき氷の上にアイスとシャーベットが乗っただけのものだった。

 「これは、好きな物と好きな物と好きな物を掛け合わせただけの単純な足し算です。最初は単なる盛り合わせでした、洗練されていないB級です。ですが、何度も何度も試作も繰り返し、このデザートをここまで育て上げたのです」

 彼女が示したデザートは、もはやB級ではなかった。
 ここにいる誰もが認める素晴らしい品だった。

 「わたしが『B級』というお題で伝えたかったのは『成長』です。B級は成長する、人も成長する、ですが、その根源にあるのは幼い時の夢、つたなくも微笑ましい、それが『始まりのB級』であり『未来のA級』なのです」

 パチ……
 パチ……パチ……
 パチパチパチパチ
 パチパチパチパチパチパチパチチ!

 俺は拍手をしていた。
 師匠も拍手をしていた。
 審査員たちも立ち上がって拍手している。
 「ブラボー、おお! ブラボー!」
 空中で逆立ちしたポーズで器用に拍手しているフランス人もいる。
 うざ子はもとより、部長も蘭子も拍手している。
 それが鳴りやむまで、数分の時間を要した。

◇◇◇◇

 「素晴らしい! 本当に素晴らしい! ここまで見事なコース料理があったでしょうか!? 『B級』という、ともすれば不利なお題で、真紅選手は最高の料理を魅せてくれました! ですが、まだ勝負は着いていません! ニンジャコック選手のデザートが残っています!」
 
 流れは完全に真紅さんに傾いている。
 だが、俺は覚悟を決めなくてはならない。
 俺は最後の早着替えを終える。
 この姿はブリ法被はっぴ
 素肌に法被を羽織り、下半身パッチの姿だ。
 パッチとは肌にぴっちりした股引ももひきの事だ。

 「ピチピチパッチでハピハピハッピー! ブリの神輿に載って、大漁願い、祝い、踊る、ブリハッピーよ!」

 この雰囲気の中で、これを言うのは逆効果だ。
 会場からは失笑しか漏れない。
 でも、俺は言わなくてはならなかったのだ。

 「さあ! これがラストデザート! 『旬のフルーツポンチ』よ!」

 色彩鮮やかな果物が入った大型のボウルが各テーブルに配膳される。

 「ん!? これはシロップが無いじゃないか!?」
 「さっきみたいな保護色や光の錯覚じゃない! 本当に入っていないぞ!?」

 テーブルからざわめきの声が聞こえ始める。

 「みんな落ち着いて! シロップはあるわ! みんなの目の前に!」

 俺は叫ぶ。
 皆がテーブルの上に視線を泳がせる。
 そして、に行きついた。
 氷の入った銀色のバケツ、ワインクーラーに行きつく!
 そこには、まだ半分以上残っている冷え冷えの貴腐ワインがある。

 「おい、まさか……、こんな使い方をするのか!?」
 「高級ワインだぞ! 砂糖水とは違うのだぞ!」
 「おのこしは絶対ゆるさないわ! そして、高級ワインを残すなんてもったいないんじゃなくって!」
 「そ、それはそうだが……」
 「さあ! みんなブリギョダにエールを送るハマチ!」

 師匠が裏声で出世魚を思わせる語尾を付けて叫ぶ。

 カチーン

 瓶と瓶が触れ合う音だ。
 
 「我ら三人、生まれし日、時は違えども、完食の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、空腹の者たちを救わん。上は自然の恵みに報い、下はシェフを安んずることを誓う。同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日、同時にごちそうさまと言わん事を願わん」

 おそらく『B級』のお題で選出されたのだろう。
 髭の豊かな3人組が瓶を掲げ、それをかち合わせると、一気にボウルに注ぎ込んだ。

 「胃袋はごはんのために! ごはんは胃袋のために!」

 四人組のテーブルでも瓶を掲げ合い、貴腐ワインがボウルに注がれる。

 「農家の愛と、有機栽培と、葡萄の名のもとに! マジカヨポンチ、フィニッシュアーップ!」
 
 仲良し3人組も一気にボウルを貴腐ワインで満たす。

 「それでは、我々もやりますか。サンテSante!」
 「サンテ!」

 サンテはフランス語で乾杯を意味する。

 「ちんちんTchin-tchin!」
 「ちんちんTchin-tchin!」
 
 あの、女の子が発してはいけない単語を言い合っているのは、うざ子と部長だ。
 ちんちんTchin-tchin!も乾杯を意味する。

 「うまいっ!」
 「貴腐ワインの甘さとフルーツの酸味が見事な調和を出しているわ!」
 「フルーツポンチの起源ではアルコールが入っていたという歴史があります。良い味なのは当然ですね」

 審査員席からの評価も上々だ。

 「しかし、残念じゃ。わしらは砂糖水でのフルーツポンチじゃからの」
 「うえーん! 信じてたのに、完全版のりっくんのデザートが食べれないなんて」
 「ほほほ、この味を楽しめないとはざーんねーんですわね。わたくしが全部頂きますわ」

 部長と蘭子に一鉢分を取り分けると、うざ子は残ったボウルにドボドボと貴腐ワインを注ぎ込んだ。

 「おいちい!」

 スプーンを口に入れ、うざ子が感嘆の声を上げた。

 「ポンチ! ポンチ! ポンチおいしい! ポンチもっと! もっと!」

 いくらアラサーと言えども、うら若き女の子が言ってはいけない単語もあるのに……
 うざ子! なんて残念な子!
 
 「ぐぬぬ、陸、覚えておきなさい。あたしたちをないがしろにするなんて」
 「そ~よ! 食べ物の恨みは恐ろしく、デザートの恨みは別腹なんだから~!」

 てへっ、というポーズを取って俺はふたりから視線を外した。
 あっちのテーブルは見ない事にしよう、ふたりがおっかないからな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...