地球よいとこ たまにはおいで

相田 彩太

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第二話 アンドロイドは女子会の夢を見るか

中編

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 「あー、今日も順調に暇だ。メイ、次の異星人エイリアンの予定はどうなっている」
 「ええと、二週間後にグリリン星人の観光者が二名いらっしゃいます。目的は地球での森林浴だそうです」
 「おお、それは楽でいいな。僕はこのまま惰眠をむさぼるから、メイ、後はよろしく」
 「はい、承りました。マスターはゆっくりとお休み下さい。では、私は準備がありますので」
 そう言ってメイは倉庫へ向かって行った。
 「うん、よろしく」
 
 「ふぅ、どうやらばれていないようです」
 第二倉庫に入りメイは胸をなでおろす。
 動悸が速くなったりしてはいないが、現地人の行動パターンを学習した結果の行為だ。
 「あっ、メイちゃん。おかえりー」
 メイの音声センサーにパチッパチッと不協ノイズが検出される。
 「ああ、飛鳥あすかさん、ちょっと待って下さいね。今、霊感ゴーグルを付けますから」
 メイは棚にあるゴーグルを付け、スイッチを入れ、部屋の片隅にある古ぼけた椅子とテーブルを見る。
 地球で百年以上前に手に入れた欧州産のテーブルと椅子のセットだ。
 そこには薄青色の人物が座っている。過日の地球からの闖入者ちんにゅうしゃの少女だ。
 「ごめんなさい。お待たせしました」
 「ううん、あたしこそごめんね。夢の中で何度もお邪魔しちゃって」
 「夢だから良いんですよ。さあ、お茶にしましょう」
 「うん」
 テーブルの上には賞味期限ギリギリの霊種用クッキーとお茶が並べられる。
 過日の出来事の後でメイはビクターから聞いたのだが、銀河連盟には『始まりの六種族』と呼ばれる高位種が存在し、その中に肉体のくびきから解脱した霊体種がいらっしゃって、これらはその接待用に準備している物だそうだ。
 「いつもご馳走になっちゃってごめんなさい。これ美味しいね」
 「何でも、お偉いさん用の接待菓子だそうですよ」
 「えっ、そんな高級なクッキーを頂いても良いの?」
 「賞味期限ギリギリだからいいんですよ。元から切れたら破棄する予定のものですから。今まで何回も破棄しているんですから」
 「そっか、じゃあおいしくいただきますね」
 「それでね。飛鳥さん聞いて下さいよ。マスターったら仕事を私に全て押し付けてね。そりゃあ、私はマスターの創造物ですよ。だけど、もう少し愛着を持って接してくれてもいいと思いません」
 「うん、わかるわ。あたしも前のバイトで店長から給料を払ってやってんだ、という態度で接された時はムカついたわ。雇用者と従業員は対等関係なのにね」
 二人は倉庫の片隅で会話を続ける。仕事の事、将来の事、今まで一番笑えた事、他愛のないおしゃべりを何時間も続けた。
 「ああ、いっぱいおしゃべりしちゃって疲れちゃった。あたし、そろそろ帰るね。あれ、夢だから覚めるかな」
 「ええ、また遊びに来てくださいね」
 メイが手を振ると、飛鳥と呼ばれた少女が光となって消えていった。
 「さて、後片付け、後片付けっと」
 霊体食料の特殊パッケージを手に第二倉庫からメイが出る。
 「誰と話しをしていた」
 倉庫から出た所で扉の陰から声が掛かる。
 「マ、マスター!? いやだなぁ、独り言ですよ独り言、ほら、地球人もよく独り言をするって話じゃないですか。私も現地人に同化する練習をしなくちゃって思っていましてね」
 「霊体種用ゴーグルを付けてか」
 メイが自らの顔に手をやる。
 「こ、これはですね。霊体種の御方おかたをいつお迎えしても良いように、練習をですね」
 「食べれもしない霊体種用食料をちょろまかしてか」
 ビクターの視線がメイの手にある特殊パッケージに注がれる。
 「これは、その……」
 その様子にビクターは頭に手をやり、少し考えるそぶりを見せた。
 「いいかメイ、これは命令だ。あの子を二度とコテラに来させるな」
 「そんなマスター、飛鳥さんは夢だと思っているのですよ。何ら問題はないはずです」
 「そう言う意味じゃない。ちょっと長くなるがちゃんと説明するから、指令室へ来い」
 ビクターはメイを促し、指令室へ入るとモニターの前に腰を落ち着けた。
 「いいかメイ、彼女は生霊だ。体は生きていて、その魂だけがコテラに遊びに来ている」
 「ええ、私も少しは勉強したんですよ。所謂いわゆる、魂は死ねば肉体と別れ、星の大地に還りますが、いくつか特殊なケースでは個々の意識を保ったままで活動するケースがある。生霊はその一つである。でしょ」
 「そうだ。だが、通常は肉体から離れない魂が、外に出る場合は相応の理由がある」
 ビクターは顔を曇らせて言う。
 「肉体が死にかけている……」
 「そうだ、過日の最後に彼女が戻った場所。がんセンターの患者は、彼女の若さでは命に関わる難病に冒されている。彼女も例外ではない」
 「でも、飛鳥さんはあんなに元気に」
 「それは、そいつのお陰だ」
 ビクター指差す先は、メイの手にある霊体種食料の特殊パッケージ。
 「これが?」
 「それは、『始まりの六種族』の霊体種用の高圧縮霊体食料だ。霊体の栄養補給は周囲から非常にゆっくり取り込むのだが、圧縮された食料のような形で摂取すれば、その効果は格段に違う。普通なら、地球からコテラへの往復で霊体は非常に消耗し、数回で消滅してしまうだろう。だけど、そいつを一つ取れば、何百回往復しようが御釣りが来る」
 「じゃあ、彼女、飛鳥さんは本能的にこれを求めにコテラに来たっていうのですか」
 「否定はできんよ。本来ならば、僕が最初にそれを与えなければ、消耗した霊体が肉体に戻った時に彼女は死んでいただろうな。それはちょっと寝ざめが悪いのでご馳走したが、こんな結果になるなら止めておけば良かったかな」
 「でもでも、逆を言えばこれを与え続ければ飛鳥さんは助かるって事ですよね。賞味期限ギリギリの物はまだいっぱいありますから」
 アンドロイドでも希望に満ちた表情というものはあるものだろうか。パッケージを抱きしめるメイの顔を見ながらビクターはそう思った。
 「残念ながら、そうはならない。霊体が活性化しようとも、肉体の病巣を消し去る事は出来ない。精々『本来ならば、とっくに力尽きていてもおかしくなかったのに、気力だけでここまで持ったのです』と医者に言われる程度だ」
 「そんな、飛鳥さんは絶対助からないのですか。やっと友達になったんですよ。マスターと創造物という関係でなく、何でも言い合える」
 メイがコンソールに突っ伏し嗚咽の声を漏らす。
 涙を流す機能がメイにあったならコンソールは濡れていただろう。
 「あー絶対という訳ではないが、それには色々と手続きとか、面倒臭い所とかがあってな」
 ガバッとメイの顔があがる。
 「何ですかそれは! いえマスター、皆まで言わずとも検索しちゃいます。人類の治療……ではなく、採取した現地生命の健康維持について、ですね!」
 「いや、ちょっと、そこまでしなくても、彼女の冥福を祈るだけの方が手間がかからずに」
 「大丈夫ですマスター! 手続きや世話は私がやりますから! では行って来ます!」
 メイは立ち上がりダッシュで指令室を出る。目指す先は降下艇のドッグだ。
 頭をポリポリ掻いてビクターは通信のスイッチを入れる。
 「メイ、交換用の擬態義体を忘れるな」
 「はいマスター!」
 窓の外から眼下に広がる地球に向けて降下艇シャトルの光が見える。
 宇宙側からしか見えないその光は、この星の最大の大陸の東に位置する弓状の島国に向かって降下していった。
 
 「マスターただいま戻りました」
 約半日後、メイが帰還した。地球人の女の子を連れて。
 「カルテデータも手に入れてきましたよ」
 「そうか、病名は?」
 メイが手にした情報端末に目をやる。
 「白血病ですって。血液のガンですね」
 その病名は高確率で死に至る病であり、快癒後も再発の可能性がある難病だ。
 だが、コテラにある医療設備を使えばその限りではない。
 「そうか、では二週間かな」
 「はい、移動中に医療ドッグに情報を入力しておきました。これから飛鳥さんの治療に入りますわね」
 メイが移送デッキに女の子を乗せ、現地生命用医療ルームへ向かった。
 まあいいか、手続きは全てメイにやらせれば。
 ビクターはそう思い、安楽椅子に腰をおろした。
 
 十三日後
 「メイ、あの子の経過はどうだ」
 「はい順調です。脊椎に移植した細胞は完全に融合しています。拒否反応もありません。明日には健康な体で地球に送還できます」
 「そうか、だがメイ通常任務をおろそかにするなよ」
 「大丈夫です。グリリン星人をおもてなしする準備は整っています。予定より早く到着なさるそうですが、問題ありません」
 「さすがメイだ。では僕も少し働くか」
 よっこいしょと椅子から立ち上がるとビクターは宇宙船デッキに向かった。
 
 デッキには既に宇宙船が入港していた。ドッキングチューブがゲートに接続される。
 ビクターはゲートでにこやかな笑顔を浮かべ異星人エイリアンを待つ。
 ゲートのランプが灯り、わずかな気圧差からプシューという音を立てて扉が開く。
 「ようこそいらっしゃいました。僕はコテラの管理にて……」
 歓迎の言葉は最後まで紡げなかった。
 ゲートから出て来たのは丸い筒とボールの構造体、地球の現地年代二十世紀中盤のスペースドラマに出てくる銃のような物だった。
 銀河連盟所属体では一般的な光線銃である。
 それがビクターに向けて突き出されていた。
 「ご、ご冗談はおよしになって下さい」
 ひきつった笑いでビクターが両手を上げる。抵抗の意思がないポーズだ。
 「残念だが、これはジョークではない。我ら『緑の星解放同盟』はこの基地を占拠する」
 緑色の肌を持つグリリン星人はそう宣言した。
 「お待たせしました。グリリン星人様、このメイがお客様のお世話を致します。何なりとおっしゃて下さい」
 遅れてメイがデッキに入ってくる。
 最悪のタイミングだとビクターは思った。
 「いいおもてなしだ。では、両手を上げてもらおうか」
 光線銃をメイに向け、二人目のグリリン星人は悪そうな笑みを浮かべた。
 
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 ビクター達が地球人に対する高度な医療技術を持っている裏には、今まで輸出された人類が多く居る事を示唆しています。
 輸出の際に品質チェックと、欠陥があった場合は治療をしていたのですね。
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