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第四話 里山戦争
前編
しおりを挟む「あー今日も順調に暇だ」
ビクターが安楽椅子に寄りかかっていると、コンソールより非常用のアラームが聞こえて来た。
「げー」
そのアラーム音が示すのは優先度高の意味であり、通常業務を一時中止してでも対処する必要があるからだ。
ビクターはコンソールに移動し、メールのメッセージを読む。
超光速通信が可能な銀河連盟の技術を以ってしても、銀河内での通信にはタイムラグが生じる。
メールは星系間での一般的な通信手段だ。
「何々、凶悪な犯罪者が脱走し、太陽系へのゲートへ侵入した。早急に捕獲もしくは排除せよ。生死は問わない……って、何じゃこれ!」
ビクターが驚愕の声を上げ、コンソールを操作する。
メールの添付情報を開き、件の犯罪者の情報に目を通す。
犯罪者の名はガルー、ルルル星人で遺伝子改造を受け、肉体を強化しており、銀河連盟加盟星人を数人殺害し、隔離所に護送中の所を脱出、宇宙船を奪取し、警備の手薄な太陽系へのゲートへ突入、地球へ向かっているとの事だ。
「メイ、緊急監視体制をゲートからコテラへ敷き、防衛体制を取れ」
「はいマスター。既にゲートとコテラの監視情報からガルーの宇宙船を補足しています。到着は一週間後だと推察されます」
「宇宙船の装備は?」
ビクターが尋ねる。宇宙船が武装しているとコテラには打つ手が無い。
コテラには存在を隠匿する機能や対星人レベルの武器はあっても、宇宙艦戦闘が出来る武装は所持していない、ビクターの問いは、コテラの方針に大きく関わるものだった。
「ガルーが奪取したのは個人所有の観光用星間船です、武装はありません。中にあるのは一般的な観光用装備と食料です」
メイの答えにビクターは胸をなでおろす。
「よしメイ、コテラはこれよりハイドモードに移行する。ガルーはやり過ごそう」
「よろしいのですか? 指示は捕獲もしくは排除とありましたが」
「コテラに接舷されると逆にコテラの設備を乗っ取らねかねない、少しリスクはあるが地球上での捕獲か排除する事にしよう」
そう言ってビクターは再び安楽椅子に戻って行った。
「マスター、ガルーが降下船を用いて地球に降下した模様です」
一週間後、メイがビクターに報告する。
「宇宙船は?」
「地球の軌道上にあります。回収可能です」
「よし、スレイブロボを取りつかせて、中の確認。ガルーの不在を確認したらコテラに回収するぞ」
「マスター、珍しく活動的ですね」
「ああ、この個人用星間船はかなり高級なカスタムメイドでね。少ない損傷で回収すれば、礼金がもらえるからさ」
相変わらず現金なんだからとメイは思考したが、言葉には出さなかった。
主人の機嫌を損ねない機能も備えているのである。
「で、なんであたしがこんな事しなきゃいけないの?」
「ええと、宇宙船の回収は簡単に成功したのですけど、降下船も回収しないとですね、銀河連盟法に抵触するのでして……」
「メイちゃん! あたしが言いたいのはそんな事じゃないの!」
飛鳥が声を張り上げる。
「んー、バイト代も交通費もちゃんと出るぞ、あと危険手当も」
ビクターは冷静に答える。
「違う! それは重要だけど、違う!」
「じゃあ何が不満なんだ」
「この恰好に決まっているでしょ!」
飛鳥が両手を広げ、自らの姿をさらけ出す。
彼女の姿は水着に機械の肩アーマや腰アーマー、脛当て、小手を装備した日常とは思えない風体だ。
「これだったら水着で歩いた方がましよ!」
「飛鳥さん、これには事情があるのですよ」
「どんな事情よ! それにメイちゃんまで、そんなカッコでいいの!?」
メイは普段着であるメイド服に機械のランドセルを背負っている。
普通のランドセルならファッションとも言えなくはない、そのランドセルから巨大な砲身が二本生えてなければだが。
「あと、ビクターだけ普通のカッコしているのも気に入らないわ」
異彩を放つ二人に対し、ビクターは半袖のワイシャツにスラックスのクールビスなサラリーマンスタイルだ。
少し大きいカバンを持ってはいるが、布製の普通の物である。
「仕方ないだろ、ガルー捕獲装備を違和感無く着こなせるスタイルと言えば、美少女メカのコスプレスタイルが一番なんだ。ほら」
道を進んできたトラクターを運転している初老の男にビクターは「こんにちは」と挨拶する。
「おお、こんにちは。おんしらけったいな恰好じゃのう。確か二十の孫が見ていたテレビ番組に出てたような」
「ええ、僕たちこれから山へ入って撮影会をするんですよ」
カバンの中からビデオカメラを取り出し、ビクターがにこやかに笑う。
もちろん、そのビデオカメラは外側だけが地球で販売されている物に似ているだけで、中身はコテラの備品だ。
広域生体反応感知装置や降下船のステルス機能を看破する機能が備わっている。もちろん、地球の文明レベルに合わせた録画機能も。
「そっか、山へ入る時は気を付けな」
「危険な生き物が出るんですか?」
「ああ、最近クマが出とるでの。しかもツキノワじゃないヒグマっぽいやつじゃ」
両手を上げ、威嚇のポーズを取って老人は忠告する。
「えっ、ヒグマがいるの!?」
飛鳥が驚きの声を上げる。
「ヒグマがいるとおかしいのか、飛鳥?」
「おかしいわよ、本州には野生のヒグマは生息しないわ。きっと北海道から海を渡ったのか、クマ牧場や動物園から逃げて来たのね」
「色っぽい姉ちゃん、よう知っとるの。そう、たまに迷って来るのがおるんや。そいつが縄張り争いしとる。だからツキノワも気が立っとる」
「それは危険ですね。近づかないようにしましょう」
「ああ、山ではラジオを流しとくとええ、流れ弾も防げるけな」
そう言って、老人はゆったりとトラクターで進んで行った。
「メイ、どう思う」
「高確率でガルーでしょう。彼は遺伝子操作を受けていますから」
「そのガルーって、ヒグマより危険なの?」
「そうだな。銀河連盟所属の宇宙人は肉体的には弱い。だが、戦闘用に遺伝子操作を受ければ話は別だ。ヒグマの野生危険度ランクはBだが、戦闘用遺伝子操作を受けたガルーはAだ。ちなみに、このランク差はたとえヒグマでもガルーにかすり傷を付けるのが精いっぱいという所だな」
「それって、この装備で太刀打ち出来るの?」
飛鳥の小手には麻酔針とスタンスティックが仕込まれているが、それでは心配なのか少し弱気に飛鳥が尋ねた。
「大丈夫ですよ。メイがネットランチャーで動きを封じますから、アスカ、さんは落ち着いて麻酔針を打ち込んで下さい」
「わかったわ。でもメイちゃんも無理しないでね。あたしも、この田舎の平和を守る為にがんばるわ」
「よし、では僕の特別ボーナスの為にガルーを捕まえるぞ」
左手にカメラを、右手を天に突き出しながらビクターは山道に向かって行った。
「ねぇメイちゃん、この麻酔針の試し打ちしちゃだめかしら」
ああ、マジもんの目だ、メイの表情感知センサが飛鳥の顔を見て、そう告げていた。
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この話のタイトルは「宇宙戦争」からですね。
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