祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第1章 夢のおわり

1-18.幕間1 ミラ・ミュラー

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 ミラがホットドックを口に含むとプチッっとソーセージの皮が破れ、ジュワッと肉汁が溢れ出す。
 その肉汁は口の端から零れることはなく、パンに吸い込まれ、ひいては喉へと流れ込む。
 マスタードのピリッとした刺激は肉の味を飽きさせることなく、次のひと口を誘う。
 それでも尚、肉汁の旨味は強く、重く、脂っこい。
 だが、心配ご無用。
 左手のゼロカロリーのコークを口に注げば、シュワシュワの刺激と甘いのにスッキリとしたのどごしが、再びミラにホットドックと戦う意欲を与える。

「うーん、やっぱり下界鑑賞にはホットドックよねー」
「そうかしら、わたくしは定番のキャラメルポップコーンが好みだわ」

 同じ顔をしたふたりの女性は安楽椅子に座り、軽食を楽しみながらスクリーンを眺める。
 スクリーンの中ではひと組の男女が回転しながら熱いベーゼをかわしている。
 映画のワンシーンのようであるが、そうではない。
 からみあっている男女はキングとアイシャ。
 
『高見の見物を決め込みたい』

 ミラの願いをかいつまめば、このようになる。
 ミラは神が与えたこの空間で映画鑑賞でもするように世界の様子を眺めている。
 ふたりはそこを下界と呼んでいた。
 
 ズズッ

「あら、コークがなくなっちゃった。かみさまー、コークおかわりー」
「その要請に応えよう。コークいっちょう!」

 ふたりが神と呼ぶ光の人型ががそう言うと、空のカップがなみなみとコークで満たされる。

「ありがとー、かみさまー」
「どういたしまして。楽しんでいるかね?」

 ミラが神に願いを言ってから数日、この座は快適そのもので、生活に必要なものは全て神が準備してくれる。
 魔法のようにポンと出してくれることもあれば、暗闇の地平よりスゥーと近づいてくる場合もある。
 時には神がエプロンを付けて給仕してくれこともあった。
 彼女はこの神が想像してたより親しみやすいと感じていた。
 
「ええ、みなさんが与えられた”祝福”をどう使うか考えている姿はとても興味深かったですわ。ですが……」
「あら、何か気になることでもあるの?」

 ミラと同じ顔をした女性が隣のチェアから問いかける。
 彼女の正体も謎。
 ミラが質問しても彼女は『そのうちわかるわよ』と誤魔化すだけ。
 しかし、ミラは彼女と不思議と気が合った。
 服も食べ物のチョイスも、下界に動きがない時に暇つぶしてがらに見るの映画の趣味も。

「わたくし思うんですけど。この”祝福ゲーム”って、もう終わってません? だって、下界のみなさんがキングを愛してしまっているのですから」

 ”祝福者”の残りは17人。
 普通ならば、これからドラマは中盤。
 だが、”祝福者”は、いやミラを除いた全人類がキングを愛している。
 ”祝福者”はその願いを『キングのために使いたい』と思ってしまっている。
 これでは出来レースもいいところ。
 ”祝福”が未だ使われていないのは、”祝福者”が世界中の全ての人々がキングを愛していると知らないため。
 他の”祝福者”を警戒しているからに他ならない。
 もしそれが知れ渡ってしまったら、今にでも残り全ての”祝福”はキングのために使われてしまうだろう。
 だが、そんなミラの予想をあざ笑うかのように、彼女と同じ顔の女性はニヤニヤと笑う。

「あら、何かおっしゃりたいことでもありまして?」
「あるわ。あるけど言わない。ネタバレはお嫌いだよね」
「ええ」

 彼女の言う通り、ミラはネタバレが嫌いだ。
 そもそも世の中にネタバレが好きな人っているのかしらと思うくらいは。
 
「だよね。でも、ちょっとだけ先のヒント。たとえ世界が愛に満ちていてもね、すれ違いって起きるものよ。ありがた迷惑とも呼ぶけどね」

 そう言ってミラと同じ顔の女性はニヒヒと笑った。
 その表情はミラが友達に映画のネタバレを話す時の顔にとてもよく似ていた。

 
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