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第2章 夢からさめても
2-17.希望の絶望 クリストファー・グッドマン
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”元祝福者”、クリストファーグッドマンが凛悟と蜜子の泊まるホテルへ到着したのは4月1日の日付が変わろうとするころだった。
アメリカ西海岸から成田まで、さらには内陸の都市までの移動は強行軍ともいえる旅路であったが、グッドマンの足取りは疲労など感じないかのように強かった。
いや、感じる疲労など、彼にとってはささいなことだった。
ホテルのフロントでスタッフを呼び、グッドマンは片言の日本語で話す。
「このホテルの721号室のリンゴさんミツコさんとにアポイントメントの約束があってキマシタ。おとりつぎクダサイ」
「こんな時間にですか?」
「ハイ、エゴルトのおつかいと伝えてクダサイ。お願いシマス」
訝しげな表情を浮かべながらも721号室へコールするスタッフをグッドマンは祈るように見る。
「連絡が取れました。721号室へお越し下さい」
「ありがとう。アリガトウゴザイマス」
スタッフの手を握り、そこに安くないチップを握らせると、グッドマンは足早にエレベーターへと向かった。
721号室の前でノックをし、地に頭を着けて部屋の主が出てくるのを待つ。
カチャリと鍵の外れる音がして、中からひとりの青年が、凛悟が出てきた。
「どうぞ……って、何をしてるんです?」
「あっ、これってあれよね。土下座よね。あたし実物見るの初めて」
少し驚いた声でふたりはグッドマンに声をかける。
それもそのはず、彼らが見たものは正座をして地面に頭をつける外国人の姿だったのだから。
「このクニでは、これがモットモお願いのポーズだと学びました。お願いデス。助けてクダサイ。ワタシを、イイエ、ワタシの娘を助けてクダサイ」
必死にお願いするグッドマンの姿にふたりは膝を落として語りかける。
「話を聞きましょう。頭を上げて中に入って下さい」
「そうね、他の人に聞かれたくないし」
「アリガトウございます」
中に入ると簡素なテーブルと椅子が人数分用意されてあった。
グッドマンはそれに少し違和感を覚えたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
早くふたりを説得して協力を取り付けなければ。
それこそがグッドマンにとっての唯一の希望だった。
「それで、えっと、グッドマンさんでしたっけ?」
屈託のない笑顔で蜜子がグッドマンに語りかける。
その表情は娘の死で荒れていた彼の心を少しだけ柔らかくした。
「はい、ワタシ、クリストファー・グッドマン、イイマス。神に選ばれたブレッサのひとりです」
「センパイ、ブレッサって?」
「”祝福者”のことだ」
「ふたりともゴゾンジですか? 昨日、世界中でヒトがイッパイ死んでるのを」
「ああ、知ってる」
世界中で起きた謎の大量死。
それは既に大きなニュースになっており、ふたりはそれを良く知っていた。
もちろん、それが”祝福ゲーム”によるものだとも。
「ワタシは、同じブレッサのエボルト社のエゴルトCEOのおつかいでキマシタ。エゴルト様はご存知ですか?」
「知ってる。エボルトテック社の社長でしょ。メールも来たし。あれって本物?」
「ホンモノです。エゴルト様はあなたたちに協力をモトメマス。お願いです、助けてクダサイ」
夢の記憶から”祝福者”を割り出したエゴルトが送ったメール。
それは凛悟たちだけではなく、グッドマンにも届いていた。
グッドマンはそのメールから、わずかな希望を見出した。
彼自身の”祝福”は失われてしまったが、まだ”祝福”を保持している者であったなら、奇跡を起こしてくれるかもしれない。
グッドマンはエゴルトの元を訪れ、そしてグッドマンは彼に希望を与えた。
『僕なら君の娘を、いや、死んだ全ての人を生き返らせられるかもしれない』
エゴルトが与えた言葉、それがグッドマンの唯一の希望だった。
「協力って、何すればいいの?」
「間もなく、エゴルト様が日本にキマス。エゴルト様のトコロで、エゴルト様の言う通りにブレスを使って下さい。そうすれば死んだヒトたち生き返ります。お金はイッパイもらえます。メールの10倍ハライマス」
「10倍って、100億! センパイ、それだけあれば一生ウハウハですよ!」
「そうだな。だが、まだ俺は信用していない。どうやって死んだ人を生き返らせる? 死んだ人間は生き返らないというルールがある」
凛悟からの問いにグッドマンは一瞬声を詰まらせる。
その答えについてグッドマンはエゴルトより言ってはダメだとも言っても良いとも指示されていなかったからだ。
だが、隠し事は良くない。
こちらから心を開かなければ、信頼は得られない。
そう考える彼の心が口を開かせた。
「エゴルト様の作戦はこうデス。ひとつの願いで『死んだ人間は生き返らない』というルールをケス。そしてふたつの願いで死んだ人間を生き返らせる。お願いデス、病気で死んだワタシの娘を、キャロルを死から救うにはコレしかないデス」
テーブルに額を付けてグッドマンは立ち土下座のようなポーズを取る。
「あれ? でもそれだとキャロルさんは病気のまま生き返ってしまわない?」
蜜子の疑問に、グッドマンは臓腑が締め付けられるような感覚を覚えた。
「ああ、その程度なら問題ない。ふたつめの願いで『この祝福ゲームが始まってから死んだ人間を健康な状態で生き返らせてくれ』とすればいい。エゴルトもそう考えているだろう」
「なるほど、センパイあったまいいー」
グッドマンの胸の痛みが和らぐ。
かすかな希望が、現実のものとなっていく。
「お願いします。ナンデモします」
「あ、いま何でもって。それはそうとして、どうします? センパイ」
「まあ、お金で妥協するのも選択肢のひとつかな」
「アリガトウ! センキュセンキュベリーベリーマッチ!」
涙を流しグッドマンはふたりの手を握る。
「ただ、伝えておかなければいけないことがある」
「ナニを、デスカ?」
「俺の”祝福”は使用済だ。だから、協力出来るとすれば蜜子だけになる」
「ソウですか……」
「だけど、報酬はふたり分、200億欲しい」
「ワカリマシタ。エゴルト様に伝えます。いや、ダメでもワタシが払います! イッショウかけて!」
「いい返事を期待している。明日の朝、またここに来てエゴルトの所へ案内してくれ」
「ハイ! キモに命じます!」
良かった、交渉が成立した。
協力を得られたのはひとりになってしまったが、それでも目標に一歩進んだ。
そう思いながらグッドマンは721号室を後にした。
◇◇◇◇
翌朝、グッドマンは希望に満ちた足取りで721号室を訪れる。
夜の間にエゴルトから報酬についての了承を得られたこともあったが、何よりも彼の心を動かしていたのはふたりが信頼できそうだという感触からだった。
「オハヨウゴザイマス、リンゴさん、ミツコさん。お迎えにアガリました」
そう言いながらノックする感覚にグッドマンは違和感を覚える。
軽い。
ノックの音が。
ドアには何かが挟まっていて、少し隙間が空いていた。
「マサカ!?」
ドアの鍵は掛かっておらず、隙間のせいでオートロックも作動していなかった。
中には誰もおらず、荷物らしきものも見当たらなかった。
ただひとつ、テーブルの上に2枚の紙が置かれていた。
1枚目の内容は簡潔だった。
『ゴメンナサイ。あなたのことは信じられるけど、やっぱりエゴルトは信用できません』
グッドマンの希望は絶望へと変わった。
アメリカ西海岸から成田まで、さらには内陸の都市までの移動は強行軍ともいえる旅路であったが、グッドマンの足取りは疲労など感じないかのように強かった。
いや、感じる疲労など、彼にとってはささいなことだった。
ホテルのフロントでスタッフを呼び、グッドマンは片言の日本語で話す。
「このホテルの721号室のリンゴさんミツコさんとにアポイントメントの約束があってキマシタ。おとりつぎクダサイ」
「こんな時間にですか?」
「ハイ、エゴルトのおつかいと伝えてクダサイ。お願いシマス」
訝しげな表情を浮かべながらも721号室へコールするスタッフをグッドマンは祈るように見る。
「連絡が取れました。721号室へお越し下さい」
「ありがとう。アリガトウゴザイマス」
スタッフの手を握り、そこに安くないチップを握らせると、グッドマンは足早にエレベーターへと向かった。
721号室の前でノックをし、地に頭を着けて部屋の主が出てくるのを待つ。
カチャリと鍵の外れる音がして、中からひとりの青年が、凛悟が出てきた。
「どうぞ……って、何をしてるんです?」
「あっ、これってあれよね。土下座よね。あたし実物見るの初めて」
少し驚いた声でふたりはグッドマンに声をかける。
それもそのはず、彼らが見たものは正座をして地面に頭をつける外国人の姿だったのだから。
「このクニでは、これがモットモお願いのポーズだと学びました。お願いデス。助けてクダサイ。ワタシを、イイエ、ワタシの娘を助けてクダサイ」
必死にお願いするグッドマンの姿にふたりは膝を落として語りかける。
「話を聞きましょう。頭を上げて中に入って下さい」
「そうね、他の人に聞かれたくないし」
「アリガトウございます」
中に入ると簡素なテーブルと椅子が人数分用意されてあった。
グッドマンはそれに少し違和感を覚えたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
早くふたりを説得して協力を取り付けなければ。
それこそがグッドマンにとっての唯一の希望だった。
「それで、えっと、グッドマンさんでしたっけ?」
屈託のない笑顔で蜜子がグッドマンに語りかける。
その表情は娘の死で荒れていた彼の心を少しだけ柔らかくした。
「はい、ワタシ、クリストファー・グッドマン、イイマス。神に選ばれたブレッサのひとりです」
「センパイ、ブレッサって?」
「”祝福者”のことだ」
「ふたりともゴゾンジですか? 昨日、世界中でヒトがイッパイ死んでるのを」
「ああ、知ってる」
世界中で起きた謎の大量死。
それは既に大きなニュースになっており、ふたりはそれを良く知っていた。
もちろん、それが”祝福ゲーム”によるものだとも。
「ワタシは、同じブレッサのエボルト社のエゴルトCEOのおつかいでキマシタ。エゴルト様はご存知ですか?」
「知ってる。エボルトテック社の社長でしょ。メールも来たし。あれって本物?」
「ホンモノです。エゴルト様はあなたたちに協力をモトメマス。お願いです、助けてクダサイ」
夢の記憶から”祝福者”を割り出したエゴルトが送ったメール。
それは凛悟たちだけではなく、グッドマンにも届いていた。
グッドマンはそのメールから、わずかな希望を見出した。
彼自身の”祝福”は失われてしまったが、まだ”祝福”を保持している者であったなら、奇跡を起こしてくれるかもしれない。
グッドマンはエゴルトの元を訪れ、そしてグッドマンは彼に希望を与えた。
『僕なら君の娘を、いや、死んだ全ての人を生き返らせられるかもしれない』
エゴルトが与えた言葉、それがグッドマンの唯一の希望だった。
「協力って、何すればいいの?」
「間もなく、エゴルト様が日本にキマス。エゴルト様のトコロで、エゴルト様の言う通りにブレスを使って下さい。そうすれば死んだヒトたち生き返ります。お金はイッパイもらえます。メールの10倍ハライマス」
「10倍って、100億! センパイ、それだけあれば一生ウハウハですよ!」
「そうだな。だが、まだ俺は信用していない。どうやって死んだ人を生き返らせる? 死んだ人間は生き返らないというルールがある」
凛悟からの問いにグッドマンは一瞬声を詰まらせる。
その答えについてグッドマンはエゴルトより言ってはダメだとも言っても良いとも指示されていなかったからだ。
だが、隠し事は良くない。
こちらから心を開かなければ、信頼は得られない。
そう考える彼の心が口を開かせた。
「エゴルト様の作戦はこうデス。ひとつの願いで『死んだ人間は生き返らない』というルールをケス。そしてふたつの願いで死んだ人間を生き返らせる。お願いデス、病気で死んだワタシの娘を、キャロルを死から救うにはコレしかないデス」
テーブルに額を付けてグッドマンは立ち土下座のようなポーズを取る。
「あれ? でもそれだとキャロルさんは病気のまま生き返ってしまわない?」
蜜子の疑問に、グッドマンは臓腑が締め付けられるような感覚を覚えた。
「ああ、その程度なら問題ない。ふたつめの願いで『この祝福ゲームが始まってから死んだ人間を健康な状態で生き返らせてくれ』とすればいい。エゴルトもそう考えているだろう」
「なるほど、センパイあったまいいー」
グッドマンの胸の痛みが和らぐ。
かすかな希望が、現実のものとなっていく。
「お願いします。ナンデモします」
「あ、いま何でもって。それはそうとして、どうします? センパイ」
「まあ、お金で妥協するのも選択肢のひとつかな」
「アリガトウ! センキュセンキュベリーベリーマッチ!」
涙を流しグッドマンはふたりの手を握る。
「ただ、伝えておかなければいけないことがある」
「ナニを、デスカ?」
「俺の”祝福”は使用済だ。だから、協力出来るとすれば蜜子だけになる」
「ソウですか……」
「だけど、報酬はふたり分、200億欲しい」
「ワカリマシタ。エゴルト様に伝えます。いや、ダメでもワタシが払います! イッショウかけて!」
「いい返事を期待している。明日の朝、またここに来てエゴルトの所へ案内してくれ」
「ハイ! キモに命じます!」
良かった、交渉が成立した。
協力を得られたのはひとりになってしまったが、それでも目標に一歩進んだ。
そう思いながらグッドマンは721号室を後にした。
◇◇◇◇
翌朝、グッドマンは希望に満ちた足取りで721号室を訪れる。
夜の間にエゴルトから報酬についての了承を得られたこともあったが、何よりも彼の心を動かしていたのはふたりが信頼できそうだという感触からだった。
「オハヨウゴザイマス、リンゴさん、ミツコさん。お迎えにアガリました」
そう言いながらノックする感覚にグッドマンは違和感を覚える。
軽い。
ノックの音が。
ドアには何かが挟まっていて、少し隙間が空いていた。
「マサカ!?」
ドアの鍵は掛かっておらず、隙間のせいでオートロックも作動していなかった。
中には誰もおらず、荷物らしきものも見当たらなかった。
ただひとつ、テーブルの上に2枚の紙が置かれていた。
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