祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

文字の大きさ
48 / 100
第2章 夢からさめても

2-24.回帰の夜 ダイダロス・タイター

しおりを挟む
 タイムリープの能力を手に入れた”元祝福者”ダイダロス・タイターが糸魚川駅に到着したのは19時を回ったころだった。
 ダイダロスがチェックしている凛悟のSNS。
 その投稿の最後は『糸魚川駅近くの展望台から夕陽をみまーす! サンセットロマンチック!! 夜にまた来てスターロマンチックの予定でーす!』というものだった。

 夜の展望台でイチャイチャでもするのか!? 自分たちの状況がわかっているのか!?
 ダイダロスはそう思ったが、それなら好都合とも思い展望台の近くに潜む。
 しかし、待てども待てどもふたりは来ない。
 もう帰ったか? それとも予定を変更したか?
 どちらでもいい、夜半過ぎまで待って、来ないようだったリープすればいい。
 そう考えていた彼の視界に見覚えのある車が映る。
 間違いない、あのふたりの車だ。
 車は展望台から少し距離を置いて停まり、そこから男が降りて展望台へと歩いていく。
 夜の闇ではっきりとは見えないが、左手の甲に数字のようなものがある。
 よし、”祝福者”だ、おそらく鈴成凛悟とかいうやつだろう。
 女の方はどうした? ひとりか? それとも車に潜んで何か企んでいるのか?
 まあいい、確かめればいいだけだ。
 潜んでいる植え込みからおもむろに立ちあがると、ダイダロスは何食わぬ顔で車に近づき、窓をコンコンと叩く。
 反応が無い。
 しかも車内は暗く、中にうっすらと人影があるくらいしかわからない。
 だが、予想通りだ。
 ダイダロスは懐から車の緊急脱出用ハンマーを取り出す。
 サイドガラスを割るのに特化したハンマーだ。

 ガシャ

 ダイダロスがハンマーをひと振りするだけでサイドガラスは粉々に砕け、車内があらわになる。
 思った通りだ。
 ダイダロスの目に移ったのはひとりの女性。
 SNSで見た凛悟のパートナー、蜜子。
 ダイダロスが蜜子の左手を掴み捻り上げると、そこには11の数字。
 間違いない”祝福者”だ。
 このふたりが恋人なのか友人なのか、それとも”祝福ゲーム”の協力者なのか。
 ダイダロスにとってそんなことはどうでも良かった。
 ダイダロスが知りたいのはこのふたりのうち片方がピンチに陥った時、もう片方が”祝福”を使ってまで助けるかどうかだ。
 ダイダロスが凛悟の方を見ると、怒りの形相で近づいて来る男の姿があった。
 おお怖え、今にも俺をぶち殺しそうな勢いじゃないか。
 ほんの少しだけダイダロスは恐怖を覚えた。
 だから、することにした。

 ◇◇◇◇

 タイムリープの能力でダイダロスは再び茂みの中に戻る。
 割れたはずの車のサイドガラスは元に戻り、凛悟は何事も無かったかのように展望台へ向かっている。
 展望台といっても、さほど豪勢なものではない。
 歩道橋に毛が生えた程度のものだ。
 昼間ならその上からは美しい海が見えるだろう。
 だが、夜の海は黒く暗い。
 しかも、この季節の日本海は荒れ気味で波の音は大きい。
 会話の声など消してしまうほどに。

 まずは情に訴えてみるか。
 ダイダロスは小走りで凛悟へ駆け寄り、その前で膝を付いた。

「やっと見つけた! お願いだ! 俺を助けてくれ! 夢の中で死んで今も死んだ俺の妹を助けてくれ! 俺の名は……」
「ダイダロス・タイターだろ」
 
 ダイダロスの涙の訴えは凛悟の冷ややかな声で止められた。

「どうして俺の名を……」
「妹の名も知ってる。ティターニア・タイター。彼女は今も元気なはずだが?」

 なるほど、SNSで自分の居場所を晒すバカかと思っていたが、あれは誘いだったか。
 俺が情報屋からエゴルトのメールの宛先を仕入れたように、コイツも俺たち兄妹の情報を仕入れたか。
 ダイダロスは凛悟の評価を改め、それならもう少し試してやるかと再びタイムリープの能力を使った。

 ◇◇◇◇

「やっと見つけた! お願いだ! 俺の死んだ両親を生き返らせたい! 俺の名は……」
「ダイダロス・タイター。君の両親は蒸発して、生きているか死んでいるかもわからないはずじゃないか?」

 そこまで情報が漏れているか、ひょっとしたらあの情報屋から情報を買いでもしたか。
 まあいい、それならもっと情報を引き出すまでだ。
 そう思いながらダイダロスは再びリープを行う。

 ◇◇◇◇

「やっと見つけたお願いだ! 俺の死んだ友人を生き返らせるために協力してくれ! これは俺の仮説だが……」
「”祝福”がふたつあれば神の定めたルールを変えた上で生き返らせる願いが叶えられるかもしれないだろ」
 
 凛悟の返しにダイダロスは少し感心する。
 それはダイダロスが考えていたかなり都合の良いシナリオのひとつ。
 同時にふたつの”祝福”を消費させられるのだから。

「そ、そこまで考えているとはおみそれしました。俺はもう”祝福”を使ってしまいました。どうか貴方様とそこの素敵な恋人様の”祝福”で世界をお救い下さい。救世主メシア様」

 我ながらわざとらしい日本語だ。
 だが、その方が情に訴えられるかもしれないとダイダロスは考える。
 そして、少し期待する。
 この訴えに『YES』と言って欲しいと。
 ダイダロスは妹、ティターニアの願いを叶えるためなら何でもする。
 殺人だっていとわない覚悟を持っている。
 だが、犯罪行為を好むような悪人ではなかった。
 もし、ここで『Yes』と凛悟が言ったなら、このふたりの攻略は最後にしよう。
 残り3つの”祝福”になるまで他の”祝福者”を攻略し、彼らに死んだ人を生き返らせてもらった上で、最後の願いをティターニアに叶えさせよう。
 それがきっと、ティターニアも俺もみんなも幸せになるハッピーエンドだ。
 そう思うくらいには。
 
「お願いします。『YES』と言って下さい」

 この台詞はダイダロスの偽らざる真実であった。

「悪いがそれは出来ない。俺にはやるべきことがある」

 やっぱりダメだったか。
 所詮は俺も含め、己の願いを捨ててまで他人を救おうとするヤツなんていやしない。
 凛悟の返事にダイダロスは肩を落とすと、これからは実力行使だと意志を固めた。

「そうか、残念だ……」

 春の嵐で波の音は増々大きくなり、この決意の言葉が凛悟の耳に届いたかはダイダロスにはわからなかった。
 だが、次の言葉は確実に届ける勢いで彼は叫んだ。
 
「だったら! 無理にでもやってもらうしかねぇよなぁ!!」

 ナイフ一閃、凛悟の服がスパッと開き、そこから赤い染みが広がる。
 凛悟の顔が苦痛に歪み、腕を抑えながら展望台の階段へと走り出す。

「逃がしゃしねぇ!」

 凛悟を追ってダイダロスは階段を駆け上がり、デッキの上でふたりは対峙たいじする。

「わりぃな、俺、嘘ついてたわ。友人を生き返らせたいなんて嘘。俺が最後のひとりになるためテメエを半殺しにする。狙いはわかるよな。テメェの”祝福”をテメエの身体を治すのに使わせるためさ」
 
 これも嘘。
 本当の目的はこの場を切り抜けるために凛悟に”祝福”を使わせ、それをタイムリープで無効にすること。
 ダイダロスはひっかかってくれよと思いながら左手の聖痕スティグマを、今は残数のカウントにしかならないそれを凛悟へと見せつける。
 だが、凛悟の取った行動は彼の期待とも予想とも全く異なっていた。

「悪い。俺も嘘をついていた」

 凛悟は左手を上げると、その甲からペリペリと11という数字を剥がした。
 シール!? もう”祝福者”じゃない!?
 想定外の展開にダイダロスの身体が一瞬硬直する。
 凛悟はその隙を見逃さなかった。
 その隙は見逃されなかった。 
 凛悟のタックルによりダイダロスの身体は階段へと押し出され。

 パンッ

 ダイダロスは乾いた音と衝撃を感じ、見た。
 赤い鮮血が上がるのを。
 凛悟の肩から上がるのを。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...