祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第3章 夢よもういちど

3-4.危機の入口 湊 藤堂

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 凛悟がエゴルトのプライベート回線で通話していたころ、いや4月1日の昼頃から”祝福者”みなと 藤堂とうどうはずっと福岡のイベント会場に居た。
 今日、4月2日の午後からアイドルユニットKONK-Chu!コンカッチュ!の握手会が開催され、明日、4月3日の夕方にはコンサートが開催される。
 藤堂は昨日から徹夜で並んでいるのだ。
 もちろん、目当ては彼の推しの逸果いつか みのりである。

 しかしまあ、ワイの知らん所で事態はどんどん進んじょるの。
 この1日半の出来事を思い出しながら藤堂は考える。
 夢から醒めて、藤堂はほとんど何もしていない。
 起きた直後、手の甲の数字を見て『あれは夢じゃなか』と気付いたものの、肝心の凛悟と蜜子の連絡先を憶えていなかったのだ。
 それは凛悟たちも同じだったのだが、あっちには”本”がある。
 昨日の昼前には凛悟から、俺たちは群馬に向かってその後福岡へ行くと連絡があった。
 さらに衝撃的なことも凛悟は伝えてきた。

 まさか、に気づかれちょったとはなあ。

 いざという時のため藤堂がふたりに秘密にしていた事実。
 みのりも”祝福者”であるということ。
 さらに驚くべきことはみのりの命が狙われていて、このままだと4月3日のコンサート後にみのりが殺されるという予言。
 それをあっさり凛悟は告げてきた。
 みのりが”祝福者”であることに藤堂は驚いたふりをしたが、内心、秘密にしていたことがバレていてもおかしくないと考えていた。
 こうなっては腹をくくるしかない。

『わかった、みのりちゃんを仲間に引き入れたる』

 と藤堂はこの”祝福ゲーム”が始まる前の予定通り、握手会の列に徹夜で並んでいたのだった。
 努力のかいもあって、先頭である。

 ヴィーッ、ヴィーッ

 藤堂のスマホが鳴る。
 相手は凛悟からだ。
 会話が漏れないよう藤堂はイヤホンを差し込んで電話に出る。

「はい藤堂や。リンゴはん、何かあったんかいな?」
『色々とな、今、会話して平気か?』
「ちょい待ってな」

 スマホを手で押さえ、藤堂は2番目のファンに声をかける。

「テルやん、すまんけどちょっと電話してくるけん、場所見といてや」
「ええで、でも帰ってきたらこっちを見といてや。飯いきたいねん」
「わあった。お互い様や。あんがとな」

 軽く手を上げて礼を言うと、藤堂は列から離れ、人気のない場所へ進む。

「ここならええで、あたりに聞くやっちゃおらん」
『そうか。今は逸果いつかみのりの握手会の場所だよな』
「せやで、あと4時間くらいで開場や」
『仲間に引き込むことは出来そうか?』
「わからへん。ワイのカードは他に協力者がいるってだけやからな。それも信じてもらえなければブラフって思われるかもしれへん。他に信じられるカードがあれば別やけど」

 他のカードがあっても、まあ無理やろなと藤堂は内心思う。
 ”死の予言”なんて警戒されるだけだ。
 だが、凛悟なら藤堂も知らないカードを持っているかもしれない。
 それを自分に渡してくれるかもしれない。
 だが、それではダメだと藤堂は思っている。
 どんなに良いカードを持っていると言っても、それをみのりに信じてもらわねば意味がない。
 そして、ただのファンである藤堂がそれを言っても信じてもらえる保証はないのだ。
 たとえ、毎回先頭でやってくる一番のファンであっても。

『そうか……、ならカードを渡そう。最強のカードを』
「そんなのあるんかいな?」
『あるさ、俺は”祝福”を使って”本”を手に入れた。祝福者たちのプロフィールや今までに叶えられた願いが載っている”本”だ』
「ホンマか!?」
『ホンマだ。ちなみに藤堂、お前の体重は82kgだ』
「マジか!? もうちっと軽くないか?」
『マジだ。 これが正しい』

 その数字は藤堂の予想よりも少し重かった。
 だが、少しでしかなかった。

「なるほど。それでみのりちゃんしか知らない情報を出して信じさせるっちゅうんやな。こっちには最強のカード持ちがおると」
『そういうことだ。情報は最強のカードだからな。蜜子もお前もいる。あとひとり”祝福者”の協力が取り付けられたら俺たちの勝ちだ』
「それも”本”でわかっとるんか」

 わかっとるんやろな、凛悟はんは。
 最初に感じた冴えた男という印象。
 それを思いだし藤堂は尋ねる。

『ああ、俺の、俺たちの作戦はこう。ひとつの願いで”死人は生き返らないというルールの撤廃”、ふたつの願いで”死んだ人間を生き返らせる”、最後に”どんな運命改編や歴史改変があろうとも全祝福者が幸せな人生を送れるように”と願う』
「ええ案やな。でもそれやと3つめだけでよかへん?」
『ダメだ。死んだ人間が生き返らないと幸せになれない祝福者がいる』
「それも”本”でわかったと?」
『ああ、それに危ないヤツもいる。ルール変更を願って”祝福者が死んだら権利が自分のものになる”とした男もいる』
「えらいやっちゃな。どいつや」
『エゴルト・エボルト。エボルトテック社のCEO』
「エライやっちゃな。社長さんか」
『”本”やエゴルトの願いの情報は開示してかまわない。みのりをこちら側に引き込んでくれ』

 太っ腹やな、いや、”本”にはまだ情報がいっぱいあるってことか。
 なら、これくらいの情報カードは見せてもええということやな。
 凛悟は他にもカードを持っていることは間違いない。
 抜け目ないやっちゃ。
 藤堂はそう思いながら『わかったで』と告げる。

『頼む。ただ、気を付けてくれ逸果いつかみのりはヤバイ女だという情報もある』
「ヤバイほど良い女ってことやろ、知っとんで」

 そういいう意味でないことはわかっていたが、少し冗談めかしく藤堂は言った。

「でもリンゴはん。もし、説得に失敗した時はどうするんや」

 藤堂の考える限りエゴルトという男はヤバイ。
 しかも、その男は次の瞬間に”祝福”を複数手に入れていることだってあるのだ。
 
『色々考えてる。他にも手は打っている。もしどうしようもなくなっても最後にふたつ、いやひとつでも”祝福”があれば……』
「あれば?」
『奇跡の大逆転さえ可能だ』

 さすがにそれはブラフやろと藤堂は思った。
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