祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──

相田 彩太

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第3章 夢よもういちど

3-28.第18の願い アーシー・ヌック

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 ◇◇◇◇

  ”神の座”へと続く明るい闇の通路で”祝福者”アーシー・ヌックは思い出す。
 1日前のエゴルトとの交渉のことを。
 
 ◆◆◆◆
 蜜子とエゴルトの会合の後、アーシーはエゴルトに接見した。
 彼女のアイディアを聞いてもらうために」

「ねー、社長さん。アタシのアイディアを聞いてくれる? とってもお得なハナシ」
「聞かせてもらおう」
「社長さんがアタシたちを殺さないのは、今際いまわきわにカウンターで”祝福”を使われるのを警戒しているからっしょ」
「その通りだとも」
「でも、社長さんはアタシたちを信頼していない。お金で買収してても不安が残ってるっしょ」
「女性の心がうつろいやすいのは良く知っているからね」

 少し鼻で笑うようにエゴルトは言う。

「あー、それそれ、アーシーもわかるわかる。女の友情ってバッキバキの時とフニャフニャの時があるのよね。男の×××ピーみたいに」
猥談わいだんがしたいのなら、デリバリーを用意するが」
「あー、マッチマッチ、今のはジョーダン。だから、アーシーからの提案。この”祝福”で『社長さんとの約束や契約は双方が必ず遵守する』って縛りバインドをが付くようにしちゃうってのはどう?」

 エゴルトの眉が動く、興味をそそられたように。

「どちらかといえば呪いギアスだな。いい案だ」
「でしょ、でしょ」
「だが」

 エゴルトの眉が再び動く。

「それは、この”祝福”をひとつ使えば事足りるのではないかね。わざわざ君のを使う理由は?」
「もっちろん、カウンターを防ぐために社長さんが”祝福”を多く持ってた方がいいからっしょ。社長さんってその”本”を他の人に見せる気ないでしょ」
「無論だ」
「でも、蜜子ちゃんとそのフレンドが連携したらどうする? 社長さんが殺そうとする直前に『祝福を奪ったら死ぬ』とか『”祝福”を使わずに”祝福者”が死んだ場合、その願いは自動的に○○なになに××それそれになる』なーんて罠を仕掛けないとも限らないじゃん」

 エゴルトの中でアーシーへの評価が上がる。
 死の直前に”祝福”を使われることは最も警戒すること。
 そして、死んだらその願いは自動的に決められるということは彼の想像外のことであった。
 
「なるほど、面白い。この会話だけで少なくとも1万ユーロくらいの価値はある。だが、なぜ僕にこの話をする。君にメリットがあるのかな?」
「えっと、アーシーはねこの”祝福”と引き換えに1000万ユーロと寿命で死ぬまでの身の安全を保障して欲しいの。それって約束出来る?」
「無論だとも。金と君の安全は保障しよう」
「そうそれ。そういうのが欲しいの。さっきの呪いギアスって過去の約束も絶対になるじゃん。こうしとけばアーシーの身は安全。これがアーシーのメリット。あとね、アタシも社長さんを全面的に信用していないって言えばわかるかしら」

 利益が片方に寄り過ぎている取引は最も警戒するべきもの。
 ビジネスの初歩だ。
 そして、最終判断は自分でしたいというのも理解出来る。
 誰かの指示や流されて”祝福”を使うのではなく、自分の決断で”願い”を決めたいと思うのは当然。
 何よりも、相手も自分のことを信用していないという所が彼の琴線に触れた。

「素晴らしい答えだ。アーシー君。君の取引に乗ろう。詳細を詰めさせてくれ」
「OKじゃん。こうみえてもアーシー、マジ激かしこいんだから」

 ◆◆◆◆
 ◇◇◇◇

 そして、アーシーはエゴルトと詰めた”願い”の詳細を頭に浮かべ、神の前に現れる。

『よくぞここまで来た。さあ、君の願いを言うがいい』
「決まったわ。ながーいお願いだけど手短に済ませちゃうっしょ」

 そして、アーシーは神に願いを言う。
 
「エゴルト・エボルトとわした約束、誓い、契約の類は過去や夢になってしまった世界で交わしたものも含め全て、その相手は強制的に順守するようになる。尚、この願いは夢や過去改変や他の”祝福”で無効化されない。また、一方が約束を履行したら、もう一方は相手の求めに応じてすぐに約束を履行する、って願いだけどいいかな? いいしょ?」

 横ピースでポーズを決めながら”祝福者”アーシー・ヌックは願う。

「その問いに答えよう。”もちろんいいしょ”だ! エゴルト・エボルトとの約束は本人が嫌がろうと、絶対、ぜったい、ゼーッターイに守られることになる!」
「わかってるじゃーん!」
「最近はこういうオマケがついた願いが多かったからな。我も慣れてきた。さぁ、願いはかなえた。こういう時はバイビーと締めるのが君の流儀であったかな」
「うーん、ちょっち違うかな。今の流行りはバッハハーイよ。じゃあね、バッハハーイ」
「バッハハーイ!」
 
 神が手を振るようなポーズを取ると、アーシーは光に包まれ元のレセプションルームに戻っていった。

 ◇◇◇◇

 全ては上手くいった。
 自分の願いはあの”本”に完全に載っているはず。
 今頃はエゴルトも満足そうな笑みを浮かべているだろうと彼を見る。
 だが、その顔は険しい。
 渋面じゅうめんと言ってもいいほどに。

「社長さん、どうしたんじゃ……」
「君は黙っててくれ! 凛悟!!」

 叫ぶエゴルトの視線はアーシーではなく、絨毯じゅうたんに這いつくばらせられている凛悟に向けられていた。

「これはどういうことかね!?」

 ”本”のとあるページ、アーシーのページを彼に突きつけ、エゴルトは問う。

「第18の願いとは何だね!? 第17の願いはどうした!?」
 
 アーシーは思い出した。
 最後の神の言葉を
 
『最近はこういうがついた願いが多かったからな』

 という言葉を。
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