ホラースポットはきみと

シン

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山中の廃屋

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 *

 話は一週間前に遡る。

「高嶺~! 良いところにいた! お前にお願いがあるんだけど」
「ちょっと、急に何なんですか! びっくりしたなぁ」

 前期全てのテストが終わって待ちに待った夏休みが始まった頃。涼を求めて気まぐれに立ち寄った大学の図書館で、所属する映像サークルの長である春日井先輩に出くわした。

 書棚の並ぶ通路の奥から俺を見つけるや否や、先輩はものすごい勢いでこちらへやってきたかと思うと俺の両肩をがしりと掴んで頼み事をしてきたのだ。今すぐに図書館からつまみ出されても文句は言えない声量だ。

「来週俺が行くことになってたロケハン行けなくなっちゃってさぁ。代わりに行ってきてくれないか」
「来週のロケハンって山奥の廃屋に行くってやつですよね? 嫌ですよ、俺。他の人に行ってもらってください」

 俺の所属する映像サークルでは毎年、秋にある学祭に向けてショートムービーを制作することになっている。今年はサークル長たっての希望によりホラー作品を制作することになったのだが、予定しているロケハンに当の本人が行けなくなってしまったというのである。

「さっき実験失敗しちゃってさ、どうしても来週やり直さなきゃなんないんだよね」
「ロケハンの日付ずらせないんですか?」
「それが既に一回リスケしてもらってて、これ以上変更するのも気が引けるんだよ。だからさ、俺の代わりに高嶺が行ってくれない?」
「俺心霊スポットとか苦手で……というか、先輩が監督なんだから自分で行かないと意味ないんじゃないですか」

 通常であれば当然俺も行くべきところなのだが、そもそも怖いものが苦手な俺は参加を断っていた。そこまで人数の多くないサークルとはいえ、他にいくらでも代打はいるはずだ。

「俺は脚本書き始める前に一回行ってるから、まあ何とかなるんじゃないかな。それに、今回助監督は高嶺なんだから丁度いいじゃない」
「だから、俺はそもそもホラーとか嫌だって言ったじゃないですか。助監やるのも乗り気じゃないんですよ」
「まあまあ、そう言わずにさ! 昼間行けば全然怖くない場所だったから!」
「確かに明るいうちにみんなで行けばましかもしれないですけど……」
「ってことでよろしくな! ありがとな!」

 と、半ば押し切られる形で渋々承諾した俺だったのだが、蓋を開けてみれば今回現場へ行くのは俺と藤原の二人だけだったというオチだ。まあ、二人きりという点については、俺が一方的に距離を置いていただけで藤原は普通に良いやつそうだし、タイプの男とのドライブも目の保養になって悪くないかもしれない。

 それよりも問題なのは俺が怖いものが大の苦手だという点だ。数人で行くなら一人きりになる事も無さそうだしワイワイ盛り上がってなんとか気を紛らわせられると思っていたのに、二人となるともろもろの確認作業は手分けをしてやらなければならないだろう。

「先輩、俺の顔になんか付いてます?」
「え?」
「視線が、熱いというか痛いというか」

 つい、藤原の横顔を見つめたまま物思いに耽ってしまっていたようだ。くすりと笑った藤原に横目で見返されて俺は顔が熱くなるのを感じた。

「あ、ごめん! ついうっかり、その……」
「何か話しかけてくるのかと思ったら黙ったままなので気になっちゃって」
「考え事してた。ごめんごめん」
「人の顔見て何考えてたんです?」

 くすくすと笑いながら藤原が尋ねてくる。まさか「あなたの顔がタイプなので目の保養にしてました」なんて本音は口が裂けても言えない。

「ええと、藤原は演者はやらないのかなって思って。イケメンだし身長もあるし画面映えしそうじゃん」

 なんとかそれっぽいことを絞り出し、藤原の顔色を伺った。特に不審がる様子もなく彼が口を開く。

「高嶺先輩に褒めてもらえたのは嬉しいですけど、あいにく俺は人前に出るのが苦手で……。それよりはやっぱりカメラいじってる方が好きですね」
「なるほどなあ。ま、俺も演者向きじゃないから気持ちは分かるけどな。構成考えたり撮ったりしてる方が楽しい」

 上手いこと映画の話題に軌道修正できたので、そのまま好きな映画や監督の話に興じる。藤原はイメージ通りのいい奴で、気さくで話しやすく、映画の趣味も似ていてとても話が弾んだ。

 俺と会話しながらにも拘らず運転も上手で、高速道路の車線変更や途中の山道で遭遇した煽り運転のスポーツカーへの対処なんかもかなりスムーズにこなしていた。
 藤原というやつは、何から何までレベルの高いパーフェクト人間なのか? ここまでくると逆に恋愛感情は湧かず、お近付きになるのすら烏滸がましいのでは、という気持ちになってくる。


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