ホラースポットはきみと

シン

文字の大きさ
3 / 11
山中の廃屋

2

しおりを挟む


「着きました。車はここに停めて少し歩きます」

 アパートから高速道路と山道を走り続けること一時間半、俺が藤原に対して敬服の念を覚え始めたころ、車は目的地へと到着した。
 道路脇の空き地に車を停め、カメラや三脚などの機材が入ったバッグを背負う。『私有地につき立ち入り禁止』という立て看板が申し訳程度に立てられていて、その先へ獣道が続いていた。

「すごいな。周り、なんにもない」
「少し先に集落がありますけど、この家は一軒だけぽつんと建ってるんですよ。不便なところなので、五年前当主だったおじいさんが亡くなってからその子ども世代はみんな都会に引っ越してしまったんです」
「それで空き家にね。日本の色んなところで起きてそうな問題だな」
「手放そうにも買い手がつかないですしどうしようもないみたいですよ。まあ、不用心なのでそろそろ建物は取り壊すみたいです。その前に撮影に使わせてくれるって話で」

 少し大きめの声で話しながら(熊避けだそうだ)獣道を抜けると、そこには古めかしい日本家屋がひっそりと建っていた。周囲を竹藪が取り囲んでいるせいで日当たりが悪く、じめっとした空気があたりに充満している。
 山中の廃屋というともっとボロボロで今にも崩れそうなものを想像していたが、背の高い竹や木々が風避けになっているお陰か状態はいい。少し掃除をすればまたすぐにでも住めそうな雰囲気だった。

「親戚のおじさんがたまに様子を見に来ていたようなので、結構きれいに保たれてます。家の周りは除草剤を撒いてるらしくて草刈の必要もありませんでした」
「ちょっと掃除すればすぐ撮影できそうだな。幽霊も全然出なさそう。これだったら俺でも大丈夫だわ」

 俺たちが歩いてきた道側は長方形の建物の短辺にあたる部分で、玄関がある。左の長辺は全面縁側になっているようだった。雨戸を開ければ家の中にかなり陽が入って開放感がありそうだ。ここで心配するべきはお化けや怪奇現象よりむしろ熊や猪に遭遇することだろう。

「先輩、怖いもの苦手って本当だったんですね」
「そうなんだよ。なのに春日井先輩が『今年はホラーだ! お前も手伝え!』って言って聞かなくてさ」
「あの人結構強引なところありますからね……。ま、今日は大丈夫ですよ。家はこんな感じだし、俺もいますから」

 そう言って、藤原は微笑みながらぽんと俺の背中を叩いた。なんというイケメン仕草だ。普段からこの調子だと考えるとモテないはずがない。罪作りな男め。

「藤原は幽霊とか平気なタイプ?」
「そうですね。あんまり信じてないし、ホラー映画とかも結構見る方かな」
「ふーん。イケメンな上に頼り甲斐もあるなんてチートすぎだろ」

 気が緩んでつい本音が口をついて出た。

「先輩はなんというか……怖がりだなんて、見た目通りかわいいですね」

 思ってもみない返答が信じられず「えっ」と聞き返したが、藤原は既に家に向き直って進み始めていた。

「それじゃあ、早く始めちゃいましょう。暗くなるのは早いですよ」

 不本意な方向性で褒められた気がするが、そのまま真意を尋ねることはできなかった。というか、褒められていたのか? あれは。

 なんにせよ、暗くなる前に今日のタスクを終わらせなくてはならない。俺たちは散り散りに家の中に入り、それぞれの作業を始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

処理中です...