5 / 11
山中の廃屋
4
しおりを挟む玄関へ戻り靴を履いて外に出る。藤原と二人で屋敷の周りを一周してみたが、やはりそこに人はいなかった。もちろん、獣のたぐいがいる気配もない。
「大丈夫そうですね」
「絶対誰かいたのに姿が見当たらないんだぞ? 逆に大丈夫じゃないだろ」
「俺たちがいるって分かって逃げてったんですよ。だからもういないんじゃないですかね」
「そうかなあ」
確かに、藤原の言うことは一理ある。それに姿が見えない以上打つ手は何もなく、出来ることと言えばせいぜい一刻も早く作業を終えてここを離れることくらいだろう。
「とっととやることやって早く帰ろう」
「そうですね。暗くなったらそれこそ危ないですし。でも先輩、一人で作業出来ます?」
「……がんばる」
俺たちは足早に屋敷内に入り、それぞれの持ち場に戻った。
*
びくびくしながらも必死になってタスクをこなし、遂に俺担当の最後の場所へ向かった。向かう先は風呂場だ。ここでは雰囲気を掴みたい、というサークル長の命によって動画を撮ることになっている。
正直全く気が進まない。山間という立地のせいか思ったよりも陽が落ちるのが早く、家の中は既に薄暗くなり始めていた。風呂場なんて"いかにも"なところ、先に済ませておけば良かった。
「まあでも、暗い方が雰囲気は伝わるか」
しーんと静まり返っていると恐怖心が増すため、無駄に独り言を発しながら脱衣所に入る。やはりここはリフォームされていて、少し古めではあるが俺の住んでいるアパートと同じような設備が揃っていた。もっとも、この家の方が倍くらいの広さがあるが。
洗面台と洗濯機の設置してある脱衣所をスルーして、お風呂場の扉に手をかける。正直本当に怖い。水場というのは霊が集まりやすいらしいし、もし何かあっても逃げ場が脱衣所方面しかないのも不安だ。脱衣所にお化けが出たら逃げられない。
ぐだぐだと考えていても余計怖くなってくるだけなので、俺は意を決して一思いに扉を押し開いた。
「わああっ! ーーって鏡か」
扉を開けた正面に人が立っており思わず声を上げたが、なんてことはない、大きな姿見に自分が映っているだけだった。そりゃそうだ。お風呂場なんだから鏡くらいある。
鏡に映る自分を改めて見て、髪が少し伸びてきたな、などと関係のないことを考える。もともと少し長めだけど、そろそろ結えるのでは、というくらいになってしまった。明るめの茶色に染めた髪は根元が少し黒くなっている。
そういえば、さっき藤原に「かわいい」って言われたな。そりゃあ軽く百八十センチはありそうな藤原に比べたら平均身長弱しかない俺は小さく見えるかもしれないし、どちらかと言えば女っぽい顔付きだと思うが、男に面と向かってかわいいと言われたのは初めてだ。もしかして脈ありだったりするだろうか。いや、あのみんなの王子様に限ってそんなことはないか。藤原が男もイケるなんて話は聞いたことがない。……だめだ。そんなこと考えるな俺。あくまで俺はあの男前を遠くから眺めてありがたがるだけで十分なのだ。
とはいえ、今日一日でだいぶ距離が縮まったとは思う。キラキラ王子様の藤原は案外気さくだし、優しいし、すごく話しやすい良いやつなのは間違いない。
そんなことをくだくだと考えていると、ふと、俺の背後を黒い影が通り過ぎ、廊下の方へふっと消えていった。
「えっ、なに?」
思わず振り返るとそこには洗濯機が鎮座しているのみでーーというより、洗濯機があるためにそこを何かが通りようがない。
「う、嘘だろ……見間違い、か……?」
そのまま動けずに立ちすくんでいると、今度は風呂場の窓の外からまたもザッザッという規則的な音が聞こえてきた。さっき居間で聞いたものと同じだ。その音は窓のあたりでぴたりと止まり、すりガラスの端に見切れるように人のような影が現れた。その影はそれ以上動かず、まるで窓から覗かれているかのような錯覚に囚われる。
こんなもの、見間違いようがない。絶対に"何か"いる。
「う、うわああああっ」
情けなくも悲鳴を上げ、俺はその場にへたり込んだ。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる