9 / 11
山中の廃屋
8
しおりを挟む「いった……何するんですか」
尻餅をついた藤原が抗議の声を上げる。
「なっ、それはこっちのセリフだ! 何すんだよ!」
「何って、そういうつもりで俺を家にあげたんじゃないんですか」
「違う! というか、どうして俺がゲイだって……」
「そうでしょ? あんだけ見られれば気付きますよ。誘ってたんじゃないんですか」
心底不満だという表情でそう言われ、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。
「誘ってない! そりゃあ、見てたのは確かだけど……全然そんなつもりじゃなかったし」
「そうなんですか? まあ別にどっちでもいいや」
そう言って藤原は体を起こし、正面に膝をついて俺の顔を覗き込んだ。何をするのかと身構えた俺の頬に藤原の手が添えられる。その親指が頬をすっと撫でて俺の視線を上げさせると、にこりと王子様スマイルをした藤原が再度顔を近づけてきた。
「おい、何やり直そうとしてるんだよ!」
「いいじゃないですか。そういうつもりじゃなかったかもしれないけど、そういうつもりになりましょ。俺上手いと思いますよ」
押し除けようとする俺と抱き寄せようとする藤原で力勝負のようになる。そうなれば背が高くて元スポーツマンの藤原に対して小柄でインドアな俺は分が悪い。
「しない! 無理! 付き合ってもないやつとヤんねぇよ!」
「は? 今更なに言って……」
「珍しいかもしれないけど俺はそういう主義なの! 恋人としかしないから!」
迫ってくる胸板にどんどんと拳を当て頑なに抵抗を続ける俺に観念したのか、藤原は腕の力を抜いて「はぁ」と大きなため息をついた。
「ふざけんなよ……優しくして損した」
「損って何だよ損って。下心で優しくしてたのかよ? というかお前、急にキャラ変わりすぎだろ。王子様どこ行ったんだよ」
敬語も王子様スマイルも捨て去った藤原は、不機嫌一色という相貌でこちらを軽く睨みつけていた。こっちが本性というわけか。普段の王子様キャラが作り物だとすると、やっぱりこいつは演技が向いてるかもしれない。
「そういうアンタこそ、もっと頭良くて大人しいタイプかと思ってたのに。こんなに子どもっぽくてうるさくてなんて思いませんでしたよ。怖がりなくせに気強いし」
「なんだよ、幻滅したかよ」
「詐欺に遭った気分」
口うるさいやつめ。俺はキャラを作っているわけではなくて人見知りなだけだ。俺の反論が口をついて出る前に藤原が呆れたような声を上げた。
「つーか、高嶺先輩も俺のこと王子様~とか言ってるタイプね。がっかりだわ」
「はあ? お前が普段そういう振る舞いしてるからだろ。勝手にがっかりすんじゃねえよ」
「口悪いなアンタ」
「お前もな!」
優しくて柔和な雰囲気はどこへ行ったのか、藤原はむっつりとした表情で肩をすくめる。
「ヤらせてくれないんだったら帰るわ。時間の無駄」
「おー、帰れ帰れ! こっちから願い下げだわ!」
藤原は俺から離れて起き上がると、自分の荷物をごそごそとまとめ始めた。俺はその場に身体を起こして座り込み、じっとその姿を見つめる。かっこよくて優しいみんなの王子様の藤原が、まさかこんな最低なヤリチン野郎だったなんて。
いくらお化けが怖かろうが、自分の貞操を狙ってくるやつと一緒にはいられない。
「じゃあ、本当に帰りますから」
「……期待させて悪かったな」
口を尖らせながらそう言った俺に藤原は返答せず、そのまま部屋を出て玄関へ向かった。一度も振り返ることなく扉を開け、そのまま外に出ていく。
ふと、心の底に封印していた風景が俺の脳裏に蘇ってきた。
何も言わずに遠ざかっていく背中。俺は座り込んだまま手を伸ばすが、その姿はやがて扉の向こうに消えていく。届かないし、戻っても来てくれない。俺はこのまま置いていかれるんだ。
思い出したくなかった嫌な記憶に感情が塗りつぶされ、俺は当時と全く同じ言葉を口にしていた。
「お、置いてかないでっ……!」
思わず口をついて出た言葉は、ぱたりと締まった扉に当たって消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる