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―楽園編―
ケモミミの人
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首都に着く頃には、辺りがすっかりと暗くなっていた。
日が暮れる前に街まで到着できて本当に良かった。僕は安心して一息ついた。
「無事に帰ってこられたし、目標も達成できたし、完璧ですね!」
藍里は嬉しそうにそう言った。
「サトリ、お疲れ様です。今日はもう宿に戻ってゆっくり休みましょう。クエスト報告や戦利品の片付けとかは明日やりましょう」
ミィコがなんだかやけに優しい。
僕はちょっとだけ、嬉しい気持ちと怖い気持ちを抱えつつ、二人の後に続いて宿に向かった――
が、しかし、宿に向かう途中、僕の意識は唐突に途絶えた――
真っ暗闇――うあぁ……頭が痛い。
ひどい頭痛と倦怠感に襲われつつも、僕はそっと目を開く。
テーブル、本棚――ここは現実世界だ。
ここは紛れもなく、僕らが向こうの世界に行く前にいた、あの漫画喫茶の店内だった。
――現実世界、漫画喫茶店内。
いつの間にか僕は、現実世界に戻されていたようだ。
そして、ぼんやりとした視線の先には、女性が二人。
雪音さんと黒いスーツ姿の見慣れない女性――部屋の奥、本棚がいくつも並ぶその片隅で、二人は何やら話をしているようだ。
小声だが、身振り手振りにより、口論しているようにも見える。
――意識が朦朧として、頭がクラクラする。
それでも僕は、こっそりと二人の会話に聞き耳を立てた。
「嘘だ! まさか、お前たちも能力者なのか!? 不変型異能超人か? それとも、変動型異能超人なのか!? 拘束されたくないなら、私に海風博士のことを正直に話せ!」
見知らぬスーツ姿の女性が雪音さんに対して高圧的な態度をとっている。
「――だから、知りません。海風博士と接触したのは事実ですが、海風博士は娘の藍里ちゃんを心配して――」
「そんなはずはない! 私は知っているんだ! 君たちは、海風博士からいったい何を聞いたんだ!?」
「はっきりと言います、海風博士は、藍里ちゃんと『これが最後になるかもしれない』という理由から、僅かな時間を一緒に過ごしたかっただけなんです」
「それならば、海風 藍里から直接話を聞くまでだ!」
「待ってください、藍里ちゃんは今、疲れて眠っています。それに、海風博士は『これから研究所に戻る』とも仰っていました」
「く……まあいい、海風博士が研究所に戻ったのならば、彼本人から話の内容を聞き出すまでだ」
ぼんやりとした視界が、徐々にはっきりとしてくるにつれ、高圧的な態度を取っているスーツ姿の女性が、スタイルのよい黒髪ロングの超美形だということが判明した。
長い後ろ髪の先端をリボンか何かで結んでまとめているし、どことなく古風な感じもする。
だが僕は、そんな彼女にどこか不思議な違和感を覚えていた――
「真面目な話をしているところ、本当に申し訳ないのだけど……貴女、頭から猫耳が生えていますよ」
雪音さんが真面目に突っ込んだ。
それこそがまさに、僕が感じていた違和感それそのものであった。
「え、まさか!? そ、そんな! み、見ないで! これは違うの、違うのよ!」
スーツの女性は両手を頭に当て、猫耳を隠して慌てている。
「尻尾も生えていますよ?」
「こ、これも違うの! 全部、作り物なのよ!」
彼女は尻尾を上着の中に隠そうとしている。
「ふーん……」
雪音さんは彼女に疑いの眼差しを向けている。
そんな二人の騒々しいやりとりに気が付いた店員が駆けつけてきた。
「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑になりますので、少しだけお静かに願います」
大声を出していた二人は、にこやかな表情をしている店員から注意を受けた。
「あ、ごめんなさい」
二人はすぐさま謝罪していた。
猫耳と尻尾は華麗にスルーされていた。空気が読める店員のようだ。
――二人は落ち着きを取り戻し、三ケ田さんはトーンダウンしていた。
トーンダウンした三ケ田さんには猫耳と尻尾が見当たらない――突然に消えた。
「と、とにかくだ……私の耳と尻尾は感情の起伏で突如として現れたりするのだ。内緒にしておいてくれると助かる……」
「いいですけど、作り物だったんじゃないんですか~? それに、能力者が異能超人課にいるだなんて世間に知れたら、それこそ問題にでもなっちゃうんじゃないですかね~?」
あの女性は、政府の職員で異能超人課に所属しているのか……すると、僕らは尾行でもされていたのだろうか?
「そ、そんなことはないと思いたいが――だが、念のため、このことは他言無用にしておいてくれ――頼む!」
「いいですよ~? 私たちに政府の情報をちょびっとだけ流してくれるっていうなら~。オマケに、何かあった時の保険も付けてほしいな~?」
雪音さんは意地悪な物言いで彼女を追い詰めていく。
「わ、分かった……機密事項でなければ教えよう。そして、君たちが何らかのトラブルに巻き込まれた時は、私が手を貸すと約束しよう」
「交渉成立ですね。よろしくお願いします、三ケ田さん」
「仕方あるまい……何かあれば、こちらに連絡してくれたまえ」
そう言って、三ケ田さんは、雪音さんに自分の名刺を二本の指でカッコよく手渡した後、凛とした態度でくるりと後ろに振り向き、足早に店内を後にした。
「ふぅ……」
雪音さんはホッとした様子で、僕らのいるテーブルに戻ってくる。
「雪音さん、雪音さん」
僕は彼女に声をかけると、ビクッとした様子でこっちを見た。
「あれ? さとりちゃん? ちょ、ちょっと待って!? いつからこっち側に戻っていたの!? それより話は後、後! 二人が心配だからすぐにインするわよ」
「え、あ、でも――」
僕の返事を待たずに、雪音さんは僕をそのまま幾何学的楽園に引きずり込んだ。
日が暮れる前に街まで到着できて本当に良かった。僕は安心して一息ついた。
「無事に帰ってこられたし、目標も達成できたし、完璧ですね!」
藍里は嬉しそうにそう言った。
「サトリ、お疲れ様です。今日はもう宿に戻ってゆっくり休みましょう。クエスト報告や戦利品の片付けとかは明日やりましょう」
ミィコがなんだかやけに優しい。
僕はちょっとだけ、嬉しい気持ちと怖い気持ちを抱えつつ、二人の後に続いて宿に向かった――
が、しかし、宿に向かう途中、僕の意識は唐突に途絶えた――
真っ暗闇――うあぁ……頭が痛い。
ひどい頭痛と倦怠感に襲われつつも、僕はそっと目を開く。
テーブル、本棚――ここは現実世界だ。
ここは紛れもなく、僕らが向こうの世界に行く前にいた、あの漫画喫茶の店内だった。
――現実世界、漫画喫茶店内。
いつの間にか僕は、現実世界に戻されていたようだ。
そして、ぼんやりとした視線の先には、女性が二人。
雪音さんと黒いスーツ姿の見慣れない女性――部屋の奥、本棚がいくつも並ぶその片隅で、二人は何やら話をしているようだ。
小声だが、身振り手振りにより、口論しているようにも見える。
――意識が朦朧として、頭がクラクラする。
それでも僕は、こっそりと二人の会話に聞き耳を立てた。
「嘘だ! まさか、お前たちも能力者なのか!? 不変型異能超人か? それとも、変動型異能超人なのか!? 拘束されたくないなら、私に海風博士のことを正直に話せ!」
見知らぬスーツ姿の女性が雪音さんに対して高圧的な態度をとっている。
「――だから、知りません。海風博士と接触したのは事実ですが、海風博士は娘の藍里ちゃんを心配して――」
「そんなはずはない! 私は知っているんだ! 君たちは、海風博士からいったい何を聞いたんだ!?」
「はっきりと言います、海風博士は、藍里ちゃんと『これが最後になるかもしれない』という理由から、僅かな時間を一緒に過ごしたかっただけなんです」
「それならば、海風 藍里から直接話を聞くまでだ!」
「待ってください、藍里ちゃんは今、疲れて眠っています。それに、海風博士は『これから研究所に戻る』とも仰っていました」
「く……まあいい、海風博士が研究所に戻ったのならば、彼本人から話の内容を聞き出すまでだ」
ぼんやりとした視界が、徐々にはっきりとしてくるにつれ、高圧的な態度を取っているスーツ姿の女性が、スタイルのよい黒髪ロングの超美形だということが判明した。
長い後ろ髪の先端をリボンか何かで結んでまとめているし、どことなく古風な感じもする。
だが僕は、そんな彼女にどこか不思議な違和感を覚えていた――
「真面目な話をしているところ、本当に申し訳ないのだけど……貴女、頭から猫耳が生えていますよ」
雪音さんが真面目に突っ込んだ。
それこそがまさに、僕が感じていた違和感それそのものであった。
「え、まさか!? そ、そんな! み、見ないで! これは違うの、違うのよ!」
スーツの女性は両手を頭に当て、猫耳を隠して慌てている。
「尻尾も生えていますよ?」
「こ、これも違うの! 全部、作り物なのよ!」
彼女は尻尾を上着の中に隠そうとしている。
「ふーん……」
雪音さんは彼女に疑いの眼差しを向けている。
そんな二人の騒々しいやりとりに気が付いた店員が駆けつけてきた。
「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷惑になりますので、少しだけお静かに願います」
大声を出していた二人は、にこやかな表情をしている店員から注意を受けた。
「あ、ごめんなさい」
二人はすぐさま謝罪していた。
猫耳と尻尾は華麗にスルーされていた。空気が読める店員のようだ。
――二人は落ち着きを取り戻し、三ケ田さんはトーンダウンしていた。
トーンダウンした三ケ田さんには猫耳と尻尾が見当たらない――突然に消えた。
「と、とにかくだ……私の耳と尻尾は感情の起伏で突如として現れたりするのだ。内緒にしておいてくれると助かる……」
「いいですけど、作り物だったんじゃないんですか~? それに、能力者が異能超人課にいるだなんて世間に知れたら、それこそ問題にでもなっちゃうんじゃないですかね~?」
あの女性は、政府の職員で異能超人課に所属しているのか……すると、僕らは尾行でもされていたのだろうか?
「そ、そんなことはないと思いたいが――だが、念のため、このことは他言無用にしておいてくれ――頼む!」
「いいですよ~? 私たちに政府の情報をちょびっとだけ流してくれるっていうなら~。オマケに、何かあった時の保険も付けてほしいな~?」
雪音さんは意地悪な物言いで彼女を追い詰めていく。
「わ、分かった……機密事項でなければ教えよう。そして、君たちが何らかのトラブルに巻き込まれた時は、私が手を貸すと約束しよう」
「交渉成立ですね。よろしくお願いします、三ケ田さん」
「仕方あるまい……何かあれば、こちらに連絡してくれたまえ」
そう言って、三ケ田さんは、雪音さんに自分の名刺を二本の指でカッコよく手渡した後、凛とした態度でくるりと後ろに振り向き、足早に店内を後にした。
「ふぅ……」
雪音さんはホッとした様子で、僕らのいるテーブルに戻ってくる。
「雪音さん、雪音さん」
僕は彼女に声をかけると、ビクッとした様子でこっちを見た。
「あれ? さとりちゃん? ちょ、ちょっと待って!? いつからこっち側に戻っていたの!? それより話は後、後! 二人が心配だからすぐにインするわよ」
「え、あ、でも――」
僕の返事を待たずに、雪音さんは僕をそのまま幾何学的楽園に引きずり込んだ。
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