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―煽動編―
雪音のウルフクッキング
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僕は、三ケ田さん、藍里、愛唯、3人の話に耳を傾ける。
「つまり、君たちは、彼らの標的にされていて、久慈の能力で君たちの居場所を知られてしまい、二人に尾行されていたということなのだな」
久慈の能力? あのへんな悪魔の首に翼が生えている……そう、サッちゃん! いや、サーちゃんだったか? ともかく、あれを使って僕らを尾行していたわけか。
「はい。『ネメシス』、つまり、愛唯さんを狙っての襲撃だったのでしょう。彼らは、愛唯さんのことをネメシスと呼んでいました」
藍里のその言葉によって、教団メンバーのいうネメシスというのは愛唯であることが判明した――ん? まてよ、ネメシスって何のことだろう? 確か、ネメシスは、傲慢な者へ天罰を下す神だったような?
「なるほど、藍ちゃんの活躍は私の耳にも入っているよ。愛唯さんを守るために、本当に、よく頑張ってくれたね」
「いえ、私は、私にできることをしただけです!」
藍里は三ケ田さんに褒められて謙遜している。
「本当に、藍里ちゃんのおかげだよ! 私、藍里ちゃんがいなかったら、今頃あの変な連中に連れ去られて、何をされていたか……」
愛唯が身震いしている。うん、本当にその通りだ。藍里が一緒にいてくれて、本当によかった……あの時、愛唯の傍にいたのが僕だけだったら? そう考えると、急に恐ろしくなってくる。
「ちょっと、ちょっと、さとりちゃん、私の話、聞いてる? 今、すごくいいところなのに!」
雪音さんが、僕に話しかけてきている。
「え? あ、はい? いや、ええと?」
しまった! ついに雪音さんは、僕が雪音さんの話を聞いていないことに気が付いてしまったようだ!
「もう! ちゃんと聞いててよね! それでそのウルフマンがね、『もう勘弁してください、何でも話しますから、イジメないでください』って降参してきたときは、本当に笑っちゃったもの。あんな、最初は超クールにしていたのに、現実世界に戻ってきたときは子供のように泣きじゃくって、もうボロボロ! 教団の秘密を、根掘り葉掘り全部吐いちゃったのよ」
雪音さんは事情聴取していた教団メンバーを、幾何学的楽園でボコボコにした話を、嬉々として僕らに聞かせていた。
なんだか、幾何学的楽園でこっぴどく痛めつけられた教団メンバー、ウルフマンが可哀想にすら思えてきた。
しかも、美晴さんなんて、言葉にこそしていないが、雪音さんに対してドン引きというような表情をしている。
「ユキネ、もう、その悪趣味なお話は結構ですので、教団の話を聞かせてください」
ミィコが、雪音さんに正論を叩きつけた。さすがミィコ。美晴さんも、これにはミィコに『うん、うん』と頷いている。
「え~? 面白かったでしょ? もう、ミィコはお堅いんだから! 仕方ないな~……じゃあ、真面目な話をするね」
「お願いします!」
僕も全力で真面目な話にシフトする意見に賛成した。
雪音さんの表情からちょっとだけ笑みが消えた。
「あのね、六花にはもう、先に伝えてあるんだけど……教団の正式な名称は『黄泉比良坂』というらしいの。黄泉比良坂、そこは黄泉と現世とをつなぐ、境界。そこに迷い込んだ生者は黄泉の国へと誘われ、黄泉の国から這い出てきた死者は現世へと迷い込む。迷い込んだ使者たちは、現世の人間たちを黄泉の国へと一緒に連れて帰るそうな……」
雪音さんは真面目な顔、というよりも、みんなを恐怖に陥れるような、そんな表情をしながら語った。
「ひぃぃぃ……」
美晴さんは本気で怖がった。
「ユ、ユキネ、もう、やめてください! ミコはそんなの全然、怖くないんです!」
ミィコも怖がっているようだ。
「ごめんね、ごめんね~! つい、ね! というわけだから、その教団は、そういったオカルト的なものから教団名を付けているってことね。でね、深読みをすれば、その黄泉比良坂に”世界の理”が存在している、とも解釈できるのよね」
雪音さんの言うとおり、”世界の理”を崇拝する教団であれば、その可能性も無きにしも非ず。
「ということは、境界――あ、あれ? 境界? それって、境界――」
僕が、その言葉を口にした瞬間、また、あの、不快な感覚に陥った。
――暗闇。
僕と、もう一人の僕、それと、“何か”。いつものように、この真っ暗な空間で、僕らはなぜか向かい合っている。
「そう、ここが境界。君はもう、何度もここを訪れているよね。ほら、君たちは同調し始めている。いい意味でも、悪い意味でも。見てごらんよ、君の自我が、こんなにも成長してきているよ」
“何か”が僕に語り掛ける。いや、もう一人の僕に語り掛けているのかもしれない。自我とはなんのことだろう?
「頼む、頼むから、消えてくれ。僕の中から、消えてくれ。頼むから、僕を、一人にしてくれ」
もう一人の僕が、“何か”に向かって呟く。いや、僕に向かって呟いているのかもしれない。
「そうだね……そうやって、君はボクを拒絶して――そうやって、いつも、すべてを台無しにしてしまうんだね」
“何か”が、もう一人の僕を責める。
「お前さえ、お前さえ、いなければ! お前が、僕のなにもかもをぶち壊したんだろ! すべてを、僕に、すべてを返せ!」
もう一人の僕が、“何か”に向かって声を荒げる。
「ごめん、それは無理だよ。なぜなら、君は、もう、君ではないのだから」
もう一人の僕に、“何か”がそう告げる。
「僕を、返せ。僕を、返せ。僕を、返せ!!」
もう一人の僕が、狂気の眼差しで僕を睨みつけてきた。狂気に満ちたもう一人の僕は、僕に向かって『返せ』と叫び続ける。僕が、もう一人の僕に、何を返せるというのだろう?
「残念だけど、もう時間切れだよ。また、おいで……」
“何か”は、僕の耳元でそっと呟いて――
「つまり、君たちは、彼らの標的にされていて、久慈の能力で君たちの居場所を知られてしまい、二人に尾行されていたということなのだな」
久慈の能力? あのへんな悪魔の首に翼が生えている……そう、サッちゃん! いや、サーちゃんだったか? ともかく、あれを使って僕らを尾行していたわけか。
「はい。『ネメシス』、つまり、愛唯さんを狙っての襲撃だったのでしょう。彼らは、愛唯さんのことをネメシスと呼んでいました」
藍里のその言葉によって、教団メンバーのいうネメシスというのは愛唯であることが判明した――ん? まてよ、ネメシスって何のことだろう? 確か、ネメシスは、傲慢な者へ天罰を下す神だったような?
「なるほど、藍ちゃんの活躍は私の耳にも入っているよ。愛唯さんを守るために、本当に、よく頑張ってくれたね」
「いえ、私は、私にできることをしただけです!」
藍里は三ケ田さんに褒められて謙遜している。
「本当に、藍里ちゃんのおかげだよ! 私、藍里ちゃんがいなかったら、今頃あの変な連中に連れ去られて、何をされていたか……」
愛唯が身震いしている。うん、本当にその通りだ。藍里が一緒にいてくれて、本当によかった……あの時、愛唯の傍にいたのが僕だけだったら? そう考えると、急に恐ろしくなってくる。
「ちょっと、ちょっと、さとりちゃん、私の話、聞いてる? 今、すごくいいところなのに!」
雪音さんが、僕に話しかけてきている。
「え? あ、はい? いや、ええと?」
しまった! ついに雪音さんは、僕が雪音さんの話を聞いていないことに気が付いてしまったようだ!
「もう! ちゃんと聞いててよね! それでそのウルフマンがね、『もう勘弁してください、何でも話しますから、イジメないでください』って降参してきたときは、本当に笑っちゃったもの。あんな、最初は超クールにしていたのに、現実世界に戻ってきたときは子供のように泣きじゃくって、もうボロボロ! 教団の秘密を、根掘り葉掘り全部吐いちゃったのよ」
雪音さんは事情聴取していた教団メンバーを、幾何学的楽園でボコボコにした話を、嬉々として僕らに聞かせていた。
なんだか、幾何学的楽園でこっぴどく痛めつけられた教団メンバー、ウルフマンが可哀想にすら思えてきた。
しかも、美晴さんなんて、言葉にこそしていないが、雪音さんに対してドン引きというような表情をしている。
「ユキネ、もう、その悪趣味なお話は結構ですので、教団の話を聞かせてください」
ミィコが、雪音さんに正論を叩きつけた。さすがミィコ。美晴さんも、これにはミィコに『うん、うん』と頷いている。
「え~? 面白かったでしょ? もう、ミィコはお堅いんだから! 仕方ないな~……じゃあ、真面目な話をするね」
「お願いします!」
僕も全力で真面目な話にシフトする意見に賛成した。
雪音さんの表情からちょっとだけ笑みが消えた。
「あのね、六花にはもう、先に伝えてあるんだけど……教団の正式な名称は『黄泉比良坂』というらしいの。黄泉比良坂、そこは黄泉と現世とをつなぐ、境界。そこに迷い込んだ生者は黄泉の国へと誘われ、黄泉の国から這い出てきた死者は現世へと迷い込む。迷い込んだ使者たちは、現世の人間たちを黄泉の国へと一緒に連れて帰るそうな……」
雪音さんは真面目な顔、というよりも、みんなを恐怖に陥れるような、そんな表情をしながら語った。
「ひぃぃぃ……」
美晴さんは本気で怖がった。
「ユ、ユキネ、もう、やめてください! ミコはそんなの全然、怖くないんです!」
ミィコも怖がっているようだ。
「ごめんね、ごめんね~! つい、ね! というわけだから、その教団は、そういったオカルト的なものから教団名を付けているってことね。でね、深読みをすれば、その黄泉比良坂に”世界の理”が存在している、とも解釈できるのよね」
雪音さんの言うとおり、”世界の理”を崇拝する教団であれば、その可能性も無きにしも非ず。
「ということは、境界――あ、あれ? 境界? それって、境界――」
僕が、その言葉を口にした瞬間、また、あの、不快な感覚に陥った。
――暗闇。
僕と、もう一人の僕、それと、“何か”。いつものように、この真っ暗な空間で、僕らはなぜか向かい合っている。
「そう、ここが境界。君はもう、何度もここを訪れているよね。ほら、君たちは同調し始めている。いい意味でも、悪い意味でも。見てごらんよ、君の自我が、こんなにも成長してきているよ」
“何か”が僕に語り掛ける。いや、もう一人の僕に語り掛けているのかもしれない。自我とはなんのことだろう?
「頼む、頼むから、消えてくれ。僕の中から、消えてくれ。頼むから、僕を、一人にしてくれ」
もう一人の僕が、“何か”に向かって呟く。いや、僕に向かって呟いているのかもしれない。
「そうだね……そうやって、君はボクを拒絶して――そうやって、いつも、すべてを台無しにしてしまうんだね」
“何か”が、もう一人の僕を責める。
「お前さえ、お前さえ、いなければ! お前が、僕のなにもかもをぶち壊したんだろ! すべてを、僕に、すべてを返せ!」
もう一人の僕が、“何か”に向かって声を荒げる。
「ごめん、それは無理だよ。なぜなら、君は、もう、君ではないのだから」
もう一人の僕に、“何か”がそう告げる。
「僕を、返せ。僕を、返せ。僕を、返せ!!」
もう一人の僕が、狂気の眼差しで僕を睨みつけてきた。狂気に満ちたもう一人の僕は、僕に向かって『返せ』と叫び続ける。僕が、もう一人の僕に、何を返せるというのだろう?
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“何か”は、僕の耳元でそっと呟いて――
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