野菜士リーン

longshu

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第1章

1-E-6 『英雄戦争』の終焉 その6 『時空の断罪者』

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――― マキシム 対 時空竜 ―――

マキシムは手懐けた呪いの魔剣『星辰剣』を駆使し、古の竜『時空竜』に対しても善戦していた。

「切り裂け!星辰剣!!」

星辰剣から、今度は三筋の剣気のオーラが時空竜に向けてほとばしり時空竜の首筋、腹部、前脚を鋭く抉る。

「グガァーン!」

苦痛の吠え声を上げる時空竜、歴代の戦いの持つ剣気のオーラそのものを攻撃力とする星辰剣は、時空竜の厚い装甲もまったく役に立たず、硬い竜鱗で出来た装甲やその下に脈打つ金剛力のような筋肉そのものを破断しうる。その厚い竜鱗でほとんどの肉弾攻撃や剣撃にダメージを受けたことがなかった時空竜は、人間の寿命など及ばないはるか昔に一度のみ傷つけられた以来の衝撃に苦悶していた。おまけに、この人間にはどんな古代生物や動物も一息で息の根を止めていた竜息【クリムゾンブレス】も効かないではないか。

時空竜の持っている大きな躯体では『星辰剣』の攻撃からは逃がれようもなく、また、大広間の柱を思わせるような四柱の太い脚での攻撃も、歴戦の勇士マキシムの舞い散る木の葉のような動きにはまったく空振りしてしまう。時空竜にとって【聖流水幕】をまとったマキシムはまさしく天敵であった。

(時空竜も他にこれといった攻撃の手段がないようだな、『星辰剣』の奥義でトドメを刺し、カーンやリョウジン殿の応援へ向かうか。)

「行くぞ、【星撃砲】!!」

その瞬間、

ガキーン!!

『星辰剣』に黒い消滅のオーラを纏った漆黒の矢が衝突する。王宮『イスティファルド』の天井やリョウジンの左腕を消滅させた黒いオーラだ。全ての存在を消し去ると見られる黒い物体も呪いの『星辰剣』には弾かれるのであった。逸れた黒い矢は遥か遠くの城壁を消滅させつつ、そのまま王宮の外どこまでも飛んでいった。

「あれは、、、王女の周りを舞っていた黒い物質で作った矢か?そして灰色の影分身?なんという高度な時空魔法か!?」

マキシムは王女の放つ魔術の洗練ぶりに、それの持つ脅威は一瞬忘れ、まずは感嘆した。

影は、レイシアの意思とは関係なく独立して動く傀儡で、彼女の整った綺麗な顔立ちや、彼女の付けている王女の正装、ペンダントやブレスレットや靴や服も区分けなく全くのただの黒灰色だ。それは、世界の終焉を感じさせるかのようなのっぺりとした質感のない印象の黒灰色であった。輪郭だけは狂女レイシアと全く同じで、発狂した彼女の振る舞う身を動かした際の奇妙な仕草や、指の動き一本一本、ドレスやポニーテールの振れ方までまったく瓜二つだ。吐息や声音まで聞こえてきそうである。それはマキシムに熟練の工芸士によって作られた精巧なマリオネットを連想させた。

そして、そのレイシアとまったく同じ仕草を持つ影は、大きな黒い弓矢を手と肩に携えていた。弓矢はレイシアの持つ、狂気、怒り、憎悪をそのまま背負っているかのようなオーラをまとい、その強い大きな負の波動をマキシムに感じさせた。そのオーラは全てを消滅させる黒い物質で出来ており、その黒さは見るものを全くの虚無に陥らせる純粋で救いようのない真の黒であった。

マキシムが分析を続けている間にも、影から第二矢が放たれる。かろうじて『星辰剣』の剣戟で矢筋を逸らすマキシム。

(強大な時空魔法を使う王女とは全くの想定外だな。リョウジン殿も負傷しているようだ。我々3人のコマで勝つ見込みがあるとは思えぬ。猛るカーンには悪いが一時撤退し、宮廷で戦っているレーネ達の勝利を祈って出直すか、、、)

『時空竜』相手に善戦していた彼も、『七賢』クラスの2連続の召喚魔法にはさすがに為す術がないようであった。

――― カーン 対 狂王 ―――

「なんだ、張り合いがないな。」

カーンと剣を交えること半時、普段戦い慣れてない狂王は疲労から手元が狂いだしてきた。一方のカーンは重装備を身に纏っているにもかかわらず、その動きはまったく落ちることがないどころか身体が温まってきたのかますます地に足がついて来た。既に50を幾つか超えているのであったが驚異的な体力と粘りである。それが後に彼をして『古の英雄』たらしめる一大要因であった。

「く、木こり風情にこんな戦いを強いられるとはな、『ウェールズ』も最早これまでか、、、」

常に抜け目なく『デュランダル』にてカーンの斧撃を受け流すべく構えているエアハルトではあったが、半時を過ぎて防戦一方、脂汗を流し肩で息をしている。斧がかすめただけではあるが裂傷も身体のそこかしこについている。そして今では反撃する体力は残っていないようであった。

「そういう事だ、これまでの報いを受けるがよい。」

カーンが『大地の斧』でエアハルトの頭を大木を切り倒すがごとく打ち下ろすタイミングを見計らっているその時、”影”は出現した。

「む、なんだあの小娘の影みたいなのは?変な武器を持っているな?」

魔法にはまったく理解のないカーンはその脅威にまったく気づく様子もない。

”影”は静かにカーンにすり寄るとその大きな鎌をカーンの首に振り下ろす。間一髪で躱すカーン、しかしカーンのフルフェイスの兜は、『イスティファルド』の天井やリョウジンの利き腕と同じように、この世界から消滅するのであった。

「あ、危ねぇじゃねぇか!? 影が操る変な武器??? どうなってんだこりゃ??」

「カーン!その黒い物質に触れるなよ!根こそぎ持って行かれるぞ!!」

遠くからマキシムの忠告が聞こえる。

影は容赦なく、その射程距離の長いその武器を振り回す。鎌という武器自体の攻撃力は弱い、とは言ってもこの世の全てを消滅させる物質でできている。その威力は十分である。

熟練の体術で鎌の刃先をかわす。しかし、触れた物を消滅させてしまう物質だ。斧や盾で身を守れぬ以上それにも限界がある。カーンは少しずつ少しずつ防具を剥ぎ取られ肉を抉られ、不可思議な攻撃に防戦一方であった。

「ガァァッ!!見てろ!!!」

抗いようのない反則同然の武器に苛立つカーンは、『大地の斧』を王宮の大理石で出来た床に打ち下ろした。

「ガキッ、メキメキメキメキメキ!!!」

打った床面から大理石は黒曜石に姿を換え、メキメキと盛り上がりつつ影に向けて瞬間的な速さで迫っていく。影はすぐさま捉えられ、黒曜石で出来た『沈黙の鎌』を持った少女の彫像に姿を変えた。

カーンが唯一使いこなすことのできる『大地の斧』の魔法攻撃【石化衝】であった。

「小うるさい影なんぞはこの通りよ!お前だけは直接首を落とさなければならん、いくぞ狂王!!」

その刹那、黒曜石の彫像に姿を変えていた少女の影から、灰色の影の分身が分かれまた動き出した。ご丁寧に黒い鎌も再生されている。

「なんじゃ、これは??きりが無いわい!!!」

不得手な魔法戦に焦りだすカーンであった。

――― リョウジン 対 レイシア ―――

レイシアの時空召喚魔法【時空の断罪者】は、影のあるところなら幾度でもその存在を複製できるようであった。そして彼女の黒い獲物たちにも強力な魔力を帯びた攻撃ならば消滅させられることもなく効く。左腕を奪われレイシアとその影から逃げ回りながら止血しつつ戦局を考え抜いていたリョウジンは、すこし離れて横で展開されていたカーンの盲滅法な攻撃を見てその事を発見した。

(ならば)

静かに霊剣『天叢雲剣』を引き抜き左手に構え、影の握る黒く燃え上がる大剣の攻撃に備える。影はにじり寄り大剣を振りかざさんとしている。どう魔法で操っているのかは分からないが影の剣術も相当な手並みである。『サムライマスター』の呼び声高いリョウジンではあったが、利き腕の無い今となっては簡単にあしらうことは出来ない。

襲いかかる黒の大剣を霊剣でいなす。『可睡の杜』に伝わる、遙か遠くの世界で八首の神蛇の化身と伝説される名剣だ、黒い物質で出来た破滅的な大剣にも互角に対処していた。

大剣をいなされ、リョウジンの間近で影が動きを止めたその瞬間を見計らいリョウジンは『光魔法』を唱えた。

《ダオライウィルオーウィルプ》(遊びまわる光球)

どこからともなく光の精霊『ウィル・オー・ウィスプ』が無数に姿を現し、リョウジンと影の周りを楽しむかのように回り始める。光の散乱を受けて揺らぐ影。どうやらリョウジンの戦術は当たりのようである。

《ファーグアン》(光り輝け光球達)

リョウジンが精霊に指示すると、『ウィル・オー・ウィスプ』達は、眩しいばかりに光を放ち彼らの周りからあらゆる影を消し去る。レイシアの悪しき影もその例外ではなかった。

「キュキャ―――!!!!」

レイシアが悲鳴を上げなんとか【時空の断罪者】達を対処しようとする。と、その瞬間、

「グガガガガガッガガガッガガッガガガガ!!!!」

ドカッ!!

突然、リョウジン達は重力の軛を解かれ、抗えない力によって、今立っていた地面から壁面に吹き飛ばされた。

「グッ、今度はアーデルヘイトも扱っていた重力を操る魔法か、『七賢』なしで『時空の賢者』級に当たるのは厳しいものがあるな、、、。」

またもや術式の異なる大型魔法である、いったい『ロキの瞳』をまとった彼女の魔力には底が無いのか。貴族の暴虐に終止符を打つという大義名分に真っ直ぐであったリョウジン達も、相手の強大さにさすがに戦意が喪失しかかっていた。
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