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6 祟
「ギャー!く、喰われる~(笑)」
ミーハーな杏が、ハトに目を付けられたバッタか何かのように鎧の巨人に食べられる振りをして大騒ぎしている。オカ研に入ってしまった自身の境遇にグチグチ言っていた割には一番楽しんでいるようであった。凛はそれをラズベリーソフトクリームを舐めながらうれしそうに見ている。そして丸尾はそんな二人を、採集した昆虫を眺める腕白坊主のように遠巻きに興味深そうに見ている。
通常ならこれが大学生らしい、少し青臭い若く純粋な恋愛にでも発展しようものだが、丸尾の分厚いレンズに守られたつぶらな瞳には、だれの目にも可愛く映るはずの凛や杏はルリボシカミキリか何かのように見えた。
ここはUSJ、言わずと知れた関西一のアミューズメントパークだ。凛たちの大学のある千葉県旭市から夜行バスで12時間、そしてまた夜行で帰るハードスケジュール。しかし、エネルギッシュに目まぐるしく動く小リスのような彼女たちにとってみれば雑作もない旅程であった。そして参加者は結局のところ凛、杏、丸尾の3人のみ、イベントだけには参加して来る半幽霊部員の面々も丸尾の一種独特な押しの強さに、また居心地が悪くなり今回は参加を取りやめたのであった。
それでも参加する凛と杏は、それぞれ若干似たような雰囲気を持つ兄がいて多少はこの奇妙奇天烈漢に免疫がある。そして週の半分は互いのアパートにいったりきたりして寝泊りするほど仲が良いし、二人一緒に無料で遊園地に来て遊びたい一心であった。
「巨人もオカルトの一種には違いないでしょうが、そんなものより早く”祟”に行きましょ~!800体にも及ぶ供養されてない日本人形!!これはもう何か憑かずにはいられないでしょ~!!」
丸尾は、かつてないほど興奮して、彼の唯一の所持品、アカミミガメのような緑色のボロボロのハンドバックを振り回している。そんなにエキサイトしているのは、いつぞやの東京の阿佐ヶ谷アニメストリートにある”シカバネ~恐怖のかくれんぼ~”に行って以来だ。あの時は行ってはみたものの、作り物感がぬぐえないだの、大衆受けを狙いすぎているだの、ぐにょぐにょぐにょぐにょ言っていたのを思い出し、凛は思わず笑ってしまった。
「部長、心霊写真でも狙っているのかな(笑)。」
「はぁ~、どうせ一緒に来るならテニスサークルのイケメンがよかったんだけど(笑)。まぁ、ついてってやりましょ、ただで来られるのも、あのぐるぐるメガネのおかげだし!」
大ハッスルしている丸尾に引きずられるように”祟”へ連行される凛と杏、オカルトへの飽くなき追求の時にのみ発揮される強烈なリーダーシップに、ハトが水兵服を着て歩いて来るような場違い感を感じた二人ではあったが、すでに楽しめるまでになっていた。
――― しばらくして ―――
その人工の森の中にあるうらぶれた黒い建物は、たとえ長蛇の列ではあっても、たとえフィクションだと分かっていたとしても、怖いアトラクションに免疫の少ない杏を恐怖のダウンスパイラルに巻き込んだ。
「ううう、何か得体の知れない重苦しい雰囲気、こ、これは、本物ね。。。」
「感じます、感じますよ~。」
「ネ、ネットで見ると、順番待ちをしている間にも呪われた村人が様子を見にやってくるって言うけど~?」
と、凛が恐ろしいことを言う。
「キャァーーーー!!」
その時、奥の木陰から女性の絶叫が響き渡る。
「ひ、ひぃ~~~!!!」
脱兎のごとくホラーエリアから逃げだす杏と、怖がりつつもそれを微笑ましく見届ける凛、丸尾は丸尾で丁寧に化石の発掘調査でもするかのように興味深そうに、木陰からおいでおいでしながら出てくる亡者の演技を見つめている。
――― ”祟”に入って ―――
アトラクションの中は、いかにもと言った感じのうらぶれた古民家風の造りである。ひょっとすると廃屋を一度解体してそのまま持って来たのかもしれない。中は狭く暗く、遊園地のアトラクションにはあるはずのないかび臭い匂いもして、とにかく不気味だ。入口で供養のために手渡されたお札を人形の入っている棺に入れてくる。たったこれだけの指令であったが、お化け物に免疫のない凛と杏は震えあがっていた。それでもついつい入ってしまうのが、お化け屋敷の抑えがたい魅力なのであろう。
「む、むぅ~、あれは!」
オカルトを見ること学者のようで、通り一遍なホラーなら試験管の中の化学現象を冷徹な目で分析するくらい経験豊富な丸尾が、こと、このアトラクションに関しては驚きの声をあげている。
「げ、げげーー!」
杏が顔に似ない下品な叫び声を上げる。三人が入ったその部屋は、あたり一面見渡す限りの人形人形人形。設えられている古びた大小さまざまな木製の棚に、所狭しとすし詰めに日本人形が置かれている。きれいなままのものもあれば、髪がほつれていたり、眼が壊れていたり、腕が片方ないものもある。霊場のような雰囲気がふんぷんと漂ってくる。
「これが、人形供養のご霊山、淡島神社から譲り受けたという供養済みの人形ですか!!中にはまだ供養し切れていないのも当然あるんでしょ~ね~!!!」
本当にうれしそうに丸尾が雄叫びを上げる。
「そして、この中に必ず目が合ってしまう人形があるんだって、そしてその人形を見ると、、、、」
「ちょ、ちょっとちょっと!どこで仕入れてきたのよ、そんな情報!変な事言わないでよ~!!!」
リリリリーン、リリリリーン、リリリリーン!
「ひぃっ~!!」
「あ、ごめんマナーモードにし忘れたわ。」
「もう~!!」
バッドタイミングと言うかグッドタイミングと言うか、凛の携帯が鳴っていた。
周りは丸尾の狂声と杏たちの騒ぎに非難轟々である。そしてホラーハウスから出て5分後、恐怖と友情に彩られた凛の楽しい大学生活は、突如として暗い湖の底に叩き落される事になるのであった。
ミーハーな杏が、ハトに目を付けられたバッタか何かのように鎧の巨人に食べられる振りをして大騒ぎしている。オカ研に入ってしまった自身の境遇にグチグチ言っていた割には一番楽しんでいるようであった。凛はそれをラズベリーソフトクリームを舐めながらうれしそうに見ている。そして丸尾はそんな二人を、採集した昆虫を眺める腕白坊主のように遠巻きに興味深そうに見ている。
通常ならこれが大学生らしい、少し青臭い若く純粋な恋愛にでも発展しようものだが、丸尾の分厚いレンズに守られたつぶらな瞳には、だれの目にも可愛く映るはずの凛や杏はルリボシカミキリか何かのように見えた。
ここはUSJ、言わずと知れた関西一のアミューズメントパークだ。凛たちの大学のある千葉県旭市から夜行バスで12時間、そしてまた夜行で帰るハードスケジュール。しかし、エネルギッシュに目まぐるしく動く小リスのような彼女たちにとってみれば雑作もない旅程であった。そして参加者は結局のところ凛、杏、丸尾の3人のみ、イベントだけには参加して来る半幽霊部員の面々も丸尾の一種独特な押しの強さに、また居心地が悪くなり今回は参加を取りやめたのであった。
それでも参加する凛と杏は、それぞれ若干似たような雰囲気を持つ兄がいて多少はこの奇妙奇天烈漢に免疫がある。そして週の半分は互いのアパートにいったりきたりして寝泊りするほど仲が良いし、二人一緒に無料で遊園地に来て遊びたい一心であった。
「巨人もオカルトの一種には違いないでしょうが、そんなものより早く”祟”に行きましょ~!800体にも及ぶ供養されてない日本人形!!これはもう何か憑かずにはいられないでしょ~!!」
丸尾は、かつてないほど興奮して、彼の唯一の所持品、アカミミガメのような緑色のボロボロのハンドバックを振り回している。そんなにエキサイトしているのは、いつぞやの東京の阿佐ヶ谷アニメストリートにある”シカバネ~恐怖のかくれんぼ~”に行って以来だ。あの時は行ってはみたものの、作り物感がぬぐえないだの、大衆受けを狙いすぎているだの、ぐにょぐにょぐにょぐにょ言っていたのを思い出し、凛は思わず笑ってしまった。
「部長、心霊写真でも狙っているのかな(笑)。」
「はぁ~、どうせ一緒に来るならテニスサークルのイケメンがよかったんだけど(笑)。まぁ、ついてってやりましょ、ただで来られるのも、あのぐるぐるメガネのおかげだし!」
大ハッスルしている丸尾に引きずられるように”祟”へ連行される凛と杏、オカルトへの飽くなき追求の時にのみ発揮される強烈なリーダーシップに、ハトが水兵服を着て歩いて来るような場違い感を感じた二人ではあったが、すでに楽しめるまでになっていた。
――― しばらくして ―――
その人工の森の中にあるうらぶれた黒い建物は、たとえ長蛇の列ではあっても、たとえフィクションだと分かっていたとしても、怖いアトラクションに免疫の少ない杏を恐怖のダウンスパイラルに巻き込んだ。
「ううう、何か得体の知れない重苦しい雰囲気、こ、これは、本物ね。。。」
「感じます、感じますよ~。」
「ネ、ネットで見ると、順番待ちをしている間にも呪われた村人が様子を見にやってくるって言うけど~?」
と、凛が恐ろしいことを言う。
「キャァーーーー!!」
その時、奥の木陰から女性の絶叫が響き渡る。
「ひ、ひぃ~~~!!!」
脱兎のごとくホラーエリアから逃げだす杏と、怖がりつつもそれを微笑ましく見届ける凛、丸尾は丸尾で丁寧に化石の発掘調査でもするかのように興味深そうに、木陰からおいでおいでしながら出てくる亡者の演技を見つめている。
――― ”祟”に入って ―――
アトラクションの中は、いかにもと言った感じのうらぶれた古民家風の造りである。ひょっとすると廃屋を一度解体してそのまま持って来たのかもしれない。中は狭く暗く、遊園地のアトラクションにはあるはずのないかび臭い匂いもして、とにかく不気味だ。入口で供養のために手渡されたお札を人形の入っている棺に入れてくる。たったこれだけの指令であったが、お化け物に免疫のない凛と杏は震えあがっていた。それでもついつい入ってしまうのが、お化け屋敷の抑えがたい魅力なのであろう。
「む、むぅ~、あれは!」
オカルトを見ること学者のようで、通り一遍なホラーなら試験管の中の化学現象を冷徹な目で分析するくらい経験豊富な丸尾が、こと、このアトラクションに関しては驚きの声をあげている。
「げ、げげーー!」
杏が顔に似ない下品な叫び声を上げる。三人が入ったその部屋は、あたり一面見渡す限りの人形人形人形。設えられている古びた大小さまざまな木製の棚に、所狭しとすし詰めに日本人形が置かれている。きれいなままのものもあれば、髪がほつれていたり、眼が壊れていたり、腕が片方ないものもある。霊場のような雰囲気がふんぷんと漂ってくる。
「これが、人形供養のご霊山、淡島神社から譲り受けたという供養済みの人形ですか!!中にはまだ供養し切れていないのも当然あるんでしょ~ね~!!!」
本当にうれしそうに丸尾が雄叫びを上げる。
「そして、この中に必ず目が合ってしまう人形があるんだって、そしてその人形を見ると、、、、」
「ちょ、ちょっとちょっと!どこで仕入れてきたのよ、そんな情報!変な事言わないでよ~!!!」
リリリリーン、リリリリーン、リリリリーン!
「ひぃっ~!!」
「あ、ごめんマナーモードにし忘れたわ。」
「もう~!!」
バッドタイミングと言うかグッドタイミングと言うか、凛の携帯が鳴っていた。
周りは丸尾の狂声と杏たちの騒ぎに非難轟々である。そしてホラーハウスから出て5分後、恐怖と友情に彩られた凛の楽しい大学生活は、突如として暗い湖の底に叩き落される事になるのであった。
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