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12 兆候
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宮野は最近ふとした拍子に違和感を感じていた。沙紀をいたぶって殺し、ドラム缶にコンクリートで詰めて公園に放置してから1ヶ月ほど経ってからの事だった。はじめは夢に沙紀が毎日のように出てきた。罪悪感という感情があるのならそれに当たるものだろう、と漠然と考えていた。しかしそれが毎日続き、眠りを阻害するようになると、自分が虐げた人間のことなどゴミ屑にしか考えていない宮野も、明らかに妙だと感じるようになった。
発端は、むかつく進学校の高校生を殴り飛ばして財布を奪っている時だった。進学校の頭でっかちな秀才が俺の拳に張り倒されて、萎れたサボテンのようにペシャンと地に突っ伏している。
いい気味だ。
その瞬間、自身の存在が影から引きはがされたような、一瞬足が世界から宙に離れてしまったような、奇妙な感触を覚える。
背筋がゾッとして後ろを振り返るが、あたりはさきほどと同じ路地裏に冷徹ながらもうっすらとすがすがしい初春の日差しが降り注ぐのみ、ぼこぼこに殴られ地面に這いつくばっている優等生と好対照だ。けっ!薄気味悪い感覚に更に怒りをつのらせ、ボロキレのようになっている高校生に5度ほど全力で鳩尾に蹴りを入れた後、家路に着くのだった。
―――――
宮野の父親は、横江と言う大柄でブクブクに太った髭面の弁護士であった。自身の栄誉と欲と金のためだけに司法を覚え、年若くかわいいだけが取り柄の白痴に近い小娘を娶り、子を何人か産ませた。宮野が小学生になり自我を意識しだした頃、そして小娘が20代後半になり女としての魅力に衰えが出だした頃、道端にゴミでも投げ捨てるかのように離婚した。
白痴に近い宮野の母には、やり手の弁護士でもあった父親に慰謝料を要求するような知恵はなく、もちろん訴訟を起こしても当たり前に敗れ去ったであろう、そのようにして宮野とその母親、弟、妹は、家賃1万5千円のぼろアパートの2Fに流れ着くようにして住むようになった。
宮野は荒れ、父親がおこなった人間を切って捨てる暴力行為―――ただし、父親は法に触れるような類の暴力はただの一つも行ったことはないのだが―――を、見よう見まねで、まずは母親に試した。父親の社会的には害悪であるが一種優秀な遺伝子を、宮野も色濃く受け継いでいたのだ。その悪辣な機智と感情操作に、白痴に近い母親は情けないことながら深くはまり込み、実の子に怯え服従した。次に弟に、その次にたまに通っていた中学のクラスメートに、徐々に宮野はエスカレートし、母親が全身打撲と精神破壊で逃げ込むように病院に入院する頃には、この狭いアパートを実験室として、人を廃人にするエキスパートになっていたのであった。
そして、人を再起不能にするのは先日の沙紀で3人目だ。殺したのは沙紀が初めてであったが。沙紀をいたぶるのに殊の外おもしろみを覚えた宮野は、垂水に次の獲物を探させていたところであった。
―――――
彼とその母、弟、妹が住んでいるアパートは1DKで、その1室を宮野は占拠していた。部屋は、街で殴り飛ばしたオヤジが身に着けていた高級腕時計や、カツアゲした高校生から奪った財布や、万引きしたゲームソフトや日用品などが、所狭しと捨て置かれている。
そして傷だらけの弟たち(言わずもがな宮野から受けた傷である)は、それら雑然と置かれた財布などから宮野の目を盗み生活費や食費に充てている。精神破壊してしまった白痴同然の母は、狂ったように笑うか安酒を飲み漁り、宮野に顎を殴られ倒れる、目を覚ますと狂ったように笑う、宮野に鳩尾を蹴倒され気を失う、を繰り返している。
ホームレスの飯場のような環境で、宮野はまた高校生から奪った財布を部屋の片隅にポイと投げ捨てると、コンビニから盗んだ缶ビールと菓子を頬張りつつ暴力映画を見始めるのだった。
―――――
はっ、気配を感じて目が覚める、どうやら拷問のシーンを見ながら眠ってしまったらしい、いつの間にか弟やくそ女も戻って、部屋の片隅で眠りこけているようだ。うたた寝だったからか、あの女は出なかったな。ちっ、何か無性にむかつく、くそ女に蹴りを入れようか。そんな事を考えながら、消された電灯のスイッチを押そうとリモコンを探す。
いつっ!なにかガラスの破片みたいなもので手を切ってしまったのか、指先に鋭い痛みを感じて手を引っ込めた。あたりは真っ暗だ、何も見えない。
「くそったれ!」
そう言った瞬間、何も見えなかった視界が真っ白に開ける。痛みを感じる手の先を見ると、なぜか、いかにも凶悪そうな男に手首をつかまれ爪を剥がされていた。寝ていた間に侵入してきたのか?
「いてっ!!な、何をしやがる!!!?」
「寝てたら、挿れても面白くねーじゃねーか!!」
宮野は言葉を飲み込んだ。自分の目の前に短い赤髪のよく見慣れた顔が覆いかぶさり、私にまぐわっている。いかにも自身の欲望にだらしのない短絡的な顔付きで、私の視界の前で前後に体を揺すっている。振動と同時に下腹部に重い痛みを感じる。そしてあたりを見回すと、いつもの景色が目に入る。下っ端のはずの垂水の部屋だった。小倉は私の両手を羽交い絞めにして動けないようにし、ドアの付近では垂水がにやにや笑いながら行為に及んでいる宮野と私を見ている。
「いやっ!やめてっ!!」
「うるせぇー!!」
屈辱に、宮野の行為を拒否し振りほどこうとすると、即座に顔にこぶしが飛んだ、鼻骨が折れたようだ。感じる痛みと鼻から飛び散る温かい血液、絶望的な屈辱、徐々に何が起こっているのか思い出してきた。
そうだ、私は、このキチガイのような男たちに拉致されて輪姦された挙句、虐待の限りを尽くされているのだった。それでこれから1か月くらいかけて、食事もろくにとれないまま、激痛の中じわじわと、意識が無くなるまでいたぶられ、そして最終的には撫で殺しにされ、コンクリートでドラム缶に詰められ、公園へ捨てられ、腐乱した死体として発見されるのだ。
の、呪ってやる、私をこんなにした宮野を呪い殺してやる!!!!
暴行に次ぐ暴行でふらふらとした頭の中にも、廓清し切れない癌のようにじわじわと広がってゆく激越。沙紀は、これから死にゆく身であっても宮野を恨みぬいて呪い殺す事を心に誓った。
先ほど殴られた衝撃か口からどばどばと血があふれてきた、鼻も腫れ、血で詰まり、息ができない。。。
がばっ、宮野は跳ね起きる。うたた寝していたようだ。
(な、なんだ?お、女?さ、沙紀か?)
と、言おうとして、口の中全体に痛みと違和感を覚える。泥状の物を茶碗一杯ほど吐き出した。
それは、
セメントであった。
発端は、むかつく進学校の高校生を殴り飛ばして財布を奪っている時だった。進学校の頭でっかちな秀才が俺の拳に張り倒されて、萎れたサボテンのようにペシャンと地に突っ伏している。
いい気味だ。
その瞬間、自身の存在が影から引きはがされたような、一瞬足が世界から宙に離れてしまったような、奇妙な感触を覚える。
背筋がゾッとして後ろを振り返るが、あたりはさきほどと同じ路地裏に冷徹ながらもうっすらとすがすがしい初春の日差しが降り注ぐのみ、ぼこぼこに殴られ地面に這いつくばっている優等生と好対照だ。けっ!薄気味悪い感覚に更に怒りをつのらせ、ボロキレのようになっている高校生に5度ほど全力で鳩尾に蹴りを入れた後、家路に着くのだった。
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宮野の父親は、横江と言う大柄でブクブクに太った髭面の弁護士であった。自身の栄誉と欲と金のためだけに司法を覚え、年若くかわいいだけが取り柄の白痴に近い小娘を娶り、子を何人か産ませた。宮野が小学生になり自我を意識しだした頃、そして小娘が20代後半になり女としての魅力に衰えが出だした頃、道端にゴミでも投げ捨てるかのように離婚した。
白痴に近い宮野の母には、やり手の弁護士でもあった父親に慰謝料を要求するような知恵はなく、もちろん訴訟を起こしても当たり前に敗れ去ったであろう、そのようにして宮野とその母親、弟、妹は、家賃1万5千円のぼろアパートの2Fに流れ着くようにして住むようになった。
宮野は荒れ、父親がおこなった人間を切って捨てる暴力行為―――ただし、父親は法に触れるような類の暴力はただの一つも行ったことはないのだが―――を、見よう見まねで、まずは母親に試した。父親の社会的には害悪であるが一種優秀な遺伝子を、宮野も色濃く受け継いでいたのだ。その悪辣な機智と感情操作に、白痴に近い母親は情けないことながら深くはまり込み、実の子に怯え服従した。次に弟に、その次にたまに通っていた中学のクラスメートに、徐々に宮野はエスカレートし、母親が全身打撲と精神破壊で逃げ込むように病院に入院する頃には、この狭いアパートを実験室として、人を廃人にするエキスパートになっていたのであった。
そして、人を再起不能にするのは先日の沙紀で3人目だ。殺したのは沙紀が初めてであったが。沙紀をいたぶるのに殊の外おもしろみを覚えた宮野は、垂水に次の獲物を探させていたところであった。
―――――
彼とその母、弟、妹が住んでいるアパートは1DKで、その1室を宮野は占拠していた。部屋は、街で殴り飛ばしたオヤジが身に着けていた高級腕時計や、カツアゲした高校生から奪った財布や、万引きしたゲームソフトや日用品などが、所狭しと捨て置かれている。
そして傷だらけの弟たち(言わずもがな宮野から受けた傷である)は、それら雑然と置かれた財布などから宮野の目を盗み生活費や食費に充てている。精神破壊してしまった白痴同然の母は、狂ったように笑うか安酒を飲み漁り、宮野に顎を殴られ倒れる、目を覚ますと狂ったように笑う、宮野に鳩尾を蹴倒され気を失う、を繰り返している。
ホームレスの飯場のような環境で、宮野はまた高校生から奪った財布を部屋の片隅にポイと投げ捨てると、コンビニから盗んだ缶ビールと菓子を頬張りつつ暴力映画を見始めるのだった。
―――――
はっ、気配を感じて目が覚める、どうやら拷問のシーンを見ながら眠ってしまったらしい、いつの間にか弟やくそ女も戻って、部屋の片隅で眠りこけているようだ。うたた寝だったからか、あの女は出なかったな。ちっ、何か無性にむかつく、くそ女に蹴りを入れようか。そんな事を考えながら、消された電灯のスイッチを押そうとリモコンを探す。
いつっ!なにかガラスの破片みたいなもので手を切ってしまったのか、指先に鋭い痛みを感じて手を引っ込めた。あたりは真っ暗だ、何も見えない。
「くそったれ!」
そう言った瞬間、何も見えなかった視界が真っ白に開ける。痛みを感じる手の先を見ると、なぜか、いかにも凶悪そうな男に手首をつかまれ爪を剥がされていた。寝ていた間に侵入してきたのか?
「いてっ!!な、何をしやがる!!!?」
「寝てたら、挿れても面白くねーじゃねーか!!」
宮野は言葉を飲み込んだ。自分の目の前に短い赤髪のよく見慣れた顔が覆いかぶさり、私にまぐわっている。いかにも自身の欲望にだらしのない短絡的な顔付きで、私の視界の前で前後に体を揺すっている。振動と同時に下腹部に重い痛みを感じる。そしてあたりを見回すと、いつもの景色が目に入る。下っ端のはずの垂水の部屋だった。小倉は私の両手を羽交い絞めにして動けないようにし、ドアの付近では垂水がにやにや笑いながら行為に及んでいる宮野と私を見ている。
「いやっ!やめてっ!!」
「うるせぇー!!」
屈辱に、宮野の行為を拒否し振りほどこうとすると、即座に顔にこぶしが飛んだ、鼻骨が折れたようだ。感じる痛みと鼻から飛び散る温かい血液、絶望的な屈辱、徐々に何が起こっているのか思い出してきた。
そうだ、私は、このキチガイのような男たちに拉致されて輪姦された挙句、虐待の限りを尽くされているのだった。それでこれから1か月くらいかけて、食事もろくにとれないまま、激痛の中じわじわと、意識が無くなるまでいたぶられ、そして最終的には撫で殺しにされ、コンクリートでドラム缶に詰められ、公園へ捨てられ、腐乱した死体として発見されるのだ。
の、呪ってやる、私をこんなにした宮野を呪い殺してやる!!!!
暴行に次ぐ暴行でふらふらとした頭の中にも、廓清し切れない癌のようにじわじわと広がってゆく激越。沙紀は、これから死にゆく身であっても宮野を恨みぬいて呪い殺す事を心に誓った。
先ほど殴られた衝撃か口からどばどばと血があふれてきた、鼻も腫れ、血で詰まり、息ができない。。。
がばっ、宮野は跳ね起きる。うたた寝していたようだ。
(な、なんだ?お、女?さ、沙紀か?)
と、言おうとして、口の中全体に痛みと違和感を覚える。泥状の物を茶碗一杯ほど吐き出した。
それは、
セメントであった。
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