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longshu

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その夜、凛は奇妙な夢を見た。翌朝、目が覚めても鮮明に覚えている。そして、普通の人にとっては、最愛の恋人や家族を失ってしまう悪夢以外の何物でもない夢であった。

白い袴を着た若く美しい女と、見るからにみすぼらしいくたびれた顔の子男が対座して柱に縛り付けられ、屈強な狂暴そうな男たちに痛めつけられているようだった。彼女はかつては美しかったのであろう、しかし、繰り返し拷問された跡か、凛の眼には、TVで見た屠殺場に横たわる豚か牛のように見えた。

着ている装束や建物の様子から判断するに、時代は奈良時代か江戸時代か、日本史が不得意だった凛には詳しいことはよく分からなかったが、どう見ても古代日本だ。建物自体は、ところどころ荒くれ者たちに破壊されてはいたが、それでもなお高貴で清潔でありその奥にある深くスピリチュアルなものを感じさせた。そして、そこで繰り広げられている惨劇が、砂漠の真ん中にいる猫の親子がぽつんと居ると言った風な、現実に似つかわしくない光景で、しかしあまりに生々しい臨場感に満ち満ちていた。

はじめは部屋の上空片隅にあった凛の目線は、徐々にその出来事が起こっている付近までクローズアップされる。

「分かったぜ、敏兄」

そして敏蔵の手腕に心服し切っている宮助は、そう言うとすでに拷問に次ぐ拷問で精神が崩壊していた俊哲の首に鋸を当てようとする。

その敏蔵と呼ばれていた男は、敏文の生き写しのようであった。

そして、敏蔵達に拷問されている男は、あばた跡、小さく頼りなげな瞳、拷問中からも容易に判断できる極度の猫背で、その全てが、決して容貌が良いとは言えない、しかし彼女にとっては最愛の兄、俊介と瓜二つなのであった。

自身、夢と分かっている夢の中で思わず絶句する凛。

「や、やめ、ぐ、ぐっっ、、、、!!!!」

見かねた妹の小夜が絶叫する瞬間、悪党の一味、そびえる悪の入道雲のような永吉の握り拳が容赦なく小夜の鳩尾といい、頬といい首といい、散弾のように降り注ぐ。小夜の叫びは無言の血のほとばしりとなるのであった。

そしてその時、小夜と呼ばれていた少女が、虚空の一点をじっと見つめる。凛の思念と目が合った。

(何、ど、どうして私を見るの?私にはどうしようもできないわ!!)

凛は、悲痛な、声にならない叫び声を上げる。それはまだ彼女に正気と言うものが残っているとするならば、とても目を開けていられないほどの惨劇であったためだ。そして非道な労働環境で自殺してしまった兄俊介を思い起こさせるに十分な処刑であった。

「けっ、もう息絶えたか、見た目通りひ弱な奴だったぜ。」

垂一が、気管を切断され真後ろに垂れ下がった俊哲の首を見て捨て台詞を吐く。敏蔵は、次の悪事のネタはないか周辺の村の地図が載っている書物を熱心にめくりながら、横目で俊哲の死に様をひっくり返っている蝉の死骸でも眺めるかのごとく見ていたが、やがて数限りなく行っているいつも通りを手下へ指示するのだった。

「さぁ、もうつまんねーから消すか、おい垂!」 

俊介と瓜二つの俊哲を虫けらのように殺害した敏蔵は、彼のいつものお決まりのパターンで、兄妹が守っていたと思われる社を燃やそうとしているようだった。

(や!やめて!!)

夢の中で叫び声を上げる凛、しかし当然ながら、兄の首を挽き、妹を生きたまま焼いてしまおうとするその蛮行は止むことはない。そして、最愛の兄を、彼らが代々守ってきた社を、全てを、その出鱈目な悪行で亡きものにされてしまった小夜は、社が燃えだし敏蔵が社を後にしようとする最期の最期に冷静にこう宣誓するのだった。

「敏蔵。私はお前を許さない。お前たちの一族郎党、ことごとく呪い殺してやる。これまで行ってきたことを後悔してやまぬように最大の苦痛を永遠に感じるようにして殺してやる。何度生まれ変わってきても、何度でも何度でも何度でも殺してやる。」

その瞬間、凛は、俊介を失い真っ暗だった視界に、突如として清涼な朝日と共にはっと目の覚める景色が広がっていくかのごとく、すっと、俊介と凛達に起こってしまった出来事と、この夢と、そしてそれら全ての繋がりを理解したのだった。

分かったわ、目には目を、復讐には復讐を、敏文を殺して!!!

凛がはっきりとそう決意したところで、くっきりとした10月初秋の朝日と共に目が覚める。そして彼女はこの日を境に大学生としての行動をぱったりと止めてしまった。
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