最後に望むのは君の心だけ

こみあ

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第一章 不憫な騎士 - A miserable knight -

5 そんな騎士の最後の願い☆

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「なあ、それどうするつもりだ?」

 薄暗い牢の中、あれからしばらく私はジッと手の中の男性器を見つめていた。手に握りしめたはいいがどうしたものか分からない。
 騎士団なんかにいるくらいだから上半身裸の男たちに交じって訓練だってやるし、不意打ちで見なくてもいいものを目にすることだってあったが、こんな風にしっかりと起立した成人男性の性器に直接触れるのは始めてだった。

「頼むからそろそろ開放してくれねぇか」

 上からカラムの情けない声が降ってくる。

「いいから任せろ。お前はそのまま縛られてればいい」

 椅子に縛り付けられてるカラムはその言葉に盛大なため息を付いた。

「悪いけどラス、お前それどうしていいか分かんねぇんだろ」
「え? そ、そんな事はない。そんな事は……」

 そう返事しても仕方ない。どうしていいかなんて知るわけがない。それでも、何となく握った物を上下にさすってみた。
 途端、手の中で肉の塊に這う血管が脈打った。

「うわっ」
「うぅぅっ!」

 つい私が声を上げてしまい、からかわれるんじゃないかと見あげれば、カラムはカラムでそれどころじゃなさそうに顔を歪ませて盛大に喘いでた。
 これは辛いのか? それとも気持ちいいのか?
 こんなに熱を持って腫れ上がってるんだ、そのまま乾いた手でさすったら痛いのかもしれない。
 何か柔らかいもの。
 そう思って、昔口で咥えるという話を聞いたのを思い出した。なるほど、口の中なら柔らかいし濡れてるから痛くないのだろう。
 私は思い切ってその先端を口で咥えてみた。

「うわ、馬鹿、ラス無理するな。止めとけって……クソッ……クッ」

 口の中でくるりと舌をまわして先端の丸い部分を舐め上げてみた。するとカラムが悪態をつきながら、だけど苦しそうな喘ぎを繰り返す。どうやら正しいらしい。
 そう確信を持った私はそのままもう少し深くまでカラムの男性器を飲み込んでみる。どうにも大きすぎて中々入りにくい。口の中にも歯と言う硬いものがある。それが当たらないように気をつけると、余計カラムの男性器は私の口には大きすぎた。

「入らねえって、無理すんな、う、おい、」

 私が躊躇いながらもカラムの男性器を半分ほどまで口に含むと、勝手に涎がその肉棒を伝って握ってる自分の手に溜まってくる。仕方ないのでそれを拭うようにカラムの男性器に塗り付けた。
 ああ、これならさっきより乾いてない状態でさすってやれるな。
 私は気をよくしてそのままズルズルと滑る肉の皮を指でさすりながら今度は口の中の物を吸い上げてみる。

「おまっ、おっ、わぁ……アッ……」

 騒いだのは一瞬で、あとはすぐにカラムが耳に心地よいテノールで息を荒げて悩まし気な声を上げはじめた。どうやら今度は気持ちいいらしい。
 これでこいつの最後の望みを叶えてやれる。そう思って私は一生懸命それを続けた。

 やがて、手の中のカラムの男性器が膨張をはじめ、カラムの腰がビクビクと震えはじめる。
 多分、これが絶頂ってものなのだろう。それを迎えさせてやろうと私はより根性を込めて喉のなるべく奥までカラムの肉棒を飲み込んで頭を上下に動かしていく。
 突然、カラムの身体が硬直し、破裂するように喉の奥で跳ねたカラムの男性器がネットリとした何かを私の喉の奥に叩きつけ始める。
 この部屋には精液どころか彼の血を拭いてやれるようなタオルもなければ水もない。私は仕方なく、喉に貼り付くそれを我慢してなんとか全部飲み下していく。最後の一滴まで私が飲み下すと、少し脱力したカラムが深いため息を付いた。

「すまねえ……」
「なぜ謝る? 騎士が友の最後の願いを叶えるのは当たり前だろ」
「いや、ま、そうだが、本当にすまねえ……」

 消え入りそうな声でそういうカラムは、だけど、今にも気絶しそうな顔色だ。そりゃそうだろう。失踪して半月が過ぎている。その間ずっとこの牢に閉じ込められていたのだろう、拷問の後らしい傷跡がそこいらじゅうに見えるし、一部爪まで剥がされてる。
 兵士である以上、無論切り傷だって死体だって結構見てきてる。それでも自分の仲間がこんな状態で放置されるのに何も感じないはずがない。出来る事ならせめて怪我の手当てくらいはしてやりたいが、それは今の私には許されていなかった。

「お前の望みはこれでおしまいか?」

 私は今まで跪いていたカラムの足の間から身を起こし、立ち上がりながらそう尋ねた。
 するとそれまで俯いてたカラムが、一瞬その瞳に強い感情を滲ませて私に向き直る。その強い視線に貫かれ、私の心臓がギリリと傷んだ。

「あとひとつだけいいか?」
「ああ、言ってみろ」
「本当は俺が抱きしめたいんだけどな。それは無理だから、抱きしめてくれ」
「……分かった」

 そうは答えたが、どうしたものか。騎士服の太腿の部分にも幾つもの血のシミが見える。こんな状態で私が上に座ったらきっと激痛が走るだろう。かといってたとえ私が騎士団では小柄な方だとはいえ、座ってるカラムを立ったままちゃんと抱きしめるのはかなりキツイ。

「いいから俺の膝に座ってくれ」

 私の躊躇いを理解したカラムが、そう言ってはにかんで私を見あげる。その視線がやけに熱くて、なぜか顔が熱くなってきた。
 こいつ、こんな顔もするのか。
 今まで知らなかったカラムのやけに男性的な視線に、思わず息を飲んでしまう。
 気のせいじゃなく、自分の身体が熱くなってきた。
 参ったな。こんな年頃の娘のような反応をまさか自分がするとは思わなかった。

「多分痛いぞ」
「構わない」

 私が忠告してるにも関わらず、カラムはわざと膝を前に出して私が座りやすくしてくれる。仕方なくその上になるべく体重をかけないように跨り、同じように傷だらけの身体を傷めないよう気を付けて背中に腕をまわして抱き着いてみる。私より長身のカラムの上半身に自分の上半身を重ねると、自然とカラムの肩口に頭が落ちた。
 その私の頬に、カラムの頬が触る。髭が当たってこそばゆい。だがそれを遠慮なく私の頬から首筋に擦り付けて、カラムが喉の奥で低くいなないた。

「あー、チクショウ……」

 吐き出すようにそう言って、カラムがぎゅっと顎で私の肩を引き寄せる。それは両手が自由にならない彼の最大限の意思表示のようだった。

「時間だ。出ろ」

 そこに扉の外から黒服の執行人の冷徹な声がかかる。

「最後の望みくらいゆっくり味わせろよ」

 減らず口を叩くカラムに返事の代わりに扉が開けられた。

「ラス。時間だ」

 そう言うのはジェームズ卿の腰巾着。名前も知らないがこいつのお陰で思わぬ対面をすることが出来たのも事実だ。

「分かった」

 私は素直に言われるままに立ち上がり、扉に向かう。そこで最後にもう一度振り返ってカラムに別れを告げた。

「君の魂が救われんことを」

 決まり文句だ。他に言えることも言ってやりたい事も思いつかなかった。
 カラムもこちらに顔も向けず俯いたまま、小さく「ああ」とだけ返してくる。
 そしてそれが私が牢の中のカラムの姿を見た、最後の瞬間だった。
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