最後に望むのは君の心だけ

こみあ

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第三章 目覚め - Awaken -

16 目覚める騎士

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「すっかり俺のキスに慣れたな」

 しばらくして唇を離し、名残惜しそうに私の下唇を食んでからカラムがボソリとそう言った。

「知ってるか? 娼館の女はキスをさせない」
「え?」
「キスはな、好きな相手にしか許したくないんだってさ」

 言われてドキンと心臓が鳴った。私は最初からキスならいいかとカラムに許したが、それは普通、本当に好きな相手にしか許さない行為らしい。とはいえ、だからそれで私がカラムを好きだという証拠にはならないのだが、なぜか凄く納得してしまい、自分でも驚くほど素直にある事実に気づいてしまった。

 私はカラムが好きらしい。

 自覚は突然やってきた。
 あんなに悩んで、戸惑い、カラムを待たせてきたのに。
 こんな簡単に突然にあっけなく、私は自覚した。
 カラムが好きだ。
 一旦そう思えると、今までの自分の身体の反応も自分の胸の痛みも、全てが自然な反応なのだと素直に納得できた。
 一体いつ私はカラムを好きになったのだろうか? こいつに告白されてからか? それとも面倒をみるようになって?
 いや牢であんなことをしたからって事はないと思うが、もしかするともっと前からなのかもしれない。
 たとえしっかりとした自覚がなかったとしても、私はかなり前からカラムといることが嫌ではなかったのだし、牢で頼まれた時、カラムならしてやってもいいと受け入れられた。それどころか初めてカラムを抱きしめたあの時、微かながら胸が痛んだのを覚えてる。
 好きだ、という気持ちはともかくとして、それ以前にカラムとのこの4年の付き合いが思っていた以上に私の中にカラムへの信頼を育んでいたのは確かだ。
 今思えばそれが今こうして安心してカラムを好きだと素直に感じられる土台になっていたんだろう。

 さて、問題は。
 どうしたものか。これは今こいつに言っていいのだろうか?
 好きなのはいい。もう事実だ。だけど、それとこいつのいう所の『抱く』という行為を受け入れるのはまた別問題だ。すでに娼館の一室で抱き合ってる時点で半ば受け入れているようなものなのは分かってる。分かっているのだが、かといって自分から大丈夫だと言えるほど私はまだ覚悟が出来ていない。
 しばらく私が脳内でそんな問答を繰り返していると、怪訝そうにカラムが私を見降ろしてきた。

「なんだラス、俺の話を聞いてキスはもう嫌になったのか?」
「いや、そんなことはない。キスは好きだ」

 そう答えて、自分の答えにビクンと反応してしまう。
 好きだ、と言ってしまった。いや、違う、私はキスが好きだと言ったんだ。
 一人馬鹿みたいに慌てる私をカラムが面白そうに見下ろしてる。

「キスは好きか。悪くない。じゃあそれ以外は?」

 ずるい奴だ。カラムの奴、私の反応から何か察してもっと引き出そうとしてやがる。私は少し考えて慎重に言葉を返した。

「……他にも好きなことはある」
「例えば?」
「抱きしめられるのは好きだ。ホッとする」
「それから?」
「耳を……舐められるのも……嫌じゃない」
「ああ、ラス好きだよな、耳舐められるの」
「おい、言い方がやらしいぞ」
「当り前だ、やらしいこと言ってんだから」

 クッ。ああ言えばこう言いやがって。

「あとは?」
「……胸を触られても、嫌じゃない」
「あのサポーター、いい加減捨てろよ」

 そう言いつつ、カラムの手が私の胸を服の上から柔らかく揉み始める。

「嫌だ。し、仕事中は、必要だ」
「この前組みあって分かったろ、あんなもんあってもなくても一緒だ」
「そ、そういう、問題じゃ、ない。心構えの、問題だ」
「ラスは頑固だなぁ」

 胸を揉まれながら答えるのは案外難しい。カラムに胸を揉まれると心臓がドキドキして息が上がってくる。胸の内側の深い部分がジンジンしてやるせない切なさが下腹部を襲いだし、身体が勝手に浮き上がってくる。

「なあ、もっと他に好きな事はないの?」

 突然私の胸を揉んでたカラムがその手を止めて、ジッと私を見つめてきた。期待されてる気がして心臓が痛いほど強く早鐘を鳴らし始めた。顔に血がのぼってきてカッカと熱くなり、手が汗ばむ。
 ど、どうするんだ? 言ってしまっていいのか? 言うべきなのか?

「カ、カラム、も、……」
「なんだ、良く聞こえない」

 消えいってしまった私の言葉の最後の部分をカラムが真剣なまなざしで聞き返す。ジッと目の前で私を見つめるカラムの眼が見たこともないほど強く輝いてて、その瞳から目を逸らすことも出来ず口を開くのさえ苦しい。

「カラム、も、好きだ」

 やっと私が絞り出したその言葉を聞いた瞬間、カラムの顔が真っ赤になった。そして苦しそうにうめき声をあげ、震えながら私を抱きしめる。

「あああああ。ラス、嬉しい。すげえ嬉しい。ああああああ」

 大げさなカラムの反応に、こっちの方が死ぬほど恥ずかしい。悶え逃げ出そうとする私をどこにも行かせまいとカラムの腕が強く抱きしめる。

「カラム、く、苦しい」

 締め落とす気かと思うほど強く抱きしめられて、流石に文句が口を突いて出た。途端慌てたように腕を緩めてカラムが私の額に唇を押し付けるだけのキスをする。少し離れてはまた嬉しそうにキスをする。それを何度も繰り返されるとこっちまで幸せな、踊り出したいような、凄く嬉しい気持ちにさせられる。

「俺も好きだラス。愛してる」

 そう呟いては愛おしそうにその唇を何度も私の額に押し付けるカラムの様子を見るうちに、私の胸の中にも沢山の暖かい情愛が湧いては溢れだす。胸を満たしていく多幸感に今以上に嬉しい気持ちなんてないんじゃないかと思いつつ、私もまたカラムを強く抱きしめた。
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