Aの館

こみあ

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2.私の一言が引き金となり

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 私の一言が引き金となり、がやがやといくつもの声が部屋に響く。
 そんな中、私の真向かいに座る男性が突然震えながら椅子を蹴って立ち上がった。

「こんなところ、とっとと出るぞ」
「で、でも……」

 彼は並んで座る女性と少女に声をかけるも、少女 は先ほど目前に現れた砂糖菓子に夢中で、女性は私の隣の大男に怯えて立ち上がれない。
 それに業を煮やした男がイライラと周りを見回す。
 私もつられて見回すが、背後の闇にはどこにも出口らしき扉が見当たらない。それどころか窓一つなく、ただ暗がりに木組みの壁らしきものがうっすらと見えた。上を見上げてもよっぽど高い天井なのか、天上らしき終わりが見えない。

「お前、そいつらが自分の家族だって分かるのか?」

 と、肉を食べ終わった隣の大男がフォークを置きながら問いかける。
 指摘された男性はハッとした様子で改めて自分の横に座る少女と女性を見やり、顔に戸惑いを浮かべた。

「いや……多分。二人を置いていけないとおもう」
「お前らは?」
「思い出せませんが、この二人といるべきだとは……」

 女性も不安そうに答える。

「面白いな。嬢ちゃんはどうだ?」

 二人の間、黒いドレスを纏う可愛らしい少女が、問われて砂糖菓子から顔をあげる。

「私はこの二人が好き」

 小首をかしげ、少し考えたのち目前の大男に笑顔で告げた。
 それを見て私自身、再度同じテーブルに座る面々を見回した。だが、暗がりではっきりと顔も見えないし、特に親しみを感じる相手も誰もいない。
 夫婦や親子であれば感じ取れる何かがあるのだろうか、そう思うと途端心細くなる。自分の中にある、感じられるはずのない巨大な空洞を意識して、不安と恐怖に飲み込まれそうになる。

「静かに。皆さん、混乱されるのはわかりますが、まずは私の話を聞いてください」

 そんな私の意識を刈り取るように、最初に声をあげた青い服の女性が再び声をあげた。全員が再度彼女に視線を向ける。一度立ち上がった男性も渋々座りながら彼女を見た。

「ここに一枚の手紙があります。私自身、自分の記憶は全くないのですが、なぜか自分の役割だけはしっかりと分かっています。それを理解していただくためにも、私はこの紙を読み上げる必要があります」

 真剣な顔でそう告げると、手に持った紙を私たちに見せる。思えば彼女は最初からその紙を手にしていた。
 羊皮紙だろうか、少し厚みがあり、端が緩くカールしている。
 文字が書かれているのは微かに見えたが、その内容までは分からない。彼女はそれを両手で持ち、緊張した面持ちで読み上げ始めた。

『Aの館へようこそ
 この館には、ご用意した至極のゲームの参加者しかご入場頂けません。
 現在、館内にはご招待した貴方方9人、3種族が存在いたします。

・人間
・狼
・ヴァンパイア』

「なんだそりゃ? 狼にヴァンパイアだぁ? 俺ぁ与太話に付き合う趣味はねぇぞ」

 そこまで読み上げたところで、隣の男がテーブルを蹴って怒鳴った。
 突然の奇行に、私を含めほとんどの者が飛び上がる。

「ま、まあ、先ずは最後まで話を聞きませんか?」

 と、老婆を挟んで向こう側に座る仮面の男がおずおずと、しかしはっきりとそれに反論した。

「私もそれに賛成だ。言いたいことは色々あるが、ここは先に最後まで話を聞いたほうが賢明だろう」

 貴族っぽい服装の男性が落ち着いた様子で再度手をあげ賛同する。
 二人の反論に大男が不機嫌そうに 「フンッ」と鼻を鳴らし、けれど口をつぐんで腕を組んだ。
 それを見て、また青いドレスの女性が話し始める。

『人間の中には、以下の役割をもつ者が存在します。

・裁定者 
・狩人 

 館内では以下のルールが適用されます。

1 裁定者は人ですが人間には含まれず、また決して殺すこともできません
2 狩人は狼を殺せますが、ヴァンパイアは殺せません
3 ヴァンパイアは狩人を殺せますが、狼は殺せません
4 狼はヴァンパイアを殺せますが、狩人は殺せません

 そして、

5 狼は人を食べます
6 ヴァンパイアは人をヴァンパイアに変えることができます
7 裁定者は常に館内に生存している種族を確認できますが、人数は分かりません

 この館内では、貴方方一人につき一人のガーディアンがつきっきりでお世話をさせて頂きます』

「きゃぁ」
「うわっ」

 彼女がそう読み上げた途端、先程の影のようなメイドが再度全員の後ろにスッと立つ。
 私を含めほとんどが悲鳴を上げるなり驚く中、隣の男が反射的に腕を私の後ろに伸ばした。

「ヒッッ !」

 ギョッとして振り返る私の目前で、掴もうとしたメイドの姿がまるで暗がりに溶けるように一瞬見えなくなり、陽炎のように揺れて戻ってきた。

「捕まえるのは無理そうですね」

 それを観察していた貴族っぽい男性が肩をすくめ冷静に指摘する。

「続きを読みます」

 青いドレスの女性がそれを待って、また口を開いた。

『なお、テーブルに座っていらっしゃる限り、ガーディアンは皆さまのご希望に沿うお食事をご提供いたします。また、皆様がお休みなられるためのお部屋もご用意させて頂きました』

 そう読み上げた途端、部屋の暗がり、今まで壁しか見えなかった各々の背後に、生えるように木造の扉が浮かび上がってきた。
 この時点で、少なくとも私は声をあげられず、恐怖から椅子を動くことが出来なかった。自分が何者なのか、ここどこなのか、何も分からないにも関わらず、例えば目前のテーブルがテーブルだと認識できるように、メイドや扉が現れる現象が異常だということだけは本能が告げてくる。

 しかし、それでも読み上げる女性の声は途切れず、とうとうと続く。

『裁定者を除き、館に存在するのが一種族になった時点でゲーム終了となります。
 ゲームが続く限り、決して餓死することも、自死することも出来ません。
 この館を出る方法はただ一つ。ゲーム終了まで生き残るのみです。

 殺すか、殺されるか。

 それではどうぞ、美しき究極のゲームをお楽しみください』

「以上。こちらの紙に書かれた内容を読み上げさせていただきました。ご不信でしたらどうぞご自分の目で確かめてください」

 一旦そこで言葉を切り、テーブルに紙を置いた女性が一息ついて、また口を開く。

「私も皆様同様、なぜここにいるのか全く分からないのですが、これだけははっきりと認識しています」

 ことの成り行きをただ見守る私は、それがどこへ行きつくのか全く分かっていなかった。

「私が裁定者です」

 その一言で、隣に座っていた貴族風の男性が突如立ち上がり、一息に短剣を彼女の胸に突き刺した。
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