異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

7 一難去ってまた一難

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「あゆみ……」
「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません」

 皆に注目されてあゆみがビクビクと怯えを称えた顔で謝ってる。ホントにこいつ、失敗することに慣れてねえよな。やっちまった事をグダグダ言っててもしかたねーのに。

「あゆみもまさかそれが攻撃になるとは思ってなかったんだろ。仕方ねーよ」

 バッカスが甘やかすように後ろからそういうと、すぐにヴィクが頷いて声を掛ける。

「ああ、あゆみ。別に被害もなかったんだし問題はないよ」

 俺はどうもこういう時に気の利いた言葉が出てこねえ。仕方ないから無言でやり過ごそうとすると、アルディがこっちに向き直った。

「そうですね。この場合はネロ君の監督責任もありますし」
「俺のせいかよ……ああ、まあそれでもいいや」

 一瞬言い返してから、眼下のあゆみの落ち込んでる顔が目に入ってなし崩しになっちまった。

「まあそれにしても振り出しに戻りましたね」

 アルディがそういうと、スクッと突然シモンが立ち上がった。

「アルディさん。そのやもい綱をこっちにください」
「どうする気ですか?」
「まあ、普通に岸に渡りますよ。私はエルフですから体重がほとんどありません。私が跳んでも船への影響は最低限でしょう」

 そう言われてアルディが疑わしそうに見返しながらも、渦巻状に積まれていた舫い綱の先端をシモンに手渡した。

「なるべく揺らさない様に跳びますが、綱自体が重いですから少しは反動が出ます。皆さん、しっかり船に掴まっていてください」

 一言そうかけてから、綱を川に半分ほど垂らして、シモンがなぜか遠い方の岸に向かって一気にジャンプした。驚くほどの高さに飛び上がったシモンは、軽々と岸まで跳んでいった。船は確かに軽く揺れたが、さっきのあゆみの騒動程にも揺れちゃいない。
 ……ちくしょう、こんなでもやっぱこいつエルフだ。ある意味夢に見たエルフがこんな奴なのが本当に悲しくなってくる。
 俺の個人的な感情の葛藤は横に置いておいて、シモンの身の軽さは俺たちのいた世界で語られていたままだった。
 流石腐ってもエルフ。

「それじゃあ舫いをそこの木に繋ぎますから皆さんで引っ張ってください」

 そういうシモンは自分で俺たちを引っ張る気はないらしい。当たり前のようにそう言って手近な木に向かって歩き出す。
 ああ、それで森に面してる左側の岸に向かって飛んだのか。
 シモンが舫い綱を太い木の幹に結わい付け、アルディとアントニー、それに俺の三人で綱を引き、バッカスが体重移動で船のバランスを取って、やっとのことで無事船を岸へ着けることが出来た。
 とりあえず一旦全員岸に上がって川面を見る。

「いやほんと、一時はどうなる事かと思いましたね」
「ああ、シモン、助かった」
「いえ、これくらいの事なら構いません」
「ああ、全く、こんなに簡単に抜けちまうとは思わなかったぜ。これじゃあ恩を売る暇もねえ」

 最後の聞きなれない声にギョッとして、俺たちは一斉に後ろを振り向いた。

「お疲れさん。そんじゃ皆手をあげてそこに膝ついてくれるか?」

 振り向けばそこには20人程の体格のいいムサイ男どもが、獣の革で作られた服を身にまとって槍を構えてこちらを見てた。槍の先はしっかり俺たち全員に数本ずつ向いてる。
 服のせいで昔のインディアンか原始人みたいに見えちまうが、どうやらこれはいわゆる山賊らしい。
 アルディに目配せすると、動くなっというように横に首を振る。仕方ないので反抗はせずに聞き返した。

「悪いけど俺、こいつ抱えてるから手はあげらんねーぞ」

 あゆみを揺すって見せると、男がニヤニヤしながら返事をする。

「心配するな。女は別に連れてくからそこに降ろせ」

 ああ、チクショウ、こんな事でキレてる場合じゃねーのに一瞬で頭が湧いた。

「黒猫君、ダメだよ。いいから下ろして」
「ってぇ!」

 俺がとびかかろうと身構えると、すぐにあゆみの手が伸びて俺の耳を強く引っ張った。こいつやるに事欠いてそういう事するか!
 痛みに顔を顰めた俺は、だけど一瞬の激昂をそがれてあゆみを見下ろす。どうやら本気らしいのを悟って仕方なくあゆみを横に降ろして自分も手をあげて跪いた。

「あんたらこんな事してて恥ずかしくねーのかよ」

 一応の無抵抗の体は表しても、ついいつもの憎まれ口が出ちまう。すると、どうやらこいつらの頭首らしい一番ガタイのでかい男が俺を睨んで答える。

「別に。お前らに家族殺されて食い物取り上げられた俺たちには、恥じるようなもんはなんも残っちゃいねえさ」

 男の返事にアルディと顔を見合わせた。

「おい待て、俺たちはあんたらなんか知らねーぞ?」

 俺が直ぐにそう言い返すと男が顔を歪めて斜に睨んでくる。その顔にはでかい切り傷の後が横一直線に入ってて、ぼさぼさの頭と髭でさえ隠しきれてない。かなり悪そうな容貌だ。
 だが、俺だってそんな相手は嫌って程サバイバルやってる時に見てきてる。お陰で別に怖くもなければ、それだけで相手を判断する気にもなれねえ。
 正直容貌なんて必ずしもそいつの内容に沿ってるとは限らねーし、森に住めば髭だの髪だのが手入れ出来てなくたって別になんの不思議もねえ。

「お前が知らなくても俺たちは知ってんだよ。あんたら国王軍の連中だろ。その船の紋章みりゃすぐわかる」

 ああ。確かにこの船はキールの国王紋をいれちまった。モータを付ける船には必ず王立研究所の制作物の意味で紋が入ってる。

「だからってなんだっていうんだ? 俺たちはあんたらに直接なんもしたことねーだろ」
「なに言ってやがる。国王軍が俺たちをあの鉱山で死ぬまでこき使ってんだろうが」

 はっとしておれはアルディをみた。アルディも頷きながらこっちを見てる。

「それは誤解ですよ。鉱山に人を送っていたのは旧ナンシー公ですし、すでにキーロン陛下がナンシー内を一掃しました。だから鉱山に送られた者の救出に僕たちが派兵されてるんですよ」
「そんな話信じられるか! 大体そのキーロン皇太子ってやつが俺たちを北に送る指示を出したって聞いてるぞ」
「それはありえない。キーロン陛下と我々はこの春までずっと『ウイスキーの街』に閉じ込められてたんですよ? どうやってそんな事が出来ると──」
「うるせえ。あんたらの言葉なんてどうやって信じろってんだ。悪いが身ぐるみ剥いでその腹掻っ捌いてもそう言い続けたら信じてやるよ」

 どうやら頭首らしいこの男は、まるっきり俺たちの話を聞く気がないらしい。まあ無理もねーか。
 俺とアルディはため息をついて立ち上がり、バッカスとシモンに声を掛ける。

「バッカス手を出すな、あゆみを頼む。シモンあんたも後ろにいろ」

 それから約十分。

「ちくしょう、殺しやがれ」

 剣なんか使わなくても、俺とアルディの二人で山賊を制するのにはさほど時間もかからなかった。アルディは本職だし、俺だってここ1か月こいつに稽古つけられてたんだ。

 残りの2人の兵士は戦闘には手をださなかったが、俺とアルディが組み伏せた相手を片っ端からあっという間に縄で捕縛する。手慣れたもんだった。

「あのな、俺たちはあんたらを殺しても何の得もねーんだよ」

 俺が呆れてさっきのガタイの大きな頭首らしき奴にそういい返すと、唾を吐きだしながら言い返してきた。

「よく言うぜ。反抗する奴は殺して操り人形にしちまうだろうが、あんたたちは」

 その言葉で一気にアルディと俺が固まった。スゲー気にはなるが、かといって今これ以上問い詰めてもどうせろくな情報は入って来ねえだろ。仕方なくアルディに声を掛ける。

「おい、これどうする?」
「どうするもなにも放っておくわけにもいきませんね。合流に遅れるので出来れば放っておきたい気もするのですが」
「じゃあとりあえず縄外すか」
「そうですね」

 あっさりと合意して剣を振り上げたアルディに、頭首をはじめ一同震えながら目を瞑る。
 今縄を外すってしっかり言ったよな、俺。
 それでも構わずにアルディがザックザックと縄だけ切り始めるとすぐに兵士の一人が文句を言った。

「アルディ隊長、縄が勿体ないんでやめてください。俺らが外します」
「あ、ああ。そうですね。じゃあよろしく」

 やけに間抜けなやり取りをして、結局縛り上げた兵士二人が順番に他の者の縄も外し始めた。
 縄を切り落とされ自由になった頭首の男は、その様子をただポカーンっと口を開けて見守ってた。
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