異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

文字の大きさ
316 / 406
第11章 北の森

27 私たちの正体?

しおりを挟む
「俺はネロ。こっちのはあゆみ。今回はあゆみを保護してくれて本当に助かった。まずは礼を言わせてくれ」

 ベンさんと私が座ったテーブルの上で猫の腕を器用に組んだ黒猫君がなんだか偉そうにそう言うと、ベンさんがさも幻でも見たような顔で黒猫君を凝視した。

「本当に、猫の癖に喋ってやがる」
「何だよ、こっちがちゃんと礼を言ってるのに。大体あんただって熊の癖に喋ってるじゃねえか」
「お、俺は獣人だ。当たり前だろ。お前ら動物とは違うんだよ」
「俺を動物扱いすんな! これでも元は人間なんだからな」
「はあ? なに寝ぼけたこと言ってんだこの猫は?」

 そう言ってベンさんが黒猫君を指さしながら混乱した顔で私に向き直る。
 そんな顔でそんなこと私に聞かれてもあまりいいお返事はしてあげられない。

「あの、信じられないでしょうが本当なんですよ。これでも本当はもっと人らしいって言うか、もっと大きいっていうか」
「ああ? 狼人族みたいに獣人に人化するって言うのか?」
「いや、そうじゃなくてな、ってもうそんなのはどっちでもいい。とにかく俺は人間に近いんだよ」

 黒猫君が面倒くさそうに言いきってもベンさんはまだまだ疑わしそうに黒猫君を見てる。

「じゃあ、人化してみろよ」
「あ、あの今はちょっと戻れなくなっちゃってるんです」
「なんだそりゃ?」
「昨日お腹に矢が刺さって怪我しちゃったからまだ治りきってないっていうか」
「おい、大丈夫なのかよ?」

 私の説明を聞いたベンさんは唐突に黒猫君の前足を両方掴んで万歳させた。そのまま前後左右から傷がないか確かめてる。

「おい、やめろ! もう大丈夫なんだよ、ほっとけ、放せって」
「そんな大怪我がそんな簡単に治るわけないだろ」
「わ、私が治しちゃったんです」

 私は慌ててそう言いながら頭を巡らす。

「わ、私ほんの少しエルフの血が混じってるから治療とかちょっとは出来るんですよ」

 途端、ベンさんが凄く嫌そうな顔で私を見る。

「嘘つけ。あんたからエルフの匂いなんかしねえぞ。してたら間違いなく拾ったりしなかった」

 「あんな偏屈野郎ども」ってベンさんがぶつぶつ文句言ってるけどシモンさんたち、一体何を今までしてきたの!?

「もういいだろ、ちゃんと説明するからまずは俺を放せって! 腕が抜けるだろ!」

 ほとんど宙づりにされてた黒猫君が尻尾でベンさんの手をペシペシ叩きながら騒ぎ出し、ベンさんも流石に申し訳なさそうに黒猫君を手放した。

「ああ、悪い。確かにもう血の匂いもしないな」
「だから言ったんだ。いいか、あんたには俺たちを拾ってもらった恩があるから正直に教えてやる」

 解放された黒猫君は痛そうに腕をさすりながら私を見る。

「ナンシーの街で猫神とその巫女が現れたとか言われてるの知らねえか?」
「ああ、なんか俺が街を出るころにそんな噂が流れてたな。ウイスキーの街で狼に乗った猫の神様が出たとかなんとか」
「そ、そっちかよ」

 黒猫君がちょっと焦ってる。それって私たちがナンシーに行く前の話。ってことはベンさん、私たちと入れ替わりくらいでナンシーを出ちゃったのかな。

「その後ナンシーで新しい国王が即位したのは聞いたのか?」
「いや、初耳だ。今回はナンシーで商売を終えてから散り散りになっちまった狼人族の行方を辿ってたからな」
「ディアナさんたちですか?」
「ああ、ディアナだけじゃなく、狼人族には結構客がいたんだよ。煮干しはあいつらが一番よく買ってくれてたしな。って言っても物々交換だけどな」
「誰か見つかったのか?」
「いや、ダメだった。ああ、そう言えばカリンがあんたらがディアナと行き会ったって言ってたが本当か?」
「はい、ここら辺にいらっしゃいました。私たちと話し合った結果、今西側から北を目指してます」

 問われて私はテーブルの地図で場所を指さしながら答えた。そのまま『北』に相当するテーブルの反対側を指さす。

「……まさか北の砦に向かってるのか?」

 それを見たベンさんの顔つきが厳しい物に変わった。黒猫君も緊張して問い返す。

「なにかマズいのか?」
「まあ、ディアナなら上手くやるだろうが……砦の手前に今何があると思う?」
「?」
「オーク牧場だ」
「はあ?」
「へ?」
「北の砦のやつら、オークを飼いだしたんだよ。本来は絶対一か所にとどまらないオークの群れをどうやったのか知らないが無理やり一か所に閉じ込めて繁殖させてるみたいだった」

 それを聞いた途端黒猫君が凄く嫌そうに顔を歪ませた。

「……それ、ヤバくねえのか?」
「ヤバいに決まってるだろ! 俺は前回獣人国の帰りにちょっと北の様子を見ておこうとして通りかかっちまったんだ。どうやったのか丸く深く掘り下げられた谷の下に腹を空かせて唸ってるオークがうようよいやがって」
「餌をやってないってことかよ」
「……まあ、何かしら少しは与えてるのかも知れねえが、餌なんてやったって無駄だ。あいつら、腹がいっぱいになるってことがないからな。動くものならなんでも食っちまう。……同族でもな」
「……共食いさせてるのか」
「多分な。それでも凄い数になってた。あいつら、繁殖力も桁違いだし」

 ごめん。頭が付いていかない。今、ベンさん、共食いって言った?
 オークが沢山穴に入れられて逃げられなくされてて、それが共食いしながら増えてて、それで牧場って……

「え、オークって食べられるんですか?」
「食えなくはない。かなり臭みが強いし人間だと腹を壊す奴もいるが調理出来ないわけじゃあない」
「え、待って。じゃあディアナさんたち、そんなとこに向かっちゃったってこと!?」
「まああいつらなら離れた所から気配で気づくかもな。上手く避けてくれりゃあいいが。まあ、どうなってんのか見張りは少なかった。俺は気づかれずに抜けられたしあいつらなら上手くやるだろ」
「ディ、ディアナさんたちとは北で落ち合う予定なんです。北の砦の手前の山で」

 ディアナさんたち本当に大丈夫なのだろうか。私が心配で言葉を続けるとベンさんがあきれ顔で私を見返した。

「ディアナの奴、まさか同族を助けようとでも思ってるのか。まああいつらしいって言やあいつらしいが」
「そうなんですか?」
「ああ。あいつの性格からして今までやってない方が不思議なくらいだな。ディアナの一族は一番北側に集まってたから、多分捕まったのも一番多いんじゃないか」
「あんたディアナたちの事よく知ってるんだな」
「狼人族とは長い付き合いだからな」
「じゃあバッカスも知ってるのか」
「ああ、あの偏屈なガキな。ガキの癖に族長に祭り上げられてディアナにコテンパンにやられてたな」

 バッカスやられちゃってたのか。ディアナさん、そんなに強かったんだ。

「そのバッカスが俺たちが一緒に動いてた奴だ」
「じゃあ、猫乗せて走ってたって狼は……」
「バッカスだ……って俺、その時人型だったんだけどな」
「仕方ないよ、噂では猫神様になっちゃったんだから」

 私と黒猫君のやり取りを見てたベンさんがちょっと真面目な顔で聞いてくる。

「じゃあ、まさかあそこの丘で大量に転がってたオークの死体はお前らの仕業か?」

 うわ、ベンさんもあれ見てたのか。
 今度こそ黒猫君と顔を見合わせて考えこんじゃった。私がノーコンで吹き飛ばしましたって自己申告するべきなのかな。そしたらもしかして怒られるんだろうか。

「……そうだ、って言ったらどうする」

 黒猫君が慎重にそう尋ねると、ベンさんは宙を見つめてちょっと考えた末にはっきりと答えた。

「信じがたいが……本当なら協力するぞ」
「協力って?」
「砦を襲うんだろ。だったら喜んで協力するぞ」
「なんでだ? あんたに何の得があるんだ?」

 黒猫君が少し警戒気味にそう尋ねるとベンさんはニヤッと笑って黒猫君を見返す。

「あそこには俺の客が沢山捕まってるんだ」
「商売の為か?」
「ああ。商売の為だ」

 はっきりとそう答えるベンさんに、今度は黒猫君が猫の顔でやっぱりニヤッと笑い返した。

「あんた、なかなか面倒くさい性格だな」
「ああ。よく言われる。それで『猫神様』と『巫女さん』のほうはなんで北の砦とやりあうんだ?」

 今度はベンさんが少し警戒気味に聞いてきた。それに黒猫君は肩をすくめて説明を返す。

「俺たちはキールに借りがあってな。キールの軍と一緒に北の砦に連れていかれた連中を救い出すために向かってるところだ」
「キールってのは……」
「キーロン陛下。元はナンシーの王国軍の隊長をやってたが、あんたがナンシーを出た後に国王に即位した」
「ああ、キール隊長か。だったら納得だな」
「え? ベンさん、キールさんも知ってるの?」
「ああ、昔世話になった。噂じゃ北の砦を作らせたのがあいつだって聞いてたが、あの隊長に限ってそんな事するわけねえし、やっぱりデマだったか」

 ああ良かった、ベンさんはうわさを聞いてても信じてなかったんだ。そっか。実際にキールさんを知っていればあんなひどいうわさも意味がないんだね。
 ちゃんと分かってくれる人もいるんだと思うと、それだけで胸が熱くなってきた。

「ああ、キールが北の砦に人を送ってるってのは完全なデマだ。あいつ、そのころは俺たちと一緒にウイスキーの街にいたからな」

 黒猫君も私同様、ここしばらくどこに行っても聞かされていたキールさんの噂に疲れてたんだと思う。そういう黒猫君の横顔がどこか誇らしそうに見えた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

処理中です...