異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

30 かけっこ

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「じゃあ、あとは頼んだぞ」

 ベンさんが軽く手を振ってトムさんとカリンさんに別れを告げている。
 あれからは順調にお互いの情報交換を終えて、その途中ベンさんが私たちの事情を軽くトムさんとカリンさんにも説明して、自分が私たちと一緒に北の砦の様子を見に行くことを打ち明けていた。
 最初は心配していたトムさんとカリンさんも、ディアナさんが若い竜の立ち寄る森に向かってる話を聞いて一転、一緒についてくると言い出した。それをそれこそ危険だし、村の面倒を見れる二人が一度に出てしまうのは困るとベンさんが押しとどめて、なんとか予定通りベンさんだけが私たちと一緒に北に向かうことになったのだけど。

「ベン、頼むから無茶はしないでくれよ」
「そうよベン、あなた、偶にキレちゃうから心配なのよ……」
「そんな、昔のことを。心配するな、俺は森の優しい熊さんだから」

 トムさんとカリンさんがなんか私にはよく分からない心配をベンさんに向けてるけど、ベンさんはおおらかに手を振るだけでそのまま背を向けて一緒に歩き出した。

「そろそろスピードを上げるが、ベン、あんた本当についてこれるのかよ」

 梯子で地上に降りて、見送る皆の姿が見えなくなった辺りでバッカスが心配そうにベンさんを見返す。
 私と黒猫君、それにシモンさんはバッカスの背中に乗ってる。黒猫君と私はいつものことだし、シモンさんはバッカスが乗ってるのに気づかなかったほど軽いので問題ないんだけど、ベンさんの巨体は乗せるて走るのはバッカスでも無理みたい。
 ところがベンさん、問題ないといって聞かない。そんなこと言ったって、四つ足の狼と二足歩行の熊さんじゃ、どう考えても熊さん追いつかないと思うんだけど……

「あまり甘く見んで欲しいな。いいから行こう」

 そう言って、ベンさんがいつものおっきな荷物の紐を引き締めて、その場で突然四つん這いになった。
 え?って思ったときには、四肢を使ってベンさんがその巨体からは想像できないスピードで走りだしてしまった。私だけじゃなく、バッカスも皆も一瞬ポカーンっとベンさんの走り去る様を見送って、慌てて狼姿のバッカスがその後ろを追いかけるように走り出した。



 それから既に1時間、バッカスもベンさんも息を切らせることなく走りっぱなしだった。森の間をいつものごとく滑るように走り抜け、時々見えていた川の流れを右に見ながら、時に斜面を駆け上がって徐々に高度を上げながらの1時間。乗ってる私のほうがぐったり疲れた。
 話によると、バッカスたちは私たちを見つけに戻ってくる途中、数回オークとやりあったそう。私というハンディがなければ、例え弓を使っていてもオークはそれほど問題のある敵じゃないって偉そうに笑ってた。私だって言われなくてもよく分かってるよ、自分が皆の足手まといなのは。話を聞いてしょげた私を見て、バッカスが「お前ひとり守れなかったネロと俺が悪いんでお前のせいじゃねえからな」っと笑ってガシガシと私の頭を撫でてくれた。なぜかそう言いつつ、横目で黒猫君を睨んだ気がするのは気のせい?

「ここで川を渡ったのか」
「ああ。向こう岸からこっちに渡ってくる時は問題なかったんだけどな。マズいな、もう少し上流まで上がらねえとあんたは飛び越えられねえよな」

 バッカスがそういうのも無理はない。目の前の川は両側が崖になってる。川のほうが地面より5メートルくらい下にあるんだよね。でも、その地面が私たちのいる岸と反対の岸で段差があって、向こうの岸の方が私の背丈ほど高い。そのうえ、岸と岸の間の距離はまだ2~3メートルはありそう。ベンさんの巨体でこれを渡るのは厳しいかな。
 そんな私たちの心配をよそに、ベンさんはとぼけた顔で「あん? 大丈夫だろ」と言いつつ、一人キョロキョロと周りを見回した。そしてニンマリ微笑んで、スッと一本の木に歩み寄る。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って数歩後ろに下がったベンさん。
 ドガシーーーンっと大音響を響かせて突然その木に体当たりし始めた!
 それは私たちが泊った家が上に乗ってたのと同じような巨木で、上を見上げても頂上が全然見えない。
 そんな木が、ベンさんの体当たりでミ˝シミ˝シミ˝シ~と轟音を立て始める。

「ま、待てベン、そのままやってると時間がかかり過ぎてオークどもが来ちまう」

 慌てて黒猫君が駆け寄ってベンさんを止めて、私を下ろして川に面した木の根元に手をかざした。
 何するのかと思えば黒猫君たら、手の平から風を出して、木をり始めちゃった。

「うわ、黒猫君、いつの間にそんな器用な真似を覚えたの!?」
「ああ? ほらテリースが肉の解体に使ってたろ。あれの応用」

 応用って……なんで、教わってもいないのにそんなことが応用できちゃう!?
 黒猫君の手から出る風魔法はそれでもどうやら20センチほどの深さにしか届かないみたいで切れ目を入れるだけなんだけど、それをうまく『く』の字のように切り込みにしてく。切り込みの間の木を風魔法で吹き飛ばしてはまた削ってを繰り返して結構奥まで切れ目を入れた。それで終わりかと思ったら反対側に回って同じように、でも今度はもっと薄く切れ目を入れる。ここまででたったの10分。風魔法、使える人が使えば本当にすごいんだ。

「いいぞベン、これでもう少し簡単に行くだろ」

 黒猫君の作業を見てたベンさんが、凄く感心しながらその出来をチェックしてた。

「ネロ、お前本当に器用だな。魔法でこんな事する奴初めて見たぞ。お前、この一件が終わったらうちの村に来ないか?」
「いいからとっととやれよ、オークどもが来るだろ」
「まあ、見回りの地域からは少し離れてますけどね」

 思わずと言った様子で黒猫君の肩を掴むベンさんに、バッカスがイライラと声を掛ける。シモンさんの声は上から降ってきた。いつの間にか近場の木の枝に登って見張りをしてくれてるらしい。

「あ、ああ。じゃあいくぞ」

 再度助走をつけて走り出したベンさんは、またも大音響をあげて木に突撃した。
 今度はミシミシどころか、バリバリバリッと凄い音を響かせて巨木が徐々に傾いていく。巨体は全体を大きくしならせながら周りの木や枝を巻き込みはじめ、ガサガサ、バリバリ、ガガガガガっとそこいら中に音を響かせ、細い針のような針葉樹の葉と小枝と埃とその他もろもろをまき散らしつつ対岸に向かって倒れこんでいった。
 静かな森に響きわたる轟音に沢山の鳥が周り中から飛び去ってバサバサと羽音をたてる。鳥の羽音につられてつい上を見上げちゃった私は、見ちゃいけないものを見てしまった。頭上から降り注ぐ葉っぱに混じって、沢山なんだか落ちてくるのは見たくでもなかった虫、虫、虫!
「ギャアアアア」
 私は、悲鳴をあげて黒猫君にしがみついた。

「あゆみ、もう大丈夫だから目を開けろよ」

 黒猫君に促され、恐る恐る目を開けて前を見れば、それは立派な木が橋になって岸と岸をしっかりと繋いでた。かなり木の上のほうからしか枝が張り出してなかったので、こちらから対岸まではまるっきり枝もなく、まるで綺麗に整えた丸太の橋のようになっちゃってる。

「急いで渡るぞ」

 橋を渡り始めるベンさんの掛け声とともに、私を抱えた黒猫君がバッカスに飛び乗り、木の上にいたシモンさんがその後ろにトサリと軽い音を立てて飛びおりてきた。私たちが乗った途端、バッカスもベンさんに続いて橋を渡りだす。黒猫君にしっかり掴まりながら下を覗くと、川が結構な勢いで水しぶきを立てながら流れていくのが見える。

「……これ、落ちたら大変だよね」
「そう思うなら乗り出すのやめろ」

 ぼそりと呟いた私の独り言に黒猫君がギュッと私を引き寄せながら顔をしかめた。
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