異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第12章 北の砦

2 片付け

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 発見できたデカい鍋はそこら中ボコボコで、決して無事とは言えなかったが、穴もヒビもなく芋を茹でるには充分だった。
 熱魔法のおかげで湯はあっという間に沸かせる。

「ネロ君は器用ですねぇ。水魔法と熱魔法を同時に手のひらに出せるんですか。混乱しませんか?」
「ああ、アルディに見せるの初めてだったっけか? こんなもん、ようは和音で信号覚えちまえば簡単だろ」

 俺の返事にアルディが分かったような分からないような顔で頷く。横でシモンが片眉を上げてた。

「な、何しようとしてるんですか!?」

 無事な鉄板が見つからず、兵士の鎧の胸当てを火にくべて料理に使おうとしたらアルディと兵士たちに泣きそうな勢いで止められた。
 仕方ないから桶代わりに水を入れて芋を洗う。それでも提供した兵士どもが悲しそうに眉尻を下げる。
 たとえ戦場でもピカピカに磨く努力をしてるのは知ってるが、こうものがないとどうしようもねえ。今は腹を満たすほうが先決だ。

「黒猫君、私いつまで水出してればいいの?」
「あ? それ全部洗い終わるまでな」

 あゆみが代わる代わる空いてる胸当てに水を張っていく。ベンがそれを使って器用に芋の泥を落としては、火にくべられたデカイ鍋にどんどん入れていく。
 そっちはあゆみの水魔法に任せて俺は味付けに移った。

 今日はバターもねえし塩もねえからこれで味付けするしかねえ。
 もう一つ生き残ってた小鍋に採りたてのトマトを幾つも潰し入れ、火の上で煮詰めていく。
 こっちのトマトはプチトマトより少し大きいくらいのサイズだ。味は濃いし色も濃い。南米で料理で使ってた紫や黄色のトマトを思い出す。そういやトウモロコシもあっちのほうが味が濃かったな。

 豆は鞘どころか枝から外さずに、ツルごと全部茹でちまう。無事な皿もねえからこのほうが食いやすい。

 やっぱ塩がねえのは辛いな。

 出来たそばからみんなに配ってく。質素とはいえ茹で芋とトマトソース、茹でた豆はツルまで食える。今の状況じゃ食えるだけましってもんだ。感謝こそすれ、文句なんか一つも出ねえ。

 因みにバッカスは独りで森に行っちまった。芋や野菜はまるっきり食う気がないらしい。まあ、狼の姿で一晩走ってりゃなんか見つけられるだろう。

「あゆみそろそろ俺たちも食おう」

 最後まで芋茹でたり洗ったりしてた俺たちが最後になった。
 アツアツの芋を服に包み、ナイフで半分に割ってトマトソースを少量垂らしては食らいつく。

「ア、アツッ、アツッ」
「うめぇ」

 やっぱ空腹に勝る調味料はねーよな。トマトソースも充分煮詰まって味が出てた。
 兵士たちは見張りを残して食い終わったやつからその辺に転がってイビキかき始めてる。見張りの二人を見てるうちに、欠けた二人のうち一人の面影がやっと思い出せた。

 明日、コイツらの名前聞かなきゃな。

 そんなことを考えつつ、食い終わった途端激しい睡魔が襲ってくる。

 いや待て、これはいくら何でもおかしくないか?

 普通、喧嘩のあとってのはしばらく気が立って眠れねえもんだ。
 ふと思いついてシモンを見ると、ちょっと焦ったように視線を逸らされた。

 ああ、コイツが俺たちにテリースみたいな癒やしの魔法を掛けたのか。

 そういや前にキールが、だからテリースを戦場に連れて行かざるを得ないって言ってたもんな。俺やあゆみと違って、アルディや他の兵士たちはよく見知った仲間を亡くしたばかりだ。癒しの魔法の効果がなけりゃ寝つくのも大変だっただろう。

「シモン、ありがとな」
「べ、別に私は何も──」
「ありがとな」

 言い訳を遮るように俺が繰り返せば、一瞬気まずそうに俺を見たシモンがギュッと眉を寄せ、なんとも居たたまれなそうに背を向けて横になった。

「あゆみ、俺たちも寝るぞっ……てあーあ」

 横で俺に寄りかかりながら食べてたはずのあゆみは、いつの間にか芋を半分手に握ったまま寝落ちしてた。口の横にトマトソース付けて寝てる。
 仕方ないので猫らしく始末しといた。いや、猫は卒業だ、もうゼッテー固有魔法なんて使わねーぞ。
 寝落ちたあゆみをしっかり抱えて俺も地面に転がった。



「く、臭ええ!」

 次の朝、俺たちはその強烈な悪臭で目を覚ました。

「しかたねえだろ、オークの死体放置したんだから」

 思わず叫んだ俺の文句に、いつ戻ったのか、近場からバッカスのすげえ不機嫌な返事が返ってきた。
 オークかよ、このとんでもねえ異臭は!

「まあ仕方ないですね、オークの肉は多くの魔素を含みますがその分腐敗が早いんですよ」

 アルディもほぼ同時に目覚めたらしく、見張りの兵を労いつつ少し寝ぼけた声で返事をくれた。
 どうやら昨日倒した大量のオークの死体は、大量の腐敗臭とガスを撒き散らし始めたらしい。アルディたちはともかく、俺もバッカスも、アントニーやベンにだってこの異臭はほとんど暴力だ。このままじゃ気が狂っちまう。

「くそ、ちょっと水浴びてくる」

 悪臭でクラクラする頭を振って俺がその場を離れようとするとあゆみが引き留める。

「え、私タオル濡らしてあげるよ」
「い、いいからちょっと待ってろ」

 そんなもんで済むもんじゃねえ。余計な世話をやこうとするあゆみを押し留め、俺はまっしぐらに人気のない森に駆け込んだ。

 ベンたちが切り出してきた木の枝葉を俺とシモンが風魔法で落とし、昼前には簡易ながらも橋が復活した。
 あゆみが思い出したように嗅覚麻酔を掛けてくれたおかげで、俺もバッカスも気が狂わねえで済んでる。

「オークは全て逃げ去ったみたいですね」
「あれ、あっちから……」

 あゆみが声をあげて間もなく、対岸のオークが見えなくなった途端、砦から数人の兵士たちがこちらに向かってきた。近づいてくればそれがジェームズ、ディーンとニックなのが見て取れた。

「どうする」
「まずはこちらまで渡ってもらいましょう」

 この二人が傀儡じゃないのは、一晩顔を突き合わせてたから間違いない。だが、その後ろには数人の他の兵士も着いてきている。それでもすでに剣を抜いて待ち受けるアルディに動じた様子はなかった。

「ネロ殿、あゆみ殿、それにアルディ殿」

 無事橋を渡り終え、覇気のない声で俺たちに話しかけたディーンの顔色はやけに暗く、ジェームズなど暗いというよりはドス黒くさえ見える。
 連れられてきた兵士たちも、一人も欠けることなく橋を無事渡り切っていた。

「なんだお前ら、砦の中にいた割にはひでえ顔だな」

 俺が嫌味のつもりでそう言ってやると、ディーンとジェームズが顔を見合わせる。

「実は折り入ってご相談したいことが出来まして」

 そう言った二人は同時に痛々しいほど苦し気なため息をついた。

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