異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第13章 ヨークとナンシーと

12 長官と従者

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「お待ち下さいサロス枢機卿、それはまだ決定事項ではなかったはずですが」
「お前がここで口をはさむな!」

 突然のサロスさんの宣告を聞いて、後ろに控えていた小柄な従者さんが静かに声を上げた。
 だけどサロスさんはそれを振り払ってキールさんに向き直りる。

「ヨークにて正式な戴冠式を終えられるまで、殿下には我々教会の決定に口をはさむ権限はありません。もしもこの者たちの助命を願われるならば、まずは戴冠式を終えられるのがよろしいかと。この国の根幹を支えてきた伝統ある我が教会にて戴冠式を終えられたければ、ここでどのような返答をされるべきかは明らかかと思いますが、いかがか?」

 なんでこの人はここまでキールさんに強気なんだろう……

 よくわからないけど、この人の中ではキールさんはまだ国王として敬う相手にはなってないみたい。言いたい放題続けたサロスさんのうしろで、従者さんはそれ以上なにも言わず、ただサロスさんに冷たい目を向けている。
 そんな様子を見たキールさんが、重苦しい声で問いただす。

「それは、確かに教皇及びヨーク侯の意見なのだな」
「む、無論です。私自身も福音推進省長官として賛同しています」
 
 キールさんの迫力に押されて、サロスさんの勢いが少し緩んだ。

 キールさん、どうするつもりなんだろう?

 こちらにチラチラと視線を送ってきたキールさんが一瞬片眉を上げ、顔を赤くして睨むサロスさんに向きなおる。そして堂々たる態度で断を下した。

「ではこちらも改めて検討するとしよう。貴殿らは一旦こちらが用意した賓客用の棟でゆっくり休まれるといい」

 あれ。
 てっきりすぐに追い返すのかなって思ってたらキールさん、どうやらこのまま判断を保留するつもりらしい。
 隣の黒猫君を見たけどこちらも表情一つ変わってない。
 キールさんも黒猫君も、なにか考えがあるのかな。

「しかし──」
「本日の謁見は以上!」

 答えを保留されたのが気に食わないのか、まだ食い下がろうとしたサロスさんの声に、重ねるようにイアンさんが謁見の終了を宣言する。サロスさんがそれ以上口を開く間も与えずに、当たり前のようにエミールさんの先導でキールさんが退席してしまった。
 去り際、私たちにもついてこいってキールさんが目で言ってる気がして、黒猫君と一緒に歩きだそうとしたら、さっさと黒猫君に抱え上げられてしまった。

「く、黒猫君!?」

 慌てて文句言おうと口を開いた私を、頭上の黒猫君が目で制してる。
 その黒猫君の目が全然笑ってない。それどころか猫耳が神経質そうにピクピクしてる。
 ……これは多分、従うしかないやつらしい。
 周りの刺すような視線を避けつつ、私は結局そのまま黒猫君とともに部屋を後にした。


   *   *   *


「黒猫君、それにキールさんも、どうなってるのか説明してもらえますか?」

 謁見の間を後にして、通用口につながる扉が後ろで閉じた途端、キールさんと黒猫君の歩みが一気に加速した。
 エミールさんも私たちを先導するように速足で通路を抜けて、そのまますぐ近くの控室に駆け込むと、私たちが部屋に入ったのと同時に周りを確認して扉を閉じる。

「ネロあれは?」
「従者のほうがタカシだ」
「やはりそうか」
「エミール、従者の部屋を別に用意させろ。どちらも監視は怠るな」
「心得てます」
「それから──」
「彼らに接触しようとする者の確認ですね、信用できる近衛兵数人を回しておきます」
「……お前は本当に頭の回転は速いんだよ、やる気さえあれば」

 キールさんが喘ぐようにそういえば、エミールさんがドヤ顔で即答する。

「やる気などという暑苦しいものは最初から持ち合わせていません。必要な時に必要な仕事がこなせていればなにも問題はないではないですか」
「そういうところだ、お前が他の若い貴族どもから嫌われるのは! 少しは前回の反省から学べと何度も言っているだろうが」
「無論、陛下のお言葉は常に心に焼き付けています。ただ、私の可愛い蝶や小鳥ちゃんたちが、より心の中心を占めていますからなかなか気が回らないだけでして」

 スラスラとそんなことを言いつつ、エミールさんが私に綺麗なウィンクを決めてくる。

「もういい! とっとと行け!」

 それを見たキールさんが怒鳴るように扉を指差せば、素早く華麗な礼を一つ残してエミールさんが風のように去っていった。
 エミールさんってどんなに急いでても、いちいち動作が呆れるほキザなんだよね、ほんと。

 エミールさんがいなくなったのを確認してから、黒猫君がやっと私を近くの椅子に下ろして口を開く。

「で、どうする?」
「まずはタカシと思われるあの従者と話し合いだな」
「俺もそう思う。あのサロスが言ってた戴冠式の件は大丈夫なのか?」
「微妙だな。今回の即位式は何もかもが変則的だったのは確かだ。教会がこの国で最も影響力の強い団体であるのも事実だ。だから事を荒立てないためにも、今までは慣例的に教会が即位の儀を行なってきていた。法的にも実務的にも強制力はないし、あの戴冠式でも全く問題はないはずだが、教会を完全に敵に回すのも得策とは言えない」
「じゃあ、もう一度ヨークで戴冠式をするんですか?」

 私の確認の問いにキールさんが渋い顔をする。

「サロスが言ってることが正しければ、教会は神の承認がなかったあの即位式を認めないってことだ。言い換えれば俺にもう一度ヨークで戴冠式をやり直せってな」

 そこまで言ったキールさんが揶揄するように口元を歪めて私たちを見た。

「俺としてはお前らを犠牲にしてそんな意味もない戴冠式のやり直しなんかする気はないし、即追い返したかったんだが、ネロ、なんでお前は止めたんだ?」
「え、そうだったの黒猫君?」

 さっき見上げた時には全く顔色一つ変わってなかったのに、いつの間に止めてたんだろう。
 っと思ったらキールさんがすぐに種明かししてくれる。

「こいつ、お前やサロスに見えない位置で中止の狼煙よろしく尻尾を真っ直ぐ立ててたんだよ」
「まあ、気づくかは分からなかったけどな」

 そう言ってまた尻尾を立てて見せてくれた。

「状況を整理してみるとな。まず最初にメッセージを送ってきたのは間違いなくタカシだろう。その次に北の砦に来ていた教会つきの医師がやっぱり同じ筆跡のメッセージを俺たちにもってきやがった。どちらも俺たちにだけわかる形でメッセージを送ってきてるし、その内容を考えても、俺はやっぱりタカシが長官ってほうがしっくりくるんだよ。そのタカシがわざわざあのサロスの付き人として来たからには。十中八九理由がありそうだと思っただけだ」
「その通りです。お察しいただけて助かりました」

 突然、聞きなれない声が黒猫君の言葉に呼応した。驚いて振り返ると、壁の一部が開いてそこからさっきの従者さんがエミールさんと一緒に並んで入ってくる。
 あー、エミールさんまだ隠し通路そのままにしてたんだ。まあ、こういう時に便利なのは確かだけど。

「先ほどは表立ってご挨拶できず失礼いたしました。ゆえあって、あの者の従者をしている、『タカシ』と申します」

 そういって私たちの前でエミールさん顔負けの綺麗な挨拶をしてみせた少年は、こちらを見てニッコリとほほ笑みをこぼした。
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