異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

文字の大きさ
5 / 406
第1章 始まり

5 リハビリ

しおりを挟む
 それからの数日を、私はその同じ部屋の中で過ごした。

 ここから見える扉の外も全く同じ洞窟のような廊下なので、いつが朝でいつが夜なのかもはっきりしない。
 それでもテリースさんが運んできてくれる食事でなんとなく朝と夜の違いを感じ取ってた。

 自分の足は、見た。
 右の太腿の又下10~15cmくらいから下がなかった。
 こんな所で切れちゃったら太い血管から出血多量で死にそうなものなのに、すでに出血の様子はなかった。
 切り口の辺りは何か紙のような物がピッタリと貼り付けられ、その上から包帯のような物がグルグルと巻き付けられていた。それを取り換える様子もないところを見ると、私の知っているような治療とは全く違う治療をしてくれているみたい。

 トイレに行きたくて、自分で立ち上がろうとした。
 無理だった。
 床に敷かれた布の上に寝かされている私は、どうやっても立ち上がれない。
 大体、床から片足だけで立ちあがるのは思ってた以上に難しく、しかも片足を失ったことで身体のバランスが自分の知ってるものとは全く違ってしまってた。

 仕方ないので這って扉まで行くと、ちょうど扉を明けて入ってきたテリースさんが驚いた顔で私を見おろした。

「何をなさっているんですか?」
「いえ、ト、トイレに行きたくて」
「トイレ?」

 うわ、トイレが通じないよ。どうすりゃいいの?

「あの、か、体に必要のなくなった水分を排出したいんですけど」

 取り繕ったせいでおかしな言い回しになっちゃったけど、テリースさんはそれでもちゃんと理解してくれた。

「ああ、承知しました。そこに横になってください」
「え? あのでも……」
「ご心配なく。排泄物処理の魔術をかけるだけです。医療行為の一つとして私たちは必ずこれを習得しています」

 言うが早いか、テリースさんが私の身体に手をかざすと、突然私の排泄欲求が消えてなくなった。

 凄い、これなら看護も楽そうだ。

「あゆみさんがもう少し回復されたらご自分で御不浄に行けるようにご説明しますが、しばらくは私にお任せください」
「……わかりました」

 私は諦めて頷いた。
 因みにテリースさんには自分の名前を伝えてた。

 西崎あゆみ。

 それが私の名前だ。
 大学の3年生。一年浪人したので現在22歳。
 こんな肩書はこれから意味がなくなるのかもしれない。それでも『あゆみ』という名前だけはこのまま私のものだろう。
 そんなことをぼんやり考えていると、またあの黒猫君がこちらに寄ってきた。

「お、黒猫君。今日は早いじゃないですか」

 黒猫君はあれから毎日私の部屋に来ては、私の周りでとぐろを巻いている。
 大抵はなにをするでもなく、私の手にすり寄っては頭を差し出し、膝の上に収まって喉を鳴らしてる。
 テリースさんに聞いても言葉を濁して黒猫君の名前を教えてくれない。
 よって黒猫君は黒猫君で定着してしまった。

 ここから動けない私にとって、黒猫君がずっとそばにいてくれるのは結構うれしかった。
 別に何かしてくれるわけではないけど、独りのときブチブチ愚痴をこぼし続けても全部聞き流してくれる、頼もしいお友達だ。

「あゆみさん、今日は少し立ち上がる練習をしてみましょう。後で椅子を入れますから」

 テリースさんの言葉にバッと顔を上げて食いついてしまう。

「ほ、本当ですか?」
「ええ、あゆみさんもやっと体調が落ち着かれたみたいですし、この部屋にずっと横になっているのもつらいでしょう」
「ええ、正直飽きました」

 本当に飽きた。
 いや、悲劇のヒロインよろしく自己憐憫に浸るにも限界がある。

 足が無くなった。
 痛かった。
 辛かった。
 怖かった。

 でもね。
 そんなのはずっとそればっかり考えていられるものじゃない。
 しかも今まで暮らしてきた日本みたいに、娯楽があるわけじゃない。
 気を紛らわせることが何もないのに、つらいことばかり考えてると、気が滅入るばっかで泣いても喚いても全然楽になんかならない。

 ご飯もおいしくないし。

 まだ痛みはあるはずだからと、テリースさんが痛覚の隔離を続けてくれているのだ。
 それでも今日は初めて固形物を食べられた。
 パン粥のようなものだったけど、味がないと食感が気持ち悪くて飲み込むのが大変だった。

「血流の為にも少しは起き上がったほうがいいんです。それではちょっとお待ちくださいね」

 しばらくするとテリースさんが折り畳まれた椅子を持ってきてくれた。
 木で出来たそれはちょっと不格好だけど丈夫そうだった。

「それでは最初は私が抱えて椅子に座らせて差し上げますね」

 そう言って上半身を起こした私を軽々抱え上げて椅子の上にゆっくりと降ろしてくれる。
 久しぶりに足をおろして座った体勢になると、すっと血が下に回ってちょっと頭が軽くなった。
 思っていた以上に気分がいい。

「どうですか? 目眩はしませんか?」
「大丈夫です」

 良かったといいながらテリースさんが私の背中と足をさすってくれた。
 途端、今まで以上に血液が循環し始めて体が温かくなる。

「少しだけ痛覚を戻します。そうでないと怪我をしたときに危ないですから」

 テリースさんがそう言うと同時に、右の太腿の辺りが熱くなってジンジンと鈍い痛みが走る。
 私が顔をゆがめると、テリースさんと黒猫君が一緒になって私の顔を覗き込んできた。
 黒猫君まで顔が心配そうに見えるのが面白くて、ちょっと笑んでしまう。

「痛みは我慢できそうですね」

 そんな私の様子をみて、ほっとしたように微笑んだテリースさんが立ち上がる。

「それでは、今日はこのまましばらく座っているところから始めましょう」

 これが私のこの世界でのリハビリの始まりだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...