異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第1章 始まり

9 黒猫君?

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「ひどい」
「うるさい」
「ひどい」
「…………」

 あれから約10分。
 私はベッドにうつぶせになって「ひどい」の一言を繰り返していた。
 いい加減聞き飽きたのか、黒猫君は返事をやめてしまった。
 それでも言いたい。

「ひどい。」

 黒猫君は、私がずっと『黒猫君』と呼び親しんできた、たった一人の味方だと思っていた黒猫君は、実は転生者だった。
 「転生」は違うのだろうか?
 意識だけを死んだ体からこの猫の肉体に移されたのだそうだ。

 ええ、私以外にも生き残った人がいてよかったよ。
 私だって心の片隅ではそんな事も考えてるさ。
 でもね……

 この一週間。
 私はずっと黒猫君を『黒猫君』だと思って、心の内のあれやこれやを思いっきり垂れ流してきたのだ。
 それが実は私と同じ日本人のなれの果てだったなんて。
 もう恥ずかしすぎて、転がって穴掘って埋まって土被って10年ぐらい寝込みたい。

「いい加減諦めろ。こっちだって一応気を使って今まで猫のまま聞いてやってたんだから」

 そうなんでしょうよ。
 でもこっちだって今更そんなこと言われても顔が上げられないんだよ!

「俺だってまさか異世界転生で猫にされるとは思ってなかった」

 そりゃそうだ。
 私だって思いつきもしなかったよ。

「しかも最初は声も出せなかったんだぞ」
「…………」
「だからお前の様子を見に行っても何も言えなかったんだよ」

 お前呼ばわりか。

「あゆみ」
「?」
「あゆみです。私の名前」
「ああ、聞いた」

 ポスッと肉球の手が頭に乗った。

「あゆみ、ちゃんかな?」
「猫にあゆみちゃん呼ばわりされるのもなんか……」
「じゃあ呼び捨てでいいな。あゆみ、俺は隆二りゅうじ。苗字は……もう意味ないか」
「そうだね。黒猫君・・・
「…………」

 私はもう呼び方を変えるつもりはない。

「君は黒猫君。君がなんと言おうと黒猫君。前世で日本男子だったとしてもイケメンでもオヤジでもオネエでも黒猫君」
「……いいだろう」

 流石にここまで正体を隠して私の近くをウロチョロしていたことに引け目を感じているのだろう、猫の顔を器用に歪ませて、諦めたように返事した。

「それで黒猫君。まず君が今まで聞いてきた私の愚痴は全部忘れる方向で」
「それはまあいいけどな。だからってこれからのこと考えればいつまでも現実から目を反らしてるわけにもいかないだろ」
「そ、そうなんだけどね。やっぱり……あ! ちょっと待って? 私、君がいるところで平気で着替えとかしてなかったっけ?」
「…………」

 寝る時は出て行ってくれてたけど、テリースさんがくれた病人服らしきものを着替えてるときは、確かそのままいた気がする。
 下着は替えもないから着たまま着た切り雀だけど、それでもそこまでは見られてる!

「別に猫に見られても困ることないだろ」
「そ、それは言い訳だ! エロ猫!」
「ひどいな、それくらいの役得あったって文句ないだろ、どうせ何が出来る訳でもないんだから」
「あ、そうか。そうだね。猫だもんね」

 うーん、これで納得していいのだろうか?

「ま、そんなことより、やっと普通に話せるようになったんだから色々話し合うべきだと思うんだけど?」

 私の思考を遮るように、黒猫君が早口にせっついてきた。

「そ、そうでした。因みに黒猫君は事故のときのこと覚えてる?」
「いや、あんまり。結構すぐに意識がなくなってたんだと思う。あゆみは?」
「うーん、そこそこ覚えてる」

 一瞬情景が頭をよぎって身震いがした。

「……思い出すの嫌か?」
「嫌だね。でも一度はちゃんと話しておかないといけない気がする」

 そう言って私は唇を舐めて噛みしめた。
 片手で反対の手を握って爪を立てる。
 意識が半分くらい痛みに移って、心の痛みが感じにくくなる。

「多分黒猫君もあの始発電車に乗ってたんだよね?」
「ああ」
「私、ぼーっとしてたから全部は見なかったんだけど、電車の車体が突然浮き上がて、床が変な方向に折れ曲がって。窓ガラス全部割れて中に降ってきて、荷物が散乱してベースボールキャップが真っ赤になって飛んで行って。目の前に座っていた人の身体が半分千切れてるのが私の上に落ちてきたところで記憶が切れちゃった」

 一気に話し切った。だって思い出すのも喋るのも一度きりで終わらせたい。
 見れば爪を立ててた手の甲に血が滲んでた。
 それを黒猫君が見つけてペロリと舐める。

「……悪かった」
「ん……。」

 そのままそこで伏せるように寝転がり、私の手の上に頭を乗せる。
 すっかりお馴染みになった、黒猫君の慰めのポーズ。
 中身が日本人だと思わなければかなり癒されるのだけど。

「でもあゆみのお陰で俺の死因は分かったな」
「え?」

 つい我慢できなくて黒猫君の頭に手を伸ばし、黒猫君の言葉に固まった。

「お前の目の前ってベースボールキャップを被ってた男だろ」
「うん」
「それが俺だ」
「げ!」

 私のモロ好み顔だった人。
 それがこの黒猫君の中身だった。
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