異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第1章 始まり

13 足

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「この国で足を失った人にはいくつかの保護が適用されます」
「へ? 本当ですか」
「俺もそれは聞いてないぞ」
「それはネロ君がいつまでたってもあゆみさんに話をしなかったのでこちらも話せなかったんですよ」

 黒猫君がぶすっと顔を歪ます。

「まず、あゆみさんのように歩行を支える器具がなければ歩くことが出来ない場合、生活保護のお金が支給されます」

 えっと、身体障害保障みたいなものかな?

「凄いですね。そんな保障がすでにあるなんて」
「いえ、これにも色々訳があるんですよ。まあそれは今のところ関係ないので置いておきますが。それでも保障金は決して大きくありません。道で暮らすのであればなんとか食べられる程度です」
「それでもないよりはましだな」

 黒猫君がうんうんと頷きながら答えると、テリースさんも苦笑いしながら頷き返す。

「次に歩行を支える器具ですが、今あゆみさんが使われているのはキール隊長の手作りの杖ですね。それは今回私の面倒を見るために作ったのだからタダで差し上げると隊長が言ってました」

 テリースさんはそう言うとキラリと目を輝かせ、悪戯っぽく笑んだ。

 あ、もしかして隊長さん、それで私がテリースさんの面倒を見るように仕向けたのかな?
 いい人だなぁ。

「次に義足ですが。こちらは結構お値段が張ります。安い物でも兵士の給金で一か月分。いい物を求めればそれこそ天井知らずです」

 うわ。やっぱりそんなに高いんだ。

「そして最後に復元魔法についてご説明します」
「復元魔法、ですか?」
「はい。これはかなり高位の治癒師のみが習得出来る魔術です」

 そこでふぅっと小さくため息をついてからテリースさんが続ける。

「残念ながら、私のような一介の救護師には魔術の位階いかいが足りなくてとても習得できません」
「おい、今『位階』って言ったよな。それってどんな『くらい』があるんだ? テリースはどれくらいなんだ?」
「ああ、そうですね。ご存じ頂いておいたほうが宜しいでしょう」

 そう言って息を継いで説明してくれた。
 それによれば、この国の魔術師には全部で九段階の階級があるそうだ。
 下から順に、

 下級一位
 下級二位
 下級三位
 中級一位
 中級二位
 中級三位
 高位下級
 高位上級
 特級

 今のテリースさんが下級三位。
 ここみたいな、王都外の街にいる治療師・魔術師は、最高でも中級二位程度までだそうだ。
 この階級は職種や特化した技術にかかわりなく一定なのだそうだ。

「そう言えばキールさんも魔術を使ってらしたようですが?」
「ええ、キール隊長は……ちょっと特殊ですが現在確か中級2位になられていると思います」

 おお、隊長さんだけあって結構上だな。

「なあ、その魔術ってのは俺達には出来ないのか?」

 黒猫君が突拍子もないことを聞き始めた。

「え? そんなのありうるの?」
「ネット小説とかではありだな」
「そうですねぇ。普通は5~6才で顕現しますが、お二人は特殊ですしなんとも言えません。ただ、あの戦闘のストレス下でも特に変わったことがなかったようですし、可能性は低いと考えられていたほうがいいでしょう」
「そうか」
「そ、そうですよね」

 私のホッとした声に、黒猫君が顔をしかめて睨みあげる。

「あゆみ、分かってるのか? 俺たちに魔力がないってことは、この前みたいな戦闘に巻き込まれたら自分たちの身を守る手段がほとんどないってことだぞ?」
「あ、そっか」

 そこまで頭が回ってなかった。
 魔法があったらバババーンって簡単にやっつけられたのかな。
 でもキール隊長も魔法使えるけど普通に戦ってたような?
 あれ?

「まあ、それに関しては私の傷が完治して、この部屋を出るお許しが出たら一度確認してみましょう」
「うう、よろしくお願いします」

 そこで一度テリースさんは枕を整えて少し後ろに寄りかかりながら続けた。

「さて、先ほどの話の続きですが。これであゆみさんには杖、義足、再生と3種類の歩くための手段があることをご説明しました。あとは今後、あゆみさんがどのようにしてそれらを手に入れられるかですが……」

 そこでちょっと目を伏せながらテリースさんが言葉を続けた。

「あゆみさん、改めて言わせてください。私はあの夜、あゆみさんのお陰で生き残ることが出来ました。心から感謝しています」
「待ってください、それは最初にテリースさんが私を抱えて逃げて下さったからです」
「それはあの時点で私の当然の職務です」

 待って、これはお礼を言われることじゃないハズ。だって……。

「例えそうだとしても、あそこで私を捨てて逃げればテリースさんは怪我をすることもなかったはずです」

 そう。あの時私さえいなければテリースさんはもっと早く砦を逃げ出してただろうし、もっと早く走れてたハズだ。なのに。

「そうかもしれません。そうではないかもしれません」

 ふーっと息をついて続ける。

「でもあゆみさん。それとはまったく別に、あの状況で足のない貴方はそれでも私を見捨てずに森を抜けて下さった。襲い掛かった狼人族の兵士をお二人が倒したとあとから聞きました」

 でも引っ張っていったのは必死だったからで、見捨てるとか思いつかなかっただけだし。
 それに狼人族は違う。

「あれは黒猫君がすごかったんです」
「お前が止めを刺さなきゃ俺もどうしようもなかったがな」
「お二人とも」

 私たちのやり取りを、テリースさんが首を横に振って制止する。
「あいにく、ここでは今回のような命のやり取りは結構頻繁に起きえる危機です。ですからこそ、仕事でもないのに命を救われた者がお返しをするのは当たり前のことです」

 黒猫君と二人で顔を見合わす。
 私達にはお礼と言いつつ、どうやっても自分がしてくれたことを認めてくれないテリースさんに、いまいち納得がいかない。

「それ以前に私たち命救われてるんですけど」
「ですからそれも我々の職務の一旦です。兵士がそれを全うしないでなんのための兵士ですか」
「でもテリースさんは兵士ではありませんよね?」

 繰り返す私にテリースさんが笑って返す。

「ああ、説明が足りていませんでしたね。私はあの砦では兵役として救護師を請け負っておりました」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、数年に一度回ってくるのですが、お金を払って回避するか、さもなければ請け負わなければいけない義務です」

 兵役って、外国の話では聞いたことあったけど……。

「ですからあの時の私の医療行為は、全て国の兵士としての職務内なんですよ」
「はあ」
「そして、その兵士をわざわざ命を懸けて守ろうなんて人は普通まずいません」
「は?」

 『兵役』の仕組みが良くわからなくてただ頷いてたけど、テリースさんは心持ち恥ずかしそうに顔を俯かせる。

「私は、その、弱すぎるんですよ」
「え?」
「本来私の魔術階位であればあの程度の戦闘には参加するべきだったんです。ですが私は戦闘系の魔術が非常に苦手で。戦力にならないので貴方がたを連れて逃げるように言い渡されたんです」
「そんな。なんで医療行為をするテリースさんが戦闘を出来る必要があるんですか?」
「それだけこの地域は危ないんですよ」

 うわ、聞きたくなかった。黒猫君も嫌そうな顔でこっちを見てる。
 そんな私達をよそに、テリースさんはまたも言いづらそうに俯きつつ先を続けた。

「そういうことで、私としてはお二人にお礼がしたいと思うのですが、なにせ私も貧乏人です。出来ればあゆみさんの義足を手に入れて差し上げたいのですが、ちょっと……いえどうやっても私のお財布では無理なんです」
「いえ、そんなのはどの道お願い出来ないですよ」
「ああ、タダほど高いものはないしな」

 慌てて返事をした私の横から、今まで無言で話を聞いてた黒猫君がちゃちゃを入れた。

「黒猫君!」

 思わず責めるように名前を呼ぶと、黒猫君、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
 そんな私達二人のやり取りを見て、テリースさんがふわりと笑顔に戻った。

「ネロ君の言う通りですよ。ここでは、ただで物を差し上げるのは後々何かを要求される可能性を含みます。さて、そこでご相談なのですが、貧乏ながら私はこの街の治療院で働いています。宜しければそちらであゆみさんをお預かりすることは出来ますがいかがでしょう」
「あの、もう少し詳しく説明していただけますか?」

 テリースさんの言ってることの意味がいまいち理解しきれなくて不安になる。

「そうですね。保証人とでも言いましょうか。寝食は治療院を手伝っていただければ治療院で賄えます。あそこには部屋だけは嫌ってほど余ってますし」

 うわ、それはありがたい!

「俺は?」
「ネロ君はあゆみさんの飼い猫ということで問題ありません」

 あ。黒猫君、ちょっと不機嫌だ。

「しょうがないよ黒猫君。君、猫なんだから」

 私の慰めは余計気に食わなかった模様。
 ジロリと睨まれたよ。
 でもすぐに猫のクセにため息ついて、テリースさんに向き直る。

「……せめて食べ物は人間用にしてくれ。この兵舎に来てから、やたら餌だと言って食いカスをよこす奴らがいる」
「承知しました」

 こうして、私たちは取り合えず今後の生活の目処をつけることが出来たのだった。
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