異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第2章 基盤

7 井戸端会議

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 結局、テリースさんが水汲みをしてくれている間、私に出来る洗い物は手伝った。
 鍋は大きくて無理でも木の皿くらいは大丈夫。

 部屋に戻る階段を登ろうとすると、黒猫君に呼び止められた。

「俺が見張っててやるからちょっと水浴びしてこいよ。服も汚れたし汗かいただろ」

 言われてみれば今日は結構ハードに動き回って体中に汗をかいてた。

「ありがとう黒猫君。そういえば君は水浴びしないの?」
「俺猫だからな。どうも水は近寄りたくない」
「そんなのは言い訳だよ。洗ってあげるからおいで」
「……お前の水浴びが終わってからな」

 結局、黒猫君が厨房のドアの前で見張りをしてくれている間に水を浴びてしまう。
 もちろん電気なんかないから暗い中で手探りだ。

 服は脱いで、持ってきた桶に水を張って洗っていく。
 最後はなるべく硬く絞って井戸の縁に並べた。

 水を捨てるのだって一苦労だ。
 あまり近くに捨てるとぬかるんで危ないから、勢いをつけて遠くに飛ばす。
 下着はまたもや着たまま洗濯。やっぱりこれを外で脱ぐ勇気はない。

 そう言えば包帯は取れたけど、私の足の切断面にはまだ紙がくっついてる。
 包帯を外した時、これを見た黒猫君が「紙あったのか」って驚いてた。
 黒猫君曰く、私には見えない切断面の所に魔法陣みたいなものが書かれてるらしい。
 手触りは間違いなく紙なのに、濡らしても全然問題ないのだそうだ。
 今も周りを普通に水で流してる。

 ここまで来ても、切断された辺りを触るのはすごく嫌だ。
 なんか胸と心臓が痛くなる。
 手探りだと、どこまで汚れが落ちたのかイマイチ分かんない。
 それでも月明かりで全身を流してから黒猫君を呼んだ。

「黒猫君、こっちは終わったよ。洗ってあげるからおいで」
「ああ、今行く……って、お前、せめて服着てから呼べよ」
「へ? だって黒猫君、猫だもん。もう別にいいよ」
「……あそ」

 私が井戸の縁に腰掛けると、黒猫君が諦め顔で横に座った。
 桶に汲んでおいた水を手で少しずつかけてあげると、嫌そうに顔をしかめてプルプルと髭を震わせる。

「ねえ、もしかして黒猫君、前世でお風呂が嫌いだった?」
「おい、前世呼ばわりはないだろ、俺一応まだ死んでねーんだし」
「あ、失礼。じゃあ、生前?」
「それも死んでる」
「じゃあなんて言えばいいの?」
「転移前か? で風呂は別に好きでも嫌いでもなかったな。特に長風呂したいとは思ったことないけど」
「うーん。いつも思ってたんだよね。うちの子達にもいたんだけど水が大丈夫な子と駄目な子の違い」
「別に水全般が嫌なわけじゃねーぞ。上から浴びせられるのがゾッとするんだ」

 そう言って背中の毛を逆立てる。
 それを丁寧に指を梳き入れるようにしながら中まで水を入れて洗い流した。
 毛が水を含んでペタンとしてしまった。途端黒猫君がプルプルっと身震いする。

 どうしよう、乾かす時のこと考えてなかったよ。
 とりあえず私の服で拭いちゃえ。

「石鹸、欲しいね」
「ああ。確か廃油で作ったんだが、ここ、油がなさそうだよな」
「そう言えばそうだね」
「多分まだ野菜から油を搾り取る手段が少なくて高価なのかもな。そうなると臭いが動物性の油だな。ただ、この病院、どうももうしばらく肉を手に入れられてない気がする」
「……私もそう思った」

 みんなのあの喜び方は異常だった。

「明日農場に行く時にちょっと聞いてくるわ」
「私一緒に行けなくてごめんね」
「いや、俺も。今日の料理、やり方は知ってても自分じゃなんも出来ないから結局あゆみの負担がすごくでかくなっちまった」
「でも黒猫君が叱咤してくれなかったら多分私、早々に諦めてたと思う」

 私が正直な気持ちをこぼすと黒猫君がボツボツと話し始めた。

「ここな。少し似てんだわ、俺が回ったアジアの国と。こういう所では生きるのに外聞気にしてたらやってらんない。まずは生き残ってなんぼなんだよ」
「うー、まだそこまで割り切れない」
「そうみたいだな」
「でも黒猫君が黒猫君にしか出来ないことをしてくれてるのは分かる。黒猫君が言うことは大体正しいのも理解できる。だから私も自分にできることは頑張って全部やってくよ。今日ので人間、ちょっとずつでもやってれば、なんとかなるって気になれたし」

 私の返事に黒猫君が黙り込んだ。
 しばらくして井戸のふちに座ってこちらを見上げる。もう水浴びは充分らしい。

「……上に行くと言いづらいから今言うけどさ。お前にはもう一つ生きてく方法があると思う」
「王都に行くってこと?」
「あ、それは可能だけど生き残れる保証がなさ過ぎて今の所完全に対象外」
「じゃあ何?」
「兵舎の奴らに確認した。街の端に行けば大きな娼館があるらしい」
「…………」
「あそこなら多分地面を這いつくばるような思いはせずともお前なら生きていけるだろうと思う」
「…………」
「その、無論娼婦としての仕事はさせられるだろうけど衣食住には困らない。お前みたいに障害がある状態で異世界で生きていくには、決して悪い選択肢ではないだろうと思う」

 黒猫君が言いづらかったのが良く分かった。
 それを押してもはっきり聞いてくれたのに感謝しながら、言われたことを何度か考えてみる。

「黒猫君。黒猫君はどう思う? このままここでやって行くのは私には無理かな?」
「無理ではないが、お前の肉体的な負担は格段に上がるぞ」

 それはそうかもしれない。だけど。

「黒猫君だから言っちゃうけど、私別に男性経験がないわけじゃないよ。だから確かにそれも選択肢の一つだと思う。ただ片足ないのにそんな仕事ができるのかはよく分かんないけど。でも、折角テリースさんにもお願いしますって言ってもらえたんだし、私も今日、なんとか自分にもできることがあるって分かってきたところだし。だから私、ここで生活ができるなら今はここで頑張ってみたい」
「……分かった」

 黒猫君は金の瞳をキラリと輝かせて頷いた。
 でも、言い切ってしまってから気づく。

「あ、でもこれって黒猫君の生活も関わってくるんじゃない? 私が娼館に行けば黒猫君こんな苦労しなくていいし、きっと綺麗なお姉さんたちにモテモテだよ?」
「……猫の体でモテてどうしろってんだよ?」
「え? きっとみんなチヤホヤしてくれるんじゃない? それは猫でも嬉しいでしょう?」

 私に指摘されて黒猫君、気のせいか少し焦ってる?

「う、否定は出来ないがお前に娼婦させてまでそんな環境に行きたいとは思わねーよ。それに自分で手が出せないのは少しイライラするけど、本来こういう生活は慣れてるから俺は大丈夫だ」
「そのサバイバル教室で?」
「いや、俺がバイトしてた場所じゃそんな大したことはしないんだけどな。いくつか回ったところがここに近かったから。鳩の料理もしたことあったし、暖炉で食事作るのはサバイバル教室で薪き集めるのから始めるよりは楽だ……って、いけね! 忘れてた。一旦厨房に戻るぞ」
「え?」
「早く来い」

 そういうが早いか、黒猫君が厨房に向かって走ってっちゃった。
 あっという間に入り口まで行くと、こっちを見ながらイライラと尻尾振ってる。
 仕方なくまだ乾ききっていない服を着なおして、私は慌てて黒猫君のあとを追いかけた。
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